私は、2022年11月~23年12月の約14ヶ月間で、原子力研究開発機構の寄付者特典の施設見学会に計5回参加し、6箇所の核関連施設を見学加しました。
その内、フクイチと楢葉遠隔技術開発センター(NARREC/ナレック)については、2022年1月に参加した分も含めて、拙ブログで記事にしています。
2022年1月のフクイチ見学記・まとめ
●1/13に参加した施設見学会・その5~振り返り~
23年1月のフクイチ見学記・まとめ
●23年1月末に施設見学会に参加―その3・フクイチ
(参考リンク)
●原研機構の寄付金募集のサイト
当記事では、フクイチ・NARREC以外の4施設について、特に印象に残った部分をまとめます。本来なら全ての施設を詳細に書くべきですが、煩雑ですし、個人的に時間も少ないので、「抜粋」的な書き方になることをご容赦下さい。
フクイチ・NARREC以外に見学した施設は、以下の通りです。
それぞれの施設がどのような目的で設置されているのか、私が詳しく書いても、原研機構の広報と変わらない文章になります。詳細はリンク先をご確認下さい。
●福島県環境創造センター研究棟・交流棟(交流棟の愛称が「コミュタン福島」)
―福島総合環境情報サイト(FaCE!S[フェイシス]/JAEA)
●原子力科学研究所(略称:原科研)
―JRR-3(Japan Research Reactor No. 3/研究用原子炉/出力2万kW)
―大強度陽子加速器施設「J-PARC」
●大洗研究所
―高温工学試験研究炉・HTTR(High Temperature Engineering Test Reactor/日本唯一の高温ガス原子炉/出力3万kW)
―高速原子炉実験炉・常陽(出力10万kW/新規制基準対応で工事中)
―水素製造試験装置(ISプロセス)
―冷却系機器開発試験施設(AtheNa/アテナ/Advanced Technology Experiment Sodium(Na) Facility)
●核燃料サイクル工学研究所(略称:核サ研)
―再処理廃止措置技術開発センター
―地層処分基盤研究施設「エントリー」
―地層処分放射化学研究施設「クオリティ」
―高レベル放射性物質研究施設(CPF)
1.福島県環境創造センター研究棟
(福島県田村郡三春町深作10‐2)
2022年11月に見学しました。
ここでは、土壌・植物・魚等の試料に含まれる放射性核種の種類や濃度の分析を行っています。採取した魚を捌く部屋もあり、魚屋さんのような作りになっていました。
時系列的な変化や含まれる核種等が分析結果としてまとめられ、福島総合環境情報サイト(FaCE!S[フェイシス])にアップされています。
私は、2019年春に、武藤類子さんや、故・人見やよいさんの案内で交流棟(コミュタン福島)は見学したことがあるのですが、研究棟は一般人は立ち入れませんでした。
3年経って、やっと、研究棟の中を見られました。
自然界から採取した殆どの試料を分析可能とのことです。特に、土壌調査に関する説明は興味深く聞きました。
土壌中の放射性セシウムの濃度や分布に関する法則性を確認しようと、様々な地域で、異なる深さから集めた土壌を分析していますが、明確な法則のようなものはみつかっていないとのこと。但し、特定の粒子に付着し易いことが分かっており、土壌中のその粒子を追うことで、土壌中のセシウムの濃度をある程度は推測できるとのことです。
有機物に付着する「懸濁体」、水分に溶け込む「溶存態」という用語での説明も有りました。
私は、説明を聞いて、放射性セシウムがどのような化学形態で土壌中に存在するのか、それによって結果は大きく異なるのではないかと思いました。
土壌調査の方法も徹底していました。
任意に選定した地面を1立方メートルで抉り取り、地表面から深さ1mまでのセシウムの分布や、面での分布度合いを調べるような取り組みも行っているとのこと。
私は、この説明を聞いて、地表面の一点を選んでせいぜい5cm程度の深さまで土壌を採取するような市民運動系の測定では「とても太刀打ちできない」と思いました(「意味がない」と言うのではなく、「太刀打ちできない」ということ)。
公的な機関で豊富な予算を使えるところは、スケールも、やれることも桁外れですね。
これまでの調査結果だと、フクイチ核災害で環境中に放出された放射セシウムの大半は、「土壌に閉じ込められている」そうです。詳しくは、「FaCE!S」を見ましょう。
但し、これらの結果は、基本的に「核技術の利活用を推進する側」によるものであることは念頭に置いておくべきでしょう。サンプル量や、分析に投入できるリソースは圧倒的に多いですが、子ども達が自然に遊ぶ公園や、学校の校庭、家庭の食卓の料理、家庭や会社で使う掃除機で吸い取られたゴミなど、生活の中の身近なものは「主要なサンプルとして扱われていない」のです。
