356247 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

Brog Of Ropesu

Brog Of Ropesu

Act 3 続き2

●◎●


「生クリームに死を!」

「ほう?それはパティシエ志望の俺に対する挑発・・・その挑戦。しかと受けとったぜ?」

意見の違いから、騒音の象徴である三河と、軽口王と自他共に称される総一がぶつかり合う。今日も変わらない日常の一コマだ。

「おいおい待てって!これには理由がきちんとあんだって!
良いか・・・驚かずに耳の穴かっぽじってよーく聞けよ・・?こないだ、仕入れた情報なんだが、生クリームを食べ過ぎるとガンになるらしいぜ・・」

「おいおい・・!マジかよ!そんな情報初めて聞いたぞ・・・!」

「ああ・・・水中呼吸のマ○リアくらいマジさね・・・」

そりゃモロにガセじゃねーか、と今日も今日とてソース不明の適当なネタをひけらかし弁解する三河に、総一の上段回し蹴りが冷静且つ的確に三河の左側頭部に浴びせられる。

優衣ほどでは無いが、総一も中々に足癖が悪い。主従に近い形ではあるが、なんだかんだで波長が一緒な色々とお似合いの二人ではある。二人が罵り合いつつも、暗に共に居る事を是としているのは、ある意味至極当然の流れなのかも知れない。

余談ではあるが、総一は基本的に軽口や冗談は叩きまくるのだが、直接的な攻撃に出ることはまず無い。
対三河限定でのやりとりだ。
三河というヤツは人望があるのだか、無いのだか、良く解らないヤツだ。と、瞬は思う。



―――シヴァが襲来した事件から一週間が過ぎた。
あれ以来、十戒からの追っ手はピタリと止み、特にこれといった異変や違和感などはなく。平穏な毎日が続いている。
そんな、恒常的に繰り返していく日々。以前と変わらない、どこか退屈であるけれど満ち足りた日常。もっとも、油断は大敵なのだが。
何かの前触れの可能性もあり、警戒を怠っているワケでは無いのだが、その安寧に身を任せてしまい、ついつい気が緩んでしまうというものだ。

誰だって、常に気を張っている状態など好みはしないのだから。



「じゃじゃーん!なんとっ!今日はお弁当を作ってきたんだよぅ!はい!これ瞬君の分ね!」

そんな光景をぼんやりと眺めていた瞬に、未来が何やら香ばしい匂いを漂わせる包みを眼前に差し出す。
ふ、と時計を見やると、長針と短針が一直線を示している。
どうやら、もうお昼休みの様だ。

呆け過ぎて時間の感覚が鈍るほど散漫になっている・・・・やれやれ、このようなぬるま湯志向な思考では先が思いやられる。気を引き締めなければならぬな、と自分の怠けを再認識した瞬は、ひとことだけ、悪いな、と感謝の意を示すと、それを受取ろうとする


「お!みくたんのお弁当!も~らいっ!」

・・・・が、空気を読むどころか、空気という単語すら知らないであろう馬鹿一名に阻まれた。

「あ・・・・それは・・」

未来の制止が耳に届くよりも早く・・というよりも元より聞く気すらない様相で、既に弁当を半ばまで頬張る三河であったが、

「う・・・・うまい・・ぜ・・・・」

顔面蒼白を呈し、ひくつきながらもCMオファーがくるのではないかと思うくらいの爽やかな笑顔を立てた親指と共に未来に向けると、そのまま勢いに任せ完食しきったところで力尽きた。

腹さえ満たせれば、入れるものは何でも良い。過程よりも結果が全てだ!、とまで言い張る、樹ですら箸を置いた未来の手料理。
それを例え隠し切れていないとはいえ、平らげる荒業。
(女性限定ではあるが)人を傷つけまいとするこいつのこういう所は素直に尊敬しても良い。
それに何のかんので口にしたく無かった料理も未来を傷つけること無く処分出来たのだ。その働きを評価して褒美を取らせても良いくらいであるな、と瞬は心の中でほくそ笑んだ。まさしく天晴れだ。

「う~ん・・・けっこうな自信作だったからきっとおいし過ぎて驚いちゃったのかな?私の料理ってばさいきょーねっ!」

そんな三流以下のコントのようなやりとりを見届けると、特に空腹というわけでも無いので、教室のざわめきをBGMに、さて、昼寝でもしようと洒落込もうとしていた瞬であったが

