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カテゴリ:【保存原稿・SS】
●田丸謙二先生に会う +++++++++++++ ちょうど1年ぶりに、田丸謙二 先生に会った。浜北市のレスト ランで、いっしょに食事をした。 今年83歳になられるという。 長いつきあいだ。1970年 以来だから、もう37年になる。 私にとっては、恩師でもあり、 友人でもある。 私は、田丸謙二先生に出会うこ とができたことを、心から誇り に思う。 +++++++++++++ そのとき先生は、東大紛争で疲れたとかいうことで、メルボルン大学へ来ていた。人口300万人(当時)のメルボルン市でも、日本人の留学生は、私1人だけだった。もちろんメルボルン大学には、私1人しかしなかった。 その先生と、3か月もの間、寝食をともにできたことは、私にとっては、生涯の誇りである。いや、そのときは、そんなことは、微塵(みじん)も思わなかった。恩師というよりは、「友」として、そのときの日々を過ごした。 田丸先生を「師」として意識するようになったのは、日本へ帰ってきてからである。田丸先生は、東大の安田講堂の右手奥にある、理学部に研究室を構えていた。静かな研究室だった。ご自宅にもたびたび、おじゃました。先生のご自宅は、鎌倉の扇が谷というところにある。 当時の私は、バカだったのか、それともアホだったのか、よくわからないが、先生のことよりも、先生のご自宅の前の南隣の家が、中村光男の家だったということのほうに、感激した。戦後を代表する評論家であった。 しかしやがて、私は田丸謙二先生の偉大さを、思い知るところとなった。先生は、30代の若さで東大教授になり、そののち、文部行政の要職をつぎつぎと歴任。東大の副総長(総長特別補佐)、日本化学会の会長、国際触媒学会の会長なども、歴任された。田丸謙二先生の父親の、田丸節郎は、日本学士院の院長を歴任。田丸先生自身も2000年に、学士院賞を受賞している。 私は先生を乗り越える方法は、ただひとつしかないと知った。先生が先生なら、私は、組織の世界とは無縁で、無肩書きで生きることでしかない、と。事実、私は、かなり若いころ、組織と肩書きの世界から、縁を切った。「私は、裸で生きてやろう」と思った。 しかしそれはとんでもないまちがいだった(?)。今にして思うと、そう思う。敗北を認めるようでつらいが、事実は事実。 が、田丸謙二先生に会ったとたん、あの学生時代にそのままタイムスリップしてしまう。先生が先生であることを忘れて、バカ話ばかりしてしまう。 ところで、こんな重要な事実がある。私やあなたが、今、ここに生きていることができるのは、田丸節郎のおかげである。ここに書いた田丸節郎は、ドイツ留学中に、空気中の窒素の固定化に成功したハーバー博士(アンモニアの合成で、ノーベル賞受賞者)の直弟子としても活躍した。もしそのとき、ハーバー博士が、空気中の窒素の固定化に成功していなければ、人類は、じゅうぶんな食糧を生産することはできなかったはず。自然界にある、石灰窒素には、限りがある。 が、ハーバー博士の研究で、人類は、「空気から食糧をつくることができるようになった」(田丸先生)。その結果、今の私たちが、ここにいる。 そのハーバー博士は、日本へやってきたとき、鎌倉の田丸家を訪問している。そのときの写真が、田丸先生のHPに収録されている。興味のある人は、それを見てほしい。先生は、誇らしげに、こう言った。「私は、ハーバー博士に会ったことがある」と。 私「だって、先生は、赤ちゃんだったんでしょ」 田「そうですね」 私「覚えているんですか、その日のことを?」 田「何も覚えていません。ハハハ」 私「それじゃあ、会ったということにはならない。ハハハ」と。 先生は、その写真の中で、母親の腕の中に抱かれている。先生は、その写真を家宝のひとつとして、大切にしている。 今でも、田丸先生は、2人のお嬢さんと、弟子たちを生甲斐として、現役で活躍されている。「東大だけでも、8人の弟子が教授になりました。そんなに数が多いのは、私だけです」と。また06年の12月から07年の2月までに、1冊の本を翻訳なさったという。私たちが見習うべきは、田丸先生のような人をいう。 「大切なことは、人を残すことです」と、先生は、何度も言われた。 5月12日に撮影したビデオなどは、私のHPのほうに掲載しておきます。興味のある方は、ぜひ、ご覧になってください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年05月13日 09時32分51秒
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