「調べなければ見つからない」ということは忘れてはいけません。
私は「FaCE!S」の中身は重要な参考情報だと思っていますが、それだけで判断材料にはしませんし、してはならないと考えています。
日本で、この施設にしかないような分析機器も見せて貰いました。関係者には垂涎ものかも知れませんが、私は残念ながら、その価値がきちんと理解できたとは言い難いでしょう。
福島県環境創造センター研究棟には、郡山駅から機構の用意したバスで往復したのですが、施設からの復路は「三春の里 田園生活館」に立ち寄るコースでした。
施設見学だけかと思っていたので、このような「遊び」が有ると面白いですね。
(リンク)
●三春の里 田園生活館
生活館のショップでは、梅昆布茶とリンゴを買いました。
リンゴは帰宅してから丸齧りしました。自分一人しか食べないから出来ることです。
2.原子力科学研究所
(茨城県那珂郡東海村大字白方2‐4)
2023年9月に見学しました。
ここで最も印象に残っているのは、研究用原子炉「JRR-3」の原子炉建屋に入った事です。
金曜行動に参加して色々スピーチし、原子力規制委員会の会議を10年近く傍聴しているのに、私はこれまで、原子炉建屋に入ったことが無かったのです。
事前に提出していた本人確認書類との照合が必要で、入構から厳重な警戒でした。KK(東京電力・柏崎刈羽原子力発電所)で核セキュリティが問題になっていたので、原子力規制委員会での議論を思い出しながら「リアルセキュリティ体験だな」と思いつつ、金属探知機等での検査を受けました。
出入り口には「ここに来た。これであなたも核セキュリティ関係者」という標語が掲げてあったので、「本当に原子炉に来たのだな」と実感しました。
入構手続きが終ると、専用の手袋・防護衣が渡され、着用を促されました。
原子炉建屋内は負圧管理(建屋内の気圧が、外の気圧よりも低い状態。こうすることで、内部の放射性物質が外部に漏洩しないようにしている)されているので、出入り口の扉が二重になっていました。
見学会の参加者が最初の扉を入るとその扉が閉じられ、見学会の参加者は、二重扉内に一時的に閉じ込められた状態になりました。外側の扉が閉められたのが確認された上で、内側の扉が開けられ、それで漸く、原子炉建屋内に入れました。
JRR-3の原子炉は水深8mのプールの中にあり、そのプールも金属とコンクリで囲われているので、原子炉を見ることは出来ませんでしたが、原子炉建屋内のキャットウォーク(歩廊)を一周しつつ、原子炉や周辺の機器の説明を受けました。
原子炉建屋内を見た後は、実験設備等が設置してある建物で、JRR-3から発せられた放射線・中性子線がどのように活用されているのか、説明を受けました。
印象に残っている分かり易い活用例が、「エンジンオイルの動きの分析」でした。
中性子線は「機械のレントゲンのよう」に活用できるので、車のエンジンを通すと、エンジン内でオイルがどのように動いているのか分かるそうです。自動車メーカーのエンジニアがその結果を基に、燃費効率の良いエンジンの開発に繋げたこともあるとか。
私は「原子力」と言うと、医療用か発電しか思い浮かばない人間でしたが、JRR-3の説明を受けたことで、良い悪いは別として、原子力に関する知識は拡げられたと思います。
原科研では、JRR-3の他に、J-PARCも見ました。
ニュートリノに関する説明は難しかったのですが、T2K実験では、電子型ニュートリノの検出を目指しており、「宇宙の謎に挑んでいる」ことは分かりました。
岐阜県飛騨市神岡町にあるニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」に向けてニュートリノビームを放っている装置は深さ約33mの巨大な穴の中にあり、覗き込んだら落ちそうな感じでした。
原科研に、世界最高度のニュートリノビームを発射できる設備が設置されているとは知りませんでした。これは確かに「核技術」でなければできない事でしょう。
(リンク)
●施設紹介:世界最高強度のニュートリノビームを生成するJ-PARCニュートリノ実験施設
JRR-3の「機械のレントゲン」としての活用も含めて、このように技術的な利活用だけなら、原子炉の出力も小さいですし、私も一概に否定はしません。
問題は、代替手段があるのに、核技術を動力源・エネルギー源として用いることにあります。
3.大洗研究所
(茨城県東茨城郡大洗町成田町4002)
