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小説★島の伝奇

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物語

Mar 28, 2007
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カテゴリ:物語


  17   [小説★島の伝奇]  

 「夜が明けたったい」
 誠が笑顔をみせながら、
 「お前は一人で寝とったったい・・だけんあれは朝日ぞ」
 
 「おー・・。」勇太は驚きの声をあげ、
 「僕だけ・・ねとったと・・。」
 周りを見回してみる。

 「寝とったとは勇太だけたい、みんなカヌーを寄せたり、行方がしれん人ば探したりたい・・・忙しかったとぞ」
 啓二が呆れ顔でそういうと、
 「ねえ、ルカちゃん。ルカちゃんも一生懸命カヌーを動かして皆を探してまわっとったよね」

 啓二の言葉に
 「ええ・・・まぁ・・。」
 ルカは少し恥ずかしそうに答える。勇太に気をつかってか、誉められて恥ずかしいのか。そのルカの姿をみて、勇太がうつむく。

 勇太は自分だけが気絶していたのが恥ずかしいのか、ルカに見つめられたのが恥ずかしいのか、真っ赤になって下をむいた。
 それをみてスンダが、
 「おおっ、いけない。調子が悪そうだ」
 勇者を気づかう。
 「顔があかい・・しばらく横になったほうがよろしいのでは・・・。」
 心配そうに言葉をかける。

 それをみて、啓二がわざとらしく眉間に皺をよせ、
 「きっと別の病気だ・・・」と、小声でつぶやくと、
 誠が大きな声で、

 「ルカちゃん、こちらに移って看病してあげてよ。・・僕達は他のカヌーに移るから」
 誠の冷やかしに
 「あっいや・・その・・」勇太は急いで言葉を発したが、断りもせずモゴモゴと言葉を誤魔化した。より一層顔を赤くして黙り込んで下を向いてしまう。
 その姿が、いかにも体調が優れないようにみえたのか、スンダが心配そうに、
 「ルカじゃ心配だ。もっとしっかりしたトクをつけよう。トクなら安心だ」

 「・・・・・・。」しばらくの沈黙。

 勇太はすかさず顔を上げ、
 「だ・・つろ・・大丈夫です。す・・スグに治ります」と断る。
 回らない舌になおの事心配そうなスンダ。
 勇者はすかさず言葉をつづけ、

 「さぁ! あの島へ向かいましょう・・水と食べ物を集めて・・楽園へとむかいましょう」
 勇太は立ち上がり、島を指差しそのままバランスを崩した。勇ましく指差すまではかっこよかったが、そのままバランスを崩してカヌーとカヌーの隙間から海へと落ちていった。

 「楽園は遠そうだ・・・」
 ザブンと落ちる音と姿にあわせて、啓二と誠はため息まじりでつぶやいていた。

 それを見たスンダは
 「やはり体調は悪い」そういうと大きな声で
 「トクッ! 勇者の横に、導く者の側について看病してあげなさい」
 海面に浮かんで引き上げられる勇者は、しょんぼりとしていた。

 
 島の砂浜は遠めに美しく、脚で砂を踏みしめ見つめる景色は、
 「この島も津波でやられとうね」
 砂浜には海藻が打ち上げられている。
 津波が押し寄せ引いた後、内陸から引っ張ってきた木々の残骸が大きな四角い石と一緒に辺りを散らかしている。

 「とにかく水と食物を探すのだ。そして水と食物を探すのだ。そしてカヌーをより強固に結び、小さな船から大きな船に変えるのだ」
 スンダのはりのある声が辺りに響き渡り、それに付随する言葉をルクが叫び指図する。
 
 女達へは
 「薬草を少しでも探し確保しよう」
 トクが叫び、皆が辺りへと散ってゆく。
 勇太は床の行く場所を眼で追い、
 「ねえ、僕達はどげんすると」
 啓二と誠へと顔をむける。
 「・・・ねえ・・。」
 啓二と誠は勇太を無視して、
 「なぁ・・啓二・・・みえるか・・。」
 「ああ・・・見えようよ・・」

 海のかなたを見つめている。
 勇太は二人が何を見ているのだろうと海へと眼をむける。

 「・・・あれ・・・。」
 海面に何やら丸っこいものがいくつも浮いていた。
 少しの上下を繰り返す海面に浮かんだり沈んだり。

 「悪魔たちだ・・・」誠がつぶやく。
 「・・・あいつら何やってんだ」
 啓二が疑問を言葉にする。

 二人は静かに考え込み、誠が考えを先に言葉にする。
 「・・・陸じゃ勝てないから・・・様子を見とるとやないか・・。」
 「うん・・」
 啓二はうなづき
 「夜・・寝ているときに来るかもな・・・。」









Last updated  Mar 28, 2007 09:08:42 PM
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カテゴリ:物語



  

 皆が協力して助け合っているとき、
 「なんだあれはっ」
 一人の男がモクモクと上がる煙の方角、西を指差し声をあげる。

 皆がそちらに目を向けると
 「なんだ・・・水のかべ・・・か」
 
 海面が立ち上がり火山の頂も隠してしまっている。
その壁は徐々に近付き見る見るうちに大きくなってゆく。
 「でたっ  津波だ」
 誠が指差し、
 「勇太あれだあれだっ」
 誠の息つく間の無い言葉に、
 「あれは・・・かべ・・・・」

 まだ、湧き上がらない恐怖。のん気に壮大な水の壁をみつめて感動している。
 誠は勇太の頭を 『パシリ』 とたたき、
 「おい、見とれている場合じゃないぞ、何かにつかまれ絶対にはなすなっ」
 誠が慌ててカヌーの縁につかまり身を屈める。

 「みんなっ、とにかくしっかりつかまってっ」
 誠の慌てた言葉と行動に皆が慌てて、
 「つかまれと云っているぞっ。掴まれつかまれ」
 水の壁に見とれるもの、見とれながらも手だけは縁につかまり身を安定させるもの、しゃがみこみながらも、顔だけは壮大な水の壁に見入るもの。
 迫り来る恐怖はその存在を見せても、人の心には入り込んでいなかった。
 
 「でかいぞ・・・・本当に水の壁のようだ」
 「海が・・・立ち上がったのか・・・」
 
 辺りからは恐怖の言葉より、これから何が起こるのかわからないせいか、
 「でかいな・・。」
 「あの中に何かいるのか・・・もしかして龍か・・・」
 「あの壁は・・海水は・・何処から来たんだ」

 見えるままの疑問がでてくるが、
 ゴゴゴッ  低い音がはっきりと聞こえてくると、でかい壁が威嚇のために唸っているように聞こえる。壮大な景色は恐怖へと変わる。
 その恐怖が正しいことを知らせるように、

 「飲み込まれるっ・・つかまって」
 誠の叫びに、見とれていた者も慌てて身を屈める。

 目の前に迫り来る津波の波頭。
 波のようにはっきりとしたものでなく、崩れる波頭を壁が追い抜き、そしてまた波頭が抜いてゆく。
 上下運動の波ではなく、押し迫る波はカヌーを垂直に立ててゆき、そのまま進行方向におし込んでゆく。

 カヌーが垂直に立った瞬間、『導くもの勇太』は海にのまれ、すべての方向と天地も解らなくなり、耳だけが海水と空気のボコボコと絡む音を聴いていた。

 導くものは圧倒的な自然の力のなかで、藻屑のようにもまれて消えていった。



   「死んじゃったと・・・死んじゃったとやろう・・・。グスン・・やっぱり僕じゃ駄目なんだ・・。」
 勇太の空想の世界で、勇太は誰も助けることが出来なかった。それがつらい様だ。
 誠は勇太の肩に手をやり、
 「しょうがないとよ・・・俺達は子どもたい・・・。」
 誠は『しょうがない』と首を静かに振って勇太を励ましている。
 
 誠と勇太が落ち込んでいる横から、この物語を管理する啓二、神のように自然の流れを把握する啓二は、
 「まてまて、そうとは限らんぞ。運も大事たいね。・・野球の選手もそう言いよるったい」
 啓二の言葉に勇太は顔をあげ、
 「うん・・て・・・・幸運とか運がいい・・の・・・ウン・・・・。」
 「そうたい、それか悪運とかのウンたい」

 啓二の言葉に少しばかりの不安を見せる勇太。
 啓二は胸をはり、
 「勇者で導く者の勇太は幸運をもっとるったい。だけん、だれも死ぬことがないったい・・もちろんルカちゃんもね」

 「そうなの」 
 勇太がつぶやき、
 「やっぱり僕はスゴイとやね」
 『ウンウン』と啓二の話に納得すると、啓二に顔をむけ、
 「ねえねえ、どげんして助かると、奇跡がおきるとかいな・・・。」


            9


  必死で泳ぎ必死で掴めるものに掴まった。
 それからの記憶はまったくない。

 「おい、おきろ」
 誠の声、そして、
 「おおー、導くものよ・・・導くものがいないと誰が道を示すのだ」
 不安げなスンダの声。 
 「勇者がいないと・・・どうしたらいいの」
 ルカの声。

 『ルカ? あっルカちゃんの声』
 勇太は慌てて目を開き飛び起きる。
 さすがに女の子が気絶してないのに勇者が気絶していては様にならない。勇太はとりあえず格好を付けるため、

 「あっ、大丈夫・・。ちょっと・・あの・・。みんなは」
 辺りを見回すと幾人もの顔がある。カヌーは結ばれイカダのごとく繋がり海を漂い波に揺れていた。

 気絶していた勇者のカヌーには啓二と誠が乗り、隣のカヌーにはスンダとルカ、右隣にルクとラン、前方にトクと・・たぶんトクかルクの奥さんでルカの母親・・・確か名前はカカル・・だった。
 この場合トクの奥さんということになり、ルカはトクのこどもだろうか・・・。 

 少し離れた場所から、やはりカヌーを何艘か結びイカダのようになって、波に揺れている場所からこちらを見ている顔がある。よくよく辺りを見回してみると、イカダをつくった幾つかの集団が波に揺れていた。

 「大丈夫か」と、周りに気遣われ、
 「大丈夫です」と、元気に応えて見せる。

 「さぁっ! 導くもの勇太よ。我々はあの島に向かっている。とりあえずあの島でよいのか導きの言葉をッ!」
 勇太はスンダの指差す方をみて、
 「あっ・・島だっ」島に見とれる。
 
