​私は剣のために生きたい

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​白一色、雪に覆われた江戸城大手門から下がる井上河内守一行の行列が出てきます。河内守は駕籠の中ですべて思うままうまくいたとほくそ笑んでいます。
坂下門外で新吾が木の陰に隠れて行列の来るのを待っています。その新吾が目の前まで来た行列の駕篭めがけ駆けていきます。​
　
　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「狼藉者、何奴だ、無礼者」の声と共に、供回りが新吾を囲みます。​

「下がれ狼藉者」と言って出て来た井出市右衛門は顔を見てびっくりし、
井出「御貴殿は・・」
新吾「謀反の犬め」
斬り込んできた井出を、一刀のもとに切り伏せます。​​
　
　　　　　　　　　　
「邪魔するな」「寄るな」といいながら、新吾は河内守の駕篭に近づけまいと立ちふさがる供回りを斬って捨てていきます。​
　
そして、駕籠に近づいた新吾は、
新吾「河内、出ろ」
河内守は駕籠を開け、新吾を見て「あっ、あなたは」とびっくりします。​
　　　　　　　　　　　
新吾「父上の側近を汚し、幕閣を毒する奸臣、天下万民のために、汝を斬る」​
  
抜打ちに斬りかかる河内守を、新吾は一刀のもとに切り捨てます。​
　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　
その知らせは、すぐに吉宗とお鯉の方に届きました。
「新吾が斬るには何か訳があるはず」・・充分に調べたうえ処分を、とお願いするお鯉の方に、厳しい顔をして「言うな」と吉宗・・・そして、おもむろに言うのです、「老中井上河内守は病死した」。その言葉に驚きを見せたお鯉の方は、城内や江戸の町には知れ渡ているはずと心配しますが、吉宗の「噂などいい耳を貸すではない、河内守は急病にて死んだ」との言葉に安堵した様子を見せるお鯉の方に吉宗は言います。・・対面は取止めねばなるまい。わしとてそなたに負けぬほど新吾に会いたい。こうなったら、将軍の使命としては会うことはできぬ、終生会うことはできぬかもしれぬ。その代わり、新吾には好きなことをさせてやりたい。余の出来なかった自由な天地に放してやろう・・。

数日後、旅に出る新吾と多門の姿がありました。お縫が、上様と御部屋様のお心遣いだといって新吾に渡します。
「葵新吾、この者、諸国通行勝手たるべし」吉宗からのお墨付きでした。​
　　　　　　　　　　　　　　　　　
ご対面までこぎつけながら、血を分けた両親とも顔を合わさぬままに・・我々の補佐が行き届かず・・ご両親に申し訳ない・・という、多門と庄三郎に、
新吾「それでよかったと思います・・私の両親は、私の夢の中に生きています」​​
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
庄三郎が新吾に謝ります。
新吾「いえ、新吾は剣の中に育ったのです。新吾の父は剣、母も剣、私は剣のため
　　　に生きたいと思います」​​
丸は我々の夢、権力に屈せず、剣の道を突き進む丸は、我々の希望だ。我々の実現し得ぬ夢を、丸に実現してもらいたい、という多門と庄三郎の言葉に、新吾は明るく頷きます。
  
そして、庄三郎に挨拶し、お縫に目をやります。​​
　
お縫も、新吾も何か言いたそうでしたが・・・(二人は、心の中で何を思っていたのでしょう)
  
新吾と多門は、手を振りながら、庄三郎とお縫に別れを告げ旅立っていきます。
　　　　　　
　　　　　　　　　　　
​

　　　　　　　　　　　ここまでが、『新吾十番勝負』になります。

　　​　続きます。​