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カテゴリ:反原発・脱原発
冒頭に、本記事での見解は全て、春橋個人のものであり、他の如何なる組織・個人とも関係の無い事をお断りしておきます。
2017年4月5日、国会内で「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(以下「市民連合」と略)と野党4党(民進・共産・自由・社民)の意見交換が行われました。私は報道やSNSでこの事を知り、内容を記載した文書をネットの検索で見つけました。 結論から書くと、「核のリスク」と「不可避な課題」に向き合っていない、現実から遊離した内容でした。 「核のリスク」、つまり「福島第一・もんじゅ・東海再処理施設」とフクイチ事故の被害者の救済に全く触れていません。 先ず、「市民連合が実現を目指す政策」(2016年12月9日公表)と「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」(2017年4月5日公表)の文書から、原発関連の文章を抜粋・引用します。全文は市民連合のサイトに掲載されています。 ====引用ここから==== 「市民連合が実現を目指す政策」 (前略) 3 重要政策 私たちは以下の政策を提案します。立憲野党の合意を得て、野党、市民の力で推進していくことを望みます。 (中略) ④ 脱原発への決意 放射性廃棄物を十万年後の人類に残すという原発推進政策は、地球と人類に対する犯罪だと考えます。3.11をなかったことにしようとする安倍政権の政策に対して、3.11を起点として新しい日本のエネルギーと経済を構想することが野党の任務です。 ・東京電力福島第一原発事故の徹底的な究明と、安全対策や避難計画等が不備のままでの再稼働を認めない ・再生可能エネルギーの拡大計画の策定による温暖化対策の推進 (後略) 「四党の考え方」 (前略) 市民連合が実現を目指す政策について四党政策実務者による協議を進めた結果、以下のような考え方を共有することを私たちは確認した。 (中略) 2. 原発ゼロを目指し、エネルギー政策を抜本的に転換する (1) 原発ゼロを目指す 3.11を原点として新しい日本のエネルギー政策を構想する。 (2) 省エネルギーの徹底 断熱の徹底、廃熱の有効利用等をすすめ、世界一の省エネ社会を実現する。 (3) 再生可能エネルギーの飛躍的増強 太陽光発電や風力発電への支援、ソーラーシェアリングの大幅拡大等を進める。 (4) 地球温暖化対策の推進 国際社会に通用する中長期数値目標を設定し、地球環境・生態系の保全を進めるとともに新産業と雇用の創出につなげる。 (後略) ====引用ここまで==== 原発・エネルギー政策に関する具体的な政策はこれだけです。 最大の問題点は、私が「廃止措置三兄弟」と呼んでいる、「フクイチ(福島第一原発)・もんじゅ・東海再処理施設」に触れていない事でしょう。 廃止措置三兄弟 これら三施設のリスクを列挙します。 福島第一原発(福島県):世界最大の核災害の真っ只中であり、月間約1万人・平日平均約6000人が被曝労働をしても尚、収束の目途が立たず、放射性廃棄物が日々、増え続けている。発災6年間での作業員の死者は東電が公表しているだけでも16人に上り、計画中のものも含めると、ディズニーランド約6.9個分に相当する敷地はほぼ一杯である。大量の放射性核種を内包した手つかずのリスクも数多く残っている。 もんじゅ(福井県):ナトリウム冷却型原子炉の廃止措置は日本で初めて。ナトリウムは水や空気に触れると炎上したり爆発する性質を持っている。速やかな燃料棒の抜き出しが求められるが、燃料交換機や燃料棒のナトリウムを洗浄する機器の健全性点検から始めなければならず、燃料棒を抜出す目途すら立てられない。 東海再処理施設(茨城県):使用済み燃料棒をせん断した際に発生した高濃度の廃液が残っている。そのインベントリ(放射能量)は約400京ベクレルという超高濃度であり、しかも、東海再処理施設は海抜6mの沿岸部に立地している。東北地方太平洋沖地震の津波高は5.2mであったため、ことなきを得たが、廃液のガラス固化作業は、現在の計画でも、完了まで12.5年を要する見込み。その他、転換炉「ふげん」で使っていた燃料棒200本以上もプールに沈められており、取り出しを考慮せずに高濃度廃棄物がドラム缶詰めで水槽に無造作に放り込まれているなど、「核のゴミ捨て場」状態となっている。 それぞれの施設の持つリスクは 福島第一:敷地内の火災、次なる地震や津波による設備の破壊等によって、施設内の安全性・安定性が損なわれる可能性(大量の放射性物質の、環境中への放出)。労働者が確保できなくなることによる作業の遅延・停止。放射性液体廃棄物(汚染水)や固体廃棄物が敷地内で保管し切れなくなる可能性。 