「DAYS JAPAN」18年11月号の好い加減な記事
「世界を視るフォトジャーナリズム月刊誌」を謳う「DAYS JAPAN」(株式会社デイズジャパン発行、2004年3月創刊)が、来年3月を以て休刊する事を発表しました(会社を解散するので、実質的には廃刊)。(リンク)「DAYS JAPAN休刊のお知らせ」 この雑誌の2018年11月号(10月20日発売)に、「トリチウム水の行方と健康影響」という特集が掲載されました。その中に、この雑誌の発行人でもある広河隆一氏が「福島・相馬港の試験操業 小さな灯を無残に消す汚染水放出」という記事を書いているのですが、その記事に事実でない事が書かれていました。(リンク)DAYS JAPAN11月号見出し 余りにも酷いので、以前、広瀬隆氏や小出裕章氏を批判したのと同じように、当ブログで取り上げようと思っていたのですが、延び延びになっていました。DAYSの休刊が発表されたから、という訳ではないのですが、良い機会なので、書いておきます。「海への放出」は発表されていない この特集には、広河氏だけではなく、おしどりマコケンさんや、佐藤和良氏(いわき市議会議員)等も記事を寄せています。しかし、他の方がどんなに丁寧に良い記事を書いていたとしても、雑誌の創設者であり、発行人でもあり、プロのジャーナリストであり、「写真・取材」とキャプションまで入れている広河氏の間違いは、この特集や雑誌の信頼性を損なわせるに十分です。 どこが間違いなのか。 お読みになった方は気付いたかもしれませんが、広河氏の記事の「国・原子力規制委員会から、原発敷地のタンクに貯蔵されている汚染水の海への放出が発表されたのだ」 という一文です。 こんな発表はありません。 存在しない事実を書いて、ジャーナリズムを謳ってはいけないでしょう。 原子力規制委員会は、田中俊一・前委員長の時から、「(ALPS処理済み水は)放出するのが唯一の解決策」という考え方で、それを繰り返し表明してきました。更田豊志・現委員長も同じ見解です。他の委員も同様です。 記者会見や規制委員会臨時会で表明はしてきただけで、特別な発表はしていません。 又、原子力規制委員会は、東電が申請する実施計画を審査する立場なので、安全上の重大な問題が生じない限り、規制委員会が主導して物事を決める事は有り得ません(「もんじゅ」への勧告は、唯一の例外)。 仮に、「海洋排水の方針」を決めて発表するとしたら、サイトに責任を負っている東京電力か、長期的方針を検討している経産省か、原子力災害対策本部長たる内閣総理大臣か、ということになりますが、何れもそのような発表はしていません。 エネ庁のALPS小委員会(正式名称は「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」)が開催した説明・公聴会も、「処分方法・時期は決めていない」というのが、公式見解です。トリチウム水タスクフォースの報告書の選択肢も、参考の一つ、という位置づけです。 広河氏は、規制委員会と経産省の役割の違いはおろか、サイトへの一義的責任を負っているのが何処なのかさえ、理解していないのではないかとすら思えます。 念の為、これまでの経緯と、組織相関図を載せておきます。クリックすると拡大します。 無断転載・引用は御遠慮下さい。基本的な理解が欠如しているのではないか フクイチ(福島第一原発)の汚染水の扱いを巡る長期的な方針を記事にするなら、汚染水の扱いに関する経緯と、関わっている組織の相関図くらいは踏まえて書くのが当たり前でしょう。それが把握できていれば、存在しない事実を堂々と書かない筈ですし、組織の相関図や、それぞれの負っている役割が分かっていれば、「規制委員会が発表した」という頓珍漢な発想も出てくる筈がありません。 広河氏も、広河氏の原稿を載せた編集部も、事実を把握していないと断ぜざるを得ません。これのどこが、ジャーナリズムなのでしょうか? 「一枚の写真が戦争を・・・」と大上段に振り被るリソースは有っても、公開資料をネットで調べるという、足元の調査に費やすリソースは無いのですね。 若しかしたら、編集部も広河氏も、フクイチが特定原子力施設という事すら、知らないのかも知れません。 私は、図書館で広河氏の記事を読んで唖然としました。よくもまあ、ここまで、事実をでっち上げて書けるものです。広河隆一氏の空想力と言うべきか、妄想力と言うべきか、思い込み力は凄いですね。 そして同時に湧き上がってきたのが、編集部の能力への疑問です。