 勇太はその島を見つめながら島の斜め上に太陽をみつけ、
 「あれ・・・なんか変ばい・・・」
 勇太は思い出す。津波に飲み込まれたときは背中に太陽があったはず。
 「ねえ」
 勇太は言葉に疑問をのせて、
 「後戻っているの・・・太陽が?・・・。」
 誠に顔を向け疑問を投げてみる。
 誠は 『ニッコリ』 と笑い









Last updated  Mar 28, 2007 09:05:31 PM
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カテゴリ:物語



 

 恐怖が身体を支配すると考えるよりも身体の反射が優先する。

 ガシッ 勇太の右足が宙に浮くと、そのまま悪魔の顔に勢いよく落とされた。
 「ギュっ」と、喉を絞り鼻から抜けるような悲鳴を上げて、悪魔がのけぞり海へと落ちてゆく。勇太の脚を瞬間引っ張り、力なく離れていった。

 「やったー」勇太が喜びの声を上げて、
 「こいつら、結構弱かばい」啓二と誠に嬉しそうに報告する。
 周りを見渡すとあちらこちらの船で、同じように悪魔がよじ登ろうとしている。皆は思い込みで、悪魔を恐れ、オールを手放しカヌーの隅でガタガタ震えていた。
 「いけないっ」勇太は叫びと共に立ち上がり、
 「みんな闘って。こいつら弱いよ!見かけに騙されちゃダメだ。僕みたいな子供でも追い払えるんだ」 

 叫びもむなしく、何艘かの船は悪魔が乗り込み、幾人かを海へと引き釣り込んでいた。
 「うをーっ」叫び声が返事となり返ってくる。
 「闘わないとっ」喉に痛みが出るまで叫び続ける勇太。
 身を乗り出し叫ぶ目の前に、いきなり海の中から黒いものが飛びだしてくる。「うわっ」と、驚き身を躱す勇太の目の前に現れたのは、ルクと一緒にカヌーにのるランと呼ばれる若者だった。

 「ブハッ」現れると同時にカヌーにつかまり、
 「早く引き上げてくれっ」
 必死にカヌーに乗り込もうとする。啓二と誠がしりもちをつく勇太の横から手を伸ばし、ランを手伝う。ランの腰がカヌーに乗って少し安心したとき、
 「あっ捕まれた」

 海に浸っている脚が引っ張られ海へと引き釣り込まれそうになる。
 「あっ、勇太っ化け物ばオールでシバキ倒せっ、はようせんかっ」
 勇太はバランスを崩したままだ。 
 「早く頼む」ランが必死にもがき叫ぶ。
 「こいつら海の中じゃ強かぞ、引っ張られるったい」
 啓二が歯を食いしばり必死に力を出している。「くそっ」

 勇太は体制を建て直しオールを探す。
 「おいっ」後ろから声がする。
 「これを使えっ」
 振り返るとオールが飛んできた。
 ルクが側までカヌーを寄せて勇太に投げて渡した。
 「うわっ」勇太はバランスを崩しながらもオールを掴み、柄の部分をランの足元に見える影へと突き立てた。

 「えいえいっこんやたぁ。手ば離せってば」
 五度目で空振りとなった。ランの脚を掴んでいた影は海中へと姿を隠していった。
 「助かった」 
 ランはカヌーの上でハアーハアーと荒く息をしながら、
 「ありがとう。たすかった」

 ランは啓二、誠、勇太と抱きつき「恩人だ」ともう一度礼を言ってる句のカヌーへと移り、そのままグタッと倒れこんだ。
 「大丈夫なか」皆が心配そうにみていると、
 「大丈夫だ」ルクが笑顔でこたえ、辺りを見回して、
 「さあ、奴らは去った。私達を導いてくれ」
 
 派手に両手を広げ勇太へと笑顔を向ける。
 勇太たちが辺りを見回すと、皆が疲れた顔で近づいてくる。どうやら悪魔どもは退散したようだ。いくら海中で自由自在でも、力は人間の方が上だったみたいで、海の中へとさらわれて消えた者はいないようだった。
 
 皆で固まり進もうと意見は一致し、ゆっくりと皆で漕ぎ始める。
 「・・・・。」
 誠が辺りをきょろきょろと見回して勇太へと振り返る。
 「おい勇太。悪魔たちはどっちのほうへと泳いで逃げたとや、見とらんとや」
 勇太は辺りを見回しながら、 
 「みてないや」とこたえる。

 誠は前を向いたままの啓二の背中へ、 
 「啓二、悪魔は何処へ逃げたとや・・・知らんか」
 啓二は一度振り返り「見とらんぞ」静かに答える。啓二はカヌーをこぐのをやめて振り返り、
 「よかったい。もうおらんとやし。海の深く潜って、浜のほうに帰ったとやろう」
 あっけらかんと笑っている。
 「どれくらい潜れるとかいな」誠は真実を確認したいのか、
 「息がつづかんやろうもん」と、疑問を投げてみる。
 その投げに「魚みたいにエラがあるとやろ」適当な答えが啓二から返ってくる。

 誠はこれ以上の話をしても無駄と思い、振り向いて勇太に声をかけようとするが、勇太は目じりを下げて口をあけ、一点を見つめている。その視線の先には、ルカが細い腕でオールを一生懸命漕いでいる姿があった。

 誠は「はぁー」とため息をつき、呆れ顔で「お前が漕がんか」とオールをわたし、「ルカちゃんも漕ぎよるたい、お前も漕げ。頼りないて思われるぞ」と言い放つ。
 「よしっ」言葉の勢いもよく、勇太は漕ぎ始めていた。
 その後のカヌーは真っ直ぐには進まず「どうしたんだろう」と思った啓二が振り向くと、要領悪く漕いでいる勇太の姿が目に入った。
 「・・・・・。」啓二は漕ぐのをやめて「一人で漕ぐよりつかれるな」がっくりと肩をとしていた。
 「勇太、俺が漕ぐけんオールば貸してん」と笑いながら手を伸ばす。
 「よかっ。僕が漕ぐ」

 逞しくはりのある声で、誠に主張する。勇太の意識は明らかにルカへと向いていた。カヌーの一番前には、「交代」と誠にオールを突き出す啓二がいた。

昼間は頭から布をかぶったりして日差しを避けている。カヌーを漕ぐにもゆっくりと疲れを大きくしないように工夫していた。

 それでもいつの間にか船は潮の流れに乗っているみたいだった。周りに対象物がないので、進んでいるのか浮いているのか判断はつけにくいが、進んでいると判断しても問題なさそうだった。

 太陽が頭の上を通り過ぎ背中のほうへと回ったとき、勇者勇太は呪文を唱える。
 「ねえ」船に波がちゃぽちゃぽとあたるのどかなひと時、海水がすべての雑音を吸い込んだような静けさ。皆も疲れたのか静かに漕いでいた。
 「しずかだね」呪文を唱えた。
 「ああ静かだ」誠が答える。

 一呼吸。その後にお尻の下から、微かな痺れを感じて『ズン』と低い音なのか振動か、どちらにしろ空気が一瞬振動したような、微かに電気が走ったように感じる。

 辺りをきょろきょろ勇太が見回すが、誰も反応していない。
 「ああ、退屈になってきた。なあ、啓二」
 啓二は欠伸をしながら振り向き「うんうん・・ああ、静かで退屈・・・・。」伸びを途中でやめ、大口欠伸も止めて何かを見つめていた。

 誠と勇太が啓二のマヌケな顔を見つめていると、啓二は腕をゆっくり下ろしながら立ち上がり、遠く西の空を見つめていた。
 「あぶなかぞ啓二」誠が啓二に注意をすると、周りも何事と啓二のほうへと視線を集めて、その視線を追って振り向いた。

 と、同時に、ドドンッ 大きな音とともに激しく空気が揺れて東へと走り抜けてゆく。
 「おおおっー」周りのカヌーからどよめきが起こり、誠と勇太も慌てて振り返る。
 「すごいっ」思わず叫ぶ誠と勇太。

 海面からモクモクと煙が上がっている。正確に言うとスンダたちが暮らしていた島の火山が微かに見える。その頂辺りが海面から少し突き出したように見えていたのだが、その頂はきえ、海からモクモクとものすごい勢いで煙が噴出している。その光景はまるで空に灰色の煙の大地を作ったように、青空の海を西の空から消していった。

 「凄い・・天地がひっくり返っとるよ」勇太が誰にとなくつぶやく。
 「ああ、すごかぞ。あの煙から竜か何か出てきそうたい・・出てくるとやなないか・・。」
 誠が、勇太に聞こえるように感想を言う。
 真実を語る者が勇者に語る言葉は、周りにも聞こえていた。
 「何だ、どういうことだ」誠の言葉に周りがざわつきだす
 






Last updated  Mar 28, 2007 08:59:12 PM
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カテゴリ:物語




 啓二と誠が必死でオールを使うが、カヌーが素直に進むことはなかった。

 大人たちも、子供達も、準備運動よろしく辺りを漕ぎまわり、後は出発の言葉を待つだけだった。らちがあかないと思ったのか、スンダの命令でルクと、ランと言う若者が乗ったカヌーが近づいてきて、三人の乗ったカヌーへと縄をかけた。
 「しばらく引っ張るから、君達も練習して」

しばらく引っ張られ啓二と誠は慣れてきていた。途中で誠は勇太と交代をしたが、勇太はまったく役に立ちそうになかった。
 「だめだこりゃ」啓二があきれて誠を見ると砂浜のほうを見つめている。啓二は誠を見つめながら漕いでいると、
 「勇者よ。導く勇太よ」スンダの声が聞こえてくる。
 「さぁっ。東への進路をとった。これから何を目指せばよい」

 啓二はスンダへと視線を変えて、何を目指して進もうかと考えていると、勇太がスクと立ち上がり、
 「島です。とりあえず島を見つけてそこに上陸しましょう」
 フラフラと立ち上がり拳を握り締めて東に広がる海原を見つめている。啓二は説得力のない言葉だと、あきれて見ていたが、

