|
カテゴリ:物語
こものだがイノシシだ。 皆は久々の獲物に腹も満たされ恐怖も忘れ、ぐっすりと眠りに入れそうだった。 満腹感と焚き火は安心感を与えてくれるが、五感は迫り来る何かを敏感に感じ取っていた。 フッと目が覚めると火はまだ燃えていて炭になっていなかった。身体は興奮したままなのか、あまり時間は過ぎていないようだった。ルクは寝転がったまま薪を火にくべ、舞い上がる火の粉を追って星空を見上げた。目に入る情報は星の瞬きと焚き火の明るさが届くあたりまで、のんびり見上げるルクの身体に瞬間緊張が走る。 「なに?」五感のうちの耳が何かを感じ取る。 見えるはずはないが辺りを見回してみる。 ゆっくりと起き上がってゆくと、パキッ 何かがゆっくりと歩き近づいてくる。 「誰か小便にでも行ったか?」 それにしては、何か警戒するような歩き方だ。『動物?』違う。二本足のようだ。 「まさかっ」ルクの身体に力がはいる。 いきなり毛穴がひらきジットリとした汗が噴出してきた。何かが近づいてくる気配は、三方から聞こえてくるみたいだ。その気配を聞き逃さないようにと身体を起こし、腰の鉈を握り締めて身構えた。 ガサッガサッと何かが走ってきて、ルクは飛び起きてしまう。 「ギャーッ」叫び声がきこえてくる。 ルクは鉈を握り締めて闇に向かい身構えて戦闘の態勢をとる。その視線の先にもがき暴れているらしい姿が闇の中に浮かんで見えた。 「ちっ。暗すぎる」ルクは火のついた枝を何本か掴み、闇でもがく影に向かって投げつけた。 「みえた」ルクの目にあのトカゲのような化け物と格闘する若者の姿が見えた。化け物は若者の顔に飛びつき頭に噛み付いているようだ。血が流れている。 ルクは急いで若者の元へと走りよろうと一歩踏み出した。直後、左手から叫び声 「しまった」ルクは躊躇してしまい、誰から助けるかと迷ってしまう。その瞬間、背中からわき腹にかけて痛みが走り、そして頭に何かが噛み付いてきた。 「うわっ」声を出してそれを振り払おうとするが、化け物の爪が身体にくいこみ、無理に払おうとすると焼け付く痛みが走る。 「ちっ無理かっ」一瞬のあきらめののちに、「くそっ」怒りがこみ上げてくる。恐怖より怒りが増したルクは、後頭部あたりに乗っかっている化け物の腕を力任せに掴み、焚き火のあたりに投げつけた。「ゲェッ」地面にあたり跳ね上がるとき空気を漏らすような悲鳴が聞こえる。 「うっ」ルクは気づく「おい、軽いぞ。こいつら軽いぞ」簡単に投げ飛ばすことが出来た。 「みんな、軽いぞ投げろ。力が弱い、力任せに投げつけろ」 ルクガ叫んでいる最中。ルクの動きを見ていた中年二人はすでに投げとばす最中だった。あたりは投げ飛ばされた化け物が舞い上げる火の粉で一段と明るくなった。 一人が化け物と転げ回る若者の所まで走り近寄り、化け物の首根っこを掴み剥ぎとる。若者と化け物の悲鳴が短く『ギャッ』と聞こえて火の粉が上がる。 剥ぎ取った男も若者も、皆頭部の怪我のために血を流し、顔に流れる血は怪我を大げさに見せる。 投げ飛ばされた化け物たちは地面で受けた衝撃の後、ヨロヨロと立ち上がり、こちらを警戒しながら森へとかけてゆく。 ルクはあたりを見回し、皆の表情に覇気があるのを確かめた。 「皆大丈夫そうだな、臆するな、臆すると身体を壊すぞ。さぁ、交代で治療だ」 ルクは恐怖に飲まれないように皆に指示を与える。 「わしとルチャで見張る。他は治療を先にしてくれ」 ルクとルチャと呼ばれる若者は、頭から血を流しながら、鉈を握り締めてあたりを警戒していた。ルチャは「クソッたれ」ブツブツと文句を言いながら辺りに目を配る。 「あれ・・・。」文句の途中にふと気づく。 「イウがいない」つぶやいてあたりを見回し、 「1、2、3、4・・・」指を折りながら数えてみる。 「イウ」呼んでみるが返事がない。 「イウがいない。イウ何処だイウ。