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【ウォッチメン】

書籍名 『ウォッチメン』 ~恐らくは、世界で最も“読みにくい”コミックスの1つ~
著者名 writer Alan Moore / art Deve Gibbons
発行年(西暦) 1987  
出版者 日本語訳出版 メディアワークス

 このコミックスについて語る言葉の多くを私は持たない。
 あまりに緻密で、あまりに奥深く、あまりに深遠で、あまりに悲惨だからだ。

 だからここに、その断片を記そう。


 それは、一人の“ヒーロー”の死から始まった。

 【コメディアン/狂気と正義の担い手】
 彼はヒーローという立場を1つの兵器であると見なす政府の意向に倣った。しかし彼の死は希望をもたらすために用意された絶望の、ほんの序幕を飾ったに過ぎなかった。

 【ロールシャッハ/発狂した世界に対峙するために、自ら発狂することを選んだ男】
 コメディアンの死に疑問を持ち、次々と“ヒーロー”を狙う存在を追いつめようとする。彼の闘争は理不尽との闘争であり、彼の正義は、発狂した世界から自らを守る“対象形の顔”であった。

 【二代目ナイトオウル/科学の仮面の裏に闇を持たずに居続ける事の困難】
 ロールシャッハに諭されて“ヒーロー”を狙う存在へと向かうが、彼は我々であり、我々の持つ無力さの象徴でもあった。そして、平凡な幸福の意味を我々に指し示す。

 【DR.マンハッタン/全てを超越した者】
 この“世界”で唯一本物の“超人”となった彼には、全ての時間軸が平野として把握できる。それでも、その必然の在り方を変える術を知らない。
 そして彼は、“人類”の前から消え、“アメリカの絶対優位”も同時に消失した。

 【オジマンディアス/絶望により、希望を選んだ男】
 “ヒーロー”の持つ“商業的価値”を真っ当に選択したかに振る舞う彼も又、“何者か”により銃撃をされる。
 

 アメリカンコミックスにおける“ヒーロー物”の歴史は古い。
 我々の知らないでもないキャプテン・アメリカや、アイアンマンですら、かつて“悪逆な”ナチスドイツや日本軍と死闘を繰り広げたくらいだ。
 彼らは常にその時代を背負っている。
 そして冷戦下にあった“時代”を、そのままに背負ったヒーロー達が、『ウォッチメン』に登場するヒーロー達だといえる。
 通常、“ユニバース”と呼ばれる共通世界で同時に存在し、個々に独立したシリーズ物として語られるヒーロー達とは異なり、この『ウォッチメン』では、独立した1つの作品として、他のレギュラーシリーズとは切り離されて描かれている。
 その為、まるで『本当にこの世界に、犯罪や悪と戦う“ヒーロー”達が居たら、どうなったであろうか?』という1つの仮定を、この作品では示され、凝縮されている。
 
 1985年。
 世界には二人のヒーローだけが残っていた。
 アメリカ政府の公式エージェントとして存在している【コメディアン】事、エドワード・ブレイク。
 そして同じく、政府の元にその力を使うことを公式に受け入れた【DR.マンハッタン】
 そして、物語はエドワード・ブレイクの謎の死から始まる。

 WHO WATCHES THE WATCHMEN?

 「誰が見張りを見張るのか?」

 アメリカという国家のもつ“世界の警察たれ”という看板。
 しかし、DR.マンハッタンの存在により、あらゆる核保有国よりも強大な力を得てしまったアメリカは、存在そのものが既に均衡を大きく逸脱したものとなる。
 コメディアンの死から、次いでDR.マンハッタンの失踪。
 全く無関係に思える二つの出来事を、非合法な存在として“ヒーロー活動”を続けていたロールシャッハは何等かの陰謀だと捉える。
 それと同時に、均衡の破れた東西冷戦の世界は加速度的に第三次世界大戦への危機を高める。
 
 WHO WATCHES THE WATCHMEN?

 「誰が見張りを見張るのか?」

 狂気と、正義と、暗闇と、そして奇跡。発狂した世界を全てジョークと言い放つ者。内なる暗闇の混ざり合う白と黒の顔に、生きる術を託す者。絶望と悲劇の果てに、希望をもたらそうとする者。
 彼らの物語は、我々の物語であり、そしてあらゆる存在の奇跡の物語でもある。

 是非とも、お薦めする。
 一読では無く、幾度と無く読まれることを。

(発行:メディアワークス 発売:主婦の友社、シナリオ:アラン・ムーア、作画:デビッド・ギブソン、本体定価3.800円)
 
 より強き世界となる。
 より強き愛の世界となる。
 我らはその中にて死す。
       ジョン・ケイル



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