小話ここは好き。 誰も私をいじめに来ないから。 「萌さん。少し良いですか?」 放課後。 委員長に呼び止められて、私は小隊隊長室に行く。 委員長の愚痴を聞きながら、書類整理を手伝う。 出入り口近くのデスクに向かっている加藤さんは、困ったような笑みを浮かべながら、口だけ動かして「大変やね」と、私に伝えた。 私は大変だとは思わない。 そう言う意味を込めて、頭を横に振った。 加藤さんはまた困ったように笑って、自分の仕事に戻った。 本当に大変だとは思わないの。 ここに居るのは好き。 委員長も加藤さんも私をいじめないから。 一時間もすると、加藤さんは隊長室を出て行った。 委員長と二人きり。 同じ空気だけど、違う空気。 加藤さんが居る時よりも、この時の空気が好き。 委員長の声が好き。 低すぎないで高すぎない。 凄く落ち着くの。 密かにじっくりと委員長の声を聞いていると、委員長は愚痴を止めて私に話しかけた。 「そうだ、萌さん。果実とか好きですか?」 「・・・・はい・・。」 「良かった。ちょっと待ってて下さいね。」 「・・・・・・。」 私が頷くと、委員長は少しだけ笑って出て行った。 二分くらい経つと戻ってきた。 手には苺を持ってた。 私の前に置くと、また笑った。 「はい、どうぞ。お礼ですよ。」 「・・・・・え・・?」 「ほら。いつも愚痴を聞いて貰ってますし、ね。」 「・・・・・。」 「遠慮しないで。さ、どうぞ食べて下さい。」 今は苺の時期じゃないし、それに今はどんな物でも高い。 そう易々と食べれる訳ない。 それも私だけなんて。 「・・・あ・・の。」 「どうしました?あ、苺は苦手でした?」 「・・・違う・・・他・・の人達・・」 「あぁ。気にしななくても良いですよ。 コレは二人だけの秘密ですよ。」 私の言葉を遮ると、委員長はまた笑って、苺を手に取り差し出した。 その時、私はなぜかその言葉が嬉しくって、苺を受け取った。 苺を一口齧ると、甘い味が口に広がった。 久し振りの自然な甘味に、私はまた嬉しくなった。 「美味しいですか?」 「・・・はい・・。」 「良かった。」 「・・・あの・・、委員長・・・も・・。」 「え?」 私は苺の入った容器を、委員長の前に移動させた。 委員長は少し面食らったような声を出した後、すぐにまた笑った。 そして、委員長も苺を食べ始めた。 今日はいつもよりも、この時間が嬉しく思えた。 時間が深夜になろうとした頃、委員長は片づけを始めた。 書類や筆記用具の整とんを終えると、校門まで一緒に行った。 「・・・・それ・・じゃ・・、さよ・・」 「送っていきますよ。」 「・・・・え・・?」 いつもならここで別れるのに。 「ほら、もう遅いですし。」 「・・・でも・・・。」 「良いんですよ。さ、行きましょう。」 「・・あ・・はい・・。」 今日は本当に嬉しかった。 明日はもしかしたら悪い一日かもしれない。 そうだとしても、きっと我慢出来るわ。 ジャンル別一覧
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