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元SF小説家・春橋哲史のブログ(フクイチ事故は継続中)

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福島第一原発 汚染水

2020.12.03
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​ フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の汚染水の数字です。

 タンク内貯留水の11月の増加量が確定(約4500t)したので、貯留容量上限・137.2万t容量に達すると思われる時期を計算し直しました。

過去1年間の増加量(2019年11月末~20年11月末/118万2015t→124万3486t
 :約6万1471t(5100t/月)

11月26日時点の理論上のタンク空き容量:約12万9000t容量


 今後のタンク貯留水の増加量を「5000t/月」「6000t/月」で想定

①13万1000t容量÷5000t/月≒​26ヶ月(23年1月末)​

②13万1000t容量÷6000t/月≒​22ヶ月(22年9月末)

 この計算は、12月末の数字が確定した時点で、やり直します。


溶接タンクの増設は可能

 現時点では、タンク容量は137.2万t容量が「限界」とされていますが、それはあくまでも「現行の計画では」という条件です。
 別記事に書いたように(※ 下記リンク参照)、フランジタンクを解体済・解体予定のタンクエリアに空きが有りますから、現行計画以上にタンク容量を増やすことは可能です。

(※ リンク):​フクイチでのタンク増設の余地を探る ​(10月18日記事)

 タンク貯留水の増加量の抑制傾向がこれからも続くかどうか断言できませんが、物理的な限界は「22年夏頃」ではなく、1年以上、先にできるかもしれません。
 少なくとも、その可能性は見えています。
 現時点では東電・経産省に対して、「溶接タンクの増設」を求めることに、各種のリソースを集中すべき局面でしょう。

 言葉は悪いのですが、今はタンク容量の増設で「時間を稼ぐ」ことです。「モルタル固化への評価」「トリチウムの安全性」「含有核種の種類・量」といった議論は、その後で腰を据えてすれば良いでしょう


悪いニュース~再利用タンクの一部は、当面、利用不可~

 次に、悪いニュースです。

 現行の「タンク容量137.2万t容量」とは、過去に濃度の高い汚染水を入れていた溶接タンクを再利用することを前提としています。
 東電公表の情報によると、再利用予定タンク・9万7400t容量の内、5万2900t容量は、水抜き後の内部の線量の関係で、効果的な除染・被曝対策を検討する必要が有り、現状では「内部の除染→再利用」の目途が立っていないとのことです。

(リンク/詳細資料)​タンク建設進捗状況​(PDFの8~14頁)
 
 つまり、今年末に137.2万t容量のタンクが物理的に用意できたとしても、その内、約5.3万t容量は、当面は使えないのです。
 被曝線量を度外視して、内部を除染するのは論外です。来年度に向けて、東電がどのような方法を考案するのか、要注目でしょう。

 再利用する溶接タンクの内訳は、下記(上記リンクの資料。PDFの10/14より)。

●貯留タンクの再利用(ストロンチウム処理水用[ALPS処理待ち水用]→ALPS処理水用)
総容量:9万7400t容量(93基)
 内、再利用済み:2万6000t容量(25基)
 内、内部除染方法決定済み(21年度上期に再利用見込み):1万8500t容量(17基)
 内、内部除染方法検討中(再利用開始時期未定):5万2900t容量(51基)

 前置きが長くなりました。

 以下、11月末の汚染水の数字を、関連資料と共に紹介します。
 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。​​​
 グラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。
 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。

フクイチ敷地全体図
(タンクエリアは右側[南側]の青色部分)



福島第一原発の汚染水の貯留量・滞留量​​​​​​​(2020年11月26日)

​​
(リンク)​元データ→ ​​​​​​​​​​​福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第479報)​​​​​​​​​​​​​​​​/PDFファイル3頁右上、「RO処理水(淡水)」「処理水」「サンプル水」「処理水(再利用分)」「Sr処理水等」「濃縮塩水」の貯蔵量・貯蔵容量から計算。

タンク内貯留総量:約124万3千t​​​​​​(移送中の水・タンク底部の水は、計測不可の為、含めず/RO濃縮水は過去の処理量に基づく計算値)

​​タンク運用上限値:約136万5千t容量​​撤去・解体予定のフランジ[ボルト締め]タンクは、当ブログでは運用数値に含めず)​
​​​​
建屋滞留水:​​​約1万3千t​​(主として1~3号原子炉建屋+プロセス建屋+高温焼却炉建屋/水位計の計測等に基づく計算値)




グラフ


(リンク)数字・注記の出典

●​エリア別タンク一覧(11月19日)

●​​​​​タンク建設進捗状況​(11月26日公表)

●​​建屋周辺の地下水位、汚染水発生の状況​(11月26日公表)

●​処理水ポータルサイト

●​​タンク貯留水のトリチウムの推定インベントリ​(20年7月/PDF3頁)

●​​​多核種除去設備等処理⽔の⼆次処理性能確認試験の状況(11月26日公表)

●​​​建屋滞留水の処理状況​(20年10月29日)

●​5・6号機滞留水​(20年9月下旬)

●​5・6号滞留水の浄化散水

●​2018年度の「5・6号滞留水」「タンク外周堰内雨水」の散水量と放射能量​(平成30年度放射線業務従事者線量等報告書/PDFの13頁)

●​​​​ALPS処理水貯留タンク内のスラッジ堆積に関する追加調査状況​(20年3月27日)

●​HIC内スラリーの2018年5月の推定インベントリと、HICの保管場所​(2頁)

​​​​廃棄物処理建屋最地下階のゼオライト・活性炭の土嚢に関して​(20年3月27日/2~6頁)

●​ALPSで除去する62核種の選定理由・過程と、元素記号

●​告示濃度​(核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示/2015年8月31日・原子力規制委員会/PDFの29頁から始まる「別表第一」。水中の濃度は第六欄、気中の濃度は第五欄。水の1Lは1000立方センチなので、第六欄の数字を1000倍すれば1L当たりの濃度になる)。


タンク外周堰



ALPS補足資料1:除去可能な62核種と告示濃度



ALPS補足資料2:構成概念図





参考資料1 汚染水対策・3つの基本方針と具体策





参考資料2



参考資料3



参考資料4 汚染水対策の目標と最悪シナリオ
(右の状態を避けなければならない)



春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​​​​​​​​​






Last updated  2020.12.03 17:57:12
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2020.11.02
 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の概要と、タンク貯留水以外のリスクに関するまとめです。


3号SFPからの燃料取り出しは再開

 今回は、朗報が大きく二つ有ります。

 1つは、3号SFP(使用済み燃料プール)から共用プールへの燃料移送です。
 10月8日に再開されました。

 10月31日時点で56回目の燃料移送を終えています(下記、資料2を参照)。

 建屋内に有る燃料ですから、変化は目に見えませんが、破損した建屋の上階部分に置きっ放しにはしておけません。
 移送が再開できたのは良いことです。7割近くを移送しており、今後も、着実に進めて欲しいものです。

(リリース)
●​福島第一原子力発電所 3号機燃料取扱機 マストのケーブル損傷について(9月3日)

​​​●​3号機燃料取扱機マストの復旧について(10月7日)


建屋滞留水の除去とポンプ設置~地下水流入箇所は依然として不明~

 朗報の二つ目は、10月8日に、目標とする建屋全ての最下階床に、ポンプの設置が完了したことです。
 これで、1~4号タービン建屋・同廃棄物処理建屋・4号原子炉建屋の滞留水を除去し、最下階の床面露出状態が維持できるようになりました(下記、資料1を参照)。

(リンク):​建屋滞留水処理等の進捗状況について


資料1 建屋ドライアップの達成時期


 但し、良いことばかりではありません。
 現時点で、滞留水を除去できた建屋で、地下水が流入している箇所は確認できていません(※1)。
 今後、東電は、建屋毎に滞留水の増加量・増加ペースを調べて、増加量の多い建屋を絞り込み、建屋毎に調べていくとのことです(※2)。

※1 第81回 特定原子力施設監視・評価検討会での説明より(原子力規制委員会/20年6月15日)
リンク:​議事録5859

※2 第84回 同検討会での説明より(201019日/議事録は作成中で未公表)

 必要な手順なのは分かりますが、高線量下での作業でしょうから、くれぐれも無理しないで欲しいです。流入箇所が特定できなくても、止むを得ないと思います。

 ここから先は私の推測ですが、タービン建屋や廃棄物処理建屋で、地下水の流入箇所が見付かっていないという事は、流入源はデブリ(溶融核燃料)が落下している1~3号原子炉建屋の壁・床なのではないでしょうか? だとすると、流入源を突き止めることはおろか、流入抑制も、高線量に阻まれる可能性が高いと思います。

 解決困難な新たな課題が浮上したと思われますが、「1~3号のタービン建屋・同廃棄物処理建屋・4号タービン建屋で、地下水の流入が確認出来なかった」ことが分かっただけでも進歩でしょう。現状を把握することが、リスク低減・除去の大前提です。
 現状の把握すら、高線量で困難を極め、数年単位を要していますが、被曝線量の低減・安全第一で、ゆっくりでも着実に進めていくしか有りません。

 フクイチのリスク低減・除去は、現場の被曝労働によって進められています。決して、東電の本店や、安全なオフィスビルで会議をしている原子力規制委員会等の役所が偉いのではありません。
 改めて、コロナ対策も打ちつつ働いて下さっている現場の皆様に、国民の一人として感謝いたします。
 以下、最新の情報を反映して、ポンチ絵を更新しました。
 個別対策の詳細や、汚染水対策全般に関しては、記事下部のリンクをクリックしてPDFファイル等をご覧下さい。但し、全てを網羅するのは困難であることをお断りしておきます。

 資料3の構内全体図には、「増設焼却炉」と「大型廃棄物保管庫」の場所を追記しました。
 資料4-1と4-2はセットでご覧下さい。
 当ブログのポンチ絵はクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。​​​
 表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。
​​​​ 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。


福島第一原発・20年10月末の状況(概要)

