フクイチのHIC(ヒック)保管容量と保管基数/2025年1月末
フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)のALPS(多核種除去設備)で生じている二次廃棄物に関する数字です。 ALPSで生じている二次廃棄物(詳細は後述)を詰めているHIC(ヒック)の保管容量は、2025年1月末で4576基、保管数は4440基、保管容量の空き容量は136基分です。HIC(ヒック)の保管容量「HICと、その保管容量」については解説が必要でしょう。 既に把握なさっている方は、次の小見出しまで読み飛ばして下さい。 ALPS(多核種除去設備)は、放射性液体廃棄物中の放射性核種を除去するもので、消滅させるものではありません。 除去された放射性核種は、吸着剤やスラリー(slurry/泥状の廃液)に移行します。使用済み吸着材やスラリーを「水処理二次廃棄物」と呼びます。二次廃棄物は放射性核種が高濃度に圧縮された高線量廃棄物です。剥き出しでは周囲の放射線量が上昇し、働く人にとって危険なので、放射線の遮蔽効果を有するポリエチレン製の高性能容器に収納されています。この容器の名称がHIC(ヒック)です。 HICはボックスカルバートと呼ばれるコンクリート製のボックスに保管され、そのボックスカルバートはフクイチ構内の「使用済みセシウム吸着塔一時保管施設」に保管されています。 東京電力が2022年8月19日に原子力規制庁に提出した資料によると、「(HICの)保管容量がひっ迫し、水処理設備運転に支障をきたす」可能性が有るそうです。(リンク)●HIC保管容量ひっ迫状況と対応について(PDFの16~23頁) HICの保管場所が尽きれば、水処理二次廃棄物を持っていく先が無くなりますから、「ALPSで廃棄物を発生させられない」=「ALPSが運転できない」=「汚染水処理(放射性核種の濃度低減)ができなく」なります。「HICの保管容量のタイムリミット」をポンチ絵にしたのが「資料1」です。右側の、赤い×印にご注目下さい。 ALPSの構成とHICの現状・対策については、「ALPS資料1・2」として、当記事の下部に掲載しています。 尚、当ブログのポンチ絵・表・グラフの無断転載・引用はご遠慮下さい。 ポンチ絵・表はB5サイズ以上のPC・タブレットでの閲覧を前提として作成しています。 ポンチ絵等はクリックすると拡大しますが、それでも見難い場合は、ワードやペイントにコピペして下さい(ウィンドウズの場合)。◆資料1 HICの保管容量の説明 HIC(=水処理二次廃棄物)は、ALPSが稼働し続ける限り発生します。 建屋の汚染水をゼロにして外部からの流入を止め、高濃度汚染水を汲み上げる必要がなくなったとしても、保管中の「処理途上水」の処理は必要です。構内には汚染水が溜まったままのトレンチやピットもありますから、それらの滞留水の汲み上げと濃度低減処理も必要です。更には、HICで保管されているスラリーの脱水・安定化処理の過程でも汚染水が発生します。この汚染水も、またALPSを通さなければいけません。 現実的には、フクイチが存在する限り「ALPSが稼働し続ける=水処理二次廃棄物が発生し続ける」でしょう。保管容量が尽きるまでの「タイムリミット」 最新の保管基数を踏まえて、資料2-1を更新しました。◆資料2-1 HICの保管容量「残り期間」◆資料2-2(グラフ) HICの保管量と保管容量の推移(リンク)●福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第686報)資料3 HICの保管管理の課題と、ALPSスラリーの保管状態(東電・原子力規制委員会の資料を基に作成)リスク低減措置として、HICの移し替えを実施中 スラリーを保管しているHICの耐用年数は放射線脆化(ぜいか)の影響で約20年とされています。脆化が進むと衝撃等でHICが破損し、スラリーが漏洩する可能性が高まります。万一、スラリーが漏洩すれば、高線量の被曝事故に繋がったり、漏洩した周囲に近付けなくなるかも知れません。 原子力規制庁・規制委員は、積算吸収線量5000kGy(キログレイ/「グレイ(Gy)」は物質が放射線から受けるエネルギーの単位)以上のHICは破損リスクが高いと評価しています。これを受け東電は、2021年8月から、その値に達すると推測されるHICについては、中身(ALPSスラリー)を別のHICに移し替えています。 この移し替えは、当初こそ被曝防護の観点からモタついていたものの、2022・23年度分として予定していた102基は2024年4月に終了しました。 最新の資料によると、2024年12月16日時点で、24年度分として予定した23基の内、18基まで移し替えが済んでいます(24年度目標に対する進捗率は約78%)。 今後の移し替え目標は、24年度分の残り5基、25年度分の28基、26年度分の48基、27年度の23基、28年度の32基です。(リンク)(出典/リンク)●高性能容器(HIC)の放射線劣化に関する追加調査等の実施について(21年3月17日)●高性能容器(HIC)に保管されている ALPS スラリーに関する論点(原子力規制庁/6月7日)●積算吸収線量5,000kGyまでの到達時間が短いHICの扱い(6月7日)●HIC保管容量の増設と、低線量HICの再利用(23年3月20日資料/PDFの10・11頁)●中期的リスクの低減目標マップ(2024年3月版)を踏まえた検討指示事項に対する工程表(2024年12月16日/PDFの3頁)スラリーのリスク低減には、脱水・安定化処理が必要。2029年3月開始? 上記の内容と正反対の事を書くようですが、HICの保管容量が枯渇する可能性は当分は回避できそうです。 東電は、2025年3月に保管容量192基分を増設すべく準備を進めています。