2023年10月に見学しました。
ここで最も印象に残っているのは、生まれて初めて原子炉格納容器の中に入ったことです。
原科研のJRR-3では原子炉建屋内でしたが、大洗研究所のHTTRでは原子炉格納容器内に入りました。
セキュリティが厳しく、手袋や防護具の着用を求められるのはJRR-3と同じでした。
原子炉格納容器内も負圧管理されているので、ここも二重のエアロックになっていました。三菱が開発した、潜水艦にも使われているエアロック形式の扉が使われているとのことです。
二重のエアロックを抜けると原子炉格納容器の中で(言われなければ分からないのですが)、目の前に原子炉圧力容器が有りました。複雑に曲がりくねった配管が何本も有り、「目の前の配管は○○の用途で・・・」と説明して下さいました。
格納容器内には線量計が取り付けられており、私達が入った時は原子炉が稼働していなかったこともあり、空間線量は「毎時0.01μ㏜」でした。平常値だそうです。
東日本大震災の時には、HTTRの原子炉格納容器内の線量より、建物の外の空間線量が高い値だったそうです。
この説明を聞いた時、私は「強烈なブラックユーモアだな」と思いました。原子炉が事故った時には、健全な別の原子炉の中にいた方が身を守れるということでしょうか。
このような話を聞いたのは初めてでしたので(しかも、原子炉格納容器の中で)、暫くはその他の説明を聞いても上の空でした。それだけ、自分の中で衝撃だったのでしょう。
大洗研究所内の「常陽」は、新規制基準に適合させる為に工事中でしたので、原子炉を見ることは出来ませんでした。その代わりと言っては何ですが、中央操作室(中操)を部屋の後方にある見学窓から見られました。メーターやパネルは如何にも古めかしいものでしたが、原発の中操を見たのは初めてでした。
その後、常陽の原子炉建屋の屋上に案内されました。排気塔(スタック)と原子炉の距離が異様に近いのが分かりました。「スタックの倒壊防止工事をする」という説明を聞きながら「常陽を稼働させなければ、工事の必要もないでしょう」と考えましたが、揉めるのが目的ではありませんから、質問などはせずに黙ってました。
原子炉建屋の屋上に行ったのも初めてでしたので、自分にとって「体験を積み重ねる・経験値を上げる」ことを優先しました。
「常陽」の次は、水素製造試験装置(ISプロセス)でした。
水素社会の実現に向けて、大量の水素を生産したり貯蔵したり運搬する技術開発が必要なので、その実証の一環として作られた設備だそうです。現在は、製造した水素は大気中に放出して捨てているとのこと。
これも、岸田内閣(正確には、経産省でしょうか)が進めるGX(グリーントランスフォーメーション)の一環と位置付けられるのでしょうね。
水素製造試験装置(ISプロセス)の次は、冷却系機器開発試験施設(AtheNa/アテナ)でした。
ここは2025年度完成予定で、機器の設置が終っていませんでした。説明している方は残念そうな感じでしたが、実際に機器が設置されて稼働を開始すると、施設内は高温多湿の環境になるとのことでしたので、私は、完成前に全体を回れたので、タイミングが良かったと思いました。
施設内は機器が設置されるスペースが作られて「骨組みだけ」の状態だったので、高さ30m以上ある建屋の屋上に設置されている点検用歩廊を案内されました。
遠くからは、見学者全員がぞろぞろと蟻のように歩いているように見えたでしょうね(笑)
施設内は撮影禁止でしたので写真は撮れませんでしたが、アテナの屋上は見晴らしが良かったです。東側は太平洋で、西側には近くに涸沼(ひぬま)が有りました。東側のずっと向こうには、筑波山も見えました。
大洗研究所内には夏海湖(なつみこ)と呼ばれる大きな池があり、施設の冷却水の水源として利用しているとのことです。アテナの屋上から、全景を見られました。
「夏海湖の水は何処から引いているんですか?」と訊いたところ、「地形の関係で水が自然に溜まる」とのことで、適宜、排水もしているとの回答でした。
夏海湖の周囲に原子炉施設を配置しているのは、それなりに根拠があるのだなと思いました(断っておきますが、冷却水が確保されていれば、原発を推進して良いと言うものではありません)。
大洗研究所の見学会は、多くの施設を回ったこともあり、とても濃密なものでした。
私としては、HTTRで原子炉格納容器の中に入ったこと、「常陽」を実際に見られたこと、付近で最も高い建物であるアテナの屋上から周囲を見られたこと、が特に「ヒット」でした。
4.東海再処理施設
(茨城県那珂郡東海村大字村松4-33)
