フクイチ核災害に伴う2024年度までの国民負担と、23年度までの東電の役員報酬の推移
※ 8/4 資料2のポンチ絵の間違いを修正して差し替えました 2011年3月11日に福島第一原子力発電所・核災害(以後、フクイチ核災害)が発生して以来の、国民負担(税金+電気料金)に関する記事です。フクイチ核災害に伴う国民負担は、幾らなのか?「オンサイト(敷地内)の収束」+「(主として)賠償・除染」に関する費用・2011~24年度分を、公的資料を基に積み上げて算出しました。 福島第二原発に関する賠償・福島国際研究教育開発機構(F-REI)に関する予算・自治体が独自に支出した予算(除染や放射線計測など)は含めていません。又、道路の復旧費用や産業誘致など、核災害が生じなかったとしても支出されていたと思われるような予算は、「核災害起因と見做せるかどうか微妙」との判断で集計していません。 除染費用は東電に求償しないものを集計しました。原子力規制委員会の予算も詳細には追っていません。理由は「東電に求償する除染費用は、NDFに交付される15.4兆円に含まれる」「原子力規制委員会関係は合計しても何十億円単位で、集計総額には大きな影響を与えない」ことによります。 確実に「フクイチ核災害起因」と見做せるものだけを集計しているので、実際の国民負担額よりも小さく算出されている可能性が高いことを踏まえて、お読み下さい。 これらの数字を追いかけたのは、「核災害の後始末に要する金銭的負担」を大雑把なものでも実績ベースで知りたかったのが、そもそもの動機です。主として、会計検査院の資料を基にし、その資料でカバーできない部分は、各年度の省庁の予算を追いました。 厳密な数字を調べようとしたら切りが無いので、「大まかな数字を把握する」ことを目的にしています。 調べた事を踏まえた私見は、記事後半に書いています。フクイチ核災害に伴う国民負担は、14年間で約24.1兆円 総額を先に紹介します(四捨五入の関係で、内訳と合計が不一致です)。●フクイチ核災害に伴って、14年間(2011~24年度)で発生・発生見込みの国民負担(税金+電気料金):約24.1兆円(約1.7兆円/年) オフサイト(原発敷地外):約21.2兆円 オンサイト(原発敷地内):約2.8兆円 日本国の有権者数は約1億500万人です(2022年時点)。有権者一人当たりの負担は、数字を丸めて以下の通りです。有権者一人当たり :14年間で約22.9万円 :約1.6万円/年 :約1400円/月 東京電力ホールディングスは、核災害を起こした責任を有している事業者です。にも関わらず、役員は報酬を受け取っています。●14年間(2010~23年度)の、東電の役員への報酬総額:累計・約61億円国民負担・役員報酬の詳細 上記の数字は、結論部分だけを抜き出したものです。詳細は、資料1~3にまとめました。 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。 グラフ・表・ポンチ絵は、B5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。資料1 国民負担―オフサイト・オンサイトの内訳と合計 東京電力HDに交付国債を基にした国費を注入している組織は、NDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)です。スキーム(枠組み)をポンチ絵にしました。資料2 東電存続(救済)と国費・電気料金投入のスキーム(主な出典、リンク)▸「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」(原子力災害対策本部/2016年12月20日)▸「特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除に関する考え方」(原子力災害対策本部・復興推進会議/2021年8月31日)▸特定帰還居住区域の避難指示解除と帰還・居住に向けて(原子力災害対策本部/2023年8月15日)▸「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について」(会計検査院/2018年3月23日追加報告)▸東京電力ホールディングス株式会社が実施する原子力損害の賠償及び廃炉・汚染水・処理水対策並びにこれらに対する国の支援等の状況について(会計検査院/2021年度)▸福島第一原子力発電所事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等に関する会計検査の結果について(会計検査院/2021年5月)▸「廃炉・汚染水対策基金について」(原子力安全研究協会)▸「廃炉・汚染水対策基金について」(原子力安全技術研究センター)▸東日本大震災への対応(特定復興再生拠点の整備/2018~20年度)▸原子力損害賠償紛争解決センター活動状況報告書~令和5年における状況について~(2024年3月)▸賠償金のお支払い状況(東電)▸原子力損害賠償・廃炉等支援機構 財務情報▸原子力損害賠償・廃炉等支援機構 お知らせ一覧(負担金と廃炉等積立金の情報)▸ALPS処理水の海洋放出に伴う需要対策基金事業▸自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金【復興】(経産省/2016~23年度)▸復興庁、2012年度以降の予算▸ALPS処理水関連の輸入規制強化を踏まえた水産業の特定国・地域依存を分散するための緊急支援事業(令和5年度予備費/経産省サイト)資料3 東電の役員人数・報酬額推移(2009年度~)(出典リンク)▸東電の年度報告書▸東電の統合報告書▸東電の有価証券報告書 核災害が起こると、どれだけの金銭的負担が発生し、国民の富(それこそ「国富」)がどれだけ消耗させられるのか。 