第48回総選挙の結果を受けて~その6・政権交代を実現させる条件~
これまで、5回に渡って、得票率・投票率(棄権率)を見てきました。 その1 その2 その3 その4 その5 今回は、これまでの分析結果を振り返って、所謂「安倍一強」が何故作り出されているのか、それを覆す為の条件を考えてみます。お馴染みになったグラフの掲載から始めます。当記事に掲載のグラフ・ポンチ絵の無断転載・利用は御遠慮下さい。グラフ1998年以降の衆参議員選挙における比例代表の投票率・投票数と各党の絶対得票率・得票数推移(投票総数・得票数は四捨五入して万単位で記載/得票率は「全有権者に占める比率=絶対得票率」)注1:第46回総選挙以降の「自由」の得票数・率は「日本未来の党」「生活の党」「生活の党と山本太郎となかまたち」のもの(「生活の党と・・・」は2016年10月に「自由党」に改称)。注2:「維新」の得票数・率は、「日本維新の会」「維新の党」「おおさか維新の会」のもの(「おおさか維新の会」は2016年8月に「日本維新の会」に改称)。注3:「民主党」は2016年3月に「維新の党」と合併し、「民進党」に改称。注4:グラフ未記載の政党で、得票200万票未満の政党(原則として2010年以降)。 「国民新党」:第45回衆院(122万)→第22回参院(100万)→第46回衆院(7万) 「新党改革」:第22回参院(117万)→ 第46回衆院(13万)→第24回参院(58万) 「新党大地」:第46回衆院(35万)→ 第23回参院(52万)→第48回衆院(23万) 「たちあがれ日本」:第22回参院(123万) 「次世代の党」:第47回衆院(141万)→第24回参院(73万)→第48回衆院(9万) (2016年12月に「日本のこころを大切にする会」に、17年2月に「日本のこころ」に改称) 「みどりの風」:第23回参院(43万) 「緑の党・グリーンズジャパン」:同(46万)政権交代の要件を考える 第48回総選挙では、民進党が、「政権交代を狙える選挙戦術」として、希望の党からの立候補を一度は決断し、その後、三分裂しました。 そもそも、政権交代は、どのような条件が満たされれば実現できるのでしょうか? 民主党に政権交代するまでのプロセスを追ってみると、次のような条件が浮かび上がってきます。①比例得票2000万票台に達する基礎体力②友党の協力③(政権を争うような選挙になると、自民・公明合計で比例2500万得票に加えて上乗せすると思われるので)比例3000万票前後の得票④最低でも3分の2(約7000万人)の投票率 具体的に見てみましょう。 民主党は、2003年11月の第43回衆院選以来、政権交代を実現するまで、国政選挙で5回連続で、比例2000万得票を突破しています。2005年9月の第44回衆院選(小泉郵政選挙)では敗北したとは言え、それでも2000万突破は達成しています。「友党の協力」の部分はどうでしょう? 第45回衆院選で、民主党は単独で政権を奪取したのではありません。社会民主党(比例301万得票)・国民新党(同122万得票)と連立を組みましたし、日本共産党は、「自主的に」小選挙区の候補者を絞り込み(300選挙区に対して、立候補者は152人)、民主党候補者の小選挙区当選をアシストしました。 民主党の比例得票は、日本の国政選挙史上空前のレベルになりました。2985万票です。ほぼ3000万票に達しています。自由民主・公明の合計得票(2686万票)を上回っており、両党を合計した以上の支持を受けた事が分かります。この分厚い支持が、政権交代を実現させた最大の原動力でしょう。自民・公明を合計した以上の支持を受けたからこそ、共産党の「候補者取り下げ」というアシスト効果と相俟って、小選挙区でも確実に当選を積み重ねられたと言えます。 以上の条件を満たすには、出来るだけ多くの有権者が投票する必要があります。 2009年8月の第45回衆院選は、投票率こそ7割に僅かに届きませんでしたが、日本の国政選挙史上、唯一、投票者数が7000万人を突破した選挙でした。だからこそ、自公合わせて約2700万票を得たにも関わらず、民主党はそれを越える票を獲得できたのです。 しかもこの選挙では、共産党(494万票)・みんなの党(301万票)も一定の票を集め、有権者は、「自公でも民主でもない第三の道の可能性」を残しました。第一党に有利になる小選挙区制主体の制度であるにも関わらず、結果的には絶妙なバランス感覚が働きました。本論から外れた蛇足ではありますが、特筆すべき事項と思います。 さて、以上の結果を踏まえて、昨年10月の第48回衆院選挙を振り返ってみましょう。政権交代を狙った野党は、先の4条件を満たしていたのでしょうか?全く満たされていなかった「政権交代の条件」①比例2000万票を得る基礎体力→× この条件を満たしていたのは寧ろ自民党でした。野党には望むべくも有りませんでした。選挙結果を見ても、2000万どころか、1000万を達成するかどうかというレベルです。仮に政権交代したとしても、党の基礎体力が無ければ、その後の参院選や次の衆院選にも勝てないでしょう。②友党の協力→× 希望の党は単独で戦い、立憲民主と共産の選挙協力は市民連合が仲介した一部の地域で行われたのみでした。言わば「自公包囲網」の構築に失敗し、各個撃破されたことになります。③比例3000万票の獲得→× ①の条件が満たされてない以上、この条件も満たされません。自民党ですら獲得できないレベルなのですから、合従連衡を繰り返している野党が、直ぐに達成できるものではないでしょう。又、達成したとしても、一過性ではいけません。