フクイチのHIC(ヒック)保管容量と保管基数~2024年3月末~
フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)のALPS(多核種除去設備)で生じている二次廃棄物に関する数字です。 ALPSで生じている二次廃棄物(詳細は後述)を詰めているHIC(ヒック)の保管容量は4384基で、保管数は4331基、保管容量の空き容量は53基分です。HIC(ヒック)の保管容量「HICと、その保管容量」については解説が必要でしょう。 既に把握なさっている方は、次の小見出しまで読み飛ばして下さい。 ALPS(多核種除去設備)は、放射性液体廃棄物中の放射性核種を除去するもので、消滅させるものではありません。 除去された放射性核種は、吸着剤やスラリー(泥状の廃液)に移行します。使用済み吸着材やスラリーを「水処理二次廃棄物」と呼びます。二次廃棄物は放射性核種が高濃度に圧縮された高線量廃棄物です。剥き出しでは周囲の放射線量が上昇し、働く人にとって危険なので、放射線の遮蔽効果を有するポリエチレン製の高性能容器に収納されています。この容器の名称がHIC(ヒック)です。 HICはボックスカルバートと呼ばれるコンクリート製のボックスに保管され、そのボックスカルバートはフクイチ構内の「使用済みセシウム吸着塔一時保管施設」に保管されています。 東京電力が、2022年8月19日に原子力規制庁に提出した資料によると、「(HICの)保管容量がひっ迫し、水処理設備運転に支障をきたす」可能性が有るそうです。(リンク)●HIC保管容量ひっ迫状況と対応について(PDFの16~23頁) HICの保管場所が尽きれば、水処理二次廃棄物を持っていく先が無くなりますから、「ALPSで廃棄物を発生させられない」=「ALPSが運転できない」=「汚染水処理(放射性核種の濃度低減)ができなく」なります。 「HICの保管容量のタイムリミット」をポンチ絵にしたのが「資料1」です。右側の、赤い×印にご注目下さい。 ALPSの構成とHICの現状・対策については、「ALPS資料1・2」として、当記事の下部に掲載しています。◆資料1 HICの保管容量の説明 HIC(水処理二次廃棄物)は、ALPSを稼働させ続ける限り発生します。 建屋の汚染水をゼロにして、高濃度汚染水を汲み上げなくなったとしても、保管中の「処理途上水」の処理も必要ですし、構内には汚染水が溜まったままのトレンチやピットもあります。それらの滞留水の汲み上げ・濃度低減処理も必要です。更には、HICで保管されているスラリーの脱水・安定化処理の過程でも汚染水が発生します。この汚染水も、またALPSを通さなければいけません。 現実的には、フクイチが存在する限り、「ALPSは稼働し続ける=水処理二次廃棄物が発生し続ける」でしょう。保管容量が尽きるまでの「タイムリミット」 資料2-1として、HIC保管容量の「タイムリミット」に関するシミュレーションを(計算の前提条件は資料中に記載)、2―2として、保管量と保管容量の推移を示します。◆資料2-1 HICの保管容量「残り期間」◆資料2-2 HICの保管量と保管容量の推移●リンク福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第644報)「タイムリミット」と書きましたが、HICの保管容量については、当面は逼迫のリスクは小さいです。 HICの保管容量は「192+192+576基分の増設」が計画されています(4384→5344基容量)。(リンク)●HIC保管容量の見通しについて(2023年10月5日資料/HICの保管容量については、16頁) とは言え、HICの保管容量を確保するだけでは、「時間稼ぎ」に過ぎません。HIC内のスラリーは高濃度放射性液体廃棄物で、いつまでも「HICでの保管」を続けられません。 スラリーのリスク低減には、脱水・安定化処理設備が必要 スラリーを保管しているHICの耐用年数は、放射線脆化の影響で約20年とされています。脆化が進むと、衝撃等でHICが破損し、内部のスラリーが漏洩する可能性が高まります。 スラリーの漏洩リスクを低減させ、HICの保管基数を減らすには「HIC内のスラリーを抜き取り→抜き取ったスラリーを脱水・圧縮→空の使用済みHICを洗浄(再利用できない場合は固体廃棄物扱い)→洗浄したHICの再利用」のプロセスが確立されなければなりません。 東電は「スラリーの抜き取り」「スラリーの脱水・圧縮」「使用済みHICの洗浄」を行うプラント(スラリー安定化処理設備)を設計中です(処理設備の稼働開始目標は2021年度でしたが、現在では26年度末とされています)。詳細は、資料3として掲載しました。 スラリーの抜き取り・安定化と、HICの保管容量については、2019年8月に当ブログで取り上げて以後、フォローが中断していました(スラリーの抜き取り・脱水・圧縮については、下記リンク記事を参照)。22年9月以降は、当ブログで月末ごとにチェックしています。(リンク)●フクイチの水処理に迫る、もう一つの「時間切れ」 東電は、スラリー安定化処理設備を、フランジタンクを撤去して空きエリアとなっている「旧Cタンクエリア」に設置する方針です。 