当ブログでも何度も取り上げている、「フクイチを別格にすれば、日本で最もリスクの高い核施設」です。見学できる機会が来るとは思っていなかったので、言葉は悪いのですが、「楽しみ」でした。
2023年12月に見学しました。
地層処分基盤研究施設「エントリー」では、地層処分場が作られたと仮定して、その地下構内が実物大で再現され、オーバーパックされた固化体の実物大の模型も有りました。
担当者が「最終処分(地層300m以上の深さに埋設する)に向けて、可能な限り研究を進めている」ことを熱心に説明していたのが印象に残っています。
埋設した金属の腐食や変化の具合などは、リアルで確認できるのはせいぜい数十年です。そこで、数百年は埋まっていた遺物や遺跡から、金属製のもの(例えば、副葬品であった剣など)を選び、腐食や変化の度合いを確認する手法も採用しているそうです。
核のゴミの最終処分に向けた研究について説明を受けたのは初めてでしたので、賛否はともかく、興味深かったです。
地層処分放射化学研究施設「クオリティ」では、放射性物質を扱うグローブボックスの実物を初めて見られました(作業はしていませんでした)。
(リンク)
●グローブボックス
核サ研の見学で私にとっての最大の注目点は、再処理廃止措置技術開発センターです。具体的には、このセンター内の分離精製工場を見学しました。
ウラン・プルトニウムを扱っている施設ですから、出入りのセキュリティが滅茶苦茶に厳重で、本人確認を2度行い、ゲートを2回通り抜けて入りました。
新型転換炉の原型炉「ふげん」の使用済み燃料265体が保管されている燃料プールの見学から始まったのには驚かされました。
使用済み燃料を直に見たのは初めてでした。プールには、ラックに収まった核燃料が保管されており、「核燃料を水冷で保管している」現場を初めて見られました。
このプールは、奥行き32m・幅7m・深さ9mとのことでした。使用済み燃料が格納されているラックは長さ5mです。つまり、上澄みの水が4mです。水温はその場の温度とほぼ同じで、22~23℃でした。
保管されている燃料は2007年7月に受け入れたもので、冷却が16年以上続いているので、崩壊熱は十分に減衰しており、燃料1本あたり110W、「裸電球1個分くらいの発熱」だそうです。
プールは純水が循環して水面が僅かに波打っており、全体が青く輝いていました。ぱっと見た目の印象は「格好良くて、スタイリッシュ」でした。人工美の極致とでも形容できるでしょうか。
手摺から身を乗り出すと落ちそうな感覚に囚われました。「人や物の落下を見たら、直ぐに通報する事」という掲示もされていました。
ウラン・プルトニウムを含む核燃料を保管していますから、燃料プールのある区画への出入りも厳重で、24時間稼働の監視カメラが複数設置されていました。「常に見られている」という説明が有り、更に、原研機構のカメラとは別にIAEAが設置している監視カメラもあり、施設を所管している機構ですら、そのカメラに手を出すことは禁止されているとのこと。
燃料プールから燃料を出し入れする際にはIAEAの査察官も立ち会うとのことで、私は、辺りを見回して複数の監視カメラが有るのを確認しながら、核セキュリティのリアルを感じました。
他の参加者が説明を受けている間、私は室内を見回して、プールや核燃料、燃料を扱うクレーンの大きさに圧倒されました。フクイチ核災害のことを思い浮かべ、このプールから水が抜け、クレーンが落下するような破壊とは、どんな破壊だろうかと想像を巡らせました。とにかく、普段は想像もしなかった巨大な破壊力がフクイチを襲ったのでしょう。それを考えると、「一刻も早く、使用済み燃料を搬出して欲しい」とも考えました(「ふげん」の使用済み燃料はフランスのオラノ・リサイクル社に再処理を委託することが決まっているので、何れは搬出されます。再処理の結果生じたウラン・プルトニウムについては、平和利用に限るという条件で同社に譲渡されます)。
使用済み燃料プールの見学後は、使用済み燃料が再処理の際にダイヤモンドカッターで裁断される動画を鑑賞しました。「この動画はここでしか観られない」ということです。
使用済み燃料を再処理する際に裁断することは知っていましたが、それを撮影した映像を観られるとは思ってなかったので、最前列で食い入るように見つめました。
燃料1本を裁断するのに60分要するそうです。
裁断の際も、始めるときはIAEAの査察官が立ち会っていたとのこと。
核燃料棒を圧し潰すようにダイヤモンドカッターが当てられ、粉砕するように細かく切断されていく様子が、縦・横、二つのアングルで収められていました。