政権を維持するには、3000万得票を維持しなければいまけせん。 ④投票率3分の2(約7000万人)以上→× 投票率は55%にも届きませんでした。「その5」で指摘したように、棄権者の大半は元々、自公共以外の政党に投票していた人達ですから、投票率が低ければ、自民・公明にとって有利になるに決まっています。投票率が6割に届かない時点で、政権交代できるような票の動きでない事は自明だったと言えます。 以上、見てきたように、「政権交代を実現させる条件」は何一つ満たされていませんでした。 特に、最も大事な「基礎体力(=比例得票2000万票台)」の部分が欠如していては、後は何をやっても、殆ど無意味だったでしょう。 比例得票2000万票は、有権者全体の約2割に相当します。有権者全体の2割の支持も得られない政党が、小選挙区で第1位を取れる筈がありません。仮に、中選挙区・大選挙区制度だとしても、議席は増えるでしょうが、それだけのことです。政権は奪えません。 野党、特に「護憲・リベラル」の側では、「野党共闘」路線が叫ばれました。ですがこれは、②の「友党の協力」のみに相当する部分です。仮に、政党同士の政策協定が締結され、候補者調整が行われたとしても、他の3条件が満たされなければ、自公与党には勝てないでしょう。「野党共闘」を推進している人達は、日本国憲法の価値観を真剣に考えての事なのだと思いますが、政党の基礎体力や投票率の底上げに関する議論・提言はしていなかったように思われます(そこまでのリソースが無いのかも知れませんが)。「その4」の繰り返しですが、民主党は、旧自由党と合併後、比例2000万得票(有権者の約2割)の基礎体力をつけ、遂には約3000万票(有権者の約3割)を達成して、政権交代を実現しました。 ですがその後、有権者の期待や要望を裏切るような行為を繰り返し、支持を失いました。言わば自爆した訳です。みんなの党や維新の会の右顧左眄・二転三転も、民主党の自爆に拍車をかける形で、有権者の、政治や選挙への信頼を失わせたと思われます。 政権交代が実現できる条件を一旦は実現して、それを自ら壊したのは、野党自身なのです。自民党は「負けない強さ」を持ってはいますが、ずば抜けて強い訳ではありません。公明党と合わせてせいぜい、有権者の25%強の支持を得ているに過ぎません。 自公政権を復活させ、その支持基盤を強化する理由を与えてきたのは野党の側にあると言えます(共産党は別だと思いますが、ここでは取り上げません)。 少なくとも、自民・公明は、党の代表をコロコロと変えたり、党の在り方が二転三転したり、党が分裂・消滅ということはありません。所謂「報道」を通じてしか政治を知る機会の無い有権者から見れば、自公と比較して「野党は頼りない・信頼できない」という相対的な評価になるのは当たり前と言えます。結果的に、「自公何れかに投票するか」「自公には投票しないけど、期待できそうなところ無いから棄権するか」となるのは、寧ろ当然でしょう(私は、報道だけに頼ったり、選挙を棄権する事を肯定しませんが、有権者への「お説教」を書くのが、当記事の目的ではありません)。「基礎体力」をつけるのが全ての前提「政権交代」を考える政党・政治家・その支援者は、国民の2割の支持を常に得られる基礎体力をつけること、投票率を上げるように努めること、この二点に取り組むべきでしょう。民主党が嘗て取り組んだ事を、リセットしてもう一度取り組まなければなりません。「共闘」云々は、基礎体力がついてから、その後の事です。 基礎体力が無いまま共闘してどうするのか。共闘は、互いの基礎体力があってこそ、初めて意味を持ちます。自民・公明の「共闘」が上手くいっているのが、その証明です。基礎体力があるからこそ、効果を発揮するのですし、互いに互いを必要とする「利害の一致」も生まれます。 自公両党の「連立」に対して、「政策が異なるから野合だ」という批判もあります。私も同じ思いですが、幾ら批判したところで、自公両党が選挙に勝っているのは現実です。批判するのは言論の自由ですが、政治的には「負け犬の遠吠え」です。「共闘していたら」勝っていたのか? 先の衆院選の後、「野党共闘が実現できていれば…」との声が多く聞かれました。共闘で「護憲・リベラル」の側が自民・公明に勝てていたでしょうか? 民進党が分裂せず、立憲+希望の票が民進の得票と仮定しても、民進2076万票+共産440万票+社民94万票で、合計2610万票です。自公両党の合計が2554万票ですから、有権者の支持は互角と言える程度です。 有権者の支持がほぼ伯仲(繰り返しますが、民進党が2000万票越えという得票が非現実的ですから、この想定は、野党にかなり甘いです)しているのですから、小選挙区でもどうなっていたかは分かりません。 又、仮に、小選挙区制のマジックで自公の候補者が落選していたとしても、国民の支持に裏打ちされたものではないでしょう(小選挙区比例代表並立制による「底上げ効果」が憲法の理念に反していることは、「その5」を参照)。 従って、比例代表の得票から「有権者全体の支持の分布」を見ると、少なくとも「共闘していたら自公に勝っていた」かどうかは証明されません。「ある程度、議席を減らす効果はあったかも知れない」と言える程度ではないでしょうか。 それに、繰り返しますが、「党同士の協力」は、政権交代を成し遂げる為の条件の一つに過ぎません。「党同士の協力」のみに目を奪われ、投票総数や、党の基礎体力と言った、他の部分への考察・取り組みを疎かにしてはいけないでしょう。春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)