「DAYS JAPAN」が間違いを垂れ流すのは、私の知っている限り、3回目「DAYS・・・」が、間違いを載せたのは、今回の広河氏の記事だけではありません。 2015年12月号(15年11月20日発売)でも、掲載した写真のキャプション(説明文)と場所を間違えています。(概要:草ぼうぼうの荒れ地に廃棄された車列を空撮した写真を掲載し、「原発事故による避難者が乗り捨てていった車」との主旨の説明文を付け、場所を福島県双葉町と記載したもの。実は、3.11前から、地元の人達が車を廃棄している場所で、原発事故による避難とは無関係だった。場所も双葉町ではなく、双葉郡富岡町だった。詳しくは下記リンクを参照)(リンク)「DAYS JAPAN」、福島原発事故記事で「誤報」を謝罪 事故前の廃棄車を「被災者が乗り捨てた車」(J-CAST)(リンク)間違いが生じた経過のご報告とお詫び(DAYS JAPANの16年2月2日付のFB) この時、発行人である広河氏は、上記のお詫び分の末尾に「編集部の事実確認の甘さが招いた今回の結果を深く反省し、今後は事実確認を徹底し、正確な報道をおこなうように編集部内の立て直しをはかって参ります」と書いています。 広河氏は、自分で書いていることが出来ていません。 しかも、駆け出しの新人ならともかく(新人なら間違えて良いとは言いませんが)、雑誌の発行人であり、経営者であり、プロのジャーナリストであり、お詫びの文章を書いた広河氏自身が、公開情報を調べれば簡単に分かることを「勘違い」して書いているのですから、余計に始末が悪いと言わなければなりません(「勘違い」と見るか、「思い込み」と見るかは、立場によって異なるでしょうが)。 更に、「DAYS・・・」の間違いは、これだけではありません。「DAYS JAPAN」は、2017年4月30日に「日本列島の全原発が危ない~広瀬隆白熱授業2時間!!~」(中野ZEROホール/企画・司会 広河隆一)という企画で講演会を実施しています。 この講演が酷いもので、間違い・事実誤認・煽り・主観のオンパレードでした。私のブログでも、2017年5月12日に批判記事を書いています。(リンク) 5月5日の金曜行動~希望のエリアで広瀬隆批判をスピーチ~ 以上、「DAYS・・・」の名前で垂れ流された嘘・間違いは、私が確認できただけでも3点あります。 2015年11月20日発売の号、2017年4月30日の講演会、2018年10月20日発売の号と続いているので、約3年間で3回の間違いをやらかしていることになります。1年に1回です。しかも、その内、2回は公開情報を調べれば分る事です。 これでは、とても、ジャーナリズムを標榜するに値しないでしょう。元々、事実確認が甘く、分り難かった広河氏 私が、広河隆一というフォトジャーナリストの事を知ったのは、「週刊金曜日」を購読していた時の事です(「金曜日」の購読は10ン年前に止めています)。 その時は写真の迫力に半ば気圧されたものですが、今にして振り返ると、広河氏が凄いのは写真だけでした。氏の書く文章は分かり難く、時として、根拠のはっきりしないものです。 一例を上げましょう。引用は広河氏の著書「沈黙の未来 旧ソ連『核の大地』を行く」(新潮社・1992年2月初版)からです。「二千万キュリーが大気中に放出され、そのうち千八百万キュリーは、この工場内に落下した。しかし、二百万キュリーの放射性物質は、おりからの時速三十キロの風によって運ばれた。こうして北北東の方向に、ストロンチウムで二キュリー(平方キロ当たり)以上汚染された長さ百五キロ、幅約八キロのトレースができたのである。ひどいところは四千キュリー以上になった」(同書73頁)「五十七年の汚染規模(といっても、ストロンチウムが平方キロ当たりニキュリー以上に所に限る)は、一万五千平方キロにわたった。そのなかには、住民が二十七万人いたという。そのうち一万人だけが避難し、二十六万人はまだ同じ場所に住み続けているのだ」(同書80頁) 数字が羅列されていますが、これ等の数字が何処から出てきているのか、どの機関がいつ調べた数字なのか全く分からないまま、話が進んでいきます。これが、広河氏の書く文章の特徴でもあります。 広河氏は自分が聞いた話や見た事は克明に書いてますし、当然、見たものは写真に収めているのですが、「そうなるに至った流れ」や「周辺情報」と言った、自分が直接見聞きできない事は苦手なのでしょう。苦手なら、その部分を出典付きで書いてくれるパートナーや助手を求めればいいのでしょうが、何故か、そういうことはしていません。