177回 永田紅
177回ひとつ家に、いっしょに寝起きしていた日々のなつかしさ。家族は、はかないほどに変わり、過ぎてゆく。このごろ私は、まだ新しい家族が始まったばかりだというのに、庭の椋の木や下草に風が吹いているのを見ても、来るであろうさびしさを先取りして悲しくなっている。失うものを得た強さと弱さ。家族がいつまで一緒に過ごせるかは、わからない。けれど、別れを怖れて立ちすくんでいてもしようがない。「本当に人生は短い。だから伴侶といつも一緒にいて、大事にしてあげること。家を明るくあたたかくして待っていること。おいしいものを食べて、あちこち旅をし、いいお芝居を観て、いろんな人に出会い、いい仕事をして、どこへでも一番いいと思う場所へ、自信をもって出てゆくこと。着付けを習って着物も着てね。歌人としてひとつだけ。古典を読んでください」と母は言っていた。河野裕子・永田和宏・その家族『家族の歌』