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カテゴリ:福島第一原発 汚染水
久し振りに「連載」を再開します。
福島第一原発で増え続けるALPS処理水の扱いに関する公聴会は2日間に渡る日程を終了し、意見募集も9月7日・金曜日に締め切られました(経産省のサイトには、「締め切った」ではなく、「9月7日(金)(必着)」と書かれています)。 意見表明された皆様、意見送付された皆様、お疲れ様でした。小委員会の事務局は、送付された意見の数や内容をまだ公開していませんが、私は頻繁にサイトをチェックしています。 今回の公聴会では、様々な課題や論点が提示されました。何れ、まとめて取り上げる必要も有ると思っていますが、本記事では、一つに絞って書きます。 当記事に掲載のポンチ絵の無断転載は御遠慮下さい。 事務局の説明と山本委員長の回答を振り返る 公聴会で、意見表明者と小委員会の間で大きな対立点となったのが、「ALPS処理水には、トリチウム以外の核種が、かなり高い濃度で含まれていることが、小委員会に報告されていたのか」ということ、更には、「それが国民に知らされていたのか」ということでした。 この点に関しては、8月30日に行われた富岡の公聴会での事務局の説明と、ぶら下がり取材で質問した動画がありますので、先ず、紹介しておきます。(地元の市民メディアの方が撮影・編集)。 2018.8.30 これからALPSグルグル作戦を議論か!? この動画の50~60秒辺りで、事務局の担当者が「トリチウム以外の核種で取り切れていない核種が残されている状態でございます。この点につきましては、この委員会の最初の時点でご説明している内容でございます。議論の前提となっているということでございます」と説明しています。 更に、動画の3分5秒あたりで、市民メディアの質問に対して、山本委員長が「第一回目の委員会で、その資料が出ているのも確かです」と回答しています。 尚、上記動画は8分強ですので、早送りせず、全て視聴する事をお勧めします。 では、小委員会の第一回会合に、どのような資料が提出されていたのでしょうか? 「第1回・多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の資料と議事録 小委員会の第1回会合は、2016年11月11日に開催されています。 恥ずかしながら、私は、小委員会のこれまでの会合・全9回を傍聴しているにも関わらず、事務局の説明や山本委員長の発言を聞いても、ピンとくるものが有りませんでした。 そこで、改めて、第1回・小委員会の資料を確認したところ、確かに、資料として提出されていました。正確には「資料2-2 福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水処理の状況」という題名で東電が提出したものです。 この資料の15頁右側に下記の表が掲載されています(PC画面よりキャプチャ)。 「Cs137」は「セシウム137」、「Sr-90」は「ストロンチウム90」のことです。 ここで見るべきは、下段の「多核種除去設備等処理水」の濃度です。 数字は指数表記になっているので、分かり易く書くと、「セシウム137の濃度は、1リットル当たり0.1~100ベクレル」、「ストロンチウム90は1リットル当たり0.1~1000ベクレル」となります。つまり、ALPS処理済み水でも、濃度にこれだけの幅があるということです。 問題なのは、最大濃度です。この濃度が、所謂「告示濃度」を越えているかどうかが一つの目安となります。核種毎の告示濃度の値と、告示濃度の意味については、下記のポンチ絵をご覧下さい。 ストロンチウム90は左の列の「3」、セシウム137は同じく左側の列の「30」です。 ストロンチウム90の告示濃度は「30ベクレル/L」で、セシウム137は「90ベクレル/L」です。 この告示濃度の値を、小委員会に提出された資料の最大濃度と比較してみると、 ストロンチウム90は、告示濃度が30ベクレル/Lで、処理済み水の最大濃度は1000ベクレル/L。 セシウム137は、告示濃度が90ベクレル/Lで、処理済み水の最大濃度は100ベクレル/L。 となります。 何れも、告示濃度を越えており、小委員会の説明用資料にあったように、「ND(検出限界値未満)まで下がっている」とは言えません。 これで、資料として提出されていることは確認できました。では、議論の中身はどうだったでしょうか? この小委員会では、議事録が確定するのが次回の開催時ですから、第1回・小委員会の議事録は、第2回小委員会の資料として掲載されています。 第一回議事録 東京電力は、資料の説明をする際に、キャプチャで紹介した15頁の濃度の数字については触れていません。 トリチウム以外の核種については、短い質疑で終わっています。議事録から、該当部分を引用します(第一回議事録、15頁より)。 ====引用、ここから==== ○高倉委員 ALPSのことでちょっとお聞きしたいんですけれども、1回通して、なかなか取りにくいものがあると。何種類かありますよね。この場合は、例えば2回、3回と通せばそれがどんどん減っていくわけですか。それとも全然変わらないんですか。 ○東京電力(松本) 当然減ると考えてございますし、例えば、一旦全量を通していくようなプロセスの中で2回目にはどうするのかというのは、多核種除去設備というのはたくさん塔があって、それぞれの核種ごとに除去するような機能を持たせる別々の吸着剤を使ってございますので、特定の核種が取りにくいということになれば、さらに組み合わせの改良をすることで効率的に、さらに濃度を下げることは可能だと考えてございます。 