元SF小説家・春橋哲史のブログ(フクイチ核災害は継続中)

2022/12/27(火)21:06

「フクイチの安全衛生管理対策のガイドライン」に関するレク

福島第一原発 作業員 (7)

​※ 2022/12/27、吉良議員との写真を追加。厚労省からの追加回答が確認できたので、質疑部分を追記る​​​​。​ フクイチ過労死訴訟での判決理由の一つとなった「厚労省のガイドライン」  拙ブログでは、「フクイチ過労死訴訟」​を判決まで追いかけてきました。  フクイチ過労死訴訟の経緯や判決の振り返りは、下記記事にリンク等をまとめています。 (リンク) ●​フクイチ過労死訴訟・判決と審理の振り返り(22年10月5日付)  残念ながら、2022年5月の仙台高裁の判決で原告の訴えは棄却されました。  判決は、「厚労省のガイドライン(※)」に言及し、「除染に要する時間や、入室までの時間の短縮が具体的に求められていなかった。東電・元請けはガイドラインに従っていた」というのも、請求棄却の理由の一つでした。 ※ 東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理対策のためのガイドライン  私は、この判決を読んで、厚労省のガイドラインの妥当性や、現場で起きている事をガイドラインにフィードバックする仕組みについての疑問を持ちました。 吉良よし子参議院議員への依頼  私は「フクイチ過労死訴訟」の高裁判決の内容や、判決内容への疑問点を吉良よし子参議院議員(※※)にお伝えし、合わせて、ガイドラインを策定した厚労省に事実関係を確認したい旨をお願いしました(依頼は10月下旬)。 ※※ 1982年高知県生まれ・東京選挙区・2019年に再選・2児の母  吉良議員と事務所が対応して下さり、今年12月20日に、厚労省の担当部署から問題のガイドラインについてレクを受けることができました。  厚労省への質問は事前に送っていたので、当日の厚労省の担当者からの回答に基づいて、50分ほど質疑応答を行いました。12月20日は、吉良議員はご都合が合わず写真撮影のみで(当記事の下に写真を掲載)、厚労省担当者への質疑は秘書さんと私で行いました。 ​ 厚労省への質問と回答 ​ 以下、関連リンクと、レクの日時等の情報、質問とその回答を掲載します。  回答は、一言一句そのままではなく、質疑応答の中で判明したこともまとめて書いています。内容は変えていません。​ 無断転載・引用はご遠慮下さい。 (リンク) ●​東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理対策を強化します​(2015年8月26日/ガイドライン本文と、関連文書)●​吉良よし子参議院議員の公式サイト​ ●(参考)​2022年9月までのフクイチへの入域人数・被曝線量と、11月までの死傷者数​   レクの日時・場所・参加者​​日時:2022年12月20日・火曜・10~11時場所:吉良よし子参議院議員事務所(参議院議員会館509号室)質問側参加者:吉良議員の秘書のK氏・春橋厚労省対応者:「労働衛生課 電離放射線労働者健康対策室」から2名。       企画係長のK氏・中央放射線管理専門官のO氏​​ ====質問と回答、ここから==== 1-1.ガイドラインの内容・項目は主として「東電福島第一原発作業員の長期健康管理等に関する検討会」(全5回/2014年12月26日~2015年4月17日)の報告書(2015年5月1日付)に盛り込まれたものですか? ​→本ガイドラインは、2015年頃のフクイチ敷地内での死亡事故の増加、被曝線量の増加を受けて、所謂「中長期ロードマップ」に記載の工程を効果的・効率的に実施する為に、それまでの過去の通達を含めて策定したもの。  ​ ご指摘の「検討会」は、2011年3月の緊急作業従事者の健康管理に関するものであって、ガイドラインとは内容が異なる。 ​1-2.上記の検討会は、今後、再開・再設置されることは有り得ますか?​ ​→検討会は、事故当時の緊急作業従事者の健康管理に関するもので、再開・再設置は予定していない。 ​1​​-3.ガイドラインを作成する際、現場で実際に働いている人(協力企業従業員を含む)の意見を直接聞く場を設けましたか? ​→作業者への直接の聞き取りは行っていない。東電や、当時の主だった元請け事業者から意見を聴取している。​ ​​2.