スラリーの抜き取り・安定化に関しては、▸「HIC内のスラリーを水流で攪拌しながら抜き出し(攪拌することで、HIC底部への粘度の高い固形分の残留を防止)」▸「抜き取ったスラリーを含水率60%程度まで脱水(フィルタープレス方式を採用)」▸「『パンケーキ』状の脱水スラリーを、高放射線量に耐えられる専用容器で保管」▸「脱水で発生した廃液や、空HICを洗浄した廃液はALPSで処理」▸「空HICで使用可能なものは再利用」▸「抜き取り・フィルタープレス機の系統は3系統を用意」 というようなことが検討されています。 技術的に特に注意すべき点としては、「スラリーが高線量(※)である為、機器メンテナンス時を除いて無人での作業」「スラリーをHICから抜き取ったり脱水する過程での放射性ダストの舞い上がり防止(ダストが飛散すると、現場の雰囲気線量が上昇する)」「スラリー抜き取りから専用容器封入までの系統からの漏洩防止」 でしょうか。※スラリーに含まれる核種はストロンチウム90(半減期29年)が支配的です。HICによって放射能量は異なりますが、ストロンチウム90が1立方センチメートル当たり数万~数百万㏃であることが確認されています。1立方メートルに換算すると、数百億~兆㏃です(詳細は、下記リンクの「ALPSスラリー固化処理技術選定にあたっての考慮事項について」3~5頁を参照)(リンク)●ALPSスラリー固化処理技術選定にあたっての考慮事項について(2023年6月5日/原子力損害賠償・廃炉等支援機構)●スラリー安定化処理設備に関する確認事項(2021年7月12日/原子力規制庁)●スラリー安定化処理に向けた設計について(7月12日)●スラリー安定化処理設備に関する審査上の論点(22年9月12日)●スラリー安定化処理設備に関する審査上の論点(規制庁提示)を踏まえた当社回答(22年10月26日)●ALPSスラリー安定化処理設備設置の検討状況について(23年10月5日)●ALPS スラリー脱水に関連する論点への原子力規制庁の見解(同)「脱水スラリー」の更なる固化処理 更に話を進めると、「パンケーキ状」になると思われる脱水スラリーの最終処分の見通しは全く立っていません。完全に乾燥して粉体(粉)になると、保管容器の蓋を開けただけでダストが飛散するでしょうから、何十年単位でそのままにはしておけないでしょう。 東電は、NDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)と共に、「脱水スラリー」を「固化」させる方法と時期について検討しています。 この件に関しては、原子力規制委員会の「第15回 イチエフ技術会合」(2023年12月4日)で議論されています。(リンク)●第15回特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合 ―資料2・水処理二次廃棄物の固化処理に関する検討方針について ―資料3・ALPSスラリー固化処理技術選定にあたっての考慮事項について(改訂版) 2023年12月の上記会議では、「2025年度中に固化方法を選定し、設備設置までのロードマップを提示する」「脱水スラリーの固化開始は2035年前後の可能性」という大雑把なスケジュール感が示されたのみです。 スラリーの発生総量も分からず、不確定要素が多い中で、「今後の扱い」を検討しなければならないのです。「先送り」で逃げることはできません。何れは具体化して、その為の設備も用意しなければなりません。 目の前の課題の大きさ・多さに気が遠くなるようですが、核災害は発生してしまったのです。今後、放射性液体廃棄物が発生し続ける限り、日本全体で向き合っていかなければなりません。 残念ながら、フクイチ核災害発生時に未成年であったり、生まれていなかった世代に引き継がなければならないでしょう。 以下、私の作ったまとめや出典へのリンクです。 ポンチ絵はクリックすると拡大します。 当ブログのグラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。無断転載・引用はご遠慮下さい。 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。資料3:HICの保管管理の課題と、ALPSスラリーの保管状態(東電・原子力規制委員会の資料を基に作成)資料4 フクイチ敷地全体図◆ALPS資料1:構成概念図(既設・増設・高性能)◆ALPS資料2:除去可能な62核種と告示濃度(出典/リンク)●高性能容器(HIC)の放射線劣化に関する追加調査等の実施について(21年3月17日)●高性能容器(HIC)に保管されている ALPS スラリーに関する論点(原子力規制庁/6月7日)●積算吸収線量5,000kGyまでの到達時間が短いHICの扱い(6月7日)●HIC保管容量の増設と、低線量HICの再利用(23年3月20日資料/PDFの10・11頁)●福島第一原子力発電所における循環注水冷却・滞留水等に係る定例会 令和6年3月15日資料(PDF36頁以降に、HIC内スラリーの移し替えの進捗について、2024年3月14日の基数が記載)春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)