資料2 



資料3 構内全体図



資料4-1 リスク対応状況・イラスト版


資料4-2 リスク対応状況・概略版



参考:廃炉汚染水対策の実施体制



(リンク)出典・詳細

●​中長期ロードマップ​(2019年12月改訂)

●​​フクイチのモニタリングポストの計測値​(20年10月31日)

●​福島第一原子力発電所 中期的リスクの低減目標マップ(2020年3月版)を踏まえた検討指示事項に対する工程表
(10月19日)

●​​​2号機使用済燃料プール内調査結果について​(7月2日)

●​​​​使用済み燃料等の保管状況(10月29日)

●​AREVAスラッジ

●​ALPSスラリーの安定化

​●​​​​プロセス建屋・高温焼却炉建屋地下階の土嚢について​(3月27日/PDF2~6頁)


春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)






Last updated  2020.11.03 16:49:24
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2020.10.19
​​ フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の汚染水の扱いに関する考察の「後編」(笑)です。
「前編」に相当する拙記事は下記。

(リンク)
●​フクイチでのタンク増設の余地を探る​(20年10月18日)

 最近、多くの報道機関が「政府は10月下旬にも、福島第一原発のALPS処理水について、海洋排水の方針を決定する見込み」である旨を報じています。
 これらの報道は、情報源が「関係者」とされていて、正式発表ではないので、私は、世論の反応を見る「アドバルーン」の可能性も有ると見ています。


3つの選択肢

 とは言え、フクイチのタンク容量が、現行のタンク計画では物理的限界に近付いているのは間違いありませんから、「環境中への放出」か「貯留継続」かはともかく、準備に要する期間を考慮すると、何らかの決定を下すギリギリの時期に差し掛かっているのは間違いないでしょう。

 そこで、タンク容量と実施時期を軸に、現時点で政府・東電が取り得るであろう選択肢を考察してみます。
 尚、現在のタンクエリアで、溶接タンクが数万t単位の容量で増設可能であることは、上記にリンクを貼った拙記事で書いています。


1.22年度上期から希釈排水(タンク増設せず)
:タンクは現行の計画(20年末時点で約137.2万t容量)を上限とし、希釈排水を22年度上期に開始。

2.決定を先送り(6万t容量前後のタンクを増設)
:現時点では決定を下さず(「更なる検討を加える必要が有る」とか、理由は何とでも付けられる)、フクイチの敷地内に5~6万t単位でタンクを増設する。現在のタンク内貯留水の増加量は月間5500t程度なので、6万t容量を増設すれば、物理的限界と思われる時期を23年秋~冬に先送りできる。

3.22年度下期以降に希釈排水(タンクを2~3万t容量程度、増設)
:1と2を足して割ったようなもの。希釈排水の準備とタンク増設を並行して進める。物理的限界の時期を半年程度延ばすことで、排水開始時期も先送りする。

 現時点では、上記3つの選択肢が現実的に取り得るものだと思います。

 4番目として「地上保管を継続する」決定も有り得ますが、それは、政府・東電が国内外の世論(パブリック・プレッシャー)に追い詰められた場合にのみ選ばれるものでしょう。現時点で、政府・東電がそこまで追い込まれているとは思えません。

 私から見ると、「最悪の決定」が1、「最悪の手前」が3、「現時点で相対的に最善に近いもの」が2、になります。

 政府の立場からすれば、「世論の鎮静化を図る」時間稼ぎをするなら、3でしょうか。
 2を選択すれば、「もっとタンクを作れるのではないか」との声が高まることも考えられますし、1年後に改めて希釈排水を決定しようとして、今以上に揉めることも考えられます(「揉める」とは、政府からの視点)。「逃げを打つ」ことだけを目的にするなら、最善の策かも知れません。

 最も強硬な策が1でしょう。国内外への説明や、予算的な措置も含めて、実質1年半以内には準備を整えなければならず、設備面でもハードルが高いでしょうフクイチの現場への負担も増えることが考えられます(尤も、政府や東電のお偉いさん達には、現場で働く人のことは眼中にないと思いますが)。


1・3を選べば、どうなるか~世界史としての福島第一原発事故~

 1・3は、実施時期の違いは有れども、「環境中への希釈排水」がゴールになります。
 恐らく、政府がこの方針案を示した途端に、フクイチの汚染水の扱いは「国内マター」から「国際マター」になるでしょう。

 政府や、その提灯持ちの政治家・有識者は、「国内の消費者への説明」「漁業関係者への風評対策」を打てば良いと思っているかも知れませんが、海洋放出については、韓国・ロシア・中国・チリが反対、又は懸念を表明しており、台湾(中華民国)の複数の環境保護団体も、連名で経産省にパブコメを提出しています。

 現在、表立って反対を表明しているのは韓国だけですが、私には、ロシア・中国といった大国が沈黙しているのが不気味です。特にロシアは、一度は外務省の報道官が明確に放出反対を表明しているにも関わらず、その後は沈黙したままです。

 アニメ映画「機動警察パトレイバー2」に「国家に真の友人はいない」というセリフが有りましたが、このセリフの通りでしょう。政府として海洋放出案を示した途端に、外交カードとして利用される可能性が大です。放射性廃棄物を数十年に渡って放出され続けるということは、周辺諸国にとって何の利点も無いことなのですから、日本の「弱み」になるのは確実です
 諸外国政府だけではなく、世界の団体・個人も懸念の声を上げるのは必至と思われます。

 政府やその関係者は、国内向けには、記者クラブという閉鎖された空間でレクを繰り返したり、「パンケーキをご馳走するような」懐柔策を講じるかも知れません。国内向けにはともかく、世界中の国の政府や国際世論には通用する筈がありません。

 国内では、市民運動も含めて「福島の声を」「漁業関係者の声を」と言った報道や発信が大半を占めていますが、最早、発災直後ではありません。色々と情報や事情も整理できています。
 今、問われているのは、「核災害で発生した放射性廃棄物を、意図的且つ大量に環境中に放出して良いのか」ということです。

 報道も、運動も、東電や政府も、「福島」という狭い地域に捉われるのではなく、それも包摂しつつ「世界史としての福島第一原発事故」という視点を持つべきでしょう。

「世界の視点」以外にも、私が環境中への放出に反対する理由は有りますが、それをクドクドと繰り返す煩は避けます。具体策も含めて、月刊「政経東北」に掲載した拙記事をご覧下さい。私は、あくまでも、「地上保管継続」を求めます。

(リンク)
●​「処理水」はタンク貯留を継続すべき​(「政経東北・20年4月号」)

●​汚染水「タンク用地確保」の具体策​(同・5月号)

 今後とも、この国の主権者との一人として、これまで同様、フクイチを追いかけていきます。


春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​ ​​​​​






Last updated  2020.10.19 11:42:36
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2020.10.18
​ 今回は、「考察」に重きを置いた記事です。
 ポンチ絵等の無断転載・引用はご遠慮下さい。

​​​​フランジタンク解体で生じる「空きエリア」

​ フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)内での汚染水(放射性液体廃棄物)貯留に関して、東電や政府(経済産業省)は、「タンク容量に余裕が無くなりつつある」「22年夏頃が限界」「水の処分方法を決めなければいけない」というメッセージを発し続け、10月になってから、報道もそのメッセージを繰り返すようになりました。

 一方で、東電は、記者会見での質疑などで「(フクイチの敷地内に)タンクが1基も増設できないのではない」とも説明し、タンク増設の余地を完全には否定していません。
 では、現在の敷地内で、タンク増設の余地はどのくらいあるのでしょうか?


https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2020/09/3-1-6.pdf より(20年9月24日公表資料)

(リンク)
●​汚染水対策スケジュール​(「2/2」の「処理水受タンク増設」欄を参照)

 画像は東電の資料からキャプチャしたものです。
 現在はG1・G4南エリアで溶接タンクの設置を継続しており、12月までに設置完了予定です。それ以外の5つのタンクエリアに関しては、フランジタンク(ボルト締めタンク)の解体・撤去が完了、又は実施中、又は開始予定です。
 問題は、この5エリアについて、溶接タンクの設置計画が公表されていないことです(最新の、20年9月24日公表のタンク設置工程表には未記載)。

 5エリアに設置されていたフランジタンクの容量・基数、解体完了時期等を一覧にします。

G4北エリア
:1000t容量×6基のフランジタンクの解体が20年7月末に完了。その後のタンク設置計画や敷地利用計画は未公表。

Cエリア
:40t容量×8基・1000t容量×13基のフランジタンクの解体が20年9月末に完了。その後のタンク設置計画や敷地利用計画は未公表。

G5エリア
:1000t容量×17基のランジタンクの解体が20年10月末に完了見込み。その後のタンク設置計画や敷地利用計画は未公表。

Eエリア
:1000t容量×49基のフランジタンクを解体中。その後のタンク設置計画や敷地利用計画は未公表。

H9・H9西エリア
:1000t容量×12基のフランジタンクを解体予定。その後のタンク設置計画や敷地利用計画は未公表。

(参考リンク)
●​2015年3月19日時点の「各エリア別タンク一覧」(3月26日公表)

 Cエリアの小容量のタンクは別として、元々設置されていたフランジタンクと同じように溶接タンクを配置すれば、単純に、
1000t容量×97基=9.7万t容量が確保できます。

今後の施設用地を探る

 一方で、空いた土地の全てをタンクエリアとして使えるのかというと、そうではないでしょう。

 現在、東電は、ALPSで発生しているスラリーと呼ばれる二次廃棄物を脱水処理する為の設備を設計中です(スラリーの脱水処理は何れは行わなければいけないもの)。この設備の設置用地を確保しなければなりません。
 因みに、この設備は、設置するとしても「ALPSの5分の1程度の大きさ」に収まるそうです(第73回 特定原子力施設監視・評価検討会[2019年7月22日]での東電の説明。詳細は議事録の41~42頁を参照)。

(リンク)
●​第73回 特定原子力施設監視・評価検討会(2019年7月22日)議事録

●​ALPSスラリーの安定化に向けた検討状況(同検討会の資料2-2)

