アンドウ~アンドロイドの野望~
高校のレクリエーション、女子がギターを片手に弾いている姿が、括弧よすぎて、つい軽音楽部の扉を開いてしまった。扉を開くと、お菓子を食べている先輩達がいた。「ふ~ん、新入部員?」「はい、1年の崎沢奈河と申します!」「おお! よく来てくれた。入部する気ある?」「はい! 先輩達の曲を聴いて感動しました!」「よし!入部だ! そして、お前が次期部長だ」「はぁ?」「なか」っていうんだ。仲良くしてやっていってね」苦笑いで肩を叩かれた。数人は、部室を出て行った。その時は、何を言っているか分からなかったけど、仲間内で喧嘩したらしく、折り合いがつかなく退部するって話になったらしい。そして、メンバー数人が退部届を出した。実際、部長にはならなかったが、残った3年のキーボードの桜先輩が部長として、就任した。後は、同じ1年の宮田沙耶、島田由香が入部した。隣の部室、男子軽音楽部に助けを求めた。中井くんが直ぐに駆けつけてくれた。彼は、手慣れたもので弦の調整をしてくれた。「張りを調整したけど、そろそろ、弦の交換だな」弦を交換することも知らなかった。中学の頃はテニス部でラケットの糸を交換してもらったことがある。弦を直してもらうと、「また、呼んでくれや」と帰っていった。帰ってから、ギターの弾き始めて、生まれ変わったようにギターの良さを実感した。ギターに褒めてあげたい。何曲か弾いて心が弾む。座っていたが、気分良くなって、立ってリズムに乗りながら弾いた。すると、アンプとギターのコードに足を引っ掛けてアンプのコードが抜けると同時に、ヘッドホンが頭から外れる。弾くのを止めて、アンプを元の位置、ヘッドホンを付け直し、再度、弾こうとしたら、ノイズが乗っている。アンプのコードを差し込み直しても変わらない。引っ掛けた際、コードがダメになったかなと思った。最悪…。気分が悪くなったので、家族にいるリビングに行くと、父がテレビを見ていた。自分もテレビを見てボーっとしていた。母が「リビングにいるの珍しいじゃない。バンド活動は進んでいるの?」そういうと、「最悪、さっきさぁ、ギターを弾いていたら、コードに足を引っ掛けて、アンプが壊れたみたい」「あらら、それは残念ね」父から、おねだりしようと考える自分、ちょっと卑怯だが、この際、財務を管理している親に頼るしかない。ファーストフードのアルバイトをしているが、その貯めたお金は、友達と出かけて、食べにいったり、カラオケに行ったりとか使ってしまう…。なので、お金がない。父が口を開いた。「ギターか、それなら、昔、お父さんが子供の頃に、物置の中にギターを数本、見かけたことがある。その中に、確か奈河が持っているアンプのようなものも入っているんじゃないかな」「お父さん。バンドやっていたの?」「いや、あれはおじいちゃんのものだよ。僕も知らないけど、詳しく知らないけど、おじいちゃんはバンドをやっていたみたい」おじいちゃんは、崎沢勤という。63歳に一人では生活ができなく、今は老人ホームへ入居している。物置に入ると、いくつか荷物が誇りまみれに置いてある。お父さんにおねだりして、新しいアンプを買ってもらおうとしたけど、おじいちゃんがバンドをやっていたらしいことを聞くと、興味が沸いで、本当にギターがあるのか調べたくなった。お父さんの農作用の器具とか農業に必要なものしか置いていない。そんなところにあるのか探すのも大変…。お父さんがいうには、子供の頃、物置で遊んでいたら、ギターがあってそれを遊んで使っていたら、怒られたという。それから置き場所を変えられ、どこにあるか分からないという。もし、隠すとしたら二階かな。一階は、農作業ですでにお父さんが把握している。二階は蜘蛛やらがいるので、行きたくないんだよね。私は虫とか苦手だ。灯りを灯すと、ほとんど荷物は無く、綺麗に片付いている。そんなところにギターなんてあるのだろうか。ギターの大きさを考えて、ギターが入る場所は限られてくる。その限られた場所を片っ端から探すと一つも見つからない。やはり、推理は外れたかと探偵の気分で探した。やはり、物置じゃなく他の場所へ移したか…。私も手伝ったけど、以前、おじいちゃんが使っていた部屋は、だいぶ前に片づけたし、その時は、ギターなど大きいものは無かった。物置しか考えられない。もしかしたら、荷物の後ろにあるかもしれない。そのところをライトを照らして、調べてみた。すると、ぴったしカンカン、一つ目で、そのようなところが見つかった。しかも、ギターらしき袋があった。でも、手前の荷物が重すぎて、動かせない。お父さんを読んで取ってもらうことにする。出してもらったら、ギター3本、アンプ2個、他にカバーの中にピックや弦が数本が入っていた。しかも、インターネットで調べると、高値でるものばかりだった。「こんなにたくさん入っているなんて凄いよ、お父さん! おじいちゃん、バンドマンだったんだね」そんなこともあり、それを私の部屋へ置くことにした。アンプのコネクタも昔と同じで電源を入れた。ギターの弦を指で揺らすと、部屋の外まで鳴り響くような大きな音が出た。私の持っているアンプより、かなり良い。私は、休日、おじいちゃんが入居している老人ホームに一人で行った。以前は家族と一緒に行っていたが、今回は、私の個人的な意見なので、私一人の方がよいと思った。するとおじいちゃんは、ベットの上で寝ていた。体が不自由で誰に助けてもらわないと歩けない。そんなおじいちゃんに話にきた。おじいちゃんは、優しく迎えてくれた。「奈河、よくきたね」「おじいちゃん、元気?」「元気だよ。ただ、ベットの上は寂しくてね」ずっと、ベットのいるらしい。時に介護士さんが、フロアーに連れて行ったりして、環境を変えているようだ。「あのさぁ」ギターのことを切り出した。「物置にあったギターなんだけど、おじいちゃんはバンドをやっていたの? 私は高校でバンドをやっているんだ」「ああ、