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カテゴリ:福島第一からの放出 環境への影響
この記事は、原子力規制委員会がまとめた「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2024年版)」の「別添2-5 モニタリングポスト等での線量率と原子炉の事象との関係」に基づいた記事です。
専門的な記述が多いのですが、要約して書きます。 より詳しく知りたい方は、元の文書を直接お読みください。 (リンク) ●東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2024年版)(別添2-5は、117~136頁) (参考リンク) ●「フクイチ事故の調査分析に関する中間取りまとめ(2024年版)案」のパブコメに意見を提出(5月21日) これまでの「通説」では、3月12日の放射性物質の大量放出は、14時過ぎから フクイチ核災害による環境中への放射性核種の放出量は、断片的な実測を基にした推測値でしか語れません。 私は、日本政府が国際社会に提出した報告書(下記リンク参照)に基づいて、大気中への放出量は推定・20京ベクレル弱との説に立ち、拙ブログでもその数字を採用してきました。 (リンク) ●原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書-東京電力福島原子力発電所の事故について-(2011年6月・原子力災害対策本部/放出量の記載は、添付資料全体版のPDF76頁) 日付別の放出量については、東電の試算が「一応、最も確からしい推測」として通用しています。 (リンク) ●福島第一原子力発電所事故における放射性物質の大気中への放出量の推定について(2012年5月/東京電力) 上記の東電の推測では、2011年3月12日の放射性核種の放出量は、以下のように記載されています(11頁、表10「事象ごとの放出量」/単位はベクレル) 14時過ぎのベント /希ガス4000兆㏃+ヨウ素131・700兆㏃+セシウム134・10兆㏃+セシウム137・10兆㏃ 15:36の1号原子炉建屋の水素爆発 /希ガス1京㏃+ヨウ素131・3000兆㏃+セシウム134・50兆㏃+セシウム137・40兆㏃ つまり、東電の試算だと、放射性物質の大量放出は「3月12日の14時過ぎから」なのです。 そして、これまでは、この試算が公的には「正しいもの(最も確からしいもの)」とされてきました 3月12日の放出量の内訳に疑問を投げかけた規制委の報告書・2024年版 上の小見出しで書いた東電の推定値に、初めて公的機関が別の見解をぶつけてきました。 それが、原子力規制委員会がまとめた「事故調査分析報告書・2024年版」の「添付2-5」です。 尚、東電を弁護するのではありませんが、東電は自らの試算が「絶対に正しい」とは言っていません。但し、自ら積極的に再計算しようとしてこなかったのも事実です。 私は、規制委員会の事故分析検討会を傍聴し続け、2024年版報告書がまとめられるプロセスも見て、本文も読みました。 2024年版報告書・添付2-5で提起されたことは、端折って書くと、大きく3つです。 1―1.3月12日のプルーム(放射性雲)の放出は午前中から始まっていた可能性が高い。 1―2.そのプルームは全方位に流れた可能性が高い(測定機器が未設置の海側[東側]は不明)。 2.1号機ベントによって生じたプルームは、フクイチの北及び北西方向に流れた可能性が高い。 3.3月12日の放射性物質の放出総量は、東電による推測値と変わらないと考えられるが、「1号建屋の水素爆発による放出量」と「それ以前の時間帯の放出量」の比は、見直しが必要(水素爆発時の放出量は、現在の推定値より少なかった可能性が高い)。 2024年版報告では、「これから、本格的な検証を始めますよ」という宣告のようなものにとどまっており、具体的な数値は算出されていません。現在は規制庁の担当チームが各種のデータを整理・精査している最中ではないかと思われます。恐らく、2025年版報告がまとめられるなら、その中に盛り込まれるのではないではしょうか。 以下、2024年版報告書・添付2-5の「簡単なまとめ」です。 検証のプロセスやデータや計測器の扱いに関する部分は省き、できるだけ、結論部分をまとめました。 (私は化学や放射線計測等の専門の知識も資格も持っていないので、これらの検証や示唆を独自に検証できません。詳細は本記事トップのリンクから報告書PDFをダウンロードし、本文をお読み下さい)。 地図や図面はキャプチャしたものに適宜加工しました。無断転載・引用はご遠慮下さい。 当記事の本文は、「まとめ」の後も続きます。下にスクロールして下さい。 ====簡単なまとめ、ここから==== ●3月12日に、放射性核種を含むプルームを放出したのは1号機だけと考えられるので、「モニタリングポスト等での測定結果」と「1号原子炉での事象進展」は一定の関係性があると考えられる。 