 「さすが導くもの」トクが叫ぶ。
 「族長スンダよ。導くものは旅を心得ている。長旅は身体をいたわることが大切、まさに旅を続けてきた者の言葉。このまま進み、東に流れるという潮に乗れば島にはスグにたどり着くでしょう」

 「おおー」どよめきが五十艘ばかりのカヌーからおこる。あちらこちらから「さすが神が使わした者だ」
 「我らが言い伝えと同じだ」

 賛美がきこえてくる。
 「楽園に行けるぞ」喜びを抑えた呟きがあちらこちらから聞こえてきている。
 
 スンダ族に伝わる楽園伝説があるのだろう。誠は「それで子供の言うことを信じるんだ」と納得できた。『今度その楽園伝説を聞いてみよう』一人つぶやき再び海岸線に視線を向けて見入った。

 さっきまでいた砂浜。森との境に何かが立っている。
 遅れてきた『人』ではないはずだ。
 その場にあるカヌーに誰も乗ろうとしない。
 「よいしょのこらしょ」勇太の情けない声と波の音を意識から遮断して、浜辺へと意識を集中させてみる。森から浜辺へと何かがぞろぞろと出てきている。それもかなりの数だ。

 「・・・悪魔だ・・。」誠がつぶやく声に、勇太が手をとめ見とれる。誠の見つめるその視線を追いかけ浜辺へと振り向きながら「どうしたの」声をかける。
 振り向いた先の浜辺には「あれ?」何かがかなりの数うごめいていた。
 「なに・・・。」勇太が目を凝らして見つめる。残されたカヌーの周りをアリのように見える何かがうごめいていた。それらは波打ち際まで来ると、

「飛び込んだ」勇太が確認するようにつぶやいている。
 その時啓二は広がる大海原を見渡し、
 「海原はいいなー。見渡す限りの海、青い海の上で波を切り裂き進むカヌー。なぁ勇太」

 勇太の呟きなど聞いてもいないし、返事がなくても気にしない。のんびりとカヌーと海を楽しむ啓二だった。
 勇太はオールを操るのをやめて、誠とふたりで海に飛び込み近づいてくる悪魔を眺めていた。

 「泳げる」陸地であれだけ不器用に走っていた悪魔たち。
 誠は考えをめぐらせて悪魔達の体つきを思い出していた。

 鱗のような肌にトサカ、不器用な陸地での動き。『海の生き物』そう考えたほうが納得がいく。多分指の間には水掻きもあるはずだ。
 「大変だ・・・スグに追いつかれるぞ」

 誠は慌てて「勇太変われ」オールを奪い取り自ら全力で漕ぎ始める。
 「なんだ・・。」啓二が振り向き誠の慌てぶりを見つめる。
 誠は必死の表情と動きで『こげこげ』と騒いでいる。啓二は勇太に目を向けると、遠くを見つめる視線を追いかけてみた。
 「あっ」きづいた。

 啓二は正面に向き直り、必死でこぎ始める。
 引っ張ってもらうための縄は緩み、ルクたちに追いついて追い越そうとしていた。
 「おっ」ルクとランはそれに気づいて「やるな」と感心していると、 
 「逃げて逃げて」誠の叫びが聞こえる。
 ルクとランが、手を止めて何事と誠を見つめている。
 「浜辺のほうッ、岸のほうをみて、来たよ追いつかれる」

 必死に動かす手と言葉で訴える。二人は岸のほうへと視線を向けて、
 「あっ」一言叫ぶ「来た」周りのカヌーに乗った人々も何事かと、騒ぎを見つめ、
 「きた、岸を見ろ」の言葉で全て理解する。
 「きたきた。きたよ」勇太の言葉で、
 「来た。来たぞ」同じ言葉が飛び交い出した。

 悪魔たちは勢いよく泳ぎ近づいてくる。陸とはまったく違うその動きはイルカのようだ。しかし、そんな可愛らしさは何もなく、たまに波間に見え隠れするのは不気味なトサカ頭だった。穏やかな海面に、悪魔たちの近づいてくるしるしが、白い線と波へと姿をかえて居場所を知らせてくる。

 必死にオールを使う啓二たちの背中に、
 「分かれたばい、集まって泳ぎおったのに二つに分かれたばい。ああ僕たちの方へと来ようばい。漕いでこいでもっと漕いで」
 啓二と誠の必死も無視して「急いで、急いで、急がな」手を振りふりアオリまくる。
 さっきコツを掴んだばかりの二人、大人たちからはどんどん離されて行く。必死の中でも悪魔たちはお構いなく、三人のカヌーへと近づいてきていた。

 「わぁ、来た来た来たばい。スグそこまで来とうばい。どうする、ねえどうすると」
 混乱と恐怖の声が啓二と誠の神経を逆なでする。
 「しゃーしか(うるさい)自分でどげんかしろ」と啓二。
 「なぐれ殴れ、殴り倒せ」と誠。
 二人はいっせいに無茶を言ってくる。

 悪魔はすぐそこまで来ている。手を伸ばせば届きそうなところまで来ている。海の中が本領発揮のようだ。自由自在に動いている。
 手を使わないその泳ぎに思わず見とれている勇太。
 「すごか・・・。」一言つぶやき「あっ」わが身の立場を思い出した。

 目の前だ。

 カヌーの真横に並んで泳いでいる。海の中で身体を横向きに泳ぎ、こちらの様子を伺っているようだ。海の中でゆがんで見えるその身体は不気味さを強め、勇太をただうるさいだけの警報機に変えていった。
 「わわっ目の前におるばい、どげんすると、ねえどげんすると」

 警報機はケタタマシク鳴り続ける。自分で判断し何かをするわけではなく、啓二と誠からの支持をまっている。
 「アーうるさかね」誠が必死でこぎながら振り向き、
 「お前が蹴飛ばしてしまえばよかろうもん。片足出して蹴飛ばせ」
 「できんできん、そげんことは出来んばい」警報機が答える。
 「いけよっ勇者。お前がやらんでから、だれがするとやッ」
 「えっ」警報機か沈黙する。

 いきなりの沈黙に、警報機が海に落ちたのではないかと、誠が振り向き確認する。勇太は海から見え隠れする悪魔を見つめていた。
 「何考えようとか」誠が思ったとき。勇太は握り拳をつくり、振り上げた。
 勇太は握りこぶしを海面にたたきつけた。カヌーが少しバランスを崩して左右に揺れ、啓二と誠があわててバランスをとる。

 「えいエイエイ」勇太はほとんどからぶりたが、拳を悪魔めがけてた叩き落している。悪魔は驚いたのか、海のそこへともぐりカヌーから離れていった。
 「やったばい。やっつけたばい」
 勇太は、振り向き見つめる啓二と誠を交互に見つめ、『どうだ』とばかりに胸をはる。一瞬の驚き顔を勇太に見せていると、不意にカヌーが左へと傾いた。

 「あっ」カヌーに手をかけている悪魔がいる。傾いた原因を確認して叫ぶと同時に、悪魔が乗り込もうと上半身をカヌーにかけている。
 そのために揺れるカヌーで勇太は必死にしがみつき身体を支える。その支える勇太の脚を悪魔がガシリと掴み倒そうとする。
 つかまれた脚に目を向け、その手に長い爪と水掻きのついている指を見る。

 幸か不幸か、悪魔に脚を掴まれたため、勇太は身体を安定させることが出来た。勇太は今一度身体に力をこめて踏ん張ると、それを利用して悪魔がカヌーに飛び乗ろうとする。
 悪魔の気味の悪い顔が近づいてくる。つりあがる目、その目には海の中で自由に泳ぎ、目を保護するために白い膜がかかっている。鼻は無いように見え唇らしきは確認できず、口の中はギザギザとした三角の細かい刃が、くちばしのような歯茎に規則的に並んでいた。



 「ゆうたっ!」誠がさけぶ。






Last updated  Mar 28, 2007 08:55:25 PM
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Mar 27, 2007
カテゴリ:物語


「ギャー」

 どこかで叫び声があがる。

 悲鳴のほうへと勇太たちもルクたちも視線を向ける。人は見えないが遠くで松明が投げ出されるように飛んでいくのが見えた。
 「キャッ」ルカの叫びが聞こえてくる。

 勇太がルカに向き直ると、走り逃げる大人に突き飛ばされて座りこんでいる。勇太はすかさず走りより、優しく「だいじょうぶ」と声をかけて立ち上がるのに手をかした。
 ルカは立ち上がりコクリとうなづいて、言葉を出そうとしたそのとき、
 「にげろっ」誠の叫び声がする。

 声の方に顔を向けると、啓二と誠が一気に走りぬけてゆく。走り抜けた二人の背中を見たあと、何から逃げているのか確かめるように、顔を反対側に向けてみると、ガツンと衝撃をうけて身体が浮き上がるのが解った。

 ルカのほうに目を向けてみると、ルカは若者に片腕で脇に抱きかかえられ、勇太の目の前を斜めに飛んでいる。勇太は自分も同じように抱えられているのを理解し、宙に浮く自分の足元のほうへ注意を向けてみた。
 「あっ、悪魔だ」不気味な影を暗闇の中に浮き上がらせて、勇太の飛ぶ後を不器用に走りついてくる。

 一瞬身体の緊張が起きたが、抱えられて逃げる勇太たちよりも悪魔達は脚が遅かった。悪魔達が遅いのか、この人たちの体力が凄いのか。どちらにしろ追いつかれる様子はなかった。

 距離がどんどん離れてゆく、勇太はすこしホッとしてルカの方へと目を向けてみた。ルカは泣くこともなく、抱えられたまま不器用に走り追いかけてくる悪魔達をみている。
 頭を進行方向へと向けて、啓二と誠をみると、
 「あっ!」啓二の背中にでかくて丸っこい悪魔が飛びついている。啓二が左右に走り回り悲鳴を上げているのか騒いでいるのか、楽しんでいるようにさえも、見方によっては見えるが、必死に走り回り背中の生き物から逃げていた。

 背中の悪魔を引き離すため、ジグザグに走り回る啓二を追いかけて誠が走る。背中の悪魔をつかめそうになると、気味が悪いために、手を引っ込めては伸ばして、再び引っ込めている。
 抱えられた状態で追いかけてくる悪魔に視線を向けてみると、その姿はもう見えなくなっていた。