その後も、最多576基分の増設が可能とのことで、保管容量は5344基が確保可能です。現在と同じように月間11基のペースで増加するとして、あと6年強の猶予はあります。 違う角度から見るなら、6年以内(2030年末?)には抜本的な対策が動き始めていないと、保管容量が逼迫するということです。今後、HICの保管容量を引き上げたとしても、問題の先送りに過ぎません。 又、繰り返しですが、スラリーを詰めているHICの耐用年数は約20年間と見られています。 HICの耐用年数が来る前にスラリーの漏洩リスクを低減させ、且つ、HICの保管基数を減らすには「HIC内のスラリーを抜き取り→抜き取ったスラリーを脱水・圧縮→空となった使用済みHICを洗浄(再利用できない場合は固体廃棄物扱い)→洗浄したHICの再利用」の工程を確立する必要が有ります。 東電は「スラリーの抜き取り」「スラリーの脱水・圧縮」「使用済みHICの洗浄」を行うプラント(スラリー安定化処理設備)を設計中です(安定化処理設備は空きエリアである「旧Cタンクエリア」に設置する方針。設備の稼働開始目標は当初予定は2021年度。その後、26年度末へ延期され、2024年10月に28年度末へ延期)。 スラリーの抜き取り・安定化と、HICの保管容量については、2019年8月に当ブログで取り上げて以後、フォローが中断していました。22年9月以降は、当ブログで月末ごとにチェックしています。(リンク)●フクイチの水処理に迫る、もう一つの「時間切れ」 スラリーの安定化処理設備のフロー・概念図は、下の通りです(2024年7月時点までの東電の説明に基づき春橋作成)。資料4 設計中のスラリー安定化処理設備(概念図) 原子力規制委員会の技術会合では、安定化処理設備の設計で特に注意すべき点として、「スラリーが高線量(※)である為、機器メンテナンス時を除いて無人作業となるので、その成立性」「スラリーをHICから抜き取ったり脱水する過程での放射性ダストの舞い上がり防止(ダストが飛散すると、現場の雰囲気線量が上昇する)」「スラリー抜き取りから専用容器封入までの系統からの漏洩防止」等が議論されています。※スラリーに含まれる核種はストロンチウム90(半減期29年)が支配的です。HICごとに放射能量は異なりますが、ストロンチウム90が1立方センチメートル当たり数万~数百万㏃であることが確認されています。1立方メートルに換算すると、数百億~兆㏃です(詳細は、下記リンクの「ALPSスラリー固化処理技術選定にあたっての考慮事項について」3~5頁を参照)。 上記のプラントが2028年度末(2029年3月頃?)に稼働を開始するかどうか、稼働率がどの程度まで上がるのか、要注目です。 保管されているスラリーのリスクを低減させる為にも、安定化処理の設備は着実な稼働が望まれます。 (リンク)●ALPSスラリー固化処理技術選定にあたっての考慮事項について(2023年6月5日/原子力損害賠償・廃炉等支援機構)●スラリー安定化処理設備に関する確認事項(2021年7月12日/原子力規制庁)●スラリー安定化処理に向けた設計について(7月12日)●スラリー安定化処理設備に関する審査上の論点(22年9月12日)●スラリー安定化処理設備に関する審査上の論点(規制庁提示)を踏まえた当社回答(22年10月26日)●ALPSスラリー安定化処理設備設置の検討状況について(23年10月5日)●ALPS スラリー脱水に関連する論点への原子力規制庁の見解(同)●ALPSスラリー安定化処理設備設置の検討状況について(24年5月27日)●スラリー安定化処理設備設置の検討状況について(24年7月25日)●ALPSスラリー安定化処理設備設置・廃スラッジ回収施設の設置の検討状況について(24年10月28日 )「脱水スラリー」は、更なる固化処理が必要 更に話を進めると、「パンケーキ状」になると思われる脱水スラリーは、最終処分の見通しが立っていません。完全に乾燥して粉体(粉)になると、保管容器の蓋を開けただけで高線量のダストが飛散するでしょうから、何十年単位でそのままにはしておけないでしょう。 東電は、NDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)と共に、「脱水スラリー」を固化させる方法と時期を検討しています。 この件に関しては、原子力規制委員会の「第15回 イチエフ技術会合」(2023年12月4日)で議論されました。(リンク)●第15回特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合 ―資料2・水処理二次廃棄物の固化処理に関する検討方針について ―資料3・ALPSスラリー固化処理技術選定にあたっての考慮事項について(改訂版) 2023年12月の上記会議では、「2025年度中に固化方法を選定し、設備設置までのロードマップを提示する」「脱水スラリーの固化開始は2035年前後の可能性」という大雑把なスケジュール感が示されたのみです。 スラリーの発生総量も分からず、不確定要素が多い中で、「今後の扱い」を検討しなければならないのです。「先送り」で逃げることはできません。何れは「脱水スラリーを固化(廃棄体化)」する為の設備も設計・設置しなければなりません。 課題の大きさ・多さに気が遠くなるようですが、核災害は発生してしまったのです。今後、放射性液体廃棄物が発生し続ける限り、スラリーを始めとする水処理二次廃棄物の安定化・廃棄体化は、日本全体で向き合っていかなければなりません。 残念ながら、フクイチ核災害発生時に未成年であったり、生まれていなかった世代に引き継がなければならないでしょう。資料5 フクイチ敷地全体図◆ALPS資料1:構成概念図(既設・増設・高性能)◆ALPS資料2:除去可能な62核種と告示濃度春橋哲史(Xアカウント:haruhasiSF)