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はるのひの気まぐれ通り雨

はるのひの気まぐれ通り雨

「細川ガラシャ」

●劇的序楽「細川ガラシャ」(1968年)

細川ガラシャは天正年間、明智光秀の三女、玉として生まれ、16才にして細川忠興に嫁いだ比類なき美女と伝えられる。ガラシャの多難な生涯は本能寺の変に始まる。信長を倒した光秀は秀吉に討たれ、細川忠興も秀吉に仕える身となったが、反逆者としての悲命に彼女はキリシタンに走り、ヤスペデス神父より「ガラシャ」の聖名を受け信仰の道に入った。(ガラシャという洗礼名には『恵み』という意味が込められている。)しかし安らぎは得られず、秀吉からの求愛に苦しめられた後、邪宗門として捕方を差し向けられ幽閉の身となった。秀吉の死後は幽閉を解かれ、細川邸で暮らしていたが、石田三成と徳川家康の対立が激化する中、細川を徳川臣下であるとして人質となる事を要求する三成に対し、自ら門を閉ざした邸で、臣下に首を切り落とさせて、更に火を放つ事を命じ、燃え上がる焔の中に苦悩に満ちた生涯を閉じたのだった。

 序奏部Adagio・・・・・冒頭の短い悲痛な楽句の強奏はガラシャの悲運を暗示する
  Allegro・・・・・戦乱の動乱相継ぐ当時の不安な世代を表現する

  Andante・・・・・宗教的な曲調はその頃信長・秀吉等に容認されたキリシタンの伸展を語る
  本能寺の変Allegro ma non troppo・・・・・ガラシャ苦悩の発端となった父光秀の叛乱
  Adagio Pesante・・・・・戦乱の悲哀
  優美なガラシャElegante・・・・・琴の音を偲ばせるギターのリズムにフリュートのソロを前駝としてガラシャのテーマが導かれる、高度の教養と端麗な容姿のガラシャが描写されるが、悲運の哀愁もただよう
  不安Poco Piu Mosso e stretto・・・・・低音部の不安な動きが世相の不安とガラシャの苦悩を描く
  聖歌Adagio・・・・・心の不安をキリシタン宗門への信仰に求める。しかしこの希望の光も石田三成等の圧迫の手に覆われる 
  豊臣方の襲撃Presto・・・・・人質として大阪城内への移動に応じないガラシャに討手の軍勢が向けられる。会津討伐の留守をあずかるガラシャは夫の命に従って、実名を死守する決意を定める
  ガラシャの死Lento Espressivo・・・・・自殺厳禁のキリシタン宗の掟により、侍臣小笠原小斉の刃先を受けて死す

曲はガラシャの悲劇的な生涯を暗示して始められ、戦乱の世を象徴する Allegroのメロディと壮麗な Andanteの聖歌を中心に展開される。途中静まった後、ガラシャのモノローグともいうべき木管のモチーフが不安げに現れるが、やがて再び戦火に巻き込まれていく。クライマックスではガラシャの信仰告白のように聖歌が高らかに再現されるが、三成の襲撃を思わせる Presto のメロディに押し流され悲劇的な最期を迎える。


 「散りぬべき時知りてこそ世の中の、花も花なれ人も人なれ」この有名な句は細川ガラシャが、苦難の生活を送りながらも自己の尊厳と人間愛を貫き通し、女性であることの誇りを守り、常に世の中の平和を祈り続け、波乱に富んだ生涯を送った事の証である。


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