日本は、今、その強烈な実物教育をくらっている最中です。しかも、この負担は終わりが見えません。発災当時未成年だった世代や、発災後に生まれた世代も負担しなければいけないのです。 このような数字を見ると、つくづく「取り返しのつかない災害を起こしてしまった」との思い知らされます。 施設(福島第一原子力発電所)の安全に関して一義的な責任を有していた東京電力は、国費が注入されるスキームが作られたことで生き延び(正確には、直接の国費投入ではなく、交付国債を用いての資金交付)、東電の役員は、年額で一人平均千万円単位の報酬を受け取っています。 東電が倒産しないように、「貸与」ではなく、「交付」による資金注入とは、よく考えたものです(融資や貸与にすると、債務[借金]が膨れ上がるので、返済義務を負わない「交付」にしたのでしょう)。 NDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)は、国会で議決された法律に基づいて設置され、そのNDFは、政府保証付きで金融機関から借り入れた1兆円で東電の株式の過半数を購入しました。東電を生き延びさせて(東電存続の名目は「廃炉の責任の明確化」「被害者への賠償支払い」「電力の安定供給」)、東電の株式や東電への金融機関の融資が焦げ付かないようにし、実質的に国有化することで(NDFを監督する主務大臣は経産大臣が兼任)政府がコントロールできるようにしました。 このスキームは、誰が考えたのでしょう? 原子力ムラの中の、恐らく大学出であろう頭の良い人達は、私のような凡人とは発想が違いますね。 廃炉や賠償で矢面に立つのは東電で、政府の意向を受けているNDFは東電の背後に隠れて表には出てきません。それでいて、東電の議決権株式の過半数を持っているのですから、役員の任命や基本的な経営方針の決定など、大きな権限と責務を負っています。「本当に悪い者は表に出てこない」のですね。 NDF設置法案に賛成した政党への批判を含めて、書くべきことは多くありますが、踏み込むと長くなります。当記事で他に書くべきことは、後日、追記するか、別記事を立てます。 尚、NDF設置の根拠となる「原子力損害賠償支援機構法」の成立とその後の法改正の経緯をまとめておきます。 法案は2011年6月14日に当時の菅内閣が第177回通常国会に提出し、同年7月28日に衆院本会議で可決、同年8月3日に参議委本会議で可決・成立しました。参議院での賛成会派は民主・自民・公明・「たちあがれ日本・新党改革」・国民新党・無所属3名、反対会派は共産・みんな・社民・無所属1名でした。(リンク)●議案審議過程・議案主旨(議案主旨・付帯決議のリンクもこちらから)●参議院本会議採決結果 その後、2014年2月28日に、安倍内閣(当時)が第186回通常国会に原子力損害賠償支援機構法の改正案を提出しました。この改正案は同年4月17日に衆院本会議で可決され、同年5月14日の参院本会議で可決・成立しました。法律名は「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」と改められ、機構の名称も「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」と改称され、改正法は同年8月に施行されました。 機構法改正の経緯と、参議院本会議の採決結果は以下の通りです。 賛成会派は自民・民主・公明・「新党改革・無所属の会」・無所属1名、反対会派は共産・みんな・社民・無所属2名でした。「日本維新の会・結いの党」・生活の党は、賛否が分かれました。(リンク)●議案審議過程・議案主旨(議案主旨・付帯決議のリンクもこちらから)●参議院本会議採決結果●現在の「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」のサイト被害者救済が最優先。賠償額を値切ったり、避難指示解除を一方的に決めてはならない 最後に、念の為、追記しておきます。 私は「フクイチ核災害による被害者の救済こそが最優先」と考えています。 事業者や国民負担の圧縮や減額を目的として、当事者の自由な意思による合意を得ずに、環境中の放射線量・濃度を考慮せずに避難指示区域を一方的に設定・解除したり、賠償額を値切ったり、賠償支払いを遅延させることはあってはならないということは、この場で表明しておきます。春橋哲史(Xアカウント:haruhasiSF)