春橋注(敬称略)/ 高倉委員→ 高倉 吉久:東北放射線科学センター理事 東京電力(松本)→ 松本 純:東京電力ホールディングス(株)福島第一廃炉推進カンパニーバイスプレジデント ====引用、ここまで==== トリチウム以外の核種の濃度についての質疑は、ここだけです。 もう一つ、山本委員長が小委員会の役割について発言している部分を引用します(第一回議事録・21頁) ====山本委員長の発言。引用、ここから==== ○山本(一)委員長 (前略)東電さんの資料の18ページに、今、総量として、水の形になったトリチウムとして7グラムだと出ております。その程度でありますが、それがあの大量の水の中に溶けているということなので、それをどうしようかというのがこの多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の仕事なのかなと。(後略) 春橋注(敬称略)/ 山本委員長→ 山本 一良:名古屋学芸大学教授(名古屋大学 参与・名誉教授) ====引用、ここまで==== トリチウムだけを問題にするのがこの委員会の仕事だと発言しています。但し、それ以外の核種の濃度を除去する手段やタイムスケジュールは何も発言していません。又、事務局も、これまでに行われた9回の小委員会で、そのようなものを資料として提出していません。 事実としては間違ってないが、屁理屈・後出しジャンケン 以上、公聴会での「第一回の小委員会で・・・」という、事務局と委員長の説明・発言に基づいて、資料と、関連の発言を振り返ってみました。 確かに「処理水の濃度に幅が有る」ことは資料で配布されましたし、質疑も有りました。 しかしこれでは、到底、丁寧で十分な説明とは言えないでしょう。「事実としては間違っていないが、屁理屈」と言うべきです。 特に、資料として配布しただけで口頭での説明をしておらず、告示濃度との比較も説明されていません(告示濃度の数字は資料としては用意されていない)。 又、資料説明された核種もストロンチウム90とセシウム137だけで、ヨウ素129(半減期・約1600万年、告示濃度は9ベクレル/L)については、何ら触れられていません。 「トリチウムだけを扱う小委員会」という委員長の発言に異議の声は上がっていませんから、委員全員でそのミッションは共有したと言えるのでしょうが、「トリチムゥ以外の核種を検出限界値未満まで下げる」手段やタイムスケジュールは、これまでの委員会で説明も議論もされておらず、公聴会用の説明資料にも載っていません。キャプチャで紹介したストロンチウム90とセシウム137の濃度を記載した表も、公聴会用の説明資料からは「何故か」落とされています。 トリチウム以外の核種については、事実上、資料配布だけ。しかも、公聴会用の資料には未記載。これで「第一回で報告を受けた」と言われても、「屁理屈」としか形容できません。 「トリチウム以外の核種は除去するのが議論の前提」という説明に関しては、噴飯ものです。公聴会用の資料に載っていない上、委員会での議論もされず、資料も提出されていません。これで、「トリチウム以外の核種は最大限に除去するのが前提である」ことを読み取るのは、ほぽ不可能です。説明用資料に書いていない事を読み取れなんて、出来る訳が有りません。国民を愚弄する後出しジャンケンと言っても、過言ではないでしょう。 特に、東京・イイノホールでの公聴会で顕著でしたが、傍聴席からも「小委員会の議論をやり直せ」と怒号が飛んだのも当然です。 時間が無い現状では、やるべきことは限られる どうして、国民向けの資料をこのようなものにしたのか、或いは、してしまったのか。そのプロセスが明らかになる日が来るかどうかは分かりませんが、今はとにかく、時間が有りません。 一刻も早く、新たなタンク用地の確保と、長期保管を前提としたタンク増設を決定するよう、経産省と東電にパブリックプレッシャーをかけ続けることが大切です。 拙ブログでのALPS処理水に関する「連載」は終わっていません。今後も、この問題は最優先で追い続けます。 下記は、過去の「連載」です。 1.緊急アップ! フクイチのALPS処理水に関する説明・公聴会の情報 2. 経産省が「公聴会」を採用した理由と、スリーマイル原発事故の前例 3. ALPS処理水の処分に関する「説明・公聴会」の開催決定に至る経緯 4. フクイチのALPS処理水の扱い~タンク用地と137万t容量~ 5. フクイチ・ALPS処理水の扱い~処分方法と準備期間~ 6. ALPS処理水の最終処分~経産省の考える「落としどころ」と理屈を深堀りする~ 7. フクイチ・ALPS処理水の扱い~地上保管を継続する具体案~ 8. 説明・公聴会の前提が変わってきた、フクイチのALPS処理水 9. 緊急アップ! 看過できない経産省の「説明」~ALPS処理水を「汚染水ではない」と断言して良いのか~ 10.ALPS処理水の扱い~私が海洋排水に反対する理由~ 11.ALPS処理水の海洋放出に反対~市場構造の変化も、核災害による被害~ 12.フクイチ・ALPS処理水の扱いに関する公聴会の動画と意見~意見送付締め切りは9月7日まで延長~ 春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.09.11 01:32:45
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