「瞬、大切な話がある・・悪いが、屋上に来てくれないか?」

机に突っ伏そうとした矢先、総一からあの日、未来の事を問われたとき以来の、いつになく真剣な面持ちでの誘いを受けた。
いつもなら、社交性に乏しい瞬のこと、聞こえていないフリか、断って熟睡を決め込むのであるが、シヴァとの一悶着以来音沙汰も無いことも気になる。
総一の決意を秘めたような表情から、リーウェルのとき同様、何か情報でも持っているのかも知れない。

ダメで元々。今は、界隈での異変など、どんな情報でも欲しい所だ。
それに、何かを知ってしまったとしたら、普段はそうは見えない軽薄な男であるが、人一倍正義感の強い総一のこと、無茶をして危険に巻き込まれる可能性も十分にあり得る。
そのよう様々な”IF”を想定。巡らせた瞬は、二つ返事で了承し、総一に連れられる形で屋上へと向かう事とした。





●◎●



「これは惨い・・・・これが人の行う所業なのでしょうか・・」

スリーピーススーツを着こなした、一見すると大手商社のOLを思わせる妙齢の女性が、辺りを見渡すと、暗く陰りを見せる。
心なしか、その心境に合せたが様に輝くように映えるブロンドの髪も、どこかくすんでしまっているように錯覚してしまう。

十戒の首魁と思しき人物に”アエロー”と呼ばれていた人物である。
“一見”と表現するのは、此処が彼女の様な人物の象徴となる華やかなオフィス街には似つかわしくない場所であるからだ。
繁栄という言葉を体現したようなストリートのそれとは対照的な、誰の記憶からも忘れ去られた野晒しの白骨死体を思わせる工場跡地。

ルーと呼ばれていた少年の終わりを告げる爆発から、それなりの時間が経っているが、未だに周囲には小さな火が燻り仄かな灯りを呈している。しかしそれが月にさえ忘れられた真の宵闇よりも、より、不気味さを醸し出し、彼女を静かに照らし出す。

だが、それは、まるでここで終わりを告げた少年が、この場所であった惨劇を・・・・自分がここに存在していた証を訴え主張しているようにアエローは感じた。
それはどこか、儚く命を告げる蝋燭を連想させる。この灯火は果たして彼を弔う神火となってくれるのだろうか?

そんなことを思いながら、しゃがみ込むと足下に転がる黒い塊を手に拾い上げる。
軽く煤を払ってやると中身が姿を現した。所々焼け焦げて判別が難しい程になってしまったが、間違いない・・・・ルーが常に身に着けていたしポーチだ。

十戒とは必ずしも同じ思想で集まった者達で構成されているワケでは無い。
このアエローなどは自らが思い描く絶対正義という名のヒーロー像を固く信じ、その理想の元に所属しているメンバーではあるが、ルーの様に純粋な戦闘能力だけを買われ、本人も何らかの目的の為に言わば上辺だけの協力をしているだけの者も確かに存在する。
仲間と言うよりは利害関係の一致のみで繋がった、組織としては危うい関係。

特にルーはその傾向が顕著に表れており、性格や考え方の違いから他のメンバー・・・マキナなどとは度々意見が対立し、互いの実力故、言い争いが殺し合いの一歩手前まで発展することも少なくなかった。

そんな、ルーであってもアエローは少しやんちゃな弟のように接していた。
彼女にとっては、そんな”脆い”と言っても差支えない集団であっても“仲間”であり、若年層が多いメンバーの中では姉的立場から、むしろ微笑ましくその光景を見守っていたのだ。
そんな、彼女が見紛うことはない。紛れもなくこの手にあるのはルーが所持していた、図らずとも遺品となってしまった忘れ形見である。

改めて、見渡すと、そこかしこに散らばる、黒い消し炭と白い灰の明暗の明確なコントラスト。
恐らく焼け落ちて崩れ爛れた肉と骨だろう。
彼“だった”最期の証が、放置され、遠き日の残滓の様に晒されていた。

とても大切なモノらしく、他人が触れたら激昂するほど、大切にしていた首から提げていた鈴もその場に転がっていた。
それと並んで、まるで、小さい子供のお気に入りのタオルケットのように襤褸切れとなるまで、肌身離さず持っていたリボンのような布切れも、ルーの宝物の一つであったのだが、辺りには見られない。どうやらこちらは完全に燃え尽きてしまったらしい。
それら全てが物証として否応もなしに、最早原型すら留めていないが、ここにルーの亡骸があることを呆れるほどどうしようないくらいに証明していた。

例え、彼がメンバーきっての問題児であったとは言え、ここまでされて平気な顔が出来ようか?

