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カフェ・ヒラカワ店主軽薄

2008.11.07
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カテゴリ:ヒラカワの日常
カフェの親爺が途方に暮れている。

バラク・オバマに待ち受ける困難について
漠然と考えている。
貿易、国内経済、軍事、外交すべてにおいて
過去八年間の迷走からどうやって、活路を見出して行けるのか。
勿論、場末のカフェのおやじ風情に、覇権国の大統領が
どんな重荷を背負うことになるのかについて、
想像力が及ぶわけでもない。
それでも、ウォール街の野心家たちとは明らかに違う顔つきをした
この年若い政治家を見ていると
過去のどの大統領にも思い至ることの無かった
ひとりの政治家の心情というものに思いが向かう。
その理由を言い表すのは難しいが、
この男にはどこか理想を信じている風貌が備わっており、
アメリカの政治において理想を持つと言うことはすでに
克服しがたい受難を引き受けるということだからである。
世界の政治家を見渡して見ても、これは稀有のことだ。
おそらくは、その点において利害対立を超えた大きすぎる期待が
この男に注がれたと思える。
「大変だな」「大変だよこれは」とカフェの親爺は思う。

アメリカ人とは、どんな風にものを考えるのだろうか。
「地下鉄が百年前から走っていたブルックリンの、
ユダヤ系の家族に生まれた父と母は、どちらも移民二世だった、
と日本ではあまり耳にしない日本語を頭の中で響かせながら、
そのころについて久しぶりに考えた。」
リービ英雄は、『国民のうた』の中で両親についてこう書いている。
父も母も「お互いの生まれた環境から逃げるような気持ちで」
ワシントンDCにやってきた。
いや、アメリカとは世界中の人間が生まれた環境から逃れるために
作られた場所なのだ。
「ある意味でそれはもともと非現実的な場所かもしれない。」

「生まれた環境から逃れる」
これこそ、アメリカの出自をもの語る言葉だろう。
1620年、イギリスで宗教的迫害を受けていたプロテスタント
百余名は船に乗り込み66日間を船上で揺られて
英国からの二番目の新大陸移民となった。
かれらこそ、「生まれた環境から逃れて」新天地にやってきた
最初の人々であり、現代アメリカ白人たちの祖先である。
以後の西部開拓の歴史は、「生まれた環境から逃れて」やってきた
人々の末裔が、アメリカ先住民の土地を簒奪する歴史でもあった。
彼らの刻苦も努力も理想の実現に捧げられたが、彼らの理想は
先住民族にとっての幻滅であり、苦難であったはずだ。
時を経て、世界は複雑化し、利害は錯綜したけれど、
グローバリズムという幻影は、西部開拓を地球規模に拡大した現代版
のフロンティア探しだったのかもしれない。
そう思って、カフェの親爺はため息をつく。

バラク・オバマは現実的な難問に立ち向かう前に
自らこの「理想のアポリア」を克服しなければならなくなる。
自由の旗を掲げながら、富の再配分を実現しなければならない。
平和を志向しながら、テロリズムと闘わなければならない。
多元的な価値観を標榜しながら、ひとつのアメリカを先導しなければならない。
歴史上誰も成し遂げなかった課題が待ち受けているということである。
ひとりの人間が背負うには大きすぎる期待だが、
期待が実現できないと判った瞬間に、期待は失望へ、
失望は侮蔑へと容易に変わる。

「英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする
時代はもっと不幸だ」とは、何度も引用されたフレーズだが、
オバマ大統領を作ったのは、まさにこの「英雄を必要とする時代」である。
それは確かに、ブッシュとかれを神輿に載せた金融資本家やネオコンが
準備した歴史だが、誰の中にもある欲望がその歴史に根拠を与えたのである。
「英雄を必要とする時代」をつくった
共犯者たちは、みずからが共犯者であったことを忘れて
オバマに祝福を贈っている。
この光景をテレビの画面で見ながら
カフェの親爺は大きすぎる期待感を感じて
胸騒ぎを抑えられない。
「大変だよ、これは」






最終更新日  2008.11.08 00:37:31
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