 再び啓二に向くと、引き剥がされた悪魔が地面を転げているところだった。その転げていく悪魔を見ながら「こいつ弱かぞ」と叫びながら走る誠が拳を振り上げている。

 途中から「自分で走れ」と地面に下ろされ、勇太たちも大人について走り出す。人数は把握できないが、周りには二、三十人ぐらいの集まりで走っているようだった。
 勇太は啓二と誠の姿を少し離れたところに確認できたが、ルカの側をぴたりとくっつき走っていた。

 どれだけの時間を走ったのだろうか。空も明るくなって、走るというより駆け足に変わり、
 「もうだめバイ」啓二が言葉をこぼし「歩こう」誠が提案する。
 「もう少しだ」と大人たちは励ましあい、「海にたどりつけば」と、つけば何なのか、その後の言葉は出さずにひたすら進んでゆく。

 ルカは愚痴もこぼさずにルクの側を足早に歩いている。勇太はその一歩前を、胸を張って逞しく見せながら、疲れを隠して歩いている。

 その場からさらに頑張り歩くいてゆくと、
 「おおー」啓二の声、
 「でたー」誠の声。

 勇太は悪魔が出たにしては楽しそうな声に、ふと顔を上げて立ち止まる。
 「おお海だ」啓二と誠は、何処に隠していたのか、あらん限りの元気のよさで走り出していた。子供の高揚とした声は、大人たちにも一種の元気を与えるらしく、周りの大人たちも走り出していた。
 「きゃー」ルカも、周りの高揚に誘われたのか、海に気づいたとたん奇声と共に走り出した。
 「久しぶりの海ー」ルカの声の先には、キラキラと光る海が見えていた。
 「これ、危ない」ルクの注意の言葉も聞こえず「大きいー」視界が開けて海が一望できる場所で両手を広げて、走りはさらに加速してゆく。

 楽しげな声は、走り去る後姿を見失っても聞こえてくる。
 「きゃー白くてさらさらー。久しぶりの海ー」
 足元の砂と戯れているのだろう。
 「キャー近づいてくる」波と戯れているのが、想像できる。
 「あーさがっているー」波が押しては引いていったのだろう。
 「キャーサラワレルー」

 ルカの言葉に大人たちが慌てて走り始める。「さらわれる」の言葉に反応したのだろう。勇太もビクリと反応して走り始めた。
 だが、やはり余計な心配だったらしく、大人達は海が見渡せる場所で立ち尽くし、「キャー」「わー」と聞こえる楽しそうな声に、笑顔をもらして見つめていた。そこから見えるのは啓二と誠とルカ、そして、年甲斐もなく波と遊ぶ大人たちの姿が見えていた。

 白く輝く砂浜に青く煌めく海。
 楽しそうに遊ぶルカに、啓二と誠。勇太も走り出して行き、一緒に遊びたい衝動にかられて、脚を一歩踏み出すそのとき、
 「さすが導くもの。勇者といわれるだけの事はある」と、トクの声。
 声の聞こえるほうへと顔を向けると、トクをはじめ大人たちが勇太を見つめている。
 「普通の子供なら今頃、はしゃぎまわっているのだろうが、そこはさすがに神の加護のある勇者。落ち着いている」

 周りから関心の声がぼそぼそと上がっている。走り出したい衝動に駆られている勇太は、周りの言葉に走り出せずにいた。勇太は視線をはずして、コホンッと軽く咳払いをして、
 「う、うん。これから海を渡るんだ。はしゃぐよりも船の確認と、旅の決まりをつくらなきゃね」
 いかにもと、胸をはりそれとなくつぶやいてみる。
 「おおおー、そうだそうだ。こうしていると、また悪魔どもがやって来るかも知れん。急いで船の準備をしてしまおう、船はあの岩場の向こうだ」
 

                         8


 岩場をすぎると再び砂浜だった。

 キュッキュッと鳴く砂を踏みしめて向かう先にはすでに二十人以上の人だかりが見えている。先に走り出してたどり着いた人たちと、ここで船の用意をして待っていた人たちだろう。

 船はやはりカヌーだった。
 珍しいカヌーに近づいてマジマジと見つめていると、
 「用意はいいか」スンダの声が聞こえてくる。この海辺でも、逞しく厚みのある声だ。
 暗い夜の森、スンダも一緒に歩いてきたが、息を乱している風も見えず、小さくも逞しい空気をまとい白い砂の上に杖を突いて立っていた。
 「すべては万端です。たった今からでも旅立てます」 

 若者が報告をし、その声にすかさず「よしっ」厚みのある声でスンダが呪文を唱えた。
 「さぁ、導くもの勇者勇太よ。楽園に向け、我らを導いてくれ」
 スンダが芝居がかったように両手を大海にむけて広げて見せた。
 次に出てくるであろう旅立ちの言葉を、神の代弁として聞こえ来る言葉を、皆が黙り込み勇太へと耳をむける。

 いつの間にか側に来ていた啓二が、勇太の代わりに何かしゃべろうと口を開けたとき。
 「いきましょう」勇太は逞しく、そしてまさに呪文の業にかかった声を張り上げている。
 啓二は驚くまもなく「おーっ」という皆の雄たけびを耳にしてしまう。
 一人が走り出すと皆が走り出す。カヌーを押して海へとむかい。勇太たちもそれに続いてカヌーを海へとくりだした。

 勇太と誠は、幾人かに手伝ってもらい、海にカヌーをうかべてしまうと勢いで飛び乗ったが、
 「カヌーに乗れるのか」誠の疑問を確かめるように、勇太がぎこちなくカヌーでバランスを取っている。返事もせずに一生懸命にバランスを取っていると、バシャバシャと啓二が走りよりカヌーに飛び乗ってくる。
 「なんとかなるとよ。のってからかんがえるったい。そげんことは」
 
 カヌーは転覆こそしないが、まともに進んでもいなかった。
 三人乗っていっぱいいっぱいだ。隙間はすべて食料か水が場所を占めていた。その中で無理やりフラフラと立ち上がり、
 「さあ、楽園へゆこう」勇太は空っぽの勇気を惜しげもなく表に出して、皆の気持ちを高揚させてゆく。






Last updated  Mar 27, 2007 11:10:27 PM
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カテゴリ:物語



 ざらつきが指先に感じられる。キメの細かい柔らかな灰が体中に積もり始めていた。

 啓二と誠がハンカチで口元を覆い、
 「口をふさげ、灰を吸い込むぞ」
 誠の言葉に慌てて口をふさぐ勇太。ふさいでみて初めて解ったが、口の中はざらついていた。口の中を気にしつつあたりを見回してみると、周りの者たちは三人の行動をみて、真似するように口を塞ぎ始める。初めての経験に、人々は不安を隠し切れずにいる。

 しかし、勇者と呼ばれ神の加護を受けている勇太が側にいることで、かなりの安心感があるのだろう。不安な気持ちの中に楽園への期待を覗かせていた。

 勇太たちも地震は初めてだった。だから不安を持っているのだがのん気に旅の間の食べ物の心配をする啓二と、船が大きいか小さいか、どれほどの長旅になるのか遠足前夜の子供のようにはしゃぐ勇太。そして『楽園なんて何処にあるんだ。皆を導くって何処に行く。嘘がばれたらどうするんだ。どうせ大きな船なんてなくて、小さなカヌーだろ・・・南国はカヌーだ」

 ひとり生真面目に未来を心配する誠が、不安を抱きしめ灰に埋もれていた。
 思い悩むものに浮かれるもの、そして気にもしない者に、旅立ちに未来を見る者達。同じ灰に埋もれていても、不幸に見えるのは一人、誠だけだった。

 「よしっ、旅立ちです」 
 勇太が拳を握って立ち上がり、何処を見つめているのか宙を睨んで唇をかみ締めている。
 人々が集まっている場所からでも、夜になると山の斜面に燃えて燻る火種が見える。それはチラチラと赤い目玉が幾つも瞬いているようだった。

 人々は得体の知れない獣に狙われているようだと口々に訴えている。準備ができた楽園組は夜中にもかかわらず出発する事になった。
 スンダの年老いた小さな身体から、分厚く頼りがいのある声が、

 「サア旅立ちだ。神の加護を受けた少年達と東の楽園に向かうものたちは、もてる食料を持ち、希望を抱えて出発だ」と叫ぶ。あたりからは賛同と鼓舞する事を示す雄たけびが上がる。
 「つらいたびだが、その先には楽園が、我らをまっているぞ」
 人々は自分達をよりいっそう鼓舞するために拳を天に突き出し雄たけびをあげている。

 男も女も、年寄りも子供も、それぞれ家族単位で全体の二割ばかりが楽園へと向かうようだった。そして、残りの三割がとりあえずこの場所を移動して新たな土地にうつり、残りの五割のうち三割が南の先祖の地を探して南の海を渡るらしかった。
 残りのものはとりあえず、怪我人と一緒に場所の移動をしながら暮らすことになるらしい。

 楽園に向かう人々がぞろぞろと、広場の一角、勇太たちの周りに集まってくる。その中にはスンダをはじめ、知力のトク、体力のルク、そして勇太を骨抜きにするルカがいた。
 ルカの姿がみえると同時に、勇太は少しでも自分を逞しく見せようと、背筋を伸ばし顔を引き締めている。

 誠と勇太は全体を見回し、それぞれが家族だとわかる四、五人づつの集まりに目を向けて「あっ」と声を上げる。スンダ、トク、ルク、ルカ、そして見知らぬ女性。
 「家族なんだ・・・。」こうして見て、初めて顔が似ていることに気づいた。

 旅立つ者があつまり、スンダが勇太に声をかけてくる。
 「さぁ、行きましょう。旅立ちです。船はここから北にある海に用意しています。歩いても夜明けにはたどり着くでしょう」

 夜明けまでといっても今が何時ぐらいなのか、どれくらいの時間歩けばいいのかサッパリ解らなかった。
 それでも勇太は「よしっ!」と、今までに出したことがないような歯切れのよい元気な声で、
 「さぁっ。行きましょう」と、歩き始める。
 そんな勇太の珍しい逞しさに、
 「さぁ、みなさん勇者に続いて歩き出しましょう」
 調子よく掛け声を上げるのは啓二だった。