 又、東電や経産省は「デブリ(溶融燃料)の分析・保管の為の施設が必要」とも説明していますが、私に言わせれば、誇張した説明です。
 固体廃棄物の分析施設なら、敷地西端に「大熊・分析研究センター」の用地が確保されています(管理棟は18年3月に運用開始済。低中濃度の廃棄物を扱う第一棟は20年度末運用開始予定で建設中。炉内堆積物を扱う第二棟は24年度運用開始予定で設計中)。

 デブリを大量に取り出す目途は立っていないので、専用の保管施設を設計・建設する切迫性は無いでしょう。28年度までに固体廃棄物の減容・減量を進める計画ですから、空きエリアは、その過程で生じていく筈です(廃棄物貯蔵エリアの廃止・縮小等)。

 以上を踏まえると、東電の「タンクが1基も設置できないのではない」という説明は控え目過ぎで、寧ろ「タンク増設の余地はまだまだ有る」のが実態ではないでしょうか。
 同時に、「今後の施設用地の確保の必要性」は誇張され過ぎた説明だと言えます。

(リンク)
​●大熊・分析研究センター(日本原子力研究開発機構)

フクイチ構内配置図



敷地内に、貯留タンクは万t容量で増設できる

 フランジタンク解体で生じた空きエリアの一部を、新たな施設の用地として転用しなければならないのは事実だと思いますが、先に紹介した5エリア全てを使うものでもないでしょう。
 仮に、Eエリアだけでも新たなタンク用地とすれば、約5万t容量が確保できます(タンク配置を合理化し、大容量のタンクを使用すれば、更に容量を確保できるかも知れません)。

 5~6万t容量が確保できれば、実質的なタイムリミットを「23年夏~秋」へと、ほぼ1年、後ろ倒し出来ます(現在のタンク内貯留水の増加量は、年間の月間平均で6000tから5000tへと下降中。今後の増加量を月間平均5500トンと想定)。
 敷地内に溶接タンクを増設して議論・検討の時間を確保する余地は十分にあるし、確保できるというのが、私の見立てです。


結論:煽られず、とにかく、タンク増設を求めて

 複数の報道機関が一斉に同じ方向を向くと煽られがちですが、そういう時こそ、「何かおかしい。本当にそうなの?」と疑い、一人称で公開資料に当たるべきです。

 報道を参考にしてはなりません。

「物理的な限界が近い」
→ 「現状のタンク増設計画では」という前提です。その前提が絶対に動かせないものなのか、確認しましょう。

「これから、新たな施設が必要」
→ 「これから」とは何年後なのか、スケジュールが見通せるものなのか。期限が切られているものなのか。「確からしさ」を確認しましょう。大熊分析研究センターのように、用地確保済み・建設中のものもあります。何を目的に、どのような施設が、いつまでに必要なのか、一つずつ確認しましょう。

 今はとにかく、「敷地内でのタンク増設」を求めるべき局面だと思います。タンクを増設し、議論・検討の時間を確保しましょう。

 放射性液体廃棄物は、一度、環境中に放出されれば、回収できません。
 まして、今問題になっているのは、核災害で発生した液体廃棄物なのです。発生者責任で長期貯留を求めるのが当然であり、その大前提を踏み外してはなりません。


​​​​​​春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​ 






Last updated  2020.11.16 01:20:29
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2020.09.03
 最初に、本記事は長文で、情報量も多いことをお断りしておきます。​​​​​​​
 過去に当ブログに掲載したことも含めています。
 情報を整理・集約したものです。
 私の意見は記事の後半に書いています。


ALPS処理水の取扱いを巡るこれまでの経緯

 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)では、今も汚染水が増え続け、物理的な限界にヒタヒタと近付いています。
 経済産業省は、この処理水等の扱いについて「国としての方針を示す必要が有る」として、2013年4月から検討を続けています。
 これまでの経緯を年表形式で4分割で掲載します。

 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。​​​
 グラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。
 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。

 下記のリンクは、私が経産省のパブコメに提出した意見です。

●​「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する意見募集」に、意見を提出

これまでの経緯








注記や数字の出典(リンク)
●​多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の、過去の資料・議事録

●韓国海洋水産部「中国・チリも『日本福島汚染水』の海洋排出に懸念」
(中央日報/2019年10月10日)

●​韓国海水部、ロンドンで「日本福島汚染水」を公論化…中国・チリは同意​(同)

●中国、韓国、チリが放射能汚染水への憂慮を表明 ーーロンドン条約/議定書締約国会議
​(グリーンピース/2019年10月10日)

●​​​タンク建設計画進捗・日々の処理に必要な分​(2019年12月19日)

●​リスク対応分9万t容量​(2018年5月18日の資料/PDF最終頁の「別紙」)

●​フクイチ敷地内への降雨量​(2019年11月まで/PDF・32頁)

●​処理水について、決断の時は迫っている​(細野豪志・衆議院議員のブログ)

●​福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ​(2019年12月27日に決定)

●​多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書について​(2020年2月10日)

●民の声新聞:​【107カ月目の汚染水はいま】もの申せない内堀県政。「幅広い意見聴いて検討を」も地上保管継続には言及せずゼロ回答。茨城県と異なり海洋放出容認?」​(2月29日)

●​多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について​(3月24日・東電)

●​多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場 及び 書面による御意見の募集について​(経産省)

●民の声新聞:​【109カ月目の汚染水はいま】「内堀知事は海洋放出に反対しろ!」 陸上保管求める市民団体が福島県に要請書 「コロナ禍に紛れて決めるな!」​(4月27日)

●​台湾のNGOから日本国経済産業省への意見書​(FoE Japanのブログ/5月13日)

●​タンク貯留水のトリチウムのインベントリ(放射能量)​(20年7月)

​​●​【経産省】多核種除去設備等処理水の取扱いに係る「関係者の御意見を伺う場」公式動画への意見表明者個別リンク(1~5回)​(市民による独自のまとめ)

●​ALPSでの二次処理について

●​ALPSで除去する62核種の選定理由・過程と、元素記号

●​告示濃度​(核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示/2015年8月31日・原子力規制委員会決定/PDFの29頁から始まる別表第一。水中の濃度は第六欄、気中の濃度は第五欄。水の1Lは1000立方センチなので、1L当たりの濃度を求めるには、第六欄の数字を1000倍する)。

参考資料1:廃炉・汚染水対策の役割分担


参考資料2:フクイチ敷地構内図


参考資料3:ALPSの構成概念図




参考資料4:スリーマイル原発事故で発生したトリチウム水の処分に関する経緯





ALPS小委員会報告書の概要

 多核種除去設備等処理水に取扱いに関する小委員会(通称「ALPS小委」)の報告書の内容もまとめておきます。

①フクイチの敷地の拡張は難しい
②敷地外への移送や、海上・地下では貯留しない
③環境への放出を軸とし、海洋・大気放出を選択肢とする
④環境へ放出する際は、二次処理によってトリチウム以外の核種をALPSの性能一杯まで除去した上で希釈する
⑤溜め込んでいるトリチウムの全量を環境中に放出しても、有意な影響は考えられない

⑥小委員会の役割は処分方法の提言であり、処分開始時期と期間は政府が決定する
⑦事故前のトリチウムの放出基準は、環境への影響を考慮して設定されたものではなく、通常運転で発生する廃棄物の量に合わせて設定された値なので、事故後では適用されない
⑧フクイチ敷地内の土壌は炉規法、敷地外の除染廃棄物は特措法で規制されており、基準が異なるので、敷地内の土壌は敷地外に持ち出せない
⑨タンクは、現行の敷地で可能な限り増設する
⑩タンクの大型化は「施工期間の長期化」「漏洩リスクが高くなる」等の問題が有り、採用は困難

 公聴会で市民が指摘・反対した点は、その殆どが跳ね返されました。

 以下、私の意見・私見を大きく5点、まとめます。


①私の立場は「風評ではなく、市場構造の変化」「タンク保管継続」

 フクイチで増え続ける汚染水についての私の立場・意見は、当ブログでも、月刊誌「政経東北」の連載でも繰り返し書いている通りですが、整理しておきます。

環境中へは放出すべきではない
●フクイチの汚染水は、核災害で発生した放射性液体廃棄物であり、核施設の通常運転で発生する廃棄物と同一視すべきではない。
●希釈・二次処理の有無に関わらず、フクイチの液体廃棄物を環境中に放出して解決を図れば、「核災害を起こし放題」のモラルハザードに繋がりかねない。
●世界が見ていることであり、環境中への放出を強行すれば、世界的・歴史的に日本のブランド価値が不可逆的に傷つく可能性が高い。
●フクイチ事故によって発生しているとされる所謂「風評被害」は、「核災害で消費者の心理が変化したことに伴う市場構造の変化」(=核災害によるブランド価値の毀損)であって、「風評」ではない。
●更なる放射性廃棄物の環境中への放出は、ブランド価値の毀損を、不可逆的に、より深化・拡大させる可能性が高い。
●消費者の「心理の変化」は犯罪ではない。自らお金の使い道・自らの健康について決定する権利は個人に有り。買い物や観光に関する支出や行動を、外部から強要は出来ない。

具体策について
●環境中へは放出せず、タンク保管を継続すべき
●タンク用地はフクイチの敷地南側に当たる、大熊町側の中間貯蔵用地の一部を転用すべき。
●用地確保に関しては、国費投入を厭わず、東電の社長・原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)が地元に土下座してでも調整すべき。
●タンク内貯留水の含有核種、化学的・生物的性状(ガスの発生や微生物の繁殖等)については徹底して調査すべき。
●トリチウム以外の核種については、最大限、除去・浄化すべき。
●貯留期間はトリチウムの半減期(12.5年)と、タンクのリプレース(=更新)の周期の見合いで定めるべき。

②ALPS小委員会への評価

 この委員会は、報道・市民運動関係にも大いに注目された為、物凄く大事なものであるかのように思われているかも知れませんが、基本的に省庁が選定した外部有識者の集まりであり、行政上・政治上の決定を下せる立場にはありません。
 大前提として、この点は押さえておかなければなりません。

