畑が第二のわが家
おはようございます。かなりうっとおしさを見せる空。きのうは結構暑くて、畑作業ものらりくらり。途中で気づいて、源ちゃんを探してみると、畑のどこかで、自分好みの陽だまりを見つけて、悠々自適?何年か前は畑をダッソウしたり、畑を掘り返しまわったりと、かなりの問題児だったのがウソみたい。もう四歳、大人になったということか、あるいは畑を自分の家だという自覚?が生まれたのかな。源にとっても私たち老夫婦にとっても、「第二のわが家なのは確かなのだが。ただ、私の日常には、もう欠かせない相棒であり、大切な家族なのは紛れもない事実である。源ちゃんと出会った頃の原稿があったっけ。「甲斐犬源ちゃんとわたし」コロナが順調だった人生を一変させた。 余生を好きなこと三昧で楽しみたいと期していたのが、緊急事態宣言で水の泡になってしまった。「これまで家族のために突っ走ってきてくれたんだから仕事はもういいよ。これまでやれなかった、好きなことしなさい」 七十前に二度目の定年退職。疲弊しきった顔をしていたのだろう。妻が優しい言葉をかけてくれた。十三年下の妻は、自分が中心になって働く気になっていた。四人の子供はみんな独り立ちして、私に頼らなくていい状況で、妻はかなり強気だった。 料理製造工場を定年で辞めた後、スーパーのパートでフルタイム働いてきた私は、これ幸いと妻の思いやりに乗っかった。 寝に帰るところだけだったふるさとを舞台にいろいろ関わり始めた。祭りのイベントの助っ人から始まり、生活支援サポーターや紙芝居などのボランティアに打ち込んだ。 それが軌道に乗ったところをコロナに邪魔された。すべてのボランティアは休止。老後の生きがいといってよかったものを根こそぎ奪われてしまった。積極的に参加していた地域のウォーキングも実施が見合わせられる事態で、体を動かす機会も皆無となった。「ちょっとは外に出ないと、余計年を取っちゃうよ」 心配する家族をよそに、家に閉じこもるようになった。なんの楽しみもない日々に、悲鳴をあげかけたときに、思わぬプレゼントをもらった。七十二歳の誕生日に、それは届いた。「キュンキュン」と鳴き続ける黒い犬。甲斐犬だった。あまりの可愛さに反射的にかき抱いていた。「いい相棒になるよ。ひとりぼっち解消もね」 家族の思いやり、いきなり目が潤んだ。年とともに涙腺が緩くなってしまうものだ。「ほら泣いてる暇ないよ。ワンちゃんの相棒になるってことは、お父さんが健康でいなくちゃいけないってこと。責任あるんだから、長生きするって誓いなさい」 口を合わせる妻と娘に、こっくり頷いた。 「源」と名付けたワンちゃんは、思った以上に可愛かった。それに想定外の頭の良さが垣間見えた。昔飼っていたミックス犬が駄犬に思えてしまうほどだった。 コロナに撃ち負けかけた私は、可愛い相棒のおかげで奇跡(?)の復活を遂げた。 甲斐犬の情報を集め、その実行に努めた。運動量もかなりなものなので、走り回れるところが必要だった。畑のど真ん中に「源」独占のドッグランを作ることにした。運動をひとりやってくれれば、散歩で引っ張りまわされる心配はなくなる。高齢者ならばこその思い付きだった。 畑の中のドッグランは相乗効果を生んだ。畑で作業する私の周りを「源」が駆け回り、時々相手するのが楽しくて、畑仕事もつられるように捗った「なんか若返ったみたい」 家族に指摘されるまでもなく、自分が一番わかっていた。若返ったのを。すべて「源」のなせるワザだということを。 我が家は田舎のど真ん中にある。山が迫り、豊かな自然に包まれている。違う視点から見れば、イノシシやシカの宝庫でもある。油断をすれば畑で育てた野菜は餌食になってしまう。「源、お前のルーツは猟犬やろ。早く成長してイノシシを追い払ってくれよ」 思い出しては問いかけているが「源」はまるで他人事。「クンクン」と鼻を摺り寄せてくる始末。「源」が甘えん坊になる一因は、飼い主の優柔不断な態度にあると思っても、やっぱり抱きしめてしまう。「源」が吠え始めたのは、一歳直前の最近である。それまでは実に大人しかった。郵便や宅配の配達人が来れば、しっぽを振って駆け寄る。すっかり配達人たちの人気を勝ち得ている。「こりゃ番犬にはならんなあ」「飼い主に似てしまうのよ。優しいだけのあなたにね」 軽口を叩かれても、腹は立たない。似るんだといわれ、顔が緩みっぱなしだからどうしようもない。運動量が十分なのか、きりっとした体つきになった。敏捷性も備わっている。もしもリードが外れたら、どこかへ飛んで行ってしまうかも。それをセーブする若さはもう持ち合わせていない。「父さんの手に余るようになったら、私が貰うから」 プレゼントしてくれた娘が、いつもいう。 心配は無用。「源」は賢い。いつも顔色を窺い、その場面に適した対応をする。似たもの同士、ともに人生を送れるはずだ。「源」は欠伸で「当たり前や」と答えてくれるだろう。さあ今日も源ちゃんと一緒に、いい日いい一日を過ごすことに使用っと。みなさんも、いい日いい一日をお過ごしくださいね。