                         7


 「さあ勇太、ここからはジャングルを歩くとぞ、先頭はルクのおっさん、そして俺達、スンダにルカにトクがつづくぞ」
 すっかり物語の住人になっている勇太は、
 「よし、ジャングルだ」目に力をみなぎらせて、壁画をみつめて、
 「・・・僕のする事は・・あるとかいな・・。」なれないジャングルでは何も出来ないように思えた。勇太のその言葉に啓二は首を横に振りながら、
 「これからが勇太の出番たい。何をするにしても勇者が導くとたい」
 「そっかー。よくわかんないけど僕は重要なんだ」

 うむうむと、一人うなづき拳を握り締めている勇太だった。
 「でも・・・。」盛り上がる二人に誠が言葉をこぼして、
 「悪魔はどうするんだぁ。夜目がきくとやろうもん、襲われるとやないか」
 誠の言葉に、勇太の拳は「あっ・・」力なく開いていった。
 「だいじょうぶ」啓二が力強くいいきる。
 「ここにいるだろうが勇者勇太が。負かしとけば大丈夫ったい」

 開いていた勇太の拳は再び強く握られていた。
 「で、暗闇のジャングルで何が出来ると」現実の中の誠の言葉。
 「あっ・・・。」力強く握られた拳は、スーと力が抜けて腰の横へと落ちていった。

 ジャングルの中は闇と虫だらけ、わきあがる恐怖は、今のところ人に囲まれ腹の中でおとなしく隠れている。

 松明でぼやけて見えるジャングルは、木々が生い茂る場所と焼け野原のところと、まだらに続いている。焼けたジャングルは足元熱く、燻り続けて煙を上げている場所もあった。
 「これじゃ悪魔どももかなりの痛手だろう」
 トクがあたりの風景を見ながら、
 「数も減っているだろうし、ここまで来ることもないかもしれないな」と判断する。
 「いや」それが納得いかないと、ルクが
 「逆にヤケになっているかもしれん・・」つぶやく。
 「うむ」二人は用心とうなづきあう。

 どうなるのか、このまま時間がたてば解るだろう。皆は口数も減ってきてモクモクと歩いていた。どれほど歩いたのだろう。ルクが緊張したように脚を止める。
 「どうしたの」ルカが、立ち止まったルクにぶつかりそうになりながら、かわいらしい声をかける。
 「いや、用心で周りを見回してみただけだ」ルクは笑顔で応える。
 「そう」ルカはホッとしたようにルクを追い越し前を歩く。

 それを見ていた啓二のいたずら心に火がともる。
 「勇太、ルカちゃんが不安そうだから声かけてやれよ。勇者が声ばかければ怖いもの無しだ。励みになるぞ。ほらはやく」
 勇太の背中をぽんとおす。勇者の気持ちもまんざらではないが、
 「でも・・・。なんて声かけたらいいとかいな・・・・。」
 押されて二、三歩前に出るが、その脚はとまって啓二の横へと戻ってしまう。
 「それは誠に聞けばよかったい。誠は女たらしやもん」

 勇太はくるりと後ろを向いて誠をみつめる。
 「何だ勇太」目の前に立ちはだかる勇太に驚き立ち止まると、「ねえ」勇太から声がかかる。何事と黙ってみていると、
 「ねえ、女たらしなの・・」と聞いてきた。
 「なっ」驚きの誠にすかさず啓二が「いや、なんでもないったい」と勇太の口を塞ぎ歩き始める。

 誠はふざけて啓二に飛び掛り三人でふざけて歩いてゆく。騒ぐ二人から離れて後ろを振り返る勇太は、ルカと目が合い「あっ」と言葉をこぽして固まってしまう。ルカがニコリと笑顔を見せると、勇太は慌てて回れ右をして、真っ直ぐ歩き始める。言葉をかけるチャンスを逃して肩を落とす勇太は、はしゃいで楽しそうな啓二と誠を見つめて、なにげに今一度振り返ってみる。ルカに目を向けるのは恥ずかしく、後ろにつづく長い列へと、とりあえず目を向けてみた。

 列はかなりの長さでつづいている。人の姿ははっきりとしないが、燃えた森は遠くの松明まで確認できるほど隙間だらけだった。
 勇太は自分の前でさわぎつづける啓二と誠に視線を戻し、いつの間にか前を歩くルカたちに視線を向けてみた。

 前をゆくルカの姿に見とれていると、はしゃいで歩く啓二と誠から「あれ」と少し驚いたような言葉が聞こえてくる。二人は暴れるのをやめて、二人で肩くみ左側の森の奥を見つめて歩いている。

 啓二、誠、勇太は静かに森を見つめている。勇太には何を見ているのかわからなかったが、啓二と誠は何かを気にして見つめている。
 誠が森に注意を向けたまま啓二になにやら話しかけている。それにうなづき啓二が返事をかえしている。二人の会話から再び森へと視線をむけると、ハッと息をのみ思わず脚を止めてしまう。不気味な姿勢で歩く影が目に入る。

 息を飲み、ピクリと脚を止める勇太の動きに、後ろにつづいて歩いていた者たちが気づいて脚をとめ、勇太の視線を追って森へと視線を向けた。

 「あっっ」幾人からか驚きの声があがる。
 瞬間的にざわつきはあたりを支配して、視線は森の奥へと投げられた。
 驚き息をのむものと、瞬間的な反射で、
 「何かいるぞっ」騒動を起こす呪文を唱える者がいた。
 それが合図で騒ぎはいっきに広がってしまう。
 「逃げろ!」とどめの呪文がどこかから聞こえてくる。
 騒ぎを越えて、人々は走り出す。

 勇太たちを追い越し海へと走り出すもの、逆に村へと走り出すもの。勇太はすかさず啓二と誠の腕を掴みあたりをきょろきょろと見回して見る。
 「走るなとまれ。バラバラになるな」ルクが叫び皆を止めようとするが、誰も冷静に聞こえているものはなかった。叫びはパニックを引き起こすだけだった。
 






Last updated  Mar 27, 2007 11:05:46 PM
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Mar 26, 2007
カテゴリ:物語


   

 『昨夜の生臭さと気配は・・・・。』勇太は鳥肌を立てて、『よかった』とため息をつく。

 「あー、俺たちも危なかったらしいと。けど、ルクおじさん達が気づいて追い払ったげな」
 誠がパンをほお張りながら勇太に話して聞かせる。
 「俺達もおきていたらもっと早く気づいたのにな。なっ、勇太」 
 「ははは」気づいていながら寝込んでしまったことは内緒にしておいた。

 勇太は話の矛先を変えるように、
 「じゃ、あの腕の怪我はそのときにしたと・・・。」
 勇太が好奇心と恐怖心のハザマの顔を見せて聞いてくる。
 「いや」啓二か首を振って応える。
 「なぜ怪我しとうと」勇太が聞き返す。
 「今朝、こけたらしいぞ」啓二は笑いながらこたえる。
 「なんだぁ」勇太が笑いながら「大人でも子供みたいな怪我をするんだ」と笑っている。
 「おい、啓二」誠が、やはり笑いながら啓二をとがめる。
 「あっ、悪い悪い」まだ笑っている。
 「違うとぞ、こけてない」誠が勇太に向かい真顔で説明する。

 「溶岩たい」
 「ようがん・・・。」勇太は話が見えず、啓二と誠の顔を交互に見回した。しゃべろうとする啓二の口をふさいで誠が話の続きを始める。
 「今朝、ルクおじさん達が森の中を歩いていたら、なにか黒い塊のような生き物が森の中を這いよったらしいったい。それが血ば流しよるみたいでさ、おじさんたちもそれが弱っとると思うて、近づいてしまって、あまりの暑さに驚いてこけて少し火傷ばしたったい。

 「・・・・。」誠の説明に目が点の勇太。
 誠は面倒臭そうに、
 「溶岩が流れてくるとき、表面は冷えて固まって黒く見えるッたい。だから弱った生き物が這いよるごと見えるったい。で、でも中は熱いけ真っ赤やろうもん。で、おじさんたちはそれが血ぱ流しよるごと見えたったい。・・・分かったか・・・」
 「・・・・・うん。」解っていなかった。


                          5


 溶岩の説明にしばらくかかったが。

 「今度は悪魔には誰も連れ去られんやったと。大丈夫やったと。・・僕達がさらわれんでよかった」
 勇太はホッとして啓二から目をそらし、壁画に描かれている化け物、悪魔に目をやった。
 「でも、ここからが大変たい・・・これはただの始まりぞ」
 啓二はそう言うと、わざとらしく勇太のほうとは逆に顔を向け、
 「はぁーーー」と、ため息をついてみせる。

 勇太はそのため息を聞いて不安げに、
 「ど・・どうしたと・・・。」啓二の顔を覗き込もうとした。
 「はあーーー」あらためてため息の啓二。
 「勇太、俺は主人公の勇者じゃなくてよかった。これから勇者勇太は・・・大変たい、これからが勇者の・・導く者の・・・言葉が人々の人生ば・・・左右するッたい。ああ、勇者に栄光あれ」

 誠は笑いをこらえて背中を向ける。まるでその背中は泣いているようだ。勇太は啓二の言葉と誠の背中を交互に見つめて、
 「あ・・・えっと・・・。」背中に寒気が走っていた。

 食事の後、小屋の奥に通され、スンダたちから話を聞かされた三人は、声をそろえて驚いた。
 「えーっ」

 啓二と誠、そして勇太の三人は驚きの言葉の後に、お互いの顔を見合ってしばらく黙り込んでいた。黙り込む三人を、黙って話を聞いているだけだと思ったスンダたちは話を続ける。

 「君達の向かう楽園へ、私達の三分の一近くが、神の加護をうけた君達について海を渡り楽園へとお供する。今このときに、君達がここにいるのも神のご加護。そして、残りの三分の一近くはここを離れて南の・・・。我々の先祖が昔暮らして栄えていた場所、ここに残る巨石の神殿を建てた先祖の住んでいた。全てを石で造る仲間の下へ旅立つ。これも苦しい旅になるであろう。先祖は来たが、我々はそこを知らない」