12日午後には「ベント操作に伴う1・2号機共用排気筒からの放出」と「1号建屋の水素爆発」という大きな事象があった。これら2つの事象とモニタリングポスト(以下「MP」)での線量率の関連性を検討した。 検討には、以下のデータを用いた。 (1) 東京電力ホールディングス株式会社(以下「東電」)からアーカイブデータとして公開されているモニタリングカーで測定されたフクイチ敷地内の周辺線量当量率 (2) 福島県のMP(下図)については、基本的に20秒間隔の空気吸収線量率 ![]() ●3月12日午前のMPで計測された線量率の挙動 2011年3月12日午前のフクイチの「北西から北側」の線量率が図3、「南から西側」の線量率が図4。比較の為に、正門付近の線量率も両図に含めた。 ![]() 「図3・北西から北側」では、双葉町郡山MPで、4時33分から空気吸収線量率の上昇が始まっている。フクイチから3km離れていることから、1号機からの放出は正門付近での上昇が始まった4時にほぼ近いと思われる。 双葉町郡山MPから少し遅れて双葉町新山MPで、双葉町新山MPの上昇から1時間後に、浪江町浪江MPと浪江町幾世橋MPで上昇している。8時過ぎには、早朝の4時過ぎより1桁ほど高い上昇が起きている。これは、8時過ぎから1号原子炉からのプルームの放出量が増加した可能性を示すものと考えられる。 ![]() 「図4・南から西側」では、正門付近及びMP-8で4時頃から、オペレーションフロアに充満した放射性核種による散乱線・スカイシャイン線が起因と考えられる線量率上昇が生じている。この時点ではプルームの放出らしきMP上での変動は確認されていない。その後、大熊町夫沢MPで、5時過ぎからプルームの飛来に伴う上昇があり、10時過ぎには、更に濃度の高いプルームの飛来が観測されている。 双葉町山田MPでは、9時頃からプルームの飛来による上昇が始まり、9時半頃に、福島県のMPの内、12日午前中では最も高い100μGy/hが観測されている。正門付近と双葉町山田MPは1号機からほぼ同方向である。双葉町山田MPでの9時半の上昇、正門付近での10時半の上昇は他のMPでは見られず、9時半の時間帯ではプルームの移動方向が限定的であったと考えられる。 ●3月12日午前のまとめ 1.原子炉建屋(OP10~54.75m。春橋注:「OP」はフクイチの海抜) から放射性核種を含むプルームが漏洩したと推測される。プルームの観測結果は、測定情報が無い「東側(海側)」を除くと、9~12時に北から南まで幅広く変化している。 2. 4時半過ぎから希ガスを含むプルームの飛来による上昇が観測されている。 3. 9時過ぎから、希ガス以外の核種を含めたプルームが飛来している。 ●3月12日午後にMPで計測された線量率の挙動 2011年3月12日午後のフクイチの「北西から北側」の線量率を図8に、「南から西側」の線量率を図9に示す。比較の為に、午前と同じ様に正門付近も両方の図に含めている。 ![]() 「図8・北西から北側」では、午前中に線量率が高いプルームの飛来による上昇が多く観測されている。 双葉町新山MP (フクイチ1号機から4.1 km)、双葉町上羽鳥MP (同6.0 km)、浪江町浪江MP (同8.7 km) では、敷地内(「正門付近」「MP-4付近」「MP-8付近」)より高い線量率が観測されている。 これらのMPでは、プルーム通過後に周辺に沈着した放射性核種による空気吸収線量率の増加と減衰が見られるが、双葉町上羽鳥MPの減衰は他より少し早く、減衰している沈着核種に相違がある可能性がある。 MP-4付近でも、水素爆発起因のプルーム飛来に伴う上昇前に周辺への沈着によると考えられる状況が見られ、プルーム通過後の減衰傾向は双葉町上羽鳥MPに近い。又、浪江町幾世橋MPでは、16時頃から幅の広いピークがあるが、プルーム通過後は通過前のレベルにほぼ戻っており、放射性核種の沈着が比較的少なかった可能性がある。 ![]() 一方、「図9・南から西側」では、双葉町山田MPで13時からプルームの飛来による上昇が見られるが、「北西から北側」に比べると線量率は2~4桁低い。1号機のベント及び水素爆発によるプルームは「南から西側」では殆ど観測されていない。 ●「水素爆発に伴うプルーム」と「ベントに伴うプルーム」についての検討 ▸水素爆発に伴うプルーム 水素爆発に伴うプルームの特徴を示している測定箇所として、「6号機SGTSモニター」「MP-4付近」「双葉町郡山MP」「浪江町幾世橋MP」がある。図10が、4箇所の15~18時の測定結果。 ![]() 6号機SGTSモニターは、1号建屋の水素爆発直後(15時37分12秒)に線量率が急上昇した後、短時間で急激に減少しており、水素爆発に伴うプルームの特徴を示している。 双葉町郡山MPの15時42分頃のピークも、水素爆発に伴うプルームの特徴を示している。 MP-4付近のピークは水素爆発の時刻より前だが、東電の報告書では測定者の腕時計が遅れていた為と説明されており、MP-4での当該ピークは水素爆発起因と見做す。 