 あくまでも外部有識者からの意見聴取を目的としたものです。
 大体、
省庁が設置する有識者会合とは「多角的な視点から検証した」「多くの立場の方から賛同を頂いた」「異なる意見にも耳を傾けた」という形式を整える為のものではないでしょうか。

 ところが、ALPS小委は、経産省の思惑とは違ってしまったようです。

 元々、第1回小委員会(2016年11月)で同意された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 規約(案)」の「(目的)第1条」では、次のように記載されていました。(​リンク​)

====引用ここから====

小委員会は、東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の取扱いについて、トリチウム水タスクフォース報告書で取りまとめた知見を踏まえつつ、風評被害など社会的な観点等も含めて、総合的な検討を行うことを目的とする。

====引用ここまで====

 小委員会発足時点では、「検討を行うことを目的とする」とされています。
 これが、約3年後の第13回小委員会(2019年8月)に提出された「資料3 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の位置づけについて」では、同資料3頁に次のように記載されています。

====引用ここから====

●小委員会の役割は、風評被害などの社会的な観点も含めた総合的な検討及び政府への提言のとりまとめ

====引用ここまで====

 委員会発足時には無かった「政府への提言のとりまとめ」が追加されています(​リンク​)。

 私は全17回の委員会を傍聴しています。13回委員会より以前に「政府への提言」という言葉を聞いた・読んだ事は有りませんでしたので、13回委員会を傍聴していて、奇異に感じました。
 第1回委員会の議事録も改めて確認しましたが、規約案の説明の際に「政府への提言」には何も触れられていません(煩雑なので引用は略。詳しく知りたい方は、議事録の1~3頁をご確認下さい→ ​議事録へのリンク​)。

 どうして、このような変更が行われたのか。

 経産省は「小委員会方式での検討を放棄した」というのが、私の見立てです。

 恐らく、経産省の描いていた路線は、「小委員会で処理水の環境中への放出を軸としたとりまとめを行い、放出方法・時期も書き込んでおく。実施の判断のみを政治決定とする」というものだったのだと思います。

 ところが、経産省の描いていた路線は、「トリチウム以外の核種が除去できていない状態で残っていたことが報道された」「公聴会で市民の指摘に応え切れなかった」ところから躓き始めました。
 この状態で処分方法の細部まで渡ったとりまとめを行い、実施の判断だけを政治家に委ねることになると、実質的な決定者は経産省となり、経産省が国民の怨嗟の的になる可能性が有ります。経産省は自らへの批判を軽減する為に、「政府への提言を行う」という文言を加えて小委員会の役割をそれとなく修正し、早期に小委員会を閉じて「処分の具体策の決定も含めて、決定の主導権を政治家に渡そうとした」のではないでしょうか。

 以上が、私の見立てです。

 私が上記のように推測した理由は、他にもあります。

1.2018年の公聴会では「処分方法・時期に関する意見」を募集していたにも関わらず、実際の取りまとめ案では、時期に関しては殆ど記載されていません。

2.現在、経産省は「ご意見を伺う場」を開催していますが、自治体・団体の意見を聞くなら、小委員会の場でも出来た筈です。

3.第12回までは委員がプレゼンしたり、各業界の専門家に話をして貰い、質疑をする形式でした。第13回以降は事務局(経産省)の説明に委員が質疑する形式となり、東電もそこに加わって、「長期保管」「地上保管」を封じていくような説明を繰り返し、僅か4ヶ月程度で報告書案が提示されました(第13回は19年8月9日、報告書案が提示された第16回は同年12月23日)。

 半ば、私の印象も入りますが、13回委員会を境として、委員会の雰囲気や進め方がガラリと変わっているのです。トレンドとして振り返ってみると、経産省はとりまとめを急いでいるようでした。


③ALPS小委員会報告書への評価~提言の態を為していない提言~

 三点目に、まとめられた報告書に関する私見です。
 
 結論から書くと、この報告書は提言の態を為していません。以下、具体的に指摘します。

1.実施時期・処分場所が盛り込まれていない。

2.地上保管・タンク保管の継続を「難しい」としており、否定していない。

3.海洋・大気放出を推奨しているが、具体的なシミュレーションが為されていない(東電公表のシミュレーションについては後述)。

4.二次処理・希釈処理を盛り込んでいるが、二次処理・希釈処理やモニタリング体制が実証されていない。

5.「風評」という言葉が目次を除いて48回(春橋調べ)も使われており、放射性液体廃棄物ではなく、経済対策(もっと露骨な言葉を使うなら「地元対策」)を論じているのかと錯覚する。

 本来なら、1の点だけとってみても、提言とは呼べません。
 4は、経産省の「やる気の無さ」の象徴のように思えます。
 経産省は、凍土方式陸側遮水壁(以下、「凍土壁」)を作る際には、フィージビリティスタディ(実証事業)として予算を付け、ミニ凍土壁を作れることを確認するなど、事実の裏付けを取ってから進む慎重さが有りました(凍土壁への賛否はここでは論じません)。
 今回は報告書の作成に当たって二次処理・希釈処理を実証もせず、「過去の実績からできる筈だ」という推論で事を進めています。フクイチの浄化設備では高性能ALPSが休止状態で、しかも、小委員会は約3年以上に渡って議論を続けてきました(小委員会の12回会合から13回会合の間は、7ヶ月以上も空いていました)。処理水を用いた実証事業は、やろうと思えば出来た筈です。

 この報告書は「地上保管の否定・環境中への放出」という道筋をつける事だけを目的としたもので、それ以上のものではないというのが、私の評価です。
 3年以上、議論・検討を続けてきて、実証・検証されていなことを書き込み、当初は議論されていた処分時期も落としており、レベルが低いです。凍土壁を進めている時の方が、まだ「世間を説得しよう」という気構えが感じられました。


④東京電力が「検討素案」を公表したことへの私見

 東京電力は、3月24日に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について」という文書を公表しています。

 この検討素案を発表する際の記者会見で、東電の松本純一氏は「経産省事務方の要請に基づいて作成したもの」である旨を会見の冒頭で説明しています(下記動画の2分30秒~36秒当たり)。

(リンク)
2020/3/24(火) 多核種除去設備等処理水の扱いに関する記者会見​(東電のサイト)

 素案の中身については、ここでは論じません。

 私が、経産省のやり方が悪質・小賢しいと思うのは、海洋・大気放出を推奨する報告書を作成しておきながら、具体的なシミュレーションを付けなかったこと。更に、小委員会を閉じて、シミュレーションの妥当性を議論する機会を設けないまま、後付けで事業者(東電)から提出させたことです。

 このようなやり方からも、「(放出の)具体案には関わりたくない」という経産省の逃げの姿勢(=責任の軽減化)が透けて見えるようです。


⑤「意見を伺う場」をどう捉えるか

 最後に、「意見を伺う場」について。

 これまでに5回実施されていますが、ALPS小委報告書を真っ向から否定した人はいません。環境中への放出反対を明言したのは6団体・個人にとどまっており(その他「処分方法を決める以前の問題」と指摘した個人があり)、福島県知事を始め自治体の首長が1人として姿勢を明確にしないのは、動画を観ていて呆れました。

 毎回、経産副大臣が大袈裟すぎる挨拶をしていますが、私は「意見を伺う場」は「放射性廃棄物の扱いを訊く場」としては機能していないと思っています。
 以下、この点についても私見をまとめます。

1.団体や自治体の代表が意見を述べているが、個人としての意見なのか、団体内部で議論を積み上げた上での意見なのか明確でない(後日、「個人の見解だった」として、別の見解を出すことも可能)。

2.傍聴・囲み取材が不可能で、緊急事態宣言下でも開催が強行されている。国民・住民と共有しようという意思が感じられない。

3.経産省は意見表明者へ殆ど質問せず、意見表明者からの指摘にも答えていない。「聞き置くだけ」としか思えない。

4.政府・自治体・団体の間で、「風評対策」予算の支出・配分を巡る腹の探り合いの場と化しているのではないか。

 以上が、「ご意見を伺う場」への私の意見です。

 特に第3回の経団連・旅行業界の意見は露骨でした。
 全国規模の団体であるにも関わらず、「福島」を連呼し、原子力発電を推進してきた国策への言及も無いままに「風評対策に協力します」と語っている様は、「協力しますから予算措置をお願いします」と言わんばかりで、視聴していて、不愉快でした。

 このままでは、風評対策を名目にした予算配分を餌として「どの程度の支援・予算配分なら、地元の反対を抑え込めるか」「全国規模の団体から、どの程度の協力が得られるか」という利益誘導で物事が決められるのではないかとの危惧を持ちます。


対抗できるのは市民パワーだけ

 いつも結論は同じですが、利害関係の無い市民の力でないと、現状は覆せないでしょう。
 市民の力が結集したことで、公聴会では「原子力ムラ」を撃破し、躓かせることに成功しました。彼らはそこから立ち上がって再び歩き出していますが、それを止められるのも、また市民だけだと思います。

「核災害で発生している放射性廃棄物を環境中に放出して良いですか」という話に、「うん、それで良いよ」という人は殆どいないでしょう。それが良識・常識だと思います。この素朴な問いかけを繰り返し、社会の中に「声を上げる人」を増やしていかなければ、経産省や東電は止められないと思います。

 オセロやチェスのように、一発大逆転の方法などはありません。
「急がば回れ」で、進めていくしかないでしょう。

 以下は、参考です。

●当ブログの過去記事一覧(リンク)