 スンダの話を聞きながら誠と勇太は啓二を見つめる。啓二が思いつきで話した楽園話を族長スンダ達は信じている。いったい今度は啓二が何を言うのか、嘘だとわかるとどうなるのか、二人は気になってしょうがない。

 「君達の話だと」トクが話をつなぐ。
 「あの溶岩は全てを焼き尽くすといっていた。確かにルクたちがそれを夜が明ける直前確認した。もうじきここは焼き尽くされるのだろう。・・・海へと流れ着いた溶岩は雲を作り、ここを覆い始めている。これがよくないことの始まりだと私にもわかる」

 一度大きく息を吸い。
 「大変な旅なのは解る。どうか逞しき導くもの勇者勇太よ。我ら三つに分けたうちの一つを、新天地へと・・楽園へとみちびいてくれ。勇者勇太よ」
 どうなることかと誠は啓二から勇太へと目をむけた。そして、「うっ」驚いた。
 勇太の目は輝きに満ちて、最後の言葉で勇者へと変わり始めていた。所詮中身は泣き虫勇太なのだが。
  
 確かにこのままでは大変なだけなのは誠にも解る。しかし・・・。

 溶岩も流れてきているし風向きによっては灰もふる。海に流れた溶岩は海を熱してモクモクと水蒸気を上げている。風向きによっては灰は降るし水蒸気でなおの事蒸すし、視界は悪いし怪我人の呻き声は聞こえるしで、確かに気味も悪く、早くこの場所を逃げ出したい気分になる。

 ルクが勇太を見つめ、ダメ押しのように呪文を唱える。
 「勇者がいてこそ大冒険はできるのだ。この村にはいない。神の加護がある勇者だけが皆を導くことが出来るのだ。さぁ、勇者勇太よ。皆を楽園へ導いてくれ」
 この言葉は絶大だった。弱虫勇太は握り拳をつくり、宙を見つめて自分が皆を導き楽園へ旅立つ姿を、導くもの勇者勇太を目の前に想い描いていた。
 
 誠は啓二を肘でつつき『何とかしろよ。楽園は何処にあるとや』と小声で話す。啓二は頭をかきかき『そんなこといってもナぁー』悪びれる風もなく頭をかいている。二人が思案する間もほとんど無く、
 「行きましょう!」勇太は拳をつくって立ち上がった。

 啓二も誠も驚きのけぞり勇太を見上げる。
 「行きましょうっ。そうと決まれば船です。海を渡るための船が必要です」
 誠が慌てて「ちょっとまて」と声をかけるが、

 「おお、それは逞しい言葉」消されてしまう。
 「船ならあります」ルクがこたえる。スンダが喜んだように、
 「ありますぞ、小さいが何艘もある。今からの季節は西から風が吹く、いつでも東に向かい旅立てますぞ。いつでも行くことが出来る」

 「さっそくいきましょう」勇太の一言で、周りの男達がざわつき出す。トクがそれを盛り上げるように両の拳を天に上げ、こう叫ぶ。

 「みなよー。天から導くものが現れた。東の楽園がげんじつになったぁ。さあ、準備だ」
 「おおー」外からも人がなだれ込んでくる。病人は寝たまま拳を天に突き上げる。
 「おおーっおおーっ」喜びと見えない未来に雄たけびがつづく、雄たけびがすんだ男達は『準備だ』と、表へと走り出てゆく。

 『ああっあの・・』消え入る声で誠が話しかけるが、誰の耳にも入っていなかった。
 ルクがスンダになにやら言葉をかけて小屋から出てゆく、スンダとトクは笑顔で勇太たち三人を見つめている。啓二と誠は力強く立ち上がっている勇者の横で、引きつる笑顔を頑張って作っていた。


                         6


 「さあー。ここからが主人公で、導くもので、勇者の出番。勇太の出番たい。お前が勇者ぞ、わかっとうな。気合入れとけよ」
 啓二が勇太の方をポンとたたく、勇太は啓二を掴んでいる手と反対の手で握り拳をつくり、
 「よしっ!」と気合をいれた。
 「僕は・・・勇者勇太だ」なりきっていた。

 夜、風は西から吹いてくる。

 その風邪は火山灰とともに、少年へ東の旅をつれて来る。風は少年の心に夢を吹き込み、海を渡り島を越え、楽園への旅を後押しする。
 しかし、風は現実も運んできている。

 「灰だ」勇太は頬に手をあてる。











Last updated  Mar 26, 2007 10:19:42 PM
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 こものだがイノシシだ。

 皆は久々の獲物に腹も満たされ恐怖も忘れ、ぐっすりと眠りに入れそうだった。

 満腹感と焚き火は安心感を与えてくれるが、五感は迫り来る何かを敏感に感じ取っていた。

 フッと目が覚めると火はまだ燃えていて炭になっていなかった。身体は興奮したままなのか、あまり時間は過ぎていないようだった。ルクは寝転がったまま薪を火にくべ、舞い上がる火の粉を追って星空を見上げた。目に入る情報は星の瞬きと焚き火の明るさが届くあたりまで、のんびり見上げるルクの身体に瞬間緊張が走る。

 「なに?」五感のうちの耳が何かを感じ取る。
 見えるはずはないが辺りを見回してみる。
 ゆっくりと起き上がってゆくと、パキッ 何かがゆっくりと歩き近づいてくる。
 「誰か小便にでも行ったか?」 

 それにしては、何か警戒するような歩き方だ。『動物?』違う。二本足のようだ。
 「まさかっ」ルクの身体に力がはいる。
 いきなり毛穴がひらきジットリとした汗が噴出してきた。何かが近づいてくる気配は、三方から聞こえてくるみたいだ。その気配を聞き逃さないようにと身体を起こし、腰の鉈を握り締めて身構えた。

 ガサッガサッと何かが走ってきて、ルクは飛び起きてしまう。
 「ギャーッ」叫び声がきこえてくる。
 ルクは鉈を握り締めて闇に向かい身構えて戦闘の態勢をとる。その視線の先にもがき暴れているらしい姿が闇の中に浮かんで見えた。
 「ちっ。暗すぎる」ルクは火のついた枝を何本か掴み、闇でもがく影に向かって投げつけた。
 「みえた」ルクの目にあのトカゲのような化け物と格闘する若者の姿が見えた。化け物は若者の顔に飛びつき頭に噛み付いているようだ。血が流れている。

 ルクは急いで若者の元へと走りよろうと一歩踏み出した。直後、左手から叫び声
 「しまった」ルクは躊躇してしまい、誰から助けるかと迷ってしまう。その瞬間、背中からわき腹にかけて痛みが走り、そして頭に何かが噛み付いてきた。

 「うわっ」声を出してそれを振り払おうとするが、化け物の爪が身体にくいこみ、無理に払おうとすると焼け付く痛みが走る。
 「ちっ無理かっ」一瞬のあきらめののちに、「くそっ」怒りがこみ上げてくる。恐怖より怒りが増したルクは、後頭部あたりに乗っかっている化け物の腕を力任せに掴み、焚き火のあたりに投げつけた。「ゲェッ」地面にあたり跳ね上がるとき空気を漏らすような悲鳴が聞こえる。

 「うっ」ルクは気づく「おい、軽いぞ。こいつら軽いぞ」簡単に投げ飛ばすことが出来た。
 「みんな、軽いぞ投げろ。力が弱い、力任せに投げつけろ」
 ルクガ叫んでいる最中。ルクの動きを見ていた中年二人はすでに投げとばす最中だった。あたりは投げ飛ばされた化け物が舞い上げる火の粉で一段と明るくなった。

 一人が化け物と転げ回る若者の所まで走り近寄り、化け物の首根っこを掴み剥ぎとる。若者と化け物の悲鳴が短く『ギャッ』と聞こえて火の粉が上がる。
 剥ぎ取った男も若者も、皆頭部の怪我のために血を流し、顔に流れる血は怪我を大げさに見せる。

 投げ飛ばされた化け物たちは地面で受けた衝撃の後、ヨロヨロと立ち上がり、こちらを警戒しながら森へとかけてゆく。
 ルクはあたりを見回し、皆の表情に覇気があるのを確かめた。
 「皆大丈夫そうだな、臆するな、臆すると身体を壊すぞ。さぁ、交代で治療だ」
 ルクは恐怖に飲まれないように皆に指示を与える。
 「わしとルチャで見張る。他は治療を先にしてくれ」

 ルクとルチャと呼ばれる若者は、頭から血を流しながら、鉈を握り締めてあたりを警戒していた。ルチャは「クソッたれ」ブツブツと文句を言いながら辺りに目を配る。
 「あれ・・・。」文句の途中にふと気づく。
 「イウがいない」つぶやいてあたりを見回し、
 「1、2、3、4・・・」指を折りながら数えてみる。
 「イウ」呼んでみるが返事がない。
 「イウがいない。イウ何処だイウ。イウッ」

 ルクたちも慌ててあたりを見回してみる。
 治療をしていた連中も、急いで薪を掴みあたりを照らして探し出す。
 若者二人は「イウッ」叫んで森へと走り入ろうとする。
 「やめろッここにいろ危険だっ」ルクが叫ぶ。

 若者は振り向き
 「イウはどうする」
 「・・・・・。」ルクは返事ができない。
 「俺は行く」
 ルチャが森の奥へと駆け出してゆく。
 「やめろっ」ルクが慌ててとめようとするが、
 「まて」一瞬の間
 「二人一組だ、独りになるな」
 手当てをしていた中年二人と、ルクとルチャ。組をつくり森へと入っていった。

 ドキドキと心臓の高鳴りを聞きながら、顔を赤らめ聞いてみる。

 「ねぇ・・・・たすかったと・・みつかったと」勇太が啓二の腕を掴み涙目で見つめる。
 「・・・・・。」啓二は話を中断して、芝居っけたっぷりに首をふり。
 「・・・それが・・・見つからんかったとぞ・・・。夕方に狩った獲物もなかった。やつらが全部持っていきやがったとぞ」
 啓二は静かにうつむき一言「かわいそうに・・・・。」と、付け足した。
 「ううっ・・・若い人なんでしょ・・・可哀想なんだ」啓二の一言は、勇太を未知のおぞましい想像へと導いてゆく。
 「・・・食べられちゃった・・・。」泣くだけだった。