浪江町幾世橋MPの16時半過ぎのピークも水素爆発起因と考えられ、そのピークの幅が広いのは、1号機からの距離が8.5kmと長い為に、プルームが浪江町幾世橋MPに向かって流れ方向に広がったと考えると合理性が高い。 水素爆発に伴うプルームは主に北方向に進んだと考えられる。 1号機のオペレーションフロアに充満していた放射性核種が水素爆発に伴い大部分が放出したとすると、これらの放射性核種による正門付近等の散乱線・スカイシャイン線による線量率が大幅に減少する筈であるが、殆ど変化していない。オペレーションフロアに充満した放射性核種は、かなりの期間、高温・多湿状態で滞留していたことにより、オペレーションフロアの内壁に付着した可能性がある。この点については、1号建屋の崩落屋根下部の床面の汚染状況の調査を進めたい。 ●1号機のベント操作とベントによるプルーム 1号機のベント操作は、東電の事故報告書で、以下の様に報告されている。 ・格納容器ベントの為には、電動弁と空気作動弁を開ける必要がある。 ・電動弁は弁本体に付属しているハンドルで、9時15分に手順通り25 %開状態にされた。 ・空気作動弁は、現場の線量率が高くて現場で操作出来なかったので、空気作動弁の小弁の空気の残圧に期待し、10時17分・23分・24分の3回、中央制御室で開操作(電磁弁の励磁)を実施した。実施後の弁の状態は確認されていない。 ・その後、エアコンプレッサ(エンジン付)とアダプタ、バッテリー等を収集・準備して、空気操作大弁を操作し、14時過ぎからサプレッション・チェンバー(原子炉下部の圧力抑制室)の圧力が低下し始めたことで弁開を確認した。 ベントに伴うプルームは、以下の様な特徴を持っている。 1. 放出位置(1・2号共用排気筒の頂部)が明確。 2. 排気筒頂部からの放出期間は、サプレッション・チェンバー気相部の圧力の変化(3月12日14時頃~15時12分頃)及び15時25分の弁閉と対応していると考えられる。サプレッション・チェンバー気相部から排気筒頂部までの移動に要する時間が加わるので、実際の放出時刻は水素爆発ほど明確ではない。 3. ベント操作に伴い排気筒から放出されたプルーム中の核種組成・化学形態を推定することは困難。 今後、フクイチに近い場所を対象とする拡散計算による検証が必要だが、双葉町山田MPと浪江町幾世橋MPで1号機のベント等に対応した空気吸収線量率の上昇が観測されていないことから、ベント等に伴うプルームの影響があった領域は、1号機から見て双葉町山田MPと浪江町幾世橋MPの間の領域と考えられる(図18)。 ![]() ●12日午後のまとめ 1.MPの測定結果から判断すると 1号機のベントに伴う放射性核種の放出量が水素爆発時と比べ多かった可能性が高い。 2.12日午後の「放出量推定総量」は変わらないとしても、「水素爆発に伴う放出量」と「ベント等に伴う放出量」との割合は再検討が必要である。 3.15時36分の水素爆発以降もフクイチの北側の双葉町郡山MPや浪江町幾世橋MPではプルームの飛来が繰り返し測定されている。これらのプルームと、1号機での事象との関連性について検討が必要である。 ●3月12日のMP等の測定結果と1号機の事象の関係を検討した結果のまとめ 1.午前中は、空気線量率は異なるが、測定箇所が無い東側を除くフクイチの北から南の場所で、異なった時刻にプルームの飛来が観測されている →今後、フクイチに近い場所に焦点をあてた拡散計算を行ない、原子炉建屋の放出場所の推定等の検討が必要。 2.8時以前のプルームには、希ガス以外の放射性核種は殆ど含まれていなかったが、8時以降には放射性ヨウ素等が含まれるようになった →原子炉でのどのような事象と対応しているのか、検討が必要。 3.午後には「ベント操作に伴う排気筒頂部からの放出」と「水素爆発に伴う放出」という大きな出来事があった。それに伴うプルームは北西から北の方向でしか測定されていない。 4.「ベントに伴うプルーム」と「水素爆発に伴うプルーム」で放出された放射能量は、前者の方が多い可能性が生じた。 →ベントに伴う放出については、今後、フクイチに近い箇所に焦点をあてた拡散計算で測定値が再現できるか検討し、排気筒頂部から放出されたプルームの拡散状況を調べる必要がある。 5.水素爆発前後で、オペレーションフロアに充満した放射性核種による散乱線・スカイシャイン線による線量率に大きな変化が無かった。 →この原因の検証の為、今後はオペレーションフロアの床面のCs-137の汚染状況の調査などを進める。 ====簡単なまとめ、ここまで====
このプルームの含有核種や、プルームがどの地域にまで広がったのか、今のところ確たるデータは有りませんが、12日の午前中は1号建屋の水素爆発前です。
今後、原子力規制庁・規制委員会がどのような分析結果をまとめるのか分かりませんが、分析結果に要注目です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.10.18 18:24:28
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