〔心構え〕イメージを豊かに
前回に続き、今回も少し観念的な話題です。いい声を出す、いい表現をするために、例えば「上唇と下唇を○○ミリに開き、息は毎秒○ミリリットル、喉は○ヘルツの音が出るように声帯をふるわせる」という指示が可能であり、その指示を受けたとおりに私たちが体を使えれば、科学的・客観的な指導や演奏をすることが可能になります。でも、残念ながら私たちは機械ではありませんから、仮にそんな指示をされたところでそのとおりに歌うことはできません。そこでよく使われるのが比喩表現です。私もこのブログのなかで比喩的な表現を使って説明していますが、やっかいなことにこの表現、指導者によってはまったく正反対のことを言われることがあり「どちらが正しいんだろう」と混乱させられることもしばしばです。例えば、息を吐くときに「お腹を背中の方に引っ込めていく」と教えられたかと思えば「お腹をできるだけ広げたままで保つ」と言われることもあります。これらの指示の目的は吸った息を最大限使うことができるようにするためのもので、お腹を引っ込めていく方が多くの息が出せる人もいれば、広げたままをイメージする方が長く息を出し続けられる人もいるので、本当はどちらでもいいわけです。このように合唱では非常にたくさんの比喩表現が出てきます。中にはよくわからない指示もあります。そんなときは焦らず、「この指導者はその比喩によって何をさせようとしているのだろう」とゆっくり考えてみてください。また、歌うときは「この部分はこのようなイメージで歌いたい」という、自分のなかでの比喩も豊かにしていければ、表現が必ずかわってきます。歌うときに色とか、旅先やテレビ、写真などで見た風景など、視覚的なイメージを思い浮かべながら歌うのもいいと思います。