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カテゴリ:旅行記
●類は友を呼ぶ
今回の金融危機で、金融資産を100分の1にした人がいる。 1億円が、100万円。 そういう人の話を、身近で聞いていたので、x00万円くらいなら、 何でもない……と言いたいが、そうはいかない。 相手がそれだけの誠意を見せてくれれば、まだ救われる。 母にも近い人だったが、母の葬儀にも来なかった。 今回も、何も協力してくれなかった。 昔からこう言う。 (私がそう言っているだけだが……。) 『被害者はいつまでも被害を受けたことを覚えている。 しかし加害者には、その意識がない。 あってもすぐ忘れる』と。 「復讐」という言葉もあるが、それを考えるだけで、疲れる。 だから忘れるのが一番。 どうせその程度の人は、その程度の人生しか送っていない。 まさに一事が万事。 万事が一事。 いろいろ噂が耳に入っているが、板取村でも、つまはじき者とか。 さらに言えば、『類は友を呼ぶ』。 その人と親しく交際している人を、私は何人か知っている。 しかしたいへん興味深いことに、どの人も、似たような人。 小ずるくて、どこか薄汚い。 ●損論 少なくともこの10年以上、私は悶々とした気分が晴れなかった。 金銭的な損失を問題にしていたわけではない。 事実、それで売れなかったら、山林は、地元の森林組合に寄付するつもりでいた。 それ以上に、信じていた人に裏切られたというのは、信じていただけにショックが大きい。 それに私は、板取の人たち以上に、この村が好きだった。 今も好きだ。 しかしこの村へ来るたびに、ムッとした不快感と闘わねばならない。 それが苦痛だった。 だからはやくスッキリしたかった。 ケリをつけたかった。 山林のことは忘れたかった。 ついでに、それを売りつけた人のことも忘れたかった。 が、悪いことばかりではない。 人は、損をすることで、より大きくなれる。 損を恐れていたら、自分の殻(から)を破ることはできない。 「損をした分だけ、またがんばればいい」と。 人は追いつめられてはじめて、つぎの手を考える。 同じように、損をすることで、より賢くなる。 ちなみに、あなたの周囲で、ケチケチしながら生きている人を見てみるとよい。 そういう人ほど、小さな世界に安住しているのがわかる。 ●中切(なかぎり) 母方の兄弟が13人もいる。 そのため、このあたりには、私の従兄弟が、散らばっている。 この中切にもいる。 私たちは、「Mちゃん」と呼んでいた。 当時としては珍しい、背が高く、スラリとした人だった。 夫は長く、中切の郵便局の局長をしていた。 で、ワイフは、相変わらず黙って歩いていた。 距離がわからないから、バス停に来るたびに、バスの時刻表を見た。 朝、7時01分に、板取温泉を出るバスがある。 その時刻は知っていた。 だから、時刻表に、7時05分とあれば、板取温泉からバスで、4分の 距離ということになる。 中切りのバス停では、7時05分となっていた。 「あと4分の距離だから……」と私は言った。 ワイフはウンとだけ、うなずいた。 ワイフはすでに体力の限界を超えていた。 それが私にも、よくわかった。 ●絶望 その中切を出たところに、コンビニがあった。 飲み物を買った。 で、そこの若い主人に、「板取温泉まで、あとどれくらいですか」と聞いた。 主人は、「5分……」と言った。 私「歩いていくと、どれくらいですか?」 主「5キロくらいかな……。こ1時間はかかるかな……」と。 私は、この「5キロ」という言葉を聞いて、がく然とした。 「まだ、半分しか来ていない?」「いや、そんなはずはない」と。 「もしそうなら、今までの倍の距離など、とても歩けない」と。 私ははじめて弱音を吐いた。 「従兄に助けに来てもらおうか」と。 ワイフは、その言葉にずいぶんと迷ったらしい。 「そうねえ……」と、小さな声でつぶやいた。 ●なしのつぶて 私に山を売りつけた人には、何度か手紙を書いた。 しかしそのつど、返事はなかった。 その私も61歳。 そろそろ身辺の整理をしなければならない。 山林など、もっていても、どうしようもない。 そこで山林を売りに出すことにした。 しかし山林は、町中の宅地のようなわけにはいかない。 売るといっても、その方法がない。 それを扱う不動産屋もない。 しかたないので、私は新聞に、折り込み広告を入れた。 「山林を買ってくれる人はいませんか?」と。 が、この折り込み広告が、その人の逆鱗に触れたらしい。 私のことを、「浜松のターケボー」と、周囲の人たちに言っているのを知った。 「自分に恥をかかせたから、ターケボー」と。 どこまでも、あわれな人である。 心の貧しい人である。 心の髄(ずい)まで、腐っている! ●山林 素人は、そしてその土地の人間でないならば、山林などに手を出してはいけない。 「投資のつもり」と考える人がいるかもしれないが、それもやめたほうがよい。 買うとしても、何町歩単位というように、山ごと買う。 理由がある。 山そのものには、財産的価値はほとんどない。 