カテゴリ:社会
今の日本にはテロなど無い、そう思っている人は多いだろう。
かつての日本赤軍や中核派などの活動華やかしき時代と異なり、今の日本では日本人がテロを起こすことなど無い、そう誤解している人も多いのではないだろうか。 確かに既にそのピークを遙かに過ぎた日本赤軍や中核派の散発的な活動以外、十年前のオウムの毒ガステロという希有な例外を除き日本人がテロを行うことなど無いかに見える。 「テロを起こす可能性があるのはいまや日本人ではない、日本に滞在する外国人だ」という声も聞こえる。 だが待って欲しい。今ここで私は声を大にして言いたいと思う。 「一部の日本人は既にテロを起こしているのだ」と。 今日は少しこれについて述べてみたいと思う。 テロについて語るには、当然テロの定義をある程度明確にしなければならないだろう。 本稿では一般的テロの概念に照らし合わせ、次に述べる4条件を満たすような行為をテロと呼ぶことにする。 なおこのテロの定義については、防衛研究所の片山善雄氏の論文「テロ対策における軍の役割」(国際安全保障第32巻第4号2005年3月発行)を参考にさせていただいた。 1 直接の被害者だけでなく社会全体が標的であること 2 社会への何らかの訴えかけが意図されていること 3 物理的被害よりも心理的衝撃を重視すること 4 成否は社会又は政府の反応に依存すること 第1項についてはテロにおける被害が、社会全体への不安感の増大や各種経済活動への影響に波及していくことなどによる。 第2項は、テロ後の犯行声明文などがこれに当たるだろう。またアルカイダのようにその行動原理が衆知のものとなっている場合には実行するだけで訴えかけの効果が発揮できる。 第3項については、例えば残虐な殺害方法をネットで公開するなどして、これを見た対象者に恐怖や嫌悪などを植えつける行為が当たるだろう。日本に関係するところでは、香田証生君の殺害された事件などがこれを意図していたと言えよう。 第4項については言うまでもない。破壊行為等自体が成功しようと、テロに屈しない姿勢を厳然と示してテロリストの要求に従わなければテロ自体の目的を達成したことにはならない。テロリストの要求には断固応じないことこそがテロの失敗に繋がるのである。 片山善雄氏は上記の論文の中で次のように述べている。 「テロは人心に働きかける暴力なのである。」と。 では日本ではどのようなテロ行為が行われているというのだろうか。 暴力団の恐喝? いやそれは社会全体を標的にしてはいない。暴力団同士の勢力争いと市民標的の違法な経済活動に過ぎない。 若者の犯罪の凶悪化? それは治安と教育の問題であり、政治問題とも言えるテロにはなり得ない。 日本において起こっている上記4条件に該当するテロ行為。 それは「教科書採択問題」である。 教科書選考委員の家族構成まで調べ上げ「ばあちゃん、足が不自由そうだな」などという低劣な脅迫行為を行い、これが報道されることで一般社会における「つくる会教科書」に係わることへの不信感・不安感を煽る、これは第1項に該当する。 脅迫電話や委員の私用車を囲んでまでの威圧的行動もこれに当たるだろう。 直接被害に遭われた選考委員(とその地方自治体)の方々だけでなく、その他の地域を含めた日本全体が標的の行為であることは明白だ。 こういった行動をする団体・個人が当然のごとく「愛国的・好戦的教科書の採択に反対し社会を正そう」という意図を持っている。 そのまま第2項に該当する。 深夜の嫌がらせ電話や無限FAX、あるいは自家用車に対するパンクなどは(被害者にとっては大きな被害だが)社会的には些細な被害でしかない。だがそれらは報道され、内容が詳述されることで「心理的な」衝撃を拡大していく。 「つくる会教科書に係わったらやばそうだ」というような忌避感を醸成するための心理的衝撃を重視した行為、第3項に該当する。 そして彼らの行為の成否は、選考委員や地方自治体が「つくる会教科書」を採択しないことで達成される。 ことの成否がそういった社会や地方自治体の反応に依存することはそのまま第4項に該当している。 自らの政治的信条を非合法な手段で社会全体に押しつけるこの行為と、昨今の爆発物テロの間にある違いは単に「死者」が出ているかどうかに過ぎない。(負傷者や精神的な被害者は実際に出ているのだ) 彼らの行為が次第にエスカレートし実際的な暴力を伴ったときではもう遅い。 論を力でねじ曲げようとする卑劣な行為こそ本質的な意味での「テロリズム」なのであることを、私たちがしっかりと認識しなければいずれ日本にも無差別テロの嵐が起きかねない。 我々はこの現段階ではまだ矮小なテロを毅然と跳ね返す姿勢を身につけ、矮小なテロが巨大な暴力の実をつけることがないようにして行かねばならないのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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