もんじゅ:燃料棒の取り出し準備に日数を費やしている間にナトリウムが漏洩すれば、爆発・火災を引き起こし、施設の安全性が損なわれて廃止措置が不可能になったり、シビアアクシデントに至る可能性。 東海再処理施設:最も怖いのは、400京ベクレルの高濃度廃液の一部でも漏洩する事。1%だとしても4京ベクレル。敷地内に留まっても、近寄れなくなる可能性がある。万一、津波等で海洋に流出すれば、フクイチ事故を凌ぐ世界最大の海洋汚染となる。その他、地震・津波・火災等で設備の健全性が損なわれれば、放射性物質が環境中に大量に放出されたり、敷地への立入が困難になる可能性がある。 ということになります(とても簡単に、ざっくりとした書き方であることを御了承下さい)。 原発への賛否を問わず、これらは対処・低減させていかなければならないリスクです。好き嫌いの問題ではありません。万一、もんじゅがシビアアクシデントを起こせば、周辺の原発にも立ち入れなくなる可能性が有ります。万一、東海再処理施設の高濃度廃液が海洋に流出したら、東日本の太平洋沿岸はどういうことになでしょう。福島第一原発に関しては言うまでも有りません。 どこか一つの施設でも廃止措置が行き詰るような事になれば、その施設にある放射性物質は、最終的にどうなりますか。永久に健全性が確保できる建築物や設備など、有り得ません。放射性物質が閉じ込められなくなれば、どうなりますか。 これらの施設からは撤退出来ず、今すぐに核燃料棒や放射性廃棄物を抜き出すことも出来ません。地震や津波で全てがひっくり返ってしまうかも知れないリスクと、常に隣り合わせです。 国土が放射性物質で汚染され、居住不可能な区域が拡大したり、疾病率が急上昇すれば、日本は衰亡するでしょう。国が滅びれば、どんな政策も、憲法も、全て無意味です。 次に、その他の点を指摘します。 核燃料サイクル 脱原発を実現しようとすれば、青森県六ケ所村の再処理施設も不要となります。そうなると、青森県は「核燃サイクルを諦める場合には、青森県の使用済み燃料は県外に搬出せよ」と要求して来るでしょう。核燃サイクル施設の受け入れ条件が、そのようになっているとの事です。 脱原発を実現する際に不可避となる課題に触れないまま、脱原発を主張しても、「政治的なスローガン」の域を出ません。 フクイチ事故被害者の救済 区域外避難者への住宅無償提供継続や、子ども被災者支援法の完全実施に向けた計画の策定は含まれていません。「一般人の年間被曝限度量1mSv」と「避難指示区域指定は年間20mSv」という二つの基準が混在する現状の解消も触れられていません。 放射線防護や、現に声を上げ続けているフクイチ事故被害者の視点は完全に抜け落ちています。 現時点での私の結論 この「市民連合」と「野党四党」の意見交換や考え方は、「安倍政権に対抗し、打倒を目指す」という視点で見るなら、満足できる水準でしょう。ですが、「現実のリスクに向き合う」という視点で見ると、抜け・欠けが目立ちます。可能性は極めて低いですが、仮に、この考え方で政権を取ったとしても、現実の課題・問題には対応できないでしょう。 とは言え、私は、市民連合に関わっている人達が悪人だとは思いません。廃止措置三兄弟のリスクは、恐らく、本当に知らないのでしょう。放射線防護や線量の二重基準に関しては、自分や家族が差し迫った被曝リスクに曝された事が無く、各地の訴訟の原告意見陳述なども聞いた事が無く、実感として分からないのでしょう。 国会事故調の報告書も、どれだけの方が読んでいるのでしょう。市民連合のサイトを見ても、「国政調査権」という憲法第62条に定められた制度を有効活用しようという呼びかけは有りません。 目的と問題意識が、「安倍政権に対抗する」事に集中しています。そういう意味では、シングルイシューと言えるでしょう。 市民運動は自発的なものですから、ここでは、これ以上は踏み込みません。 ですが、現実のリスクから目を背け続けることはできません。設備が劣化・老朽化し、フクイチで廃棄物が増え続けることを考えれば、廃止措置三兄弟のリスクはいつかは顕在化します。そうなった時に、主権者・国民が何をしてきたのか、必ず問われます。万が一、国を滅ぼすような事になれば、子や孫の世代からも問われます。それに対して、「知らなかった」とか「出来ることはやった」と答えたとして、歴史は、許してくれるでしょうか? 子や孫が、許してくれるでしょうか? 国を滅ぼしたら、憲法も政策も有りません。 現時点での私の結論は、この国の主権者・国民も、政治家の大部分も、現実に存在するリスクから目を逸らしているか、気が付いていないというものです。 私は、これからも、廃止措置三兄弟とフクイチ事故被害者の訴えを追い、発信を続けます。 春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.04.13 03:33:05
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