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ついこの間、父と関東の地形について話していた。 八王子の方は水害はないのかと言われて、八王子は実はかなり標高が高いし、基本的に山がちな地形だから、すぐに水は流れていってしまう、と答えた。 昔、海面上昇の話題で、20メートル海面が上昇したら、というシミュレーションで埼玉県の浦和の方まで海面が来てしまうのを見て、びっくりする。わたしは幼い頃、多摩地方在住で(立川付近)、標高が100メートルというのが当たり前だったので、浦和も100メートルぐらいだろうと思っていただけに、これは衝撃だった。 よく考えてみると、八王子は立川から、日野、豊田といった谷を抜け、さらに登っていく。八王子が平らなので気づかないのだが、実際にはかなり標高が高いはずなのだ。 父は昔、経済産業省(当時は通産省)の海外協力基金の仕事をしていて、発展途上国のまわった経験がある。それによると、インドのアッサム地方は非常に標高が低く、すぐ水害に見舞われるとのことなのだ。 ガンジス川の河口から、ヒマラヤ山麓の豪雨地帯であるアッサム地方まで数千キロ。しかし、そのアッサム地方の標高はなんと数十メートル。大河がありはするのだが、この高低差ではさすがに河の水も流れず、豪雨が降ると、水は行き場を失い、すぐに冠水する。そのため、インドでは道路を造るときに、土手のように周囲の土を盛り上げ、そのおかげで道路の両側には土を掘った溝ができ、これが自然に水路になると言う。 わたしは、インドの標高データを見たことがあるから、二重にびっくりする。 わたしの知っているインドは、デカン高原が海岸から切り立つようにそびえ立ち、でこぼこで、とても険しい地形に思えていたからだ。 最近、インドの大臣かなにかが日本に来て、インドにはインフラが足りない、インフラさえ整えばインドはすばらしいパートナーになれると発言していたのを思い出す。 多くの人はこれを聞いて、発電設備を思い出すのだろうが、わたしが考えたのは、 「あー、あのでこぼこの地形に交通網を作るのは大変だよね」 ということだった。 インドはユーラシア大陸とインド亜大陸が衝突してできた地形である。 なので、ヒマラヤ山脈は盛り上がり、デカン高原も波打つようになっていて、その反動でアッサム地方がへこんでいるという、プレートテクニクスの標本のような地形の険しい国なのである。 わたしは異様に地形に詳しいが、実はこれには訳がある。 わたしのお気に入りのゲームにレールロード・タイクーンという鉄道ゲームがあって、これをもう五年ぐらいはプレイし続けているのだ。 実際の衛星データから作ったリアルな地形、ゲーム界の天才シド・マイヤーがデザインして、徹底的にリアリティーにこだわっただけあって、何度やっても飽きることがない。 ゲームはアメリカの鉄道開発から始まって、ヨーロッパ、アジアと進む。 アメリカの大平原に鉄道を通しているとついに、「東海岸と西海岸をつなげ」というマップになる。 「無理だー! あんなロッキー山脈なんて越えられるわけねーだろ!」 と叫ぶが、何度も倒産を経験するうちになんとかロッキーを越える鉄道の構築できるようになる(ちなみにわたしはソルトレイクを抜けていくルートが好きだったりする)。 しかし、ヨーロッパへ行くと今度は、「アルプスを越えろ。ベルリンとパドヴァをつなげ」というマップが登場する。 「む、無理だー! ロッキーはともかく、アルプスだぞ、てめー狂ってるのか!」 と叫ぶ。これも何度も倒産を経験するが、イタリア側からのアプローチをした方が賢明であることに気付くとようやくアルプス横断鉄道が完成する(しかし、こんな路線儲からないだろうに・・・と思うのだが、昔の偉人はやったのである)。 ここまでくると、もう山岳鉄道のスペシャリストだ。 しかし、アジアに来て絶句した。 「日本列島に強力な鉄道網を引きなさい」とくるのだ。 東京から始めるとして、平坦な地形でいけるのは前橋まで。仙台方面は結構なだらかなのだが、西へ目を向けると箱根がすぐに立ちふさがり、その後、名古屋へ行こうとすると、また日本アルプスがじゃまをする。大阪京都へ進出するのは極めて困難だ。なんたって京都は山に囲まれ「守りやすい地形」と言われるぐらいだから、ものすごい山がち地形である。東海道新幹線ルートなんて夢のまた夢で、わたしは関東山脈を越えて新潟へつなぎ、新潟から富山・福井を通して、畿内に出るルートでなんとか繋いだ。 断言するまでもなく、日本ほど鉄道を通すのが容易でない国は他にない。 アメリカは大平原にまっすぐ線路を引くだけでいい。中国も同様。しかし、日本に鉄道を通そうとした明治人たちのイカレぐあいを想像すると、過去の日本人の、山がち地形で分断された各地方を交通網で連結しようとした並々ならぬ情熱に胸を打たれるのだ。 わたしは、マップを見た瞬間、無理だと思ったし、東海道新幹線を国の最重要交通網とすることはこれまで一度も成功したことがない。 日本の新幹線は、谷を抜ける曲がりくねった線路を、時速200キロ以上でぶっ飛ばす、きちがい以外の何者でもない。しかし、それこそが日本の技術の集大成であり、日本の誇るべき鉄道技術なのである。 なので、中国に高速鉄道を通すとき、日本の新幹線はまったくもってオーバースペックなのである。ただ、まっすぐ走ればいい鉄道に、なんで谷間を時速200キロで走る機能が必要なのだろうか。全く必要でない。 しかし、インドはどうであろうか。 インドは造山運動の見本市みたいな国土で、しかも高速鉄道のような効率の良い輸送手段を必要としている。ドイツの平原で培った高速鉄道はどうであろう。フランスの広大な平野で培ったTGVではどうだろう。そう、太刀打ちができないのである。 これはもう、新幹線以外にあり得ない。 日本列島もご存じの通り、プレートテクニクスの結果生まれた列島である。 まさに、造山組の鉄道。 これこそインドでめざましい成果を発揮するだろう。そして、これに勝る技術が他国から生まれてくるとはとうてい思えない。 インドの大臣は日本にやってきて、インフラ作ってくれと言う。 国際関係とか、外交とかそういうのそっちのけで、日本の鉄道技術者は、インドの極めて困難な地形に挑むべきではないだろうか。それこそ、技術者のやりがいであり、情熱であり、誇りに十分に報いる、極めて有意義な挑戦であると思う。 そうそう、造山組と書いて一つだけ思いついた。 他に造山組で新幹線が必要になりそうな国はあるだろうか。 わたしのレールロード・タイクーンで培った膨大な地形データ知識を元にして言えば、スペインとイタリアとメキシコが極めて地形が厳しい。またプレートテクニクス的に言えば、インドネシアも新幹線が必要なはずである。 平原に鉄道を通すなんて言う生やさしい仕事は他国に任せればいいではないか。 世界には、高速鉄道を通すのが極めて困難で、鉄道を必要としている国はいくらでもあるのである。 だから山形新幹線なんかに試乗してもらったらどうだろうか。 「き、きみ、こんな谷間をこんなスピードで走って大丈夫なのかね!?」 「ええ、新幹線ですから。設計上は時速200キロでも行きます」 「うちの国は、在来線しかないが大丈夫かね」 「ええ、ここも在来線でした」 「我が国は、大雨が降るが」 「日本では豪雪地帯も突っ走ります。ええ、時速200キロで」 国際貢献とはこう言うことではないか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 28, 2006 01:30:09 AM
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