答えは否。アエローの感情の波が押さえ切れなくなりそうになる。
それでも泣いてはいけない。
きっと彼が傍で見ていたのならば、同情なんてしたらたちまち怒り出してしまうと思うから。

宗教が根絶して久しい今、それは形骸化したモノであり、何の気休めにも意味も持たないが、彼女は静かに胸の前で十字を切る。
これが、彼女が知り得る死者に手向ける唯一の術。言葉など安易に何を掛けて良いのか解らないし、口を開いた途端に抑えていた感情の波が堰を切った様に溢れ出してしまう。

―――成程。宗教的作法にはそんな意味もあるのだろうか?などと先人の知恵に感心と納得の意を示していると

「はぁ~い?お姉さんひとりぃ~?こんなとこでなにやってんのかな~?」

軽い調子の声が背後から聞こえてきた。
その呼びかけに半ば反射的に見やると、その声に違わず、如何にも日々を何も考えず刹那的に生きている様な、軽薄な背格好の青年・・・・と言うにはまだほんの少し足りない少年が佇んでいた。
薄明りで輪郭がはっきりしない為、想像に頼るしかないが実際はもっと幼いのかも知れない。
それほどまでに言動も服装もチャラチャラとした人物である。ここら辺りを縄張りにしている不良少年だろうか?

少年から発せられる場違いな明るい声が酷く苛立たしく感じる。何にせよ、その存在が煩わしい。

普段ならば、この手の輩は軽くあしらうアエローであるが、このときばかりは少し声を荒げた。

「今は、貴方の相手をして差し上げる余裕はありまセン・・・・貴方こそ、こんな場所に何の御用でしょうか?
ここは、子供が遊ぶには少々物騒ですよ。文字通り火遊びになってしまいマス」

ほら、と今も燻る火種に、皮肉を織り交ぜた口調で、顔をしゃくる。

「ありゃ?あっちゃーもしかして気分悪くさせちった?
いやーわりーわりー・・・・そんなつもりは無かったんだがなー。
何の用?って聞かれてもなぁー。んーこれ言っちゃっていいんかねぇ?

・・・・ま、いっかめんどくせーし。おりゃあよ、仲間を回収しにきたんだなーこれが。
ま、どうせすぐ生き返るんだろうけど、野晒しにしておくのもあんまりだしよー」

この少年は自分の知らない人物。―――そしてその少年の指す“仲間”という単語。

そう、それ即ちこの場所でルーと交戦していた、彼女にとっての“敵”の一派だということだ。
その答えが指す意味に気付いた瞬間。アエローは太腿に括り付けていたホルダーから銃を即座に引き抜くと、両手で銃を構え照準を少年へと向ける。
リボルバー式のごくごく一般的な護身程度の小銃ではあるが、威嚇の役割を果たすには充分過ぎる代物だ

「名を名乗りなさい!そして・・・・」

「い・や・だ。って言ったらどうする?」

アエローの言葉を遮るかのような即答。
挑発染みた回答にアエローは一言、こうします、とだけ告げると少年の足元に二発。耳の傍の虚空を穿つように一発、確実且つ正確に引き金をひく。

ほぼ3点同時の速射である。いくら護身用とは言えリボルボー式の小銃である。女性の力では反動の大きさも馬鹿にはできない、にも関わらずそれを意にも介せずといった具合である。
そこから彼女の銃射撃が並大抵の技術では無いことが伺える

「あ、やっぱり?いやーこのセリフ一度言ってみたかっただけなんよ。わーったわーったって!そんなおっかねぇ顔しなさんな。
名前なんて、別に隠すモンじゃあねーしな、むしろ真剣勝負の前に名乗り合いは必要?みたいな?