価値があるとすれば、その上の木。 「立木(たちぎ)」という。 しかしその管理がたいへん。 木の管理もたいへんだが、隣地との境界をどう守るかもたいへん。 10年も放っておくと、境界すらわからなくなる。 加えて買うのは簡単だが、売るのがたいへん。 まず不可能と考えてよい。 山林というのは、地元の知りあいどうしが、内々で売買するのが慣わしになっている。 私はそれを知らなかった。 私はたしかに、ターケボウだった。 ●あと2キロ 「もうだめだ……」と、私も思うようになった。 ワイフはひざが痛いと言った。 私も太ももが、引きつったように痛くなり始めていた。 私「きっと10キロではなかったんだよ」 ワ「……」 私「きっと15キロだっただよ」 ワ「……」 私「ぼくの夢につきあわせて、ごめんね」 ワ「毎度のことよ……」 私「うん……」と。 ビデオを撮る回数も少なくなった。 首にぶらさげたカメラが、ベルトのバックルにカチャカチャ当たる。 心の遠くで、「カメラに傷がつく」と思ったが、それをポケットにしまう 元気もなかった。 と、そのとき小さな看板が目についた。 「板取温泉まで、2キロ」と。 とたん元気がわいてきた! あと2キロ! 「あと2キロだよ。家から、ビデオショップまでの距離だよ」と。 私たちは丘の上を歩いていた。 その向こうに、赤い大きな屋根が見えてきた。 「着いたよ!」と声をあげると、ワイフははじめてニッコリと笑った。 ●板取温泉 このあたりでは、ドイツ語が公用語になっている、らしい。 少し前に通り過ぎた、板取中学校にも、ところどころにドイツ語が使われていた。 ドイツのどこかに似せて、村興(おこ)しをした(?)。 板取温泉も、そういう雰囲気を漂わせていた。 それが正解だったのか? 昔からの板取を知る私としては、違和感を覚える。 あちこちに「スイス村」という表示も見える。 しかしどうして板取が、スイス村? 雰囲気からして、カナディアン村のほうが、合っている。 和室の一部を、水色に塗り替えたような違和感である。 スイスは山の上の国。 板取は、深い谷あいの村。 しかしそれを差し引いても、板取温泉は、すばらしい。 美しい自然の中にある。 私自身は、まだ一度も入浴していないが、評判はよい。 ●山の宿・ひおき(民宿) 私はこの板取村が好きだが、ここ数年は、板取村へ来るたびに、 いつもこの「ひおき」に泊っている。 板取村では、イチ押しの民宿である。 場所は、板取温泉の、川をはさんで反対側。 歩いて5分ほどのところ。 住所:岐阜県関市板取3752-1 電話:0581-57-2756 四季折々の自然を満喫できる。 1泊10500円(1名のばあい)。 手元の案内書にはそうある(09年5月)。 案内書には、「通気による冷暖対策のため、閉鎖的な客室構造とはなっていませんので、 ご了承くださいませ」とある。 そのポリシーが気に入っている。 のんびりと山間の田舎を満喫したい人には、お勧め。 ●小さな村 そのひおきの主人が、私たちの部屋にやってきて、こう言った。 「山のほうは、片づきましたか?」と。 ギョッ! この言葉には驚いた。 「どうして知っているのだろう」と。 私は折り込み広告を入れた。 それには、「浜松の林」という名前を明記した。 どうやらそれを読んだらしい。 しかしそれにしても……! もうひとつの可能性は、以前書いた、私の旅行記を読んだ(?)。 その中で、「ひおき」の宣伝をしておいた。 今、ヤフーの検索エンジンなどを使って、「山の宿ひおき」を検索すると、 私のHPが、かなりトップのほうに出てくる。 それで私の名を知っていたのかもしれない。 もともと小さな村である。 折り込み広告にしても、全世帯で、530軒ほど。 動きが止まったような村だからこそ、その内部では、濃密な情報交換が なされているにちがいない。 私が「実は今日、片づきました」と言うと、うれしそうに喜んでくれた。 ●2万6400歩 ひおきに着いてから、万歩計を見ると、2万6400歩。 生老から民宿「ひおき」まで、1万4400歩ということになる。 私の歩幅で、1万歩で、約7・5キロ。 それで計算すると、生老から板取温泉まで、約10キロということになる。 従兄が言ったことは、やはり正しかった。 しかしそれにしてもよく歩いた。 荷物も重かった。 そのこともあって、ひおきでは、ご飯を、3杯も食べてしまった。 いつものことだが、おいしかった。 気持ちよく眠られた。 午後8時に就寝。 起きたのが午前4時。 ワイフは、午前5時。 まだキーボードがよく見えないときから、この原稿をまとめる。 今は午前5時半。 これから近くの川へ行き、ビデオと写真を撮ってくる。 家へ帰ってからの編集が楽しみ。 「どうか期待していてほしい」と、今、ふと、そう思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年05月29日 06時32分41秒
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