►​説明・公聴会の前提が変わってきた、フクイチのALPS処理水 

► ​緊急アップ! 看過できない経産省の「説明」~ALPS処理水を「汚染水ではない」と断言して良いのか~

►​ALPS処理水の扱い~私が海洋排水に反対する理由~

►​ALPS処理水の海洋放出に反対~市場構造の変化も、核災害による被害~

►​ALPS処理水の含有核種・濃度は、小委員会にどのように知らされていたのか

►​場によって、発言と沈黙を使い分ける開沼博准教授のズルさ

►​9月28日に、吉良よし子参議院議員の事務所で、ALPS処理水のレクチャーに同席

►​ALPS処理水に関する公聴会の意義と役割~意見総数は179件~

フクイチのALPSは、稼働率と除去率がトレードオフ

►​ALPS処理水に関する消費者・国民の意識と、それに基づいて考える

►​「ALPS処理汚染水を環境中に放出しない」ことを求める要請書

►​フクイチの汚染水は、環境中に放出してはいけない~北区アクションでのスピーチ~

関連:​
金曜行動「希望のエリア」で、主権者・国民の責任の重さをスピーチ


春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​






Last updated  2020.09.03 09:54:51
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2020.07.30
​​117日間の意見募集も、明日(7/31)が締切

 経済産業省では、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集について」という表題で、フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)で発生し続けているALPS処理水の処分方法について、意見公募(パブリックコメント)を実施しています。

 募集期間は、締め切りが3度延長され、4月6日~7月31日となっています。実施期間は、パブコメとしては異例の117日間です(16週間+5日)​。

 フクイチで発生しているALPS処理水は、日本で起きた核災害で発生している放射性液体廃棄物です。これを、意図的に環境中に放出することを推奨する報告書が提出されているのですから、日本の主権者・及び将来の有権者として、意見を提出しない・何も考えないことは有り得ないでしょう。

 パブコメは個人情報は必要でなく、年齢制限も無く、1人で何度でも提出可能で、ネットの接続環境さえあれば、外出無しで提出可能です。中高生でも提出できますから、選挙と違って、制度的なハードルは公的チャネルとしては最も低いものです。

 又、今回は117日間(約3ヶ月半)も有るのですから、「核災害で発生している放射性液体廃棄物の環境への放出に反対」の1行だけでも提出しなかったとしたら、「117日の間、何してたんですか?」という話になります。

 提出期限が度々延期になったので、私は中身をじっくり考えようと思い、本日(7月30日)の16時頃に下記サイトのフォームを通じて提出しました。

(リンク)
●​多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集について


私の提出した意見~改めて、ALPS処理水は保管継続を~

 以下、私の提出した意見のほぼ全文を掲載します。
「何度でも提出でき」ますが、内容や表現を絞り込み、リンクも盛り込んで、2000字に抑え込みました。これは私のやり方で、ダラダラと書くのが嫌いなのです(笑)

 文中に盛り込んだURLについては、引用した後に別途、リンクを貼っています。

​====提出した意見、ここから====​

処理水は貯量を継続するべきとの立場から意見を送ります。

●放出すべきでない理由について

1.フクイチ(福島第一原発)の汚染水は核災害で生じている放射性液体廃棄物です。核施設の通常運転で生じる放射性廃棄物と同列に論じて理由で環境中に放出すれば、「核災害起こし放題」のモラルハザードの前例になりかねません。

2.確認できているだけでも、ロシア・韓国・中国・チリが「海洋放出」に反対、又は懸念を表明しています。世界が見ています。核災害で発生している放射性廃棄物を意図的に環境中に放出すれば、日本の信用が国際的・歴史的に不可逆的に傷つく恐れが有ります。

https://jp.sputniknews.com/politics/201712204401758/
https://www.greenpeace.org/japan/nature/press-release/2019/10/10/10563/

 尚、スリーマイル原発事故では発生したトリチウム水を大気放出していますが、水の量は約8500t、トリチウムのインベントリは24兆ベクレルで、フクイチの液体廃棄物とは量が圧倒的に異なり、比較対象になりません。

3.フクイチ事故によって、福島県を中心に一次産品のブランド価値が毀損され、市場構造が変化しました(これは「核災害によるブランド価値の毀損、又は、市場構造の変化」であり、「風評被害」と言い換えるべきではありません)。福島県の一次産品の状況については、ALPS小委員会の第3・4回会合で紹介・議論されており、農水省も「福島県産農産物等流通実態調査」で毎年報告しています。https://www.maff.go.jp/j/shokusan/ryutu/R1kekka.html

 又、水俣の例も有ります(水俣病の発生から約60年を経過しても、水俣の魚は全国流通していない)。公害(今回は「核災害」)は、生産側の責任でない理由でほぼ不可逆的に市場構造を変化させてしまうものなのです。
 タンク内貯留水を環境中に放出すれば、放出された地域の一次産品のブランド価値は毀損され、市場構造の変化が固定化されることは確実と思われます。その結果について、責任を取れる人や組織は有るのですか。

4.処理水の全含有核種と、核種毎の濃度は把握されておらず、生物的汚染(微生物や細菌の繁殖)・化学的汚染(2018年10月には、ストロンチウム処理水タンクで硫化水素の発生を確認/https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2019/04/3-1-3.pdf)も未調査です。ALPS小委員会の報告書は「二次処理・希釈処理」を前提に環境中への放出を推奨していますが、汚染の内容が把握できておらず、二次処理の実証試験も行われていないのに、何故、処理が可能だと言えるのですか。小委員会の報告書は誤った前提に立っており、議論の出発点にすべきではありません。


●取るべき具体策(溶接タンク用地の確保と保管期間について)

1.「既存のタンク群や既存の水処理設備との接続」「配管等の引き回しの工事を相対的に短期間で済ませる」方法を考えた場合には、タンクエリアの南側(大熊町側)の中間貯蔵施設用地へフクイチの敷地を拡張し、新たなタンク用地にするのが最も合理的と考えます。

2.中間貯蔵施設として確保した用地の用途変更を伴いますから、地元自治体・地権者への説得には、東電の社長・原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)が自ら当たり、何度でも関係者の元へ通い、土下座してでも頼むべきです。

3.用地確保・タンク建設に要する費用については、教育・社会保障の予算を削らないことを前提に、国費投入を厭うべきではありません。

4.土地を長期賃貸とするか購入とするかは、地元・地権者との話し合いの中で決めるべきことでしょう。又、設置する溶接タンクの容量については、施工期間や保守のやり易さ等を考慮して合理的な選択とすべきです。

5.水の貯留期間は「10年単位で当面の間」とし、貯留を継続している間にALPS処理水の全含有核種・核種毎の濃度・化学的汚染・生物的汚染を調査すべきです。

6.5の結果に基づいて、貯留期間・タンクリプレース計画を策定し、必要に応じてトリチウム分離プラントの建設等を検討すべきでしょう(現時点では、扱うべき水の総量や含有各種等が確定・把握できておらず、特定の核種を対象とした分離プラントが対応策として有効かどうか不明です)。

結論
 漏洩リスクを考えた場合、洋上貯留・地下貯留や、遠隔地へ移送しての貯留は避けるべきです(この点のみ、ALPS小委員会の報告書に同意します)。又、固化処理や核種分離のための新規プラントの導入は、設置面積・建設期間・メンテナンス体制・稼働率といった、現時点では明確に見通せない要素が有ります。シンプルに「用地を拡張しての貯留継続」が最も合理的な選択肢と考えます。
 尚、この意見は私個人のものであり、他の如何なる組織・個人とも関係の無いことをお断りしておきます。

提出した際に表示された番号:202007300001007×××
​====意見、ここまで====​

(文中の関連リンク)
●​露外務省:日本は福島第1原発からの放射性汚染水の太平洋への放出を禁止すべきだ

●​中国、韓国、チリが放射能汚染水への憂慮を表明 ーーロンドン条約/議定書締約国会議

●​令和元年度福島県産農産物等流通実態調査の結果について

●​硫化水素検出に伴う溶接型タンクの内面点検結果及び今後のタンク計画について

 基本的には、これまで当ブログで表明・発信してきたことや、月刊誌「政経東北」に連載している内容と同じです。新しい要素として、「処理水の含有核種や、生物的・化学的性状」を加えました。
 ALPS小委員会の報告書や、経産省のスタンスをもっと批判したかったのですが、「内容本位」に考え、具体的な提案に重点を置きました。

 世界が見ています。歴史に残ります。
「117日間も有って、日本の主権者はただの1行も意見を送らなかった」と、歴史に書かれたくなければ、意見を送りましょう。


春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​ ​​






Last updated  2020.08.20 13:14:42
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2020.06.15
​​​​極めて異例の「101日間のパブリックコメント」

 現在、経産省では「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集」を行っています。

 元々、5月15日だった提出期限が本日(6/15)まで延長されていましたが、6月12日になって、更に延長されることが発表されました。新たな期限は7月15日・水曜日です。

(リンク)
●​多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場

 これで、意見募集期間は4月6日~7月15日の101日間となります。パブリック・コメントとしては異例の長さです。​募集期限を再々延長した理由は、「より丁寧に御意見を伺う観点から」とされています。

 1人1件と言うような縛りも有りませんし、名前を書く義務も有りません。ネットがあれば、自宅からでも提出できます。どんどん提出しましょう。私は、期限ギリギリまで状況を見極めた上で提出予定です。

 尚、以下は、パブコメに関する私の基本的な考えです。
 
1.意見募集期間が約100日間も有って提出しないなら、主権者としての行動が問われる。

2.難しく考える必要も義務も無い。「環境中への放出反対」「情報提供が不足している」という一行でも立派な意見。

3.公的チャネルを使って自らの意見を表明するのは、パブコメも選挙も同じ。パブコメ未提出は、選挙の棄権と同じ。


国連特別報告者からの情報提供要請

 意見募集期間の延長と関係しているのかどうか分かりませんが、6月12日に、外務省が「国連特別報告者4名からの情報提供要請に対する回答」をWebサイトにアップしました。
 これは、4月20日に行われた、4名の国連特別報告者(※)からの情報提供要請に対する日本政府からの回答です。

※:調査・報告の為に国際連合の人権理事会から任命された独立の専門家。同専門家の見解は、国連や人権理事会の見解ではない。

 要請の内容や、日本政府からの回答について、この記事で解説する余裕はありません。原文の英語文書・仮訳の日本語文書、何れも下記のリンクからPDFをダウンロードできますので、自らの責任でご確認下さい。

(リンク)
国連特別報告者4名からの情報提供要請に対する回答​(外務省)