あ・・・・つっても、そっちはワケわかんねーカラクリ使いだから“剣”ってワケじゃあねーなー・・参った!こりゃあ一本取られたわ!」

緊迫感というものが無いのか、まるで、親しい友人に語りかけるようにちゃかす少年。その様子は銃を恐れない・・・というより、それがどういうものなのか知らないといった印象を受ける。
そんな少年の態度にアエローはくすり、と微笑むと無言で彼の被っているスポーツキャップの唾を撃ち抜いた。

「おいおい・・・・すっ短気なねーちゃんだなー、おい。冗談だっつーの。
我が名は、吉備の国が桃太郎!おっと、こっちはジョークじゃあねぇぜ?
正真正銘の御本人様だぁな。ビックリした?ねぇ、驚いたっしょ?どう?どう?」

鼻息荒く得意げに胸を張る、自称“桃太郎”の少年は、いやー人気者はまいっちゃうねーなどと、自画自賛気味に頬を掻きながら、アエローへと笑いかける。

「どなたでショウか・・?ご存知ありませんが・・・・何所かで御会い致しましたか・・・・?」

少なくとも、彼女がこれまで関わってきた人物で“桃太郎”という名前に人物に心当たりは皆無。訝しげな表情を浮かべながら、視線を少年へと向け直すアエロー。

―――よくよく観察すると不思議な雰囲気を漂わせる少年である。

どうも時代遅れというか、世事や流行りものに疎いというか、何か齟齬のような違和感が払拭し切れない。
事実、彼は問答無用で威嚇射撃を行った際、“銃”という言葉を使わずに“カラクリ”という表現を用いた。

いまどきの若者が“カラクリ”などと言う表現を咄嗟に使うだろうか?

それに、現代社会に於いて、いくら島国で閉鎖的気質であるこの国であっても
銃―――その概念を知らないとは考えにくいし、たばかる事が目的だとしても、そんなことをカマかけしても何のメリットも無い。そんな瑣末な違和感が何かしらの意図、策略があるとも考えにくい。
そもそも、服装も時期ごとに流行したアイテムを見よう見まねでゴテゴテと飾り付けたアンバランスなコーディネートで、一言で評するとファッションとしては無茶苦茶である。

それは、単にセンスが悪いというよりも、老人が見よう見まねで若者を真似た服装・・・・といった印象を連想させる。
そう関連付けると、言動も見よう見まねで若者の喋り口調を模倣しているだけに思えてくる。

「おいおい!有名どころ日本一だぞ!ホントにしらねぇのか・・・・?」

そんな彼女の思案を余所に大仰に驚いた様子で問いかける自称“桃太郎”に、素っ気無く一言、はい、とだけ応答するアエロー。

「・・・・あんたどーゆー幼少期過ごしてきたんだよ・・・・、てか、あー・・・・良く見たらねーちゃん異人さん?

いやーまったく・・・・この時代はみんな髪の色がバッラバラだから全然わかんねーわ。
顔もハクいんが多いからよぉ。頭ん中がしっちゃかめっちゃかにならぁな。ま、俺が人の髪を言えたぁ義理はねーけどよ」

そう言うと少年は、こいつは参ったなぁ、とケラケラ笑い出す。
第三者が見れば、あどけない、いかにも無邪気といった笑みに見えなくもないが、最早、彼を敵だと看做しているアエローの双眸には、とても歪で醜悪に映った。

それもそうであろう。彼はもしかしたらルーの・・・・仲間の仇であるのかもしれないのだ。

「それにしてもよー。ねーちゃんさ?妙な目運びすんよなー。
やっぱその得物の特性上、そうなんのか?
なんつーかさ、ふつーは、全体の動きを見るために人体の動作を“線”でみるのが、俺らの常套なんよ。
あんたのその目つきは“点”でみてらぁな?どうだい?ビンゴかい?」

空気の抜けたような、腑抜けた言動。加えてノンベンダラリとしたその態度。それによる先入観で取るに足らない人物だと言うのがアエローの評であった。

だが、先ほどの言葉から鑑みるに、桃太郎は一目でガンスリンガーの特性を看破した。
その動体視力も恐るべき事項であるが、何よりも恐ろしいのは、その戦況判断力である。

それとも、銃使いの特徴を元々知っていて、前述に“からくり”と表現を用いることにより、ミスリード・・・・知らぬ存ぜぬを演じ、こちらに自分を大きく見せることにより、戦意を削ぐのが目的なのだろうか?

