その永遠の一秒に ~浜田省吾の曲から~何度、この光景を夢見たことだろう。私のささやかな、そして神聖な望み。いま、私はその最後の一瞬を目前に控えて、生きているという実感さえなくしてしまっている。 息をすることさえ、意識していないと忘れそうな気がして。可笑しいわよね、たとえ眠っていても 呼吸は続いているはずなのに。 綺麗という言葉は、いままで自分とは、まったく無縁のものだと頑なに信じていた。 けれど、私の前にある鏡には、少し赤身のさした頬の、綺麗な女性が映っている。たった一日だけ。 女は世界中の誰よりも、美しくなれる。そう素直に感じられるだけの、純粋無垢な微笑み。 どんなプロのカメラマンがいても、この表情を正確に写せはしない。物質的な美しさではなく、 崇高な意識の美しさなのだから。 刻一刻と時は迫る。その瞬間が永遠にこないような、気づかないうちに行き過ぎてしまうような、 漠然とした不安。このまま時が止まってしまったら、と思う自分もどこかにいる。幸せなんて、 過ぎてしまえば色褪せる。頂上を目前にしたクライマーのように、あと一歩が怖い。 その時が訪れるまでは、何が起きるかわかりはしないのだから。 おごそかに、鐘が鳴り響く。私は、凍りついたように椅子に座ったままだ。緊張と興奮と。 それでも、何かに憑かれたようにすっくと立ち上がり、開かれた扉へと、一歩、また一歩、歩を進める。 前だけを見つめて。祭壇の前には、タキシードに身を包んだ彼が、じっと私を見つめている。 赤い絨毯を、ゆっくりと踏みしめながら、少しずつ、クライマックスに近づいていく。これは、私の終わり。 そして、ふたりの始まり。長い長いトレーンが、私の後に続く。白く、白く。眩いくらいに白く。 私の待ち続けていた一秒が、手の中にある。 |