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エビザりのやさしくブンまわしblog

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2007.03.28
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カテゴリ:物語




 啓二と誠が必死でオールを使うが、カヌーが素直に進むことはなかった。

 大人たちも、子供達も、準備運動よろしく辺りを漕ぎまわり、後は出発の言葉を待つだけだった。らちがあかないと思ったのか、スンダの命令でルクと、ランと言う若者が乗ったカヌーが近づいてきて、三人の乗ったカヌーへと縄をかけた。
 「しばらく引っ張るから、君達も練習して」

しばらく引っ張られ啓二と誠は慣れてきていた。途中で誠は勇太と交代をしたが、勇太はまったく役に立ちそうになかった。
 「だめだこりゃ」啓二があきれて誠を見ると砂浜のほうを見つめている。啓二は誠を見つめながら漕いでいると、
 「勇者よ。導く勇太よ」スンダの声が聞こえてくる。
 「さぁっ。東への進路をとった。これから何を目指せばよい」

 啓二はスンダへと視線を変えて、何を目指して進もうかと考えていると、勇太がスクと立ち上がり、
 「島です。とりあえず島を見つけてそこに上陸しましょう」
 フラフラと立ち上がり拳を握り締めて東に広がる海原を見つめている。啓二は説得力のない言葉だと、あきれて見ていたが、

 「さすが導くもの」トクが叫ぶ。
 「族長スンダよ。導くものは旅を心得ている。長旅は身体をいたわることが大切、まさに旅を続けてきた者の言葉。このまま進み、東に流れるという潮に乗れば島にはスグにたどり着くでしょう」

 「おおー」どよめきが五十艘ばかりのカヌーからおこる。あちらこちらから「さすが神が使わした者だ」
 「我らが言い伝えと同じだ」

 賛美がきこえてくる。
 「楽園に行けるぞ」喜びを抑えた呟きがあちらこちらから聞こえてきている。
 
 スンダ族に伝わる楽園伝説があるのだろう。誠は「それで子供の言うことを信じるんだ」と納得できた。『今度その楽園伝説を聞いてみよう』一人つぶやき再び海岸線に視線を向けて見入った。

 さっきまでいた砂浜。森との境に何かが立っている。
 遅れてきた『人』ではないはずだ。
 その場にあるカヌーに誰も乗ろうとしない。
 「よいしょのこらしょ」勇太の情けない声と波の音を意識から遮断して、浜辺へと意識を集中させてみる。森から浜辺へと何かがぞろぞろと出てきている。それもかなりの数だ。

 「・・・悪魔だ・・。」誠がつぶやく声に、勇太が手をとめ見とれる。誠の見つめるその視線を追いかけ浜辺へと振り向きながら「どうしたの」声をかける。
 振り向いた先の浜辺には「あれ?」何かがかなりの数うごめいていた。
 「なに・・・。」勇太が目を凝らして見つめる。残されたカヌーの周りをアリのように見える何かがうごめいていた。それらは波打ち際まで来ると、

「飛び込んだ」勇太が確認するようにつぶやいている。
 その時啓二は広がる大海原を見渡し、
 「海原はいいなー。見渡す限りの海、青い海の上で波を切り裂き進むカヌー。なぁ勇太」

 勇太の呟きなど聞いてもいないし、返事がなくても気にしない。のんびりとカヌーと海を楽しむ啓二だった。
 勇太はオールを操るのをやめて、誠とふたりで海に飛び込み近づいてくる悪魔を眺めていた。

 「泳げる」陸地であれだけ不器用に走っていた悪魔たち。
 誠は考えをめぐらせて悪魔達の体つきを思い出していた。

 鱗のような肌にトサカ、不器用な陸地での動き。『海の生き物』そう考えたほうが納得がいく。多分指の間には水掻きもあるはずだ。
 「大変だ・・・スグに追いつかれるぞ」

 誠は慌てて「勇太変われ」オールを奪い取り自ら全力で漕ぎ始める。
 「なんだ・・。」啓二が振り向き誠の慌てぶりを見つめる。
 誠は必死の表情と動きで『こげこげ』と騒いでいる。啓二は勇太に目を向けると、遠くを見つめる視線を追いかけてみた。
 「あっ」きづいた。

 啓二は正面に向き直り、必死でこぎ始める。
 引っ張ってもらうための縄は緩み、ルクたちに追いついて追い越そうとしていた。
 「おっ」ルクとランはそれに気づいて「やるな」と感心していると、 
 「逃げて逃げて」誠の叫びが聞こえる。
 ルクとランが、手を止めて何事と誠を見つめている。
 「浜辺のほうッ、岸のほうをみて、来たよ追いつかれる」