 話を聞き終わり。瞬きせずに落ち込むだけだった。

 星がキラキラ輝き、空からこぼれ落ちそうだった。

 勇太は空を見上げて、星をたどって西へと首を倒してゆく。寝転がってみる星は瞬き、サビシイ夜の気分を和ませながらも寂しさを募らせる。
 星は西の山に近づくと姿を見せない。プツリと途絶えてしまう。山から上がる煙は光と闇をしっかりと演出して、ひとつの恐怖を演出している。
 「あの山はなんていう名前の山かいな」

 勇太は身体ごと山に向けしばらく眺めた後、身体を反対向きに寝返らせ、「ねぇ」と声をかけてみた。
 「ぐおぉぉー」啓二のイビキが帰ってくる。
 夜になるまで、軽い揺れがたくさんあった。そのたびに人々が叫び走りまわっていたが、夜になるにつけて、皆なれてきたのか少しの揺れでは誰も走り回らなくなっていた。

 今も、たった今もかすかに揺れている。勇太もなれてきて微かな揺れでは気にならなくなっていた。
 勇太は啓二のイビキを子守唄にして目を閉じる。啓二のイビキに加え、ガッガッガッと、妙な音が聞こえてきている。
 「イビキ・・・誰の・・・?」誠のイビキかとも思ったが、聞こえてくる方角が違うようだ。意識を集中して聞いてみると、森の中を歩き回るような音も聞こえてくるし何だか生臭さい気もする。

 「誰か見張りの人かな・・」
 そこまで考えていると眠気が襲ってくる。所詮は子供。周りに人が沢山いる安心感もあり、次の瞬間には心地よさそうな寝息が聞こえてきていた。
 
 「ん・・・。」気がつくと勇太が寝ている横で、啓二と誠、そしてルカにルクにトク、五人でなにやら話をしている。よく見るとルクの腕と頭には包帯がしてある。勇太はゆっくりと上半身を起こし、静かに皆を見つめていた。

 「あっ、」誠が勇太に気づく。それと同時に
 「じゃ、スグに来てくれ、急ぎの話だから」
 トクとルクはルカを残してたちさった。勇太は立ち上がり皆に近づいて、
 「どうしたの。ルクおじさん怪我・・・。」
 話し終わる前に「急ぎましょ」ルカが啓二たちに言葉をかけて行ってしまった。
 「いこう」啓二が勇太に顔を向け「めしだ」
 歩き始める。誠も「いそげよ」ちらりと顔を見ると歩き始めた。
 「あっまって」寝起きでふらつきながら二人の後をついていった。

 「エーっー!」勇太の驚きの声に、啓二が手にしていたパンを落としそうになる。
 「じゃ、夜中に森の悪魔がやってきたと」
 
 






Last updated  Mar 26, 2007 10:14:21 PM
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カテゴリ:物語


 

 もちろん巧く行けば一日もかからない日もあるが、このときはいつもより狩が巧くいかないだけでなく、獲物となる動物の気配を一度も感じなかった。

 「だめだな・・・。」
 今回はあきらめて、一度村に帰ろうと家路についたときだった。
 「シッ」最後尾を歩いている一人の若者が、皆の脚を止めるように声を出した。
 「どうした」先頭を歩いているルクが立ち止まり若者に声をかける。
 「シッ」言葉を続けようとするルクを制するように、片手を肩の高さまであげ、もう片方の手を耳にあて、耳をすまして聞けと合図する。

 皆が動きをとめて、腰を落として身をかくす。『獲物』そう思い弓矢に指をかけ、腰を落としたままあたりに散開する。位置につき耳に意識を集中すると、小さくガサゴソと音が聞こえてくる。
 散らばっていた皆の意識が一点に集中する。
 「あそこだ」意識と視線の先が、散開した場所から一点に集まる。
 獲物がいる。

 ルクが左手を軽く上げ二本指をたてる。ルクの左手側の男たちがゆっくり気配の右手に回りこむ。
今度は右手で指一本、一人がゆっくり回りこむ。そして手のひらを下に向け上下に動かす。一人がその場で身を隠す。

 皆の位置が決まり獲物を追い立てるためにルクも位置を変えてゆく。
 ザザッ 獲物が位置を変えた。その気配に皆も適切に位置を変えてゆく。が、獲物も予想しなかったほうへと位置を変えてゆく。
 それは明らかにルクたちの包囲網を狂わせる意志を持って動いて回り、ルクたちもその術にはまっていった。

 各自が味方の位置を見失ってゆく。ルクも位置を確認するため少し身を起こし、あたりをゆっくりと伺う「いた」一人確認できた。
 若者を一人確認できた。が、様子がおかしい。中途半端に身を起こし無防備に構えている。ルクが、目を凝らしてその若者を見ていると、震えながら後ずさりしているようだ。
 
 『狩になれない若者が怖気づいたか』つぶやき、ルクは若者の視線の先をさぐるが、草木で確認できない。かすかだが草木が揺れて、何かが若者へと近づいているのは確認できた。
 「イノシシでも鹿でも、身の危険を感じて突っ込んでくると、確かに危険だな・・・。」
 ルクは危険を感じてゆっくりと若者へと近づいていったが、『違う』若者の脅え方に一種の異様な空気が感じられる。近づく草木の揺れは、若者の腰を腑抜けにし、目と口を閉ざせなくしている。

 「何かやばいぞ、なにに脅えている」
 危険を感じ取ったルクは、立ち上がり若者に近づこうと身を起こしたそのとき、ルクの目にそれがみえた。

 「アッ!」身が凍るとはこのことだ。
 それは、二本足でたっていた。『トカゲ』そうつぶやいていた。
 人の子供ぐらいの大きさか、それはトカゲを思わせる。肌が鱗を思わせ頭には毛がなく、トサカのようなものが見える。それは猫背ぎみに立ち、腕は細く、ルクの所からは指先がとがって見える。

「やばい」その生き物がルクのほうに気づいて頭を向けた。
 その頭はルクに恐怖を与えるに十分だった。目が釣りあがり白目がなく黒一色だった。ルクと目が合うと、それは上下の瞼を動かして瞬きをし、威嚇するようにゆっくりと口を開いた。
 「・・くちばしか・・」薄い唇の下からはくちばしらしきものが見える。歯がないのか、歯茎なのか、それとも一つの歯か、ルクの場所からしっかりと確認はできない。

 ルクにも恐怖が襲ってくる。一瞬の判断と恐怖に打ち勝つ気持ちが消えたとき、
 「ワー」手に持っている槍を投げつけていた。
 恐怖とともに投げた槍は、普段とは違う飛び方をし横向きに飛んでいった。槍は化け物の顔に「バシッ」と、音をたててあたる。

 ルクの耳に「ギャ」と悲鳴が聞こえ、その化け物が森の奥へと駆け出すのが分かった。ルクはそれを確認するとしっかりと立ち上がり、
 「みな走れっ。森の悪魔だぞ、各自全力で走れ!」身体をひねりながら叫んでいた。
 皆がいっせいに走り出す。腰を抜かしていた若者も四つんばいのまま走りだす。
 「仲間が来るぞ、急げ」
 ルクは一度立ち止まり、皆が走っているのを確かめ、今一度森の奥へと目を向ける。
 「まにあうか」

 仲間を引き連れてくるのも時間の問題だろう。走るのが苦手だと聞いている森の悪魔が、ほんとうに苦手なのを過去の出会いで確認している。
 「走って逃げれる」
 華奢な脚だったと自信はあったが、しつこさと数には肝をつぶした経験もしっかり思い出していた。
 
 「逃げ切れたの・・・・。」
 勇太が開きっぱなしの口を閉じて、ルカからルクへと興味を移してしまう。
 「逃げ切れた。と、いっても一度追いつかれているが・・・。」ルクが話を続ける。

 ルクは力の限り走っていた。
 左の視野に人の気配が二人、右側に一人、慌てて振り向いて一人確認して『全員いる』
 人数を確認して前方へ顔を戻すとき、後ろを走る若者のさらに後ろに影を見た。若者の後ろに奴がいる。

 ルクは前方の障害物を確認して、あらためて後ろへと振り向く、
 「いる。確かにいる」
 再び前方をむき障害物を避けて、走る位置を右側にずらして行く、これで走っている若者を左後方に見ることが出来る。と言うことは、その後ろを走る奴も確認できるということだ。
 ルクはあらためて振り返りみる。今度は少し振り返ったときに若者の必死の形相が見えた。
 
 さらに振り返ってみると、
 「いた」そこにいた。
 化け物は、若者の後ろを不器用に四つんばいになったり二本足になってみたりしながらついてきている。その姿から『逃げ切れる』ルクはそう思った。

 「もっとしっかり走れ」ルクは後ろの若者にむかい叫んだ。
 若者もルクの形相と後ろから聞こえてくる何かが走る音で、わが身の危険を感じていた。右前方にルクともう一人の若者、左手前方にはルクぐらいの逞しい中年二人。そしてここに自分が一人。と、なると、後ろに感じる気配は、わが身にとって恐怖でしかなかった。

 どれほど走ったか。もう走れなかった。

 ルクたちはもっと早くに追ってくるものがないことに気づいていたが、恐怖のあまり走りっぱなしだった。走りに走って一昨日に寝床にしたところまで走り逃げていた。

 ルクは膝をつき、目の前に見える蔦を一つ腰の鉈でたたき切る。切り口からはポタポタと水が落ちてくる。ルクはそれを掴み口元へと持っていき喉を潤した。

 少し咳き込み、それが落ち着くと人数を確認するために辺りを見まわす。後ろを走っていた若者が前方で膝をついて息を切らしてうなだれている。

 そして横に若者がもう一人、これで二人。後二人、辺りを見回しても見当たらない。しっかりと背を伸ばし辺りをうかがっていると、歩いて近づいてくる人影二つ。

 『これで四人』

 ルクは座り込み、喉を潤すために蔦を掴み口元へともってゆく。
 「これで・・・五人だ」自分自身を確認して喉を鳴らして飲み込んでゆく。








Last updated  Mar 26, 2007 10:09:42 PM
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また・・・揺れるのか」