本文の第7(健康管理対策等)の2(緊急医療体制の確保)には「・・・本社等及び発電所長は、発電所における医療スタッフの安定的な確保、被災した労働者の適切な搬送体制の維持・改善のため、国の関係機関、関係医療機関、近隣の消防部局等により組織された連絡協議組織に参加すること」と記載されています。この「協議連絡組織」の名称・開催頻度・直近の議題は何ですか?​ ​​→組織の名称は「東京電力・福島第一原子力発電所 医療体制ネットワーク連絡会議」。​非公開の会議であり、開催頻度や議題の回答は差し控える。 ​3.別紙2(東電福島第一原子力発電所の廃炉作業等に従事する労働者の熱中症予防対策について)の5(応急処置)には、「・・・医師等への連絡、医務室等へ搬送、身体の冷却方法等の応急処置、病院等への搬送の手順等を作成し、救急処置が迅速に行われるよう・・・」と記載されています。「医師等への連絡、医務室等へ搬送、応急処置」等が必要なのは、全ての負傷・体調不良に当てはまるもので、熱中症に限ったことではありません。ガイドライン本文の第7(健康管理対策等)の2(緊急医療体制の確保)に「医師等への連絡、医務室等へ搬送、身体の冷却方法等の応急処置、病院等への搬送の手順等を作成」が記載されていないのは何故ですか?​ ​→第4―3-(1)に規定している「新規入場者教育の実施」の中で緊急時の連絡先・応急手当の方法等を教えることを記載している((1)のキ)。構内では防護服着用での作業が多く、熱中症の予防や対応が特に重要となる為、別紙2で、その対策をまとめた。    ​ 第7の2は、外部医療機関への搬送体制や、構内の診療室等の配置等、医療インフラの整備について記載したもの。 ​4.猪狩忠昭さん(※)のご遺族が、謝罪・損害賠償を求めて雇用元(いわきオール株式会社)・元請け(株式会社宇徳)・発注元(東京電力ホールディングス)を訴えた民事訴訟は仙台高裁の判決で確定しました(雇用元へは損害賠償の支払いが命じられ、宇徳・東電への請求は棄却/福島地裁いわき支部「平成31年(ワ)第30号」・2021年3月30日判決/仙台高裁「令和3年(ネ)第152号」・2022年5月19日判決)。厚生労働省は、この訴訟・判決は把握していますか?​​※自動車整備士。2017年10月26日の昼休憩明けに構内の車両整備工場へ社用車で移動直後、動けなくなった。構外の病院へ緊急搬送後、死亡確認。致死性不整脈。​ ​→本省では把握していない。​ ​​5-1.ガイドラインの運用・実施状況や、構内のERの体制等について、福島第一原発への立入調査は行っていますか? 又、調査を行うのはどこの部署ですか?​ ​​→福島労働局の富岡労働基準監督署で実施している。福島第一原発への監督指導実施事業場数は、令和3年において340事業場。 ​​​5-2.調査を行う場合は、抜き打ちですか? 或いは立入と調査項目を予告してのものですか? 調査項目も説明願います(「休憩室等への注意書き等の掲示状況の確認」等)​ ​→労働基準監督署が事業所に立ち入り調査を実施する際のノウハウや手法に関わることなので、回答を差し控える。立ち入り調査をしたことはある。​​立入調査を行う者の職名は、労働基準監督官及び地方産業安全専門官。 ​​6.2015年8月に制定されて以降、ガイドライン(別紙を含む)の内容の変更・修正はなされていますか?(句読点の修正・字句の平易化・提出書式の変更など、軽微なものは除く)​ ​→軽微なものを除いて、改正していない。​ ​​7.ガイドライン(別紙も含む)を改定する必要性は何を基準に判断されますか? 又、改定する際の具体的な手順は定められていますか?​ ​→「廃炉作業の進展等に伴って、東電・元請けに指導すべき新たな衛生管理対策が認められる場合」や、「関連する法令が改正された場合」に改正される。   前者の場合は、研究会等を立ち上げて盛り込むべき内容を検討し、研究会の報告を受けて改正することになると思われる。  当ガイドラインを所管しているのは「労働衛生課 電離放射線労働者健康対策室」。 ​8.厚生労働省は、発災以来の、福島第一原発の放射線業務従事者の死傷者は何人と把握していますか? →休業4日以上の死傷者数は、2022年11月末時点で53名。​内訳は、「死亡4名・傷病49名」。 ​====質問と回答、ここまで====​​ レクを受けての私見―権限・責任・根拠の分散  対応して下さった厚労省の担当者お二人は、丁寧に説明してくれましたが、一言でまとめると「心が通っていないガイドライン」でした。  働く人の安全・健康に関することなのに、実施状況の調査手法は公表されない。死亡事案を理由とした訴訟での判決理由としてガイドラインが使われたのに、それらの訴訟は「把握していない」とのこと。