 必死に動かす手と言葉で訴える。二人は岸のほうへと視線を向けて、
 「あっ」一言叫ぶ「来た」周りのカヌーに乗った人々も何事かと、騒ぎを見つめ、
 「きた、岸を見ろ」の言葉で全て理解する。
 「きたきた。きたよ」勇太の言葉で、
 「来た。来たぞ」同じ言葉が飛び交い出した。

 悪魔たちは勢いよく泳ぎ近づいてくる。陸とはまったく違うその動きはイルカのようだ。しかし、そんな可愛らしさは何もなく、たまに波間に見え隠れするのは不気味なトサカ頭だった。穏やかな海面に、悪魔たちの近づいてくるしるしが、白い線と波へと姿をかえて居場所を知らせてくる。

 必死にオールを使う啓二たちの背中に、
 「分かれたばい、集まって泳ぎおったのに二つに分かれたばい。ああ僕たちの方へと来ようばい。漕いでこいでもっと漕いで」
 啓二と誠の必死も無視して「急いで、急いで、急がな」手を振りふりアオリまくる。
 さっきコツを掴んだばかりの二人、大人たちからはどんどん離されて行く。必死の中でも悪魔たちはお構いなく、三人のカヌーへと近づいてきていた。

 「わぁ、来た来た来たばい。スグそこまで来とうばい。どうする、ねえどうすると」
 混乱と恐怖の声が啓二と誠の神経を逆なでする。
 「しゃーしか(うるさい)自分でどげんかしろ」と啓二。
 「なぐれ殴れ、殴り倒せ」と誠。
 二人はいっせいに無茶を言ってくる。

 悪魔はすぐそこまで来ている。手を伸ばせば届きそうなところまで来ている。海の中が本領発揮のようだ。自由自在に動いている。
 手を使わないその泳ぎに思わず見とれている勇太。
 「すごか・・・。」一言つぶやき「あっ」わが身の立場を思い出した。

 目の前だ。

 カヌーの真横に並んで泳いでいる。海の中で身体を横向きに泳ぎ、こちらの様子を伺っているようだ。海の中でゆがんで見えるその身体は不気味さを強め、勇太をただうるさいだけの警報機に変えていった。
 「わわっ目の前におるばい、どげんすると、ねえどげんすると」

 警報機はケタタマシク鳴り続ける。自分で判断し何かをするわけではなく、啓二と誠からの支持をまっている。
 「アーうるさかね」誠が必死でこぎながら振り向き、
 「お前が蹴飛ばしてしまえばよかろうもん。片足出して蹴飛ばせ」
 「できんできん、そげんことは出来んばい」警報機が答える。
 「いけよっ勇者。お前がやらんでから、だれがするとやッ」
 「えっ」警報機か沈黙する。

 いきなりの沈黙に、警報機が海に落ちたのではないかと、誠が振り向き確認する。勇太は海から見え隠れする悪魔を見つめていた。
 「何考えようとか」誠が思ったとき。勇太は握り拳をつくり、振り上げた。
 勇太は握りこぶしを海面にたたきつけた。カヌーが少しバランスを崩して左右に揺れ、啓二と誠があわててバランスをとる。

 「えいエイエイ」勇太はほとんどからぶりたが、拳を悪魔めがけてた叩き落している。悪魔は驚いたのか、海のそこへともぐりカヌーから離れていった。
 「やったばい。やっつけたばい」
 勇太は、振り向き見つめる啓二と誠を交互に見つめ、『どうだ』とばかりに胸をはる。一瞬の驚き顔を勇太に見せていると、不意にカヌーが左へと傾いた。

 「あっ」カヌーに手をかけている悪魔がいる。傾いた原因を確認して叫ぶと同時に、悪魔が乗り込もうと上半身をカヌーにかけている。
 そのために揺れるカヌーで勇太は必死にしがみつき身体を支える。その支える勇太の脚を悪魔がガシリと掴み倒そうとする。
 つかまれた脚に目を向け、その手に長い爪と水掻きのついている指を見る。

 幸か不幸か、悪魔に脚を掴まれたため、勇太は身体を安定させることが出来た。勇太は今一度身体に力をこめて踏ん張ると、それを利用して悪魔がカヌーに飛び乗ろうとする。
 悪魔の気味の悪い顔が近づいてくる。つりあがる目、その目には海の中で自由に泳ぎ、目を保護するために白い膜がかかっている。鼻は無いように見え唇らしきは確認できず、口の中はギザギザとした三角の細かい刃が、くちばしのような歯茎に規則的に並んでいた。



 「ゆうたっ!」誠がさけぶ。





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最終更新日  2007.03.28 20:55:25
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