音楽雑記帳+ クラシック・ジャズ・吹奏楽

2021/12/29(水)21:36

平林直哉:クラシックの深淵

本(130)

​ GRAND SLAMというレーベルで著作隣接権※の切れた録音の復刻をされている平林直哉氏の「クラシックの深淵」を読んでいる。 「無線と実験」という雑誌に連載している読み物で、20回分が納められている。 管理人はGRAND SLAMのCDは一つも持っていない。 昔ワルターの「巨人」を買おうとしたが、結局買えなかったことがあったくらいだ。 この連載は氏の経験や書物からの情報、自分で調べた結果などが詰まっていて、大変面白い。 例えば、シュワルツコップとセルのリヒャルト・シュトラウスの「四つの最後の歌」の第一曲「春」が半音低いことを沼辺信一氏から教えてもらって、それに言及している文献がないか調べたり、徹底している。 氏は盤鬼と呼ばれているほどのコレクターでもあり、関連する資料のコレクターでもある。 好きが高じてCD制作に乗り出した人物であることがよく分かる、興味深いエピソード満載なのだ。 例えばワルターのCBS録音の復刻で、当時プロデューサーを務めた、ジョン・マックルーアとの書簡のやりとりを見ると、マックルーアの仕事の確かさや誠実さがよく分かる。 管理人が好きなジョージ・セルが『好きではなかったが、ベートーヴェンの交響曲全集のSACDを聞いて、精緻に磨き上げられ、気品と情熱がバランスが見事にバランスされている』と評しているなど、正直に語っているところも氏の誠実さが窺われる。 一つだけハッとすることが書いてあった。 <安倍政権とTPP>と題された内容で、2018年12月30日に我が国でTPPが批准され、それまで50年であった著作権や著作隣接権が70年に延長したため、氏の仕事である音源の復刻に制限がかかってしまったことだ。 その影響で用意していた復刻盤4枚がリリースできなかったそうだ。 著作隣接権は音源を保護する権利で、これが延長されると復刻を行なっている人にとっては大打撃だ。 同時に、昔の録音を、いい音で聴きたいと思っている人たちにとっても影響は大きい。 これによって復刻そのものが減ることで利益を得るのはレコード会社だけということになり、果たしていいことかどうか疑問が残る。 まあ、大手のレコード会社がちゃんとした仕事をやれば、マイナー・メーカーが復刻などということをする必要もないのだが。。。 著作隣接権が50年だったら、2021年時点だと1971年までの録音は自由に復刻できたのが、現在では1951年までのものまでしか復刻できない。 古い録音が好きな者にとっては影響が大きい。 管理人は殆ど音楽之友社の音楽雑誌しか読まないので、氏の文章にお目にかかったのは多分初めてであるが、氏は元々音楽評論家であり、文章は大変読みやすい。 ただ、内容がマニア向けで、好きな人にはたまらない内容だが、一般受けするものではないだろう。 盤鬼のつぶやき 氏のブログ 更新は2015年で終わっている。 ※ 著作隣接権:著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者(実演家,レコード製作者,放送事業者及び有線放送事業者)に与えられる権利 著作隣接権の発生:実演,レコードの固定,放送又は有線放送を行った時点で発生する(無方式主義)。

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