春橋哲史
(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​






Last updated  2020.06.15 08:52:48
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2020.01.23
​​​​​​ 1月22日・水曜日、「原発事故被害者団体連絡会」(略称「ひだんれん」)と、「脱原発福島ネットワーク」が連名で、経済産業省に要請書を提出しました(写真撮影の関係で、提出場所は経産省別館の玄関前になったそうです)。

 提出先は経済産業省・資源エネルギー庁・電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室(「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」事務局)で、提出されたのは「ALPS 処理汚染水を環境中に放出しないために、あらゆる対策を講じることを求める要請書」です。この要請書には、26団体が賛同しました。

(リンク)​原文はこちら

(リンク)​「ひだんれん」のWebサイト

 以下、ほぼ全文を紹介します(連絡先に係る情報は割愛/委員長のよみがなは春橋にて追記/改行は一部変更/賛同団体は福島県内と県外で分けて記載)。
 関係資料へのリンクは、ページ下部にスクロールして下さい。
 これまでの経緯をまとめた時系列表・フクイチ全体図も、記事末尾に付けています。

 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。​​​
 グラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。
 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。

====内容、ここから====

●経済産業省 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会
​委員長 山本 一良 様​
●ALPS 処理汚染水を環境中に放出しないために、あらゆる対策を講じることを求める要請書

●要請団体「原発事故被害者団体連絡会」「脱原発福島ネットワーク」

 東京電力福島第一原発の敷地に増え続ける ALPS処理汚染水に関し、経産省、資源エネルギー庁の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(以下、小委員会)が、2018年8月30日富岡町、31日郡山市、東京都で開催した「説明・公聴会」では、公聴会の説明用資料にあった地下埋設・地層注入・水素放出・水蒸気放出・海洋放出の5案ではなく、大多数の意見公述人より大型タンクでの陸上長期保管案が提案され、山本一良(やまもと いちろう)委員長は、東京での公聴会の終了直後、陸上保管案を検討すると約束しました。

 しかし、タンクでの貯蔵継続案が議題に上がったのは、公聴会から一年近く経った2019年8月9日の第13回小委員会でした。
 東電からは「大型タンクや、洋上・地下での保管継続は困難」である旨の説明があり(同委員会・資料4-2)、これに対して委員から、敷地北側の土捨場の利用や、敷地を周辺の中間貯蔵施設に拡大する案、「風評被害」を避けるためタンク貯留を始めたのだから、社会的影響を与えないことが確認できるまで放出はすべきではないなど、貯留継続を進める意見が大勢を占めました。

 9月27日の第14回小委員会では、東電が「使用済燃料及びデブリ取出しに関する施設の設置にも用地が必要」「(敷地北側は)廃炉作業に伴い追加的に発生する廃棄物を処理・保管するエリアとして活用したい」「現在の福島第一の敷地内で廃炉作業をやり遂げることが基本方針」である旨を説明しました(同委員会・資料3)。
 また、事務局からは「福島第一原発の敷地の外側を、中間貯蔵施設以外の用途で使用し、敷地を拡大することは難しい」、「(敷地の拡大が難しいという)考え方を整理するに当たっては環境省とも相談をさせていただいて、環境省と同じ考え」である旨の説明もあり(同委員会・資料2、及び同委員会議事録・14頁)、委員会の結論としては、敷地の有効利用を徹底し、第一原発敷地内に可能な限りタンクを設置する方向で引き続き議論を進めることとなりました。

 しかし、11月18日の第15回・小委員会では、事務局がUNSCEAR2016の評価モデルから海洋放出と水蒸気放出による放射線量被曝を計算し、仮にタンクに貯蔵されている処理水全てを1年間で処理しても、年間自然被ばく線量と比較し十分に小さいなどと説明し(同委員会・資料3)、委員からは環境の条件設定がない中での評価は現実的ではないとの指摘がありました。
 また、東電から海洋放出による処分開始時期と廃炉完了までの時間軸を示す資料が提供されました(同委員会・資料5)。

 そして12月23日、第16回・小委員会では、事務局が委員会としての取りまとめ案を提示し(同委員会・資料4)、処分方法を水蒸気放出と海洋放出、及び、二つを併用するケース1~3に絞り込みました。
 委員間で海洋放出や水蒸気放出による処分が結論づけられたわけでもないのに、このような恣意的な取りまとめ案を提出することは、事務局が小委員会の方向性を誘導しているものと言わざるを得ません。
 委員からも「海洋放出の際の風評被害は特に厳しくなる」との指摘もある中で、審議・議論が不十分なまま、拙速にとりまとめるのではなく、放射能汚染水の処分による社会的な影響を考慮し、その対策を提言する委員会であれば、再度、地元や国民全般からの意見を聞く公聴会を開くべきです。

 これ以上、放射性物質を環境中に放出することは、日本だけの問題ではなく、国際的にも、また次の世代に対しても許されないことです。

 事故を起こした世代の責任として以下を要請いたします。

1.これ以上、放射性物質を環境中に放出しないために、小委員会では拙速なとりまとめをせず、ALPS処理汚染水の長期保管について十分な審議・議論を行うこと。

2. デブリ取り出しなどの廃炉計画の見直しも含めて検討し、各種の訓練・研究施設等は敷地外に建設するなど、徹底的な検証により、ALPS処理汚染水の保管のためのタンク用地を確保すること。

3.ALPS処理によってもトリチウム以外の核種が除去できず残留している状態では、希釈の有無に関わらず、環境中へは放出しないこと。

4. 「とりまとめ案」に対する「説明・公聴会」を福島県に限らず、全国各地で行ない、広く国民の意見を聞くこと。

 上記要請について、1月31日までに文書による回答を求めます。

​●賛同団体 2020年1月22日現在/25団体​

◆福島県内(五十音順)
会津放射能情報センター
原発事故の汚染処理水を海に流させない市民の会 
原発事故被害者相双の会
原発いらない福島の女たち
これ以上 海を汚すな市民会議
子どもたちの健康と未来を守るプロジェクト・郡山
TEAM ママベク 子どもの環境守り隊 
虹とみどりの会
ハイロアクション福島
はっぴーあいらんど☆ネットワーク
フクシマ・アクション・プロジェクト
福島原発30キロ圏ひとの会 
認定 NPO 法人 ふくしま 30 年プロジェクト
特定非営利活動法人ふくしま地球市民発伝所
ふくしま WAWAWAー環・話・和ーの会
福島原発震災情報連絡センター
放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会
緑ふくしま
モニタリングポストの継続配置を求める市民の会 
モニタリングポストの継続配置を求める市民の会・三春

◆福島県外・全国
​3.11 ゆいネット京田辺 (京都府)
原発ゼロプログラムの会(京都府)​

放射線被ばくを学習する会 (埼玉県)
原発事故被害者の救済を求める全国運動実行委員会
「避難の権利」を求める全国避難者の会
国際環境NGO グリーンピース・ジャパン

====内容、ここまで====​


要請文の中で言及されている資料や議事録へのリンク

●説明・公聴会 ​説明資料

●第13回小委員会・資料4-2​「多核種除去設備等処理水の貯留の見通し」​13頁以降

●第14回小委員会・資料3​「廃炉事業に必要と考えられる施設と敷地」

●同小委員会・資料2​「貯蔵継続に係る事実関係の整理について」

●同委員会・​議事録​(14頁・奥田対策官の発言)

●第15回小委員会・資料3​「ALPS処理⽔の放出による放射線の影響について」

●同委員会・資料5​「多核種除去設備等処理⽔の貯蔵・処分の時間軸」

●第16回小委員会・資料4​「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 取りまとめ(案)」


春橋哲史
(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​

※ 1/28 賛同団体が26団体となったので、団体名を追加。

※ 3/3 時系列表や構内図を削除






Last updated  2020.03.03 19:57:50
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2019.08.18
​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ これまで、拙ブログでは、フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の汚染水について、タンク容量の限界が見えていることをお伝えしてきました。
 今回の記事では、これまで本格的に触れてこなかった、もう一つの「保管容量の限界」についてお伝えします。

 ALPS(アルプス)で発生する廃棄物に関する事なので、先ず、ALPSの概要等を掲載します。

 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。​​​
 グラフ・表・ポンチ絵は、B5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。
 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。


ALPSの構成と概要

※ALPS→多核種除去設備。水に含まれる放射性核種の内、62種類を、検出限界値未満まで除去可能な性能を持つ。トリチウム(三重水素)は水と同等の性質を持つ為、除去不可。

3種類のALPS

​​


ALPSで除去可能な62核種



フクイチ構内配置図



 ALPSの概要を箇条書きにすると、

1.ALPSには「既設」「増設」「高性能」の3種類がある。
2.ALPSでの水処理には薬液が必要。
3.高性能ALPSは休止中で、現在は既設・増設が稼働している。
4.既設・増設を稼働させると、「スラリー(高濃度廃液)」と「使用済み吸着材」が水処理二次廃棄物として発生する。
5.水処理二次廃棄物は「HIC(ヒック)」と呼ばれるポリエチレン製容器に詰められる。
6.HICは敷地内の「使用済み吸着塔一時保管設備」に保管されている。

 ということになります。


HICの保管容量に限りが有る

 前置きが終わった所で、ここからが本題です。
 結論を先に書くと、「HICの保管容量に限界がある」のです。

 水処理二次廃棄物(スラリーや使用済み吸着材)が詰まったHICは、「使用済み吸着塔一時保管設備」に保管されています。現在確保されているHICの保管容量は4192基分で、今のところ、保管設備の拡充等の計画は提出されていません。
 HICが増え続けるに任せて手を拱いていると、下記のようなことになります。

HICが増え続ける→ HICの保管場所が尽きる→ ALPSで発生する水処理二次廃棄物が保管できなくなる→ 結果として、ALPSは稼働させられなくなる

 ALPSが稼働させられなければ、フクイチの水処理は破綻します。それは絶対に避けなければいけません。

 では、HICの保管容量・現在の保管基数・これまでの増加数はどのようになっているのでしょうか? 東電の水処理週報等に基づいて、グラフにしました。

グラフ HICの保管容量と、半年毎のHIC増加数推移


HICの保管容量4192基の根拠→ (リンク)​2019年8月5日付で東電が規制庁に提出した資料​(PDF/12頁の「水処理二次廃棄物の当面の保管計画」を参照)