 体力のルクが高い声を押し殺して聞いてくる。誠はその声に驚き啓二からルクヘと視線を移して『ゆれます』うなづいて答える。

 すぐさまトクが質問をしてくる。
 「溶岩とは何だ。何が大地を揺らしている。そしてあの山に住んでいる悪魔どもはどうなる」
 今度は誠が「えっ」と驚き、啓二が欠伸をやめ、勇太が固まりから解けて来た。
 誠が言葉をもらす。
 「あくまって、悪魔のことかな」

 溶け出した勇太は誠を見上げ、その流れスンダ達へと目を向ける。そして、
 「アクマッってなに・・・。あの山にいるの、悪魔って、なに、魔法でも使うの」
 勇太が口を開いて、聞きたいこと興味のわいたこと、矢継ぎ早に聞いてくる。その顔からは固さが消え、好奇心の塊へと変化させて目を輝かせていた。

 「怖い?こわかと?大きいとかな、それとも小さいとかいな、牙とかはあるとかいな・・・・。」
 急にうるさくなる子供を静かにさせるため、
 「その話は後で話して聞かせましょう」
 太く逞しい声で、族長スンダが話の方向を変える。
 「それよりも当面はジシンの事だ。溶岩の事だ。この先地震がきてその溶岩が・・くるとして・・・。溶岩とはなんだ?・・・とにかく村がどうなるのか何をすればいいのか、それらを教えてもらいたい。どうか、知っているならば教えてもらいたい」

 スンダは勇太たちを見回し、
 「悪魔どもの事に興味を持ってもらえるのは心強いが、あの山からここまで急いでも三日ほど。どうか我々が今からどうすればよいのか、何をすればよいのか、知っているならば教えてもらいたい。このとおりだ」
 スンダが頭を下げる。

 それからしばらく、啓二と誠は地震と溶岩に関して知っていることを一生懸命に話してみた。だが、所詮十年そこら生きてきた知識では、しっかりとした説明は無理だった。理解してもらうには浅すぎる人生経験だった。
 
 まだ、なにかが地中にいると想っている者もいるし、まったく理解できていない者もいた。
 「要するにドロドロに溶けた岩があの山の中にあって・・・で、?」
 「・・えー・・・」
 しばらく同じ説明を何度も繰り返すだけで時間が過ぎていった。それでも知っていることをすべて話し、啓二と誠が、これから起こるであろうことを、知っているだけ分かることだけ全てを話して聞かせた。

 「後は・・よく分からないけど・・・知っていることはこれだけです」
 誠の言葉にスンダが力なくつぶやく、
 「ここにも流れてくるのか。その溶岩とやらに・・・焼き尽くされると」
 族長スンダの脚は震えていた。震える足を押さえつけて立ち上がり、あたりをふらふらと歩き回り何かを考え込んでいた。しばらく歩く音だけが皆の耳に聞こえてきていた。
 トクとルクが、その間も小声で偉大な先祖の巨石の神殿などの事を聞いてきていたが、石の建物がどうなるかは、子供の頭では分からなかった。

 皆が静まり沈黙が続いてしばらく、トクが人を呼ぶ。
 「ルカ、ルカ、こちらにおいで」
 現れたのは勇太に治療してくれた女の子だった。ルカと呼ばれるその女の子は、勇太たちの前まで来ると膝を軽く曲げ「よろしく」と、かわいらしく挨拶をする。

 勇太たちが慌てて頭を下げると、あの甲高い声が聞こえてくる。
 「ルカ、この子たちを」ルクがルカと呼ばれる女の子に言うと、勇太たちのほうに顔を向けて、
 「この子がこれから君達の世話をする。この村にいる間の生活やしきたりなどはこの娘の言うことを守るように」
 そういうとトク、ルク、族長スンダは部屋から出て行った。それを見送り終わるとルカは、
 「ヨロシクね」と、三人に向かいニコリと笑う。
 「しきたりと言っても、これといってないから。取れあえずお腹空いたでしょ。あちらについてきて」

 ルカに言われるままについて歩き出すと、勇太がついてきていないのに誠が気づいた。振り向き勇太を見ると、口を開けたままルカの後ろ姿に見惚れているところだった。

 「おい勇太。この女の子はお前の好みの女のこたい。ほら、お前のクラスの好いとう子。久美ちゃんて言うたかいな、その久美ちゃんにそっくりな娘たい」
 啓二がニヤニヤと冷やかしながら言うと『違うよ。あんな女好いとらんばい』と、あわてて否定してみる。啓二は楽しそうに言葉をつづけて、
 「なんか・・・そうなんだ。久美ちゃんは勇太のことぱ好いとうて、言いよったぞ」とカマをかける。

 勇太はパッと啓二を見上げて『ほんとう』嬉しそうに聞いてくる。
 「ガッハハハ」迷いなく笑う啓二。
 「うそたい。久美ちゃんとしゃべったことはあまりなかぞ。ハッハハハ」
 楽しそうに笑う啓二を睨みつけ、誠に何かを言ってもらおうと誠へと顔を向けてみる。
 「ハッハハハハッ」誠は勇太のふくれっ面と目が会うと心置きなく笑い始めた。勇太は顔をそらして壁を向き、
 「笑えばよかったい」壁に文句を言うしかなかった。
 ほの暗い岩屋からは、より、楽しそうな笑いが満ち始めていた。

 食事は果物と味のない薄っぺらなパン。そして、味の薄いスープが出された。味はともかく、これだけの災害時にこれだけのものが出てくるということは、普段からの備えをしっかりしているのだろう。

 啓二と誠は十代の始まりの歳にピッタリの食べっぷりを見せている。それに比べて勇太は口を開けたまま締りのない顔をして一点をみつめていた。その視線の先にはルカがいる。そのルカを見つめている勇太を見つめ、ニヤリと笑うのは啓二だった。

 「おい」肘で突きながら、啓二が誠に話しかける。
 「勇太をみろよ。あれはルカちゃんにまいっとうぜ」
 「ククッ。確かに、みっともなく見とれとうな」
 誠も楽しそうにこたえている。
 「ちょっとからかってみようぜ」啓二の楽しそうな誘いに、
 「でも、もっと気になる話ば聞こうぜ」
 「?」啓二は口いっぱいに詰め込みながら「あっ。悪魔の事ね」
 二人はうなづき、一緒に食事をしているルカに顔を向け、
 「ねぇ、ルカちゃん」誠が声をかける。

 ルカは慌てることもなく、食べものを口にはこびながら誠へ視線を向ける。
 「えーと、僕達の名前を教えてなかったよね。僕が誠でこいつが啓二」
 誠は自分と啓二を指差し自己紹介をする。
 「で、この口を開けてボーとしている締りのないマヌケ顔が勇太」 
 勇太が驚き口を閉じて誠に向く。誠は知らんふりで話をつづけ、
 「で、いきなりでアレだけど・・・」

 ちらりと勇太を見ると唇をとがらせ、誠を睨んでいた。それにルカが気づいてニコリと笑い。
 「なに」誠に聞き返す。誠は少し真剣な顔をつくり、
 「アクマの事なんだけど、アクマって悪魔の事かな・・・。そのことで色々聞きたいんだけど・・魔法とか使うの」

 ルカは少し驚き、そして微笑んで、
 「私は見たことがないから・・・。少しなら話せるけど」
 笑顔を絶やさず答えてくる。そして言いにくそうに、
 「あの、・・・やはり異国の方だから・・・少し言葉が聞き取りにくくて」

 誠と啓二は顔を見合わせ、
 「啓二、お前の訛りと方言がきついちゃろう」誠が笑いながら啓二に言うと、
 「話しようとはお前やろうがぁー、わが言葉が訛っとうちゃろう」
 楽しげに指摘しあう。二人のやり取りにルカがケラケラと笑い、三人が打ち解けあう。残る一人はにやけ顔で口を開けたままルカを見つめていた。

 悪魔はあの山に住んでいるの。ここから何日も歩いたところよ」
 ルカは噴火した山を指差す。山からは黒い煙が休みなく上がり、まるで雲のようにゆっくりと北西へ流れていた。

 「姿はトカゲみたいだって大人たちは言ってるけど、私は子供だから見たことがないし・・・。森でばったり会って大変だった。何て話は聞くけど・・・。」
 ルカはそこで言葉を切った。誠は話をつなげるように、
 「何で大変かと・・ちがった。・・・えーっと、なぜ大変なの」言葉の訛りと方言を取りながら話す誠。
 「襲ってくるらしいの。狩でつかまえた獲物を横取りされるって。そっとついて来て狩がうまくいったとき、油断してたら、それを横取りされるって」
 「襲ってくるの」我にかえった勇太が聞いてくる。
 「うん。そういってた。獲物がないときは人も襲うんだって。ルクおじさんが詳しいはちょうど来たから聞いてみたら」

 ルカは立ち上がりルクへと走りより、勇太たちの前に体力のルクを連れてきた。ルカが誠たちの質問をルクに話して聞かせると、しばらく考え込んでから、甲高い声で、
 「これは、あまり子供達には聞かせないようにしていたんだが、君達には話してもいいだろう。それじゃ、私が出会ったときの話を聞かせるよ」
 ルクはその場に座り込み、三人の顔とルカを見て、話を始めた。
 「私は何度か出くわしたが、そのなかでも奴らの性質が分かる話をしよう・・・・。」

 壁画を見つめながら、勇太がつぶやく、
 「怖いな・・悪魔は・・魔法とかつかえるのかいな」
 勇太が啓二の話を中断させて問いかけてくる。
 「その悪魔じゃないよ。・・こわくて・・嫌な奴のことさ。まぁ・・なにかすごい能力はあるかもな・・。」

 啓二は説明して話の続きをしようとすると、
 「僕達も悪魔にであったりするとかいな・・・・。」不安げに啓二を見上げて聞いてくる。
 「まあまあ、これから解ってくるとたい。まぁ主役は悪魔に会うものだけどな」
 不安な顔でうつむく勇太。ポンと勇太の方をたたいて誠が、
 「英雄とか勇者とかは・・それからは・・・さけられんったいね・・・。がんばれ勇者」
 「・・うん・・」怖い中、勇者といわれて思わずうなづく勇太。
 しばらく考え込み、勇者勇太は覚悟を決めたようにうなづいて、啓二を見上げて話の続きを待った。


 






Last updated  Mar 26, 2007 10:03:25 PM
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