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カテゴリ:物語
皆が協力して助け合っているとき、 「なんだあれはっ」 一人の男がモクモクと上がる煙の方角、西を指差し声をあげる。 皆がそちらに目を向けると 「なんだ・・・水のかべ・・・か」 海面が立ち上がり火山の頂も隠してしまっている。 その壁は徐々に近付き見る見るうちに大きくなってゆく。 「でたっ 津波だ」 誠が指差し、 「勇太あれだあれだっ」 誠の息つく間の無い言葉に、 「あれは・・・かべ・・・・」 まだ、湧き上がらない恐怖。のん気に壮大な水の壁をみつめて感動している。 誠は勇太の頭を 『パシリ』 とたたき、 「おい、見とれている場合じゃないぞ、何かにつかまれ絶対にはなすなっ」 誠が慌ててカヌーの縁につかまり身を屈める。 「みんなっ、とにかくしっかりつかまってっ」 誠の慌てた言葉と行動に皆が慌てて、 「つかまれと云っているぞっ。掴まれつかまれ」 水の壁に見とれるもの、見とれながらも手だけは縁につかまり身を安定させるもの、しゃがみこみながらも、顔だけは壮大な水の壁に見入るもの。 迫り来る恐怖はその存在を見せても、人の心には入り込んでいなかった。 「でかいぞ・・・・本当に水の壁のようだ」 「海が・・・立ち上がったのか・・・」 辺りからは恐怖の言葉より、これから何が起こるのかわからないせいか、 「でかいな・・。」 「あの中に何かいるのか・・・もしかして龍か・・・」 「あの壁は・・海水は・・何処から来たんだ」 見えるままの疑問がでてくるが、 ゴゴゴッ 低い音がはっきりと聞こえてくると、でかい壁が威嚇のために唸っているように聞こえる。壮大な景色は恐怖へと変わる。 その恐怖が正しいことを知らせるように、 「飲み込まれるっ・・つかまって」 誠の叫びに、見とれていた者も慌てて身を屈める。 目の前に迫り来る津波の波頭。 波のようにはっきりとしたものでなく、崩れる波頭を壁が追い抜き、そしてまた波頭が抜いてゆく。 上下運動の波ではなく、押し迫る波はカヌーを垂直に立ててゆき、そのまま進行方向におし込んでゆく。 カヌーが垂直に立った瞬間、『導くもの勇太』は海にのまれ、すべての方向と天地も解らなくなり、耳だけが海水と空気のボコボコと絡む音を聴いていた。 導くものは圧倒的な自然の力のなかで、藻屑のようにもまれて消えていった。 「死んじゃったと・・・死んじゃったとやろう・・・。グスン・・やっぱり僕じゃ駄目なんだ・・。」 勇太の空想の世界で、勇太は誰も助けることが出来なかった。それがつらい様だ。 誠は勇太の肩に手をやり、 「しょうがないとよ・・・俺達は子どもたい・・・。」 誠は『しょうがない』と首を静かに振って勇太を励ましている。 誠と勇太が落ち込んでいる横から、この物語を管理する啓二、神のように自然の流れを把握する啓二は、 「まてまて、そうとは限らんぞ。運も大事たいね。・・野球の選手もそう言いよるったい」 啓二の言葉に勇太は顔をあげ、 「うん・・て・・・・幸運とか運がいい・・の・・・ウン・・・・。」 「そうたい、それか悪運とかのウンたい」 啓二の言葉に少しばかりの不安を見せる勇太。 啓二は胸をはり、 「勇者で導く者の勇太は幸運をもっとるったい。だけん、だれも死ぬことがないったい・・もちろんルカちゃんもね」 「そうなの」 勇太がつぶやき、 「やっぱり僕はスゴイとやね」 『ウンウン』と啓二の話に納得すると、啓二に顔をむけ、 「ねえねえ、どげんして助かると、奇跡がおきるとかいな・・・。」 9 必死で泳ぎ必死で掴めるものに掴まった。 それからの記憶はまったくない。 「おい、おきろ」 誠の声、そして、 「おおー、導くものよ・・・導くものがいないと誰が道を示すのだ」 不安げなスンダの声。 「勇者がいないと・・・どうしたらいいの」 ルカの声。 『ルカ? あっルカちゃんの声』 勇太は慌てて目を開き飛び起きる。 さすがに女の子が気絶してないのに勇者が気絶していては様にならない。勇太はとりあえず格好を付けるため、 「あっ、大丈夫・・。ちょっと・・あの・・。みんなは」 辺りを見回すと幾人もの顔がある。カヌーは結ばれイカダのごとく繋がり海を漂い波に揺れていた。 気絶していた勇者のカヌーには啓二と誠が乗り、隣のカヌーにはスンダとルカ、右隣にルクとラン、前方にトクと・・たぶんトクかルクの奥さんでルカの母親・・・確か名前はカカル・・だった。 この場合トクの奥さんということになり、ルカはトクのこどもだろうか・・・。 少し離れた場所から、やはりカヌーを何艘か結びイカダのようになって、波に揺れている場所からこちらを見ている顔がある。よくよく辺りを見回してみると、イカダをつくった幾つかの集団が波に揺れていた。 「大丈夫か」と、周りに気遣われ、 「大丈夫です」と、元気に応えて見せる。 「さぁっ! 導くもの勇太よ。我々はあの島に向かっている。とりあえずあの島でよいのか導きの言葉をッ!」 勇太はスンダの指差す方をみて、 「あっ・・島だっ」島に見とれる。 勇太はその島を見つめながら島の斜め上に太陽をみつけ、 「あれ・・・なんか変ばい・・・」 勇太は思い出す。津波に飲み込まれたときは背中に太陽があったはず。 「ねえ」 勇太は言葉に疑問をのせて、 「後戻っているの・・・太陽が?・・・。」 誠に顔を向け疑問を投げてみる。 誠は 『ニッコリ』 と笑い
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Mar 28, 2007 09:05:31 PM
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