6月末時点のHIC(保管容器)発生数→ (リンク)​福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第408報)​(3頁の下部「保管容器」数)

 HICの保管容量が尽きるまでの時間的猶予を計算してみましょう。

 過去2年間のHICの増加数は673基。年間平均・約340基。

 2019年6月末時点の空き容量は1066基分。

 空き容量1066基÷増加数340基/年≒約3年 →2022年6月前後に保管容量が尽きる

 という計算になります。

 以上が、フクイチの水処理に迫る、もう一つの「時間切れ」です。
 とは言え、東電・原子力規制委員会が何もしていない訳ではありません。最近、対策案が具体化してきましたので、それを見てみましょう。


東電が検討している対策

 元々、HICの耐用年数は最長でも20年間と評価されており、水処理二次廃棄物をHICに保管するのは、永続的な処置ではありませんでした。原子力規制委員会は、以前から「HIC内のスラリーの抜き取り方法」を検討するよう、東電に要請していました。

 数年がかりの検討を経て、今年7月22日の第73回「特定原子力施設監視・評価検討会」で東電が提示したのが下の案です。
(同検討会の資料2-2「ALPSスラリーの安定化処理に向けた検討状況」よりキャプチャ/http://www.nsr.go.jp/data/000277900.pdf )

HIC内のスラリー抜き取り検討案


 同検討会での東電の説明をまとめます。

●2019年度中に詳細設計をまとめる。
●20年度に実施計画を申請して建設を開始。
●21年度中の運用開始目標。
●設備の設置場所は検討中。ALPSの建屋ほど大きなものにはならない。
●スラリーはドロドロの廃液。加圧圧搾濾過方式で脱水・圧縮する。
●脱水したスラリーはパンケーキ状になり、「脱水ケーキ」はHIC5基分を一つの角形容器に詰める。
●検討中のスラリー抜き取り設備は、1日当たりHIC3基の処理が可能。
●ALPSの稼働開始直後に発生したスラリーは放射能濃度が高い為、HICが発生した時系列順に抜き取りしていくと、角形容器の放射能濃度が高くなり、後の処理に支障を来す可能性がある。スラリーの濃度に応じて、放射能濃度ができるだけ均等になるように抜き取りを進めたい。
●角形容器と、脱水ケーキの処分方法は今後検討。
●スラリーを脱水することで発生する廃液と、抜き取り後の空HICを洗浄した廃液は、放射性液体廃棄物である為、ALPSで処理する。
●空HICの洗浄水は、既存のALPS処理水を使うなど、水の総量をできるだけ増やさない方法を検討。
●洗浄後の空HICは廃棄すると固体廃棄物になる為、廃棄物の総量抑制の観点から、再利用を検討。

 以上が、東電の説明の概要です。

(リンク)資料:​ALPSスラリーの安定化処理に向けた検討状況

(リンク)会議の動画(ALPSスラリーについては1時間35分頃から)
 :​第73回特定原子力施設監視・評価検討会(2019年07月22日)


スラリーが保管されているHICの基数やインベントリ(放射能量)

 東電の検討内容や説明が妥当なものかどうか、考える際に前提となるのが、処理すべきHICの基数やスラリーのインベントリ(放射能量)です。

 残念ながら、監視・評価検討会では、それらの重要な情報が提示されていません。
 そこで、若干古いデータになりますが、今は廃止された、もう一つの検討会である「特定原子力施設放射性廃棄物規制検討会」の第6・7回会合に提出された資料から、推測することにします。

 先ず、インベントリ(放射能量)について。

 2018年5月2日時点のデータによると、スラリーの代表的核種であるSr90で推定・約22京ベクレルになります。下記資料の2頁「1-2.スラッジ、スラリーの性状と発生状況」に基づいて計算しました(1立方メートルは100万立方センチメートル)。

(リンク)​除染装置スラッジ、ALPSスラリーの安定化処理にむけた検討状況​(2018年7月23日/第7回検討会の資料2)

 次に、HICの基数についてです。
 HICには、スラリーが保管されているものと、使用済み吸着材が保管されているものがあります。
 その内訳を直接示した資料はありませんが、放射性廃棄物規制検討会に提出された資料と、水処理週報の数字を照らし合わせることで割り出せます。

 それによると、2017年7月6日時点のHICの総保管基数は2463基、同年7月5日時点のスラリー入りHICの保管基数は2254基です。
「保管総数の約9割がスラリーが保管されているHIC」になります。

元データ1
(リンク)​水処理週報・310報​(PDF3頁下部の「保管容器」)

(リンク)​スラリー、スラッジの安定化処理にむけた検討状況​(第6回・検討会の資料2の3頁「1.スラリー、スラッジの種類と発生状況(2)」)

 2018年の基数も同様に割り出してみます。
 2018年5月3日時点のHICの総保管基数は2733基、同年5月2日時点のスラリー入りHICの保管基数は2478基です。
 1年経っても、「保管総数の約9割がスラリーの保管されているHIC」という割合は変わってません。

元データ2
(リンク)​​水処理週報・351報​​(PDF4頁下部の「保管容器」)
(リンク)​​除染装置スラッジ、ALPSスラリーの安定化処理にむけた検討状況​(2018年7月23日/第7回検討会の資料2の2頁「1-2.スラッジ、スラリーの性状と発生状況」より)

 以上の結果から、当ブログでは「HICの保管総数の内、約9割がスラリーの保管されている​​HICであろう」と見做します。

 ​現在(2019年7月末)のHICの保管基数3150基に当てはめてみると、凡そ2800~2850基が、スラリー入りのHICであろうと推測されます。

(リンク)​​​水処理週報・412報​​​(PDF3頁下部の「保管容器」)

 まとめると、

●2019年7月末時点で処理すべきHICは約2800基強、
●インベントリ(放射能量)はSr90だけでも22京ベクレルを超えている、

 ということになります。


処理能力は多めに見積もり、一日でも早い設備の稼働を

 ALPSで処理すべき水は、現状のALPS処理待ち水(ストロンチウム処理水/約10万トン)・建屋の滞留水(約3.2万トン)・今後も増加する汚染水(日量170~200トン程度?)だけではありません。タンク貯留されているALPS処理水も、ALPSの性能通りに核種は除去されておらず、更なる浄化が必要です。又、東電も、ALPS小委員会の第10回会合で、二次処理する方針を示しています。
 従って、ALPSでの水の処理量が減ることは考え難く、寧ろ、増えることが予想されます。

 又、HICからのスラリー抜出に伴って発生する廃液(スラリーから脱水した分+HICの洗浄液)もALPS処理されることになります(HIC3000基の処理で約2.5万トンになると推定されています)。

 このような状況を踏まえると、日量処理可能量は3基ではなく、6基程度を想定すべきだと思います。
 又、世界で初めて稼働する設備であり、実績のないものです。稼働率は50%程度と見做すべきかも知れません。

 時間をかけて良いことはないのですから、安全確保を大前提としつつ、出来るだけ処理能力の大きい設備を、1日でも早く稼働させるべきです。

 何れにしても、「時間切れ」が見えている課題ですから、取り組みは待ったなしでしょう。今後も、監視評価・検討会の議論を見守ります。

 当記事をお読み頂いた皆さんは、数字の羅列に辟易されたことと思います。記事を書く上で必要でした。
 HICの保管基数は、水の貯留量をお伝えするポンチ絵に記載しています。今後は、そちらの数字にも
注意を払っていただければ幸いです。


春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​ ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​






Last updated  2020.07.26 19:17:54
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2019.03.07
​​​​​​​​​「連載」再開

 約4ヶ月半ぶりにフクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)のALPS処理水に関する「連載」を再開します。
 尚、今後、当ブログでは「ALPS処理済み水」ではなく、「ALPS処理水」と記載・呼称します。「処理済み」の水ではないとの判断からです。

 本題に入る前に、これまでの経緯を振り返る時系列表を掲載し、「連載」の過去記事にリンクを貼っておきます。
 尚、当ブログに掲載している表・ポンチ絵・グラフの無断転載・引用はご遠慮下さい。

(リンク)
1.​緊急アップ! フクイチのALPS処理済み水に関する説明・公聴会の情報

2.​経産省が「公聴会」を採用した理由と、スリーマイル原発事故の前例

3. ​ALPS処理済み水の処分に関する「説明・公聴会」の開催決定に至る経緯

4. ​フクイチのALPS処理済み水の扱い~タンク用地と137万t容量~

5. ​フクイチ・ALPS処理済み水の扱い~処分方法と準備期間~

6. ​ALPS処理済み水の最終処分~経産省の考える「落としどころ」と理屈を深堀りする~

7. ​フクイチ・ALPS処理済み水の扱い~地上保管を継続する具体案~

8. ​説明・公聴会の前提が変わってきた、フクイチのALPS処理済み水 

9. ​緊急アップ! 看過できない経産省の「説明」~ALPS処理水を「汚染水ではない」と断言して良いのか~

10.​ALPS処理済み水の扱い~私が海洋排水に反対する理由~

11.​ALPS処理済み水の海洋放出に反対~市場構造の変化も、核災害による被害~

13.​ALPS処理済み水の含有核種・濃度は、小委員会にどのように知らされていたのか

14.​場によって、発言と沈黙を使い分ける開沼博准教授のズルさ

15.​9月28日に、吉良よし子参議院議員の事務所で、ALPS処理済み水のレクチャーに同席

16.​ALPS処理済み水に関する公聴会の意義と役割~意見総数は179件~

17フクイチのALPSは、稼働率と除去率がトレードオフ

18.​基準値越えのALPS処理済み水の中でも、特に「ヤバい水」について

関連:​金曜行動「希望のエリア」で、主権者・国民の責任の重さをスピーチ







2018年最後の小委員会で行われた、関谷准教授のプレゼン

 本記事の主題は、2018年12月28日に開催された「第12回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」で行われた、関谷直也委員のプレゼンです(東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター教授 福島大学うつくしまふくしま未来支援センター・ 客員准教授)。