そのような取り組みをしないまま、フォトジャーナリストとしての名声を獲得したので、スタイルを変える機会も無かったのかも知れません。 私は、引用元の本を信憑性に疑問符を持ったまま読み終えました。その疑問は今も消えていません。核災害は事実でしょうし、杜撰な管理も事実でしょうし、健康被害も事実なのでしょうが、面積や線量の数字が出典なしに出てくるので、どこまで信頼できるのかどうか、分からないのです。不向きな仕事に手を出したのではないか 広河氏は、写真を撮る技術は確かなのでしょうし、政治的にも肉体的にも危険な所に単身乗り込む勇気もあるのでしょう。伝えたいという思いも人一倍あるのでしょうし、各種の保養・救援団体や基金を立ち上げていますから、人道主義がベースに有るのだと思います。広河氏の仕事は、並の人間にはできない事でしょう。 ですが、撮影の技術は調査能力の裏付けにはなりませんし、危険な所に乗り込む勇気と、公開情報を地道に確認していく丁寧さはイコールではありません。フォトジャーナリストとしての名声が、雑誌の売り上げや会社経営の手腕を保証する訳でもありません。「DAYS・・・18年10月号」に、間違った記事を堂々と書いていることを踏まえると、広河氏は、個人として不向きな仕事に手を出したと言わざるを得ません。広河氏は、個人プレイヤーであって、組織のマネジメントや人の上に立つ役割は不向きなのでしょう。同時に、情熱と覚悟に溢れる極めて優秀な撮影者ではあっても「書類の山に埋もれるような仕事」は不向きなのでしょう。私でも把握している公開情報を調べていないという事実が、それを雄弁に物語っています。運動の品質の底上げを 奇しくも、「DAY・・・」の休刊が発表される直前の号に、間違いを堂々と書いたことが、広河氏の仕事と、この雑誌の品質を象徴しているようです。 広河氏や、編集部で働いている人達、この雑誌に有形無形の協力をしている方達が、「戦争を無くしたい」「現実を伝えたい」「脱原発・脱被曝」「沖縄への基地押し付け反対」を真剣に考えていることは疑いません。 ですが、如何に「基盤となる考え方」が良いもので、賛同できたとしても、仕事の品質を下げる理由にはなりません。 繰り返しですが、DAYS・・・は、3年間で3回も間違いをしているのです。品質の悪い商品は売れなくて当たり前ですし、市場から退場して当然です。 そして、以前から、当ブログでも書いている事ですが、資金力・組織力・広報力で劣る市民運動にとって大切なのは、「品質」です。(リンク)運動の品質を低下させる、小出裕章氏の「ネトウヨ並み」の文章 嘘や間違いを言ったりチラシやネットに載せたりすれば、「あの人たちは自己満足でやっているから」「政治を語る人間は党派を問わず嘘ばっかりだから」と思われかねません。一旦、そう思われれば、賛同者は広がらず、情熱や思いが空回りするだけで、自分で自分の首を絞める事になります。運動のリソースも無駄遣いされます。 私はDAYS・・・の休刊は同情しません。寧ろ、品質の低い雑誌が無くなるのは、良い事だと思います。 これまで、当ブログでは、広瀬隆氏・小出裕章氏の「品質」を取り上げてきましたが、今回、広河隆一氏も加わることになりました。 考えてみれば、この人達は、3.11前から、脱原発で活動してきた人達です。3.11を切っ掛けに原発に取り組むようになった私から見れば大先輩である筈なのですが、先輩としての見本どころか、まるで、反面教師です。 こういった「品質の低さ」が市民運動の広がりを妨げていた要因の一つなのかも知れません。 そもそも、市民運動の側も、3.11を止められなかった時点で敗北しているのです。規制当局も東電も国会も敗北していますが、敗北したのは市民運動も同じなのです。 東電や規制当局を対象にした事故調報告書は作られていますが、市民運動を対象にした報告書は作られていません。本来なら、大先輩である人達が、率先して取り組むべき事ですが、何も取り組んできませんでした。そして今回の、「ありもしない事実を堂々と書いた」一件が起きました。 やはり、市民運動の「品質」には、大きな問題が有るのかも知れません。 今後も、運動の「品質」については問うていきますし、自分自身の品質にも十分気を付けて参ります。 元々、この記事は、「DAYS・・・」の間違いを指摘するだけのものでしたが、同誌の休刊が発表されたので大幅に加筆したものであることをお断りしておきます。アップも遅くなりました。春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)