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カテゴリ:八房之記憶
調子が良くない。二度のエンジンストップだ。機嫌が悪いのか。なだめたりすかしたり。くすぐってもみるが、あまり効果はない。やむを得ず、だましだましに走らせていると、どうやらコツがつかめてきた。
形こそはどん亀のようだが、エンジンをいじり、足回りをいじり、スピードとパワーだけはモノ凄いものに仕上がっている。なのに、この街の渋滞では拗ねたくもなる、ということらしい。 ためしに郊外へと抜けてみる。窓を全開にして軽くアクセルを吹かし、エンジン音を聞いてみる。すこぶる好調だ。スピードがぐんぐんぐんと伸びていく。 「こいつはじゃじゃ馬だから、このシートがついていたんだぜ。」 そう言ってイラン人バイヤーが見せたシートは、明らかにレース用の一体タイプのものだ。これは何でもおかしかろうと笑っていたが、確かにこのパワーは、レース用のそれに相応しい。僕は、もっとアクセルを踏み込む。銀色の銃弾は、さらに加速を続ける。 僕の身体は液体のように、夜の国道を流れていく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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