切断された破片や粉末は、床の穴に吸い込まれるように気流が管理されているとのことで、確かに、落下した破片や粉末は床に空いた穴に吸い込まれていました。
(リンク)
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再処理工程
「門外不出」とも言うべき映像を観て、展示されていたダイヤモンドカッターの実物も見て、言葉は悪いのですが、「得難い体験」でした。
再処理を行っていたセルも見学しました。厚さ1.5mの鉄筋コンクリートに囲まれた部屋です。
「壁の厚さは1.5mです。再処理をすると線量が高くなりますから、こうして分厚い壁・天井・床で遮蔽しています。壁の向こうの部屋は大体、毎時200mSvですから、人は入れません。今は高線量の物を置いたり、後片付けに使っています」との説明がありました。
セルの中で物を動かしたり取ったりする両腕型マニプレーターと呼ばれる遠隔治具の見本も展示されていました。「多関節の機械製の腕」と考えると分かり易いでしょうか。先端には回転可能な爪がついていて、その爪でひっかけたり、掴んだりできます。
因みに、東海再処理施設で使われているマニプレーターは海外製で、国内では製造していないそうです。故障した場合の部品の取り寄せも海外からとのことでした。
岸田政権や経産省は、原発推進で格好いいことを言っていますが、足元が疎かですね。現場で話を聞くことの意味はこういうところにもあります。
その他、取っ手付きのドラム缶とも言える「ハル缶」も、初めて実物を見ました。細かい数字を質問したのですが、歩きながらの質問でしたので、答えをメモし切れませんでした。
ハル缶だけで数百キロの重さが有り、容量は0.2立米か0.4立米と回答してくれたと思います。
東海再処理施設では、プールに沈めたままのハル缶794本の取り出しが大きな課題となっています。このハル缶を取り出して、中味を取り出して分析しなければいけないのですから、ハル缶を見ながら、途方もない作業だと思いました(水中保管のハル缶の件の質問は控えました)。
分離精製工場の見学は盛沢山で、ガラス固化体の実物大の模型も見られました。原子力規制委員会の会議を傍聴して、スペック表を見ているのとは違いますね。
分離精製工場を見学した際は、外から見るものも興味深かったです。東海再処理施設はウェットサイト(津波が敷地内に流入する事を前提として、安全対策を実施するサイト。反対に、津波を流入させないことを前提としてサイトをドライサイトと言います)として、各種の安全対策工事が実施されています。
分離精製工場の建屋の開口部が水密化されているのが見られましたし、津波の押し波・引き波の際の漂流物対策で設置されている巨大なフェンスも見ました。機構が用意したバス内から見ると、フェンスの柱は見上げるような高さでした。
建屋周辺の高台を周る道路の何ヵ所かに駐車スペースが作られ、消防車・電源車・ブルドーザーなどが駐められていました。バスの車内では、「福島第一原子力発電所事故を受けて策定された新たな安全基準に基づいて、電源車や消防車を分散配置しています。建物の周りも工事しているのが見えると思いますが、それらも安全対策工事なんですよ」という主旨の説明がありました。
(リンク)
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東海再処理施設の安全対策工事の進捗状況
私は、バスが分離精製工場の周囲を移動している際「あれが建物の水密化で、これが可搬型設備の分散設置で、あれが漂流物対策のフェンスで、この斜面は崩落防止で削り取った所かな」等と考えながら見ていました。
資料や書類では何度も読んでいる工事が、実際に目の前で行われていたので、とにかく「見逃すまい」としていました(笑)
分離精製工場で時間を要した事と、退出のセキュリティチェックに時間がかかったことで、最後に回る予定だった「高レベル放射性物質研究施設」は、ロビーでの口頭説明だけになりました。
グローブボックスで実際に作業している様子が見られそうだったので、中に入れなかったのは残念です。
とは言え、ロビーでの説明も興味深かってたです。
印象に残っているのは、固化セル内の照明の説明でした。
放射線量の高いセル内は、証明として水銀灯を使っていたのですが、環境基準が厳格化されたことで、水銀灯は製造されなくなり、既存の水銀灯の寿命が来れば使えなくなります。
それで機構は、放射線に晒されても劣化しないLED照明を開発したそうです。水銀灯と同じサイズで、水銀灯を取り外した後にそのまま入れ替えられるとのこと(既存設備との互換性)。この照明は2023年度に文部科学大臣から表彰されました。
(リンク)