イウッ」 ルクたちも慌ててあたりを見回してみる。 治療をしていた連中も、急いで薪を掴みあたりを照らして探し出す。 若者二人は「イウッ」叫んで森へと走り入ろうとする。 「やめろッここにいろ危険だっ」ルクが叫ぶ。 若者は振り向き 「イウはどうする」 「・・・・・。」ルクは返事ができない。 「俺は行く」 ルチャが森の奥へと駆け出してゆく。 「やめろっ」ルクが慌ててとめようとするが、 「まて」一瞬の間 「二人一組だ、独りになるな」 手当てをしていた中年二人と、ルクとルチャ。組をつくり森へと入っていった。 ドキドキと心臓の高鳴りを聞きながら、顔を赤らめ聞いてみる。 「ねぇ・・・・たすかったと・・みつかったと」勇太が啓二の腕を掴み涙目で見つめる。 「・・・・・。」啓二は話を中断して、芝居っけたっぷりに首をふり。 「・・・それが・・・見つからんかったとぞ・・・。夕方に狩った獲物もなかった。やつらが全部持っていきやがったとぞ」 啓二は静かにうつむき一言「かわいそうに・・・・。」と、付け足した。 「ううっ・・・若い人なんでしょ・・・可哀想なんだ」啓二の一言は、勇太を未知のおぞましい想像へと導いてゆく。 「・・・食べられちゃった・・・。」泣くだけだった。 話を聞き終わり。瞬きせずに落ち込むだけだった。 星がキラキラ輝き、空からこぼれ落ちそうだった。 勇太は空を見上げて、星をたどって西へと首を倒してゆく。寝転がってみる星は瞬き、サビシイ夜の気分を和ませながらも寂しさを募らせる。 星は西の山に近づくと姿を見せない。プツリと途絶えてしまう。山から上がる煙は光と闇をしっかりと演出して、ひとつの恐怖を演出している。 「あの山はなんていう名前の山かいな」 勇太は身体ごと山に向けしばらく眺めた後、身体を反対向きに寝返らせ、「ねぇ」と声をかけてみた。 「ぐおぉぉー」啓二のイビキが帰ってくる。 夜になるまで、軽い揺れがたくさんあった。そのたびに人々が叫び走りまわっていたが、夜になるにつけて、皆なれてきたのか少しの揺れでは誰も走り回らなくなっていた。 今も、たった今もかすかに揺れている。勇太もなれてきて微かな揺れでは気にならなくなっていた。 勇太は啓二のイビキを子守唄にして目を閉じる。啓二のイビキに加え、ガッガッガッと、妙な音が聞こえてきている。 「イビキ・・・誰の・・・?」誠のイビキかとも思ったが、聞こえてくる方角が違うようだ。意識を集中して聞いてみると、森の中を歩き回るような音も聞こえてくるし何だか生臭さい気もする。 「誰か見張りの人かな・・」 そこまで考えていると眠気が襲ってくる。所詮は子供。周りに人が沢山いる安心感もあり、次の瞬間には心地よさそうな寝息が聞こえてきていた。 「ん・・・。」気がつくと勇太が寝ている横で、啓二と誠、そしてルカにルクにトク、五人でなにやら話をしている。よく見るとルクの腕と頭には包帯がしてある。勇太はゆっくりと上半身を起こし、静かに皆を見つめていた。 「あっ、」誠が勇太に気づく。それと同時に 「じゃ、スグに来てくれ、急ぎの話だから」 トクとルクはルカを残してたちさった。勇太は立ち上がり皆に近づいて、 「どうしたの。ルクおじさん怪我・・・。」 話し終わる前に「急ぎましょ」ルカが啓二たちに言葉をかけて行ってしまった。 「いこう」啓二が勇太に顔を向け「めしだ」 歩き始める。誠も「いそげよ」ちらりと顔を見ると歩き始めた。 「あっまって」寝起きでふらつきながら二人の後をついていった。 「エーっー!」勇太の驚きの声に、啓二が手にしていたパンを落としそうになる。 「じゃ、夜中に森の悪魔がやってきたと」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.03.26 22:14:21
コメント(0) | コメントを書く
[物語] カテゴリの最新記事
|