 ALPS処理水の処分方法を決定するにも、処分方法による市場への影響を予測するにも、消費者(国民)の意識や考えを把握するのは不可欠です。
 これまで、経産省の小委員会では、「トリチウムとは何ぞや」「フクイチ敷地内の水の性状は」という科学的な議論に偏ってきたきらいがありました。公聴会に意見を寄せた人達も「意識の高い人」が主体となっていた筈です。

 国民の意識や考えを客観的に把握する取り組みは、「原発ゼロ」を訴える市民の側も出来ていません。奇妙なことに、この点は「原発推進側」も「反原発側」も共通しています。
 報道機関が行うアンケート(世論調査)も、本来、訊くべきことを外している場合も多く、政策決定の際に参考になる設問・回答になっているかどうか、疑問符が付きます。

 その貴重な、意識や考えを把握する調査を行ったのが、小委員会のメンバーでもある関谷直也准教授です。以下、第12回ALPS小委に提出された資料をキャプチャし、特に重要と思われるところをご紹介します。

 全体をご覧になりたい方は、以下から、PDFをダウンロードして下さい。

(リンク)​漁業と汚染水に関する調査報告​(経済産業省のWebサイト)

 第12回小委員会を傍聴した時から、関谷教授のプレゼンの内容は当ブログで紹介したかったのですが、土壌中のセシウム濃度のまとめ等に追われて、時間が取れませんでした。

 先ず、調査の概要と、注意事項です。







①現状が把握されていない
(注:①~③までの小見出しは、春橋が便宜上つけたもの)






「あなたは次の言葉を知っていますか?」という設問での、トリチウムに関する回答結果です。右の薄い青色が「知らない」、左の紺色が「知っている」です






 先ず、現状に関する重要な設問とその回答の紹介です。

 水の問題(敷地内に溜められていること・保管容量が限界に近付きつつあること)は、福島県内では3分の2以上が把握しています。これに対して、東京・茨城・宮城では、溜められていることを把握しているのは6割程度、貯留容量が限界に関しては5割強です。
 特徴的なのが大阪で、2つの設問とも、4割前後の人しか把握していません。

 更に、「トリチウム」という言葉を知っているのが、福島県外では4割程度に過ぎません。国政選挙の投票率より低いですね(笑)。
 これでは、「トリチウム」に関して議論したとしても、福島県外の国民はついてこないし、そもそも興味・関心を持ちようもないでしょう。

 Q14の1・2についても、福島県内では約6割、福島県外では約8割の人が知らないとのこと。「基礎知識」とも言える事実が共有されていないのですから、これで国民的議論になるでしょうか。


②処分方法に関する意識





 処理水の処分方法に関する2つの設問です。
 環境への放出を認めるのは1割強。4割強が反対し、残り4割は「分からない」との回答です。世論は「環境への放出には否定的だが、強い否定ではない」と言えるのではないでしょうか。

 具体的な処分方法についての賛否を訊いたのが「Q8」です。海洋排水に関する賛同が、福島県では他の県より増えていますが、それでも15%弱です。
 全国の値で見ると、「当面保管」が約2割、「分からない」が約4割。合わせると6割を超えていますから、Q7の回答とセットで見ると、やはり、「世論は環境への放出に否定的である」と言えるでしょう。


③市場の構造はどのように変化するか









 私は、処理水の海洋放出に反対する大きな理由として、「市場構造の変化が進み、固定化する」ことを上げています。経産省に送る意見を書く際も、農水省の資料に基づいて福島県産の一次産品の価格等を調べて、文章をまとめました。

 そういう意味で、私が最も関心を持って見たのが消費動向に関する意識調査です。

 先ず「福島県産を積極的に避けている」という消費者は全体の1割程度は存在していると思われます。10人に一人が買いたくないと言っている訳です。

 更にQ12-2で、海産物に絞ってみると、その比率は1割を超え、東京では16%を越えています。大阪では2割近くが買わないようにしているとのこと。これは「核災害による消費者意識の変化」であり、この意識の変化が「核災害は市場の構造をほぼ不可逆的に変えてしまう」ことに繋がっています。

 仮に、処理水の海洋排水が実施されたら、消費者の意識はどうなるのか。それを確認したのが、Q12-3です。福島県産の海産物を避けようという消費者は全体の3割程度になると思われます。
 海洋排水の結果、福島県産だけではなく、茨城・宮城等、近隣の海産物も売り上げが減るかも知れません。それを示唆しているのがQ12-4です。2割以上の消費者が「東北地方の太平洋沿岸の海産物を購入したくない」と回答しています。


①~③を踏まえて

 以下は、調査の概要を踏まえて、「海洋排水反対・タンク保管継続」の立場からの、私の意見です。


1.「トリチウムが危険か危険でないか」は世論に訴えても(殆ど)無意味

 現在は、処理水を排水したい側も、排水に反対する側も、「トリチウム以外の核種を最大限除去した上で、トリチウムの残っている水をどうするか」という前提で議論しています。
 排水推進側は「環境や健康に影響は無いか、極めて軽微(或いは証明されていない)」である事を以て先に進めようとしており、排水反対側も「環境や健康に影響がある」として、反論しています。

 私は、この議論は、社会的に受け入れられず、無意味だと思います。排水推進側も、排水反対側も、持論を繰り返し発信・発言したところで、世論の支持や納得は得られないでしょう。福島県以外では、「トリチウム」という言葉を知らない国民が3分の2に上っています。これでは、「トリチウム」について語っても、中身を理解して貰えません。

 小委員会のプレゼンで関谷教授も言ってましたが、「議論できる土壌が無い」のです。

 海洋排水に反対する側は、経産省や規制委員会に対抗する為、一生懸命に「トリチウムの危険性」を取り上げるきらいがありますが、そこにリソースを注いでも、得られるものは少ないでしょう。世論の決定的な支持を得る決め手にはならないと思われます(繰り返しますが、「聞いて貰えない」状態だからです)。

 但し、国会での質疑や省庁との交渉の中では繰り返し取り上げる必要はあるでしょう。排水推進側に対して、(世論に響くかどうかはともかく)対抗していく取り組みは必要です。

 立場を問わず、「トリチウムや原発のことを勉強しない側が自覚が無いんだよ」と、「知らない側」を批判する人がいるかも知れません。筋論としてはその通りなのかも知れませんが、何を学んでどのように考えるのかは、個人の自己決定権に委ねられるべきことです。筋論として正しいことを言っても、やはり、世論の支持を得られる決め手にはならないでしょう。


2.「環境への放出には否定的」という世論を掴んで、タンク保管継続を訴える

 海洋排水を含む(ALPS処理水の)環境への放出には、世論は否定的です。この世論を捉える必要があるでしょう。
「トリチウムの危険性」だとか「そもそも原発は~」というような理屈を使わず、シンプルに「敷地外に用地を確保して、タンク保管を継続すること」を訴え続けていくのが効果的だと思います。

「場所は?」と訊かれれば、「フクイチ周辺の敷地は中間貯蔵施設用地として確保されている。用途を転用すれば良い」と答えられます。

 このような話をすると、必ず、コストや財源の話を持ち出してくる人達がいます。それに対してはどう答えるか。


3.「核災害は、市場の構造を変えてしまう」ことを訴える

 既に当ブログで繰り返しているように、核災害は、一次産品のブランド価値を毀損させ、市場の構造を変えてしまいます。生産者の努力や思いは関係ありません。それが非情な現実です。一度変化した市場構造は元に戻せません。消費者に、特定の商品や産地のものの購入や飲食を強要はできないのです(一次産品だけではなく、観光業などにも影響を及ぼしますが、ここでは分かり易い例として一次産品を書いています。尚、私は、フクイチ事故では、東電の電気の消費者と、最も大きな被害を受けた被害者が異なるのが最大の問題点だと考えていますが、本記事ではそこには踏み込みません)。

「市場構造の変化」に関しては、過去記事に記載しています。
(リンク)​ALPS処理済み水の海洋放出に反対~市場構造の変化も、核災害による被害~

 処理水の海洋排水に踏み切れば、市場構造の変化が更に深化し、近隣自治体にも波及するかも知れません。そうなっても、誰も補償・賠償はできませんし、実際に、やらないでしょう。市場構造の変化で、どの程度の売り上げや収益が失われるのか、誰にも確からしい予測や計算は不可能な筈です(今までのところ、そのような確からしい試算を提出した個人や組織を、私は知りません。仮に試算できたとしても、賠償が可能なのかという問題もあります)。

 又、ロシア外務省・韓国政府・環境保護団体グリーンピースが(処理水の海洋放出に)反対や懸念を表明している以上、日本の国際的信用の失墜による損失が発生するかも知れません。これも、広い意味での「ブランド価値の毀損」です(このような損失を金銭に置き換えたり、誰かに賠償させるのは恐らく不可能でしょう)。

 これらを考えると、経済的にも「不可逆的な(取り返しのつかない)」影響を及ぼす可能性があります。ただでさえ、3.11が起きたことで国の内外に不可逆的な影響を発生させているのですから、ここに新たな影響を加えたら、一体、どうなるでしょうか。

「国内外に計算できない損失」を発生させるリスクより、タンクの保守・リプレース(更新)等、確からしい見積もりが算出できる方法(=タンク保管の継続)を選択した方が、コストを考える上でも、相対的に遥かに合理的と言えます。


 以上が、「ALPS処理水の扱い」に関しての、現時点での私の考えです。
 昨年、公聴会宛に意見を提出した時と変わっていません。寧ろ、ワシントンポストの記者が東電の記者会見に来たり、国際環境保護団体「グリーンピース」が報告書を提出したことで、昨年の考えが、より、強化されています。

 本記事冒頭に掲載した「ALPS処理水に関する議論と検討の経緯(概略)」は、今後、新たな動きがあれば、適宜更新し、当ブログに載せていきます。
 今後も、この問題は追いかけ続けます。

春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ ​​​​​​






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