肝臓。
夕飯に鶏のレバー生姜醤油炒めが出た。レバーは結構好きである。特にハツが好き。あの表面は香ばしく内部ジューシーな食感、レバーに有りがちなアンモニア臭さの無い濃厚な旨みは他に無いものだと思う。焼き鳥屋などへ行けば確実にオーダー。ハツは心臓であり英語で心臓を意味するハートから名付けられているらしい。しかし何故複数形なのだろうか。レバーをウマウマと喰らう春正。・・・その時ふと遠い記憶が蘇って来た。時は十年ほど前。大学時代を北陸地方で過ごした春正には北陸地方の友人が結構いた。てかいなきゃ寂し過ぎる。その一人である景谷(仮名)。半年留年して大学を卒業し一般募集で警察官を目指すという困った人間であった。当時新潟の実家で暮らしていた。その時春正は留年しており5年生で景谷の数百倍はダメ人間だったのだが。ある日富山に住むツレ亀山(仮名)から「カゲやん(景谷)ち行こうぜ。」とTELがあった。ヒマだし学校には行くつもり無いしでやはりダメ人間だった春正は二つ返事でこの提案に乗ったのだった。マイカーで亀山を助手席に乗せて高速道路を一路新潟へ向かう。いい加減走った頃、距離標識で「新潟 230Km」というのを見てイヤになりかけたが今更引っ込みが付かないので必死で走る走る俺達。無事到着。23時くらいに景谷と合流。その日は景谷宅に宿泊。アニメのポスターが所狭しと貼られた部屋に引く春正だったが景谷がアニメオタクだった事を思い出し納得した。久々の再開に酒を酌み交わし大いに語る3人。話題がエヴァンゲリオンだったのであんまりよく分からなかったがテキトーに話を合わせた。春正「主人公が内向的過ぎるよね。」景谷「いや~、ああじゃなくちゃつまらないよ。」次の日。景谷運転の景谷カーで新潟市内へ向かう。新潟は思いの他都会だった。これがロッキードパワーなのだろうか。交通網、特に自動車道が想像以上に発達していた。感心していた春正が連れて行かれた先が・・・アニメイト。オタク御用達のアニメショップである。・・・すごい世界があったモンだなぁとここでも感心した。エロアニメビデオコーナーでどれを買おうか考え込む景谷。生セル画コーナーでどれを買おうか考え込む亀山。一体どこを見たらいいのか分からず右往左往する春正。三者三様ではあるがそれぞれの趣味嗜好を雄弁に物語っていた。その後メシでも食おうという事になり一人千円で食べ放題の焼肉屋へ行った。当時既に美味い焼肉屋の味、値段の相場を知っていた春正にとってメッチャ危険な香りを感じる値段設定だったが一人異を唱えるのも大人気ない。まともな焼肉屋へ行けば千円では上ロース一人前も食えまい。まぁいい。不味けりゃ不味いでその中でも比較的美味いモノをチョイスして食えばいいやね。バイキング形式なのでそれぞれが入れ替わりで食材を取りに行く。店内の注意書きに「大量に残された場合は別途料金を頂きます。」とあった。そこいら中に書いて貼ってあるのでかなり徹底している。間違い無く頂くぜっといった勢いを感じるんである。ふむ、食べられる分だけ取れという事だね。肉は・・・美味そうには見えないなぁ・・・。特にレバー。色がダメ。臭いもダメ。これは取っちゃダメだな。お、カレー汁と白飯がある。おおう、うどんもあるよ。カレーもうどんも大好きさ。肉がダメならこれで満腹になろうっと。ちょっと焼いた味付けが濃い肉をうどんにのせたらステキな肉うどん完成だよ。ほっほーい。とりあえずカレーをよそい、赤身の肉を適当に取り席に戻る。しばらくして景谷が戻って来た。その皿には・・・レバー山盛り。おーーーーいっ。なんでそれ持ってくんの!?景谷「レバーは鉄分とか造血作用とかあるしね。」いやそんなウンチク要らないよ。昨夜酒飲みまくっておいてなんで急に健康を気にするの。山盛りっつーか20切れくらいたっぷり取って来やがったコンニャロウ。返して来なさいと言いたかったがその時絶妙に店員と目が合った。「残すの?」と問いかけるような店員の微笑。・・・残さないよ。えーえ残しませんとも。もしかしたら間違って美味いかもねだよふぅ・・・。てなわけで焼いてみた。立ち上るアンモニア臭のスモーク。・・・既にダメっぽいが食ってみたら美味いかもしれん・・・モグモグ・・・う~ん・・・ツーンと鼻に抜けるアンモニア。ダメだ。信じられんほどマズイ。思わずマズイと声に出しそうになった。飲み込むのにも一苦労。これで金を取ろうってのかというレヴェルだ。味の程は当の景谷が声を失って顔色が若干悪い事からも明らかだ。といって残すわけにもいかない。景谷のせいだからといって景谷だけに貧乏くじを押し付けるわけにもいかない。よし、3人で食おう。僕ら友達じゃないか。1人7切れならなんとか往けるんじゃないの・・・天国とかさ。ゴートゥーヘブンフレンズ。なんとか味の濃いものと組み合わせてアンモニア臭を誤魔化そうとするおバカトリオ。素材の持ち味を完膚なきまで叩き潰すのだっ。アイデアマン亀山が繰り出すスーパーテクニック「レバーカレー レバーキムチ」うどん好き春正が亀山からヒントを得て繰り出すウルトラテクニック「レバーカレーうどん レバーキムチうどん」ファンタジスタ景谷が満を持して放つテクニカルファンタジー「レバー丼 レバー汁」・・・って景谷クン素材を生かしてどうするの。素材の魔術師だね。・・・どうにもならんなぁ。特にレバー丼。せめて臭みを消す工夫しなさいよ。食べている景谷の表情が優れないのが哀れみを誘う。そりゃそうだ。素材の臭みが生かされまくってるしね。レバーカレーうどんが若干マシではあったがレバーの臭みが誤魔化しきれていない。なんか臭いカレーうどんという域から脱出不可能。・・・結局なんとか完食。はちきれんばかりの腹を撫で下ろす小市民3名であった。この後腹ごなしにバッティングセンターへ行ったが景谷は真っ青な顔でトイレへ行ったきり出てこなかった。この後景谷は無事警察官になった。最初の歓迎会の自己紹介で「昨日飲酒運転してきました~。」とやらかしマジ厳重注意を喰らったらしい。その後遭難者の捜索チームに加わり山へ行き自分が遭難したらしい。自分が警察官に向いてないと判断した彼は、新潟県警トップの不祥事に便乗して辞職し某所の「お魚センター」に就職し今に至る。警察を辞めたと聞いた時には亀山と二人で「あの子警察は向いて無いよなぁ」と頷きあったんであった。元気でやってるかなぁ。