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2007年12月27日
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昭和23年1月26日午後3時過ぎ、東京都豊島区にある帝国銀行(現三井住友銀行の前進)椎名町支店に、背広姿で白地に東京都の赤印の腕章をつけた推定年齢45歳前後の男が、名刺を出しながら「東京都の者ですが支店長は居ますか」と言って入ってきた。当日は牛山支店長は腹痛で休んでいたため吉田支店長代理が応対した。

男が差し出した名刺には《厚生省厚生部員 医学博士某》と記載されていた。男は「この近所の長崎2丁目の相田方前にある井戸を使用している所から4人の集団赤痢が発生した。この内の1人が今日、この銀行に来たことが判明したのでGHQ(連合国軍総司令部)のホートク中尉の指示もあり予防薬を飲んでもらうことになった。ホートク中尉は消毒班を指揮して後で来ることになっている」と言った。

そして男はカバンの中から医者が持っている金属の箱を出し「GHQよりでた強い薬なので、歯に触れると琺瑯質(ほうろうしつ)を損傷します。私が飲み方を教えますから同じようにしてください。薬は2種類あって、最初の薬を飲んだら1分後に次の薬を飲むように」と言ってスポイトで行員や雑用係り夫婦とその子供ら16人分と、この男用の湯のみ茶碗に手際良く分配した

男は、舌を下唇と歯の間に入れて、最初の第一薬を舌の上に巻くようにして飲んで見せた。職員はそれを見習って飲んだところ、刺激が強く胸が苦しくなった。1分後に第二薬を飲んだが、その後バダバタと倒れて行った。

行員の村田正子は、意識が朦朧としながらも這って支店通用門のくぐり戸を開けた。道路には2人の女学生が不審に思ったのか立ち止まっていた。そこで村田は2人に事情を告げ、内1人が近所の長崎神社前派出所の巡査に届け出た。

巡査が同支店に駆けつけると、痙攣、嘔吐あるいは身体がまったく動かない状態の行員らが倒れていた。巡査は、本署に通報するとともに行員の介助を行ったが16人中12人が死亡、4人が一命をとりとめた。12人を一度に毒殺した事件に日本中に戦慄が走った瞬間だった。




今年、死去した映画監督で熊井啓がいる。自分は、結構彼の映画はみていて、それも彼の作品を追いかけていたというわけではないのに結果的にみていたという風なかわりだった。先日、彼の哀悼番組があって「帝銀事件」という監督デビュー作にかかわる熊井の様々ななエピソードをドキュメンタリーで構成されていた。
文芸作家においても、処女作の意味合いは終生大きな影響力があるものだと思うが、映画監督についても同様で、熊井啓のこの作品に対する打ち込み方は徹底したものだったようだ。

熊井は、この「帝銀事件」という映画作品に向けて注力したエネルギーに表現者としての生涯を殉じたようにも思える。また、熊井が選んだこのテーマが21世紀のわれわれにまで貫徹した重い、重いテーマだったことを衝撃を覚えた。この映画についての要約文を眺めていてもなんと我々を今なお煩悶させる重要テーマが重層的に込められていることだろう。


占領政策
冤罪
厚生労働省
細菌兵器
「おれおれ詐偽」
無差別大量殺人



熊井啓は、映画撮影をつうじて徹底的な検証作業を自らに課したという。


16人の行員の眼の前で、湯のみに劇薬を定量わけて与えるという作業がどれほど難しいかを痛感したそうだ。プロの手口、それも薬物、劇薬、猛毒をくりかえしくりかえし処方してきたグループ。そして健常な市民を眼の前にして、平然と毒物を飲んでみせる振りをして一時に16人を服毒殺害させるというスキルを、かなりの錬度でもちあわせたていたというような怪異な事件の詳細。当時の刑事警察ですら、旧日本軍の特殊細菌兵器部隊を即座に連想したというほどの中身。にもかかわらず、当時の米国占領軍が捜査に介入して殺害実行者を庇護したという状況。
金銭的になんら不自由がなく、アリバイのあった力量ある気鋭の画人平沢貞道を容疑者として死刑判決にまでもってゆく。終生刑務所に封じ込めて司法も、検察もこの事件に多重に封緘をくだし再審をしりぞける。

映画作品も、さることながら昭和23年時点での映画人の社会的なステイタスの高さの理由がようやく分かったような気がした瞬間でもある。テレビが市井の人々に普及する少し前の時代。映画人熊井啓はジャーナリストでもあり、ある意味では予審判事のようでもある。表現者に、過重なほどに重すぎる課題が課せられていた時代の重圧をものともせず背負って立つ。、新聞記者でもなく、行政職でもない、一映画監督の仕事としても、その拠ってたつところと途轍もなく遠目のきく眼力にはほとほと敬服する次第である。

彼の秀作作品、「忍ぶ川」は見落としている。年末年始にDVDでも借りてみたいと思った。










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最終更新日  2007年12月27日 22時11分53秒
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