スパルタ・ブルー
どうでもいいことだが、二月中旬までに会社のホームページを作らなくてはいけなくなっている。しかし、どうやら会社の組織構成まで変えるようで、それが出ない限りページなど作れないから、とりあえず放置してあった。 何もしていないわたしをみて、多くの人がはらはらするのだが、わたしは条件が整った瞬間にぱっと片づけるタイプの人間だ。あまり、状況が分っていないのにも関わらず、あー直せ、こー直せのまっただ中にぶちこまれては、ちょっとやっていられないのだ。 だから、とりあえず、やんなくていいことにした。 これは正解だった。 今日たまたま、ホームページ自体を(というか、会社組織変更を)取仕切っている人と話が出来た。新装する予定の会社案内パンフのゲラをもらう予定だったのだが、デザイン系が遅れているらしい。 三十代の口の上手いタイプで、おそらく営業としてわたしが見た中では、最も攻めの営業の強い人だろう。わたしは役人タイプで、手順を淡々と踏み、物事を上手く回す方法を考え出すタイプだから、その人が口から出任せを言って、その後わたしがそれを実現する事業部を構築する、というコンビを組めばかなり好成績を上げられるであろうと思われる人だ。 その人が雑誌広告をする広告記事を持ってきた。 相手も困惑気味なほどできが悪かったし、わたしはそれを見て素直に、その「あー直せ、こー直せ」のまっただ中にいなくてよかったと思うほど、ぐちゃぐちゃにこんがらがったデザインになっていた。 わたしはその全面に使われている水色がうるさく感じた 社のロゴの色である。 わたしはお気に入りの本を取りだした。 グラフィック社というその道の人で知らない人のない出版社の本に、カラー&イメージという本がある。いちど書いたことがあるので割愛するが、ようは古今東西の色が掲載されていて、その「色に対するイメージ」が書いてあるのだ。 わたしはふと思って、その色をカラーチャートから割出そうとしてみた。「この辺ですかね? リオ・ブルーとか近くないですか」「うーん、その辺だね」「あ、こっちですね。スパルタ・ブルー」 スパルタ付近のエーゲ海を思い浮べていたが、とんでもない過ちだった。「アグレッシブ」「積極的」 もの凄いエネルギッシュな言葉が、5個も並んでいた。 その名の通り、 スパルタ・ブルー。「うわー、好きそうだな、ぜったい好きだな」 喜ぶ営業を後目に、わたしはようやっと自分の所属する会社の色味というものが理解できた。 ブルーであっても若々しくエネルギッシュであれるのだ。 わたしの頭の中に、わたしに求められているデザインという物が明確に理解できた。逆を言おう。それまで全く理解できていなかった。そして、さらに言えば、社員として全く会社の持っているモチベーションを理解できていなかった。 色味がわたしに社の20年間を教えてくれたのである。 スパルタ・ブルー。 けして、海の色ではない。 営業と話合いながら、おおよその方向性は見えてきて、デザインに移れそうな感触を持ち始めた。「やばいっすね。期限近いっすね」 なんて言いながら、ほぼ描け始めた社の全体像をわたしは自分の頭の中でデザイン化し始めた。 何で、こんなところで落し込めるのかというのは、わたしでさえ不思議である。 しかし、この言葉で全部が通用してしまうのだ。「ホームページ大丈夫?」「ええ、わたしもスパルタ・ブルーで仕事しますんで」 分ると言うことはとても不思議な物だ。 大爆笑だった。