「これから、把握するようにする」という言葉もありませんでした。  現時点では、ガイドラインを変更するような特段の事情(法令の改正に伴って、ガイドラインの文言を修正する必要が生じた場合は別ですが)が有るとは認識しておらず、仮に、変更しようとしたら、研究会を立ち上げて報告書をまとめる等の手順を踏むとのこと。最短でも1年くらいはかかるのではないかと思われます。 「仏作って魂入れず」の典型で、「ガイドラインを作っただけ」という印象が強烈に残りました。  尤も、ガイドラインの中身や運用の検証は、それこそ、法令に則っているのでしょうから、違法ではないのでしょう。立法機関である国会が、フクイチで働く人を守ることを目的にきちんとした立法をすれば、厚労省が策定するガイドラインや省令・政令もそれに合わせざるを得なくなります。  今回は申し入れでは無く、あくまでもレクですから、厚労省の担当者個人を詰めても仕方ありません。ガイドライン制定の目的や、運用の検証がどのようになされているのか、確認するのが目的でしたから、それは達成できました。厚労省が、フクイチ過労死訴訟を把握していないことも分かりました。​  ガイドラインを策定しても、立ち入り調査の手法等が公開されないのでは、国民から、ガイドラインの運用の検証ができません。それで、ガイドラインを作ったとか、ガイドラインに基づいての対応と言われても、説得力が伴いません。  私は、過労死訴訟での仙台高裁の判決と、今回の厚労省の説明を合わせてみて、言葉は悪いのですが、行政と司法がグルになって、事業者や元請けを守ることを優先しているように思いました。  これが「原子力ムラ」の特徴なのでしょう。  決定的に悪い個人や組織は存在せず、責任・権限・根拠が分散。目の前の組織や個人は、分散しているそれらの一部に過ぎず、仮に訴訟等で勝訴したとしても、決定的な勝利にはなり得ません。  つくづく、良くできた仕組みだと思います。「敵ながら天晴」というところでしょうか。 対応して下さった皆様に感謝  厳しいことを書きましたが、厚労省の担当者のお二人に恨みは有りません。質問にも全て答えて下さいました。お忙しい中で対応して下さった事に感謝致します。  又、私の疑問を受けて、レクをセッティングして下さった吉良よし子参議院議員と、事務所の皆様に感謝致します。  吉良よし子参議院議員には、レクをお願いするのは4回目です。今年だけでも、レク2回、申し入れ1回と、3回もお世話になりました。 (リンク/過去の吉良事務所でのレク・申し入れの記録) ●​吉良事務所でのレクに至った経緯詳細~吉良よし子議員と多くの人への感謝~​(2016年5・6月のレク、目次) ●​(2018年)9月28日に、吉良よし子参議院議員の事務所で、ALPS処理水のレクチャーに同席 ​ ●(2022年1月14日)​パブリックコメント(意見公募手続き)とは?~総務省からのレク~​ ●(2022年9月7日)​フクイチの汚染水等に関する、経産省への申し入れと回答​  国会議員は「全国民の代表」です(日本国憲法・第43条)。  吉良よし子参議院議員は、まさに国民の代表として、国民の疑問・要望に応えて下さいました。  2019年7月の参院選で吉良さんに投票して下さった70万6532人の都民の皆様、そして、吉良さんと知り合う場となった金曜行動を主催して下さっていた反原連の皆様に、改めて感謝致します。金曜行動が無ければ、吉良さんと知り合うことも無かったでしょう。  吉良さんが国会議員で、本当に良かった。  最後になりますが、忠昭さんが亡くなってからの約5年間、提訴から約3年間、事実の究明と故人の尊厳の回復を求めて戦い続けてきたご遺族の皆様に、お悔やみと敬意を申し上げ、故人のご冥福をお祈りします。 「過労死訴訟」は東電・宇徳への請求が棄却という結果で、ご遺族の苦心や投じたリソースの大きさに比べれば、今回のレクは、本当に小さなもの、でしょう。  ささやかなものでしたが、フクイチ過労死訴訟の判決を「どうにか『次』に結びつけられないか」と、考えての取り組みでした。  核災害の現場で働く人の健康・安全・権利・尊厳が守られるように、国民(主権者)として、例えささやかなものであっても、今後も取り組み、監視していきます。 ↓ レクの前に吉良議員と撮影 春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​

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