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「耐放射線性直管型LED照明」の考案
私は、このLED照明の用途について「固化セル以外でも使えるのではないですか?」と質問したところ、「原発構内での線量の高い所や、宇宙空間も放射線が飛び交っているので、宇宙開発やその観測でも使えるのではないかと考えている」とのことでした。
私は「照明と放射線の関係」は全く考えていませんでした。こういう「新たな視点」も、見学する意義だと思いました。
全ての原発が廃止措置に移行したとしても、このような「作業の前提」に関する技術開発も必要ですね。
その他、バス内から、ガラス溶融炉の3号炉が試験されている建屋や、レクリエーション活動で使うグラウンド等を見ました。多くのことを吸収しようとメモを取り、話を聞くことに集中していたせいか、帰路、常磐線・東海駅から品川へ戻る最中は殆ど寝ていました(笑)。疲れていたのでしょうね。
数多くの見学会の中では、東海再処理施設の分離精製工場が最も印象に残りました。
「燃料が実際に保管されている使用済み燃料プール」「使用済み燃料が再処理の際に裁断されている記録映像」「ダイヤモンドカッターの実物大の見本」「セル」「マニプレーター」「ハル缶」「安全対策工事の様子」「耐放射線性直管型LED照明」と、まさに、現場ならではのものを見て、知ることが出来ました。
その後、私は12月20日に原子力規制委員会で東海再処理施設安全監視チーム会合を傍聴した際には、説明や議論を聞きながら、セルやマニプレーターを思い浮かべていました。「話を聞くだけ」より、「現場を見る+当事者から話を聞く」方が、よりリアルに感じられ、会議を傍聴していても感覚が違います。
施設見学会を振り返って―現場を見る・知ることの重要性-
原子炉建屋や原子炉格納容器に入り、中操や使用済み燃料プールを見学し、核燃料が裁断されている記録映像を観られるなど、施設見学ならではのものを体験し、見せて貰いました。
複数の施設見学会に参加して良かったです。往復の交通費はかかりましたが、それに見合った意味は有りました。
現場で説明して下さった機構の職員の皆様はとても丁寧で分かり易かったです。私の「原発ゼロ」の考えはこれからも変わりませんが、現場の皆さん個々人を叩くつもりは有りません。説明して下さった事、質問に答えて下さった事に感謝しています。
個人的には「もっと早くから原研機構に寄付していれば良かった」と思っています。
新型コロナが拡大する前の2019年頃までにこのような施設見学会に参加していれば、金曜行動でのスピーチも違ったものになっていたでしょうし、「現場を見る・知る」ことの重要性も、より深く認識できていたでしょう。
これで、フクイチを含む関東近隣のサイトは、可能な範囲で見学できたと思います。
オフサイト(敷地外)については、2017年春以降、いわき市・南相馬市・三春町・郡山市・福島市・伊達市を、限られた範囲ですが回っています。
(リンク)
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いわき市のごく一部を見ての感想(2017年5月)
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南相馬市・郡山市・三春町を回ってみて~経緯と所感~(2019年4月)
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いわき市の石炭・化石館「ほるる」を見学(2019年5月)
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いわき市湯本の空間線量と、参考値(2022年6月)
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福島市と伊達市を回りました・1―福島駅西口広場の空間線量(2023年4月)
オンサイト・オフサイトを問わず、現場を見て、当事者の話を聞かないと分からないことはありますし、実感を持つか持たないかで、理解の程度も変わってきます。
このような取り組みは積み重ねが大事です。私は今後も、自分のリソースの範囲内という前提ですが、会議や訴訟の傍聴を中心としつつも、「現場を見る・当事者の話を聞く」機会は可能な限り作っていきます。
久し振りに長文の記事を書きました。
最後まで読んで下さった方、有難うございました。
春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)