戦略であろうと、先見とも言うべき明晰さであろうと、味方側からすれば優秀。敵として相対するのならば危険な人物であることには変わりない。

やろうと思えばすぐに相手を制圧出来ると思っていた自分の考えに少し修正をかけなければならない。
このままの考えで行ったら行き着く先の答えは即ち・・・・敗北だ。
戦闘に於いて用心と言うものは、過剰ということは無い。出来る限りの、あらゆる場面を想定しておくに越した事は無いのだから。

そう判断したアエローは先手必勝・・・・多少、未知の相手に対する恐怖という感情も入り混じったのであろう。眼前にいる少年に

――――一筋縄ではいかない、と結論付けた瞬間、既に、その命を刈り取る、桃太郎曰く“点”の攻撃を放っていた。

眉間、大きく口を開けて笑っている口蓋、心臓、と、上から順に人体の急所を、淡々と、だが着実に狙い撃つ連砲。

周囲には、ただ、乾いた発泡音だけが、寂れた廃墟に響き渡る。


一般的なリボルバー式拳銃である以上、最大充填数は六発である。
挨拶代わりである先ほどの威嚇による発砲三発と併せると、事実上の全弾掃射である。
やはり、杞憂であったか?とアエローが安堵の息を吐こうとした刹那、微かな金属音と共に人体に着弾したものとは違う、聞き慣れない小さな鈍い音が耳に届く。

「異人さんには見慣れねぇだろ?この国に盾っつーもんはあるにはあったんだけどな、独自に発展した強固な鎧や刀の特殊な構造。それに加えて合戦の方法。
色んな理由から、盾は使い勝手がイマイチだったんで、廃れていっただわな、これが。
だから、こんな技術が生まれたんだぁな。二刀流ってヤツがさ」

桃太郎はやれやれといった具合に肩を窄めると、いつの間にや抜刀したのか、右手と左手に携えた二本の刀を構える。
肝心の弾丸はと言うと、それらは全て、桃太郎の背後にあったトタン壁を穿っていた。その隙間から覗く月光を浴びた刀は、まるでセントエルモの火を思わせるように、自らの存在を主張するが如く、煌びやかに、それでいて妖しく不気味な光沢を放つ。

勝利を確信し切っていたアエローであったが、まだ敵を仕留められていない。
桃太郎の含むような蘊蓄を聞いているのかいないのか、焦り半分、出来るだけ動揺を悟られぬよう、続けて六発、ほぼ同時に一斉掃射する。
狙う点は全て相手を一撃で仕留められる致命的部位。

例え、六発中五発外れようと、それら一発でも何れかに命中さえすれば相手を即死させることができる箇所だけに絞る。

「こんくれぇの速さが見切れなくちゃぁ、剣士は名乗れねぇさ」


半ば、彼女の予想通りの結果であったが衝撃は隠せない。
桃太郎は手にした刀で、その六発全てを、指揮棒を振るようにしてリズミカルに銃弾を、或いは弾き、或いは受け流した。
やはり先ほどの三発も”外した”のではなくこのようにして”外された”のだ。

「お?驚いた?中々やるモンだろ?
二刀流っつーのはな、右の刀で受け流し、左で切り下ろすのが基本の型になる、言わば”守りの剣技”なんだわ。
真剣同士の斬り合いじゃあ、刀の鎬の部分はそのまま盾と同じ役割を果たせるしな。
刃物に対する盾が発達しなかった大和の国における盾みてぇなモンさ。

だからぁよ、構えも右は通常の腰より少し上くれぇに位置を置き、左は頭上に上げておく形になる。
勿論、二刀流にも攻撃型があってな。そんときゃー両方の刀で、斬撃が平行になるように同じ向きに斬る。そうすっと相手は片方の刀しか止められずオサラバさ。

良く、習いたての小便くせぇバカが、かっこつけて十字に斬ったりなんかしちまった日にぁ悲惨の一言。
交差点を受け止めらちまってぇ、それでシマイだ。

どう?勉強になった?ねーちゃんも、そんな野暮ってぇ得物なんざ辞めて、俺んとこで二刀流学んでみない?
ねーちゃんは異人さんだけど筋が良さそうだから、けっこーいいとこまで行くと思うんだわ。今なら、弟子入り三十%オフ!お買い得だぜー」

もっとも、こんなすげーはえー金属塊を相手にしたのは初めてだけどなー、とまくし立てる桃太郎。

一人はしゃぎ、刀使いであるにも関わらず機関銃を思わせる語りを余所に、アエローは無言でもう一丁取り出すと、隙を突くと同時に彼の守りをも上回るが如き速度で刀自体を狙い撃つ。

敵対者に守りの武具があれば、それを壊してしまえば良い。
新たに一丁取り出し、両手に構えたアエローの銃撃は、単純に考えてもその速度が一丁であったときの二倍である。
引き金を引くことにより現れ出でた、二つの鋼鉄の獣が放つ咆哮は容赦も慈悲も無く、問答無用で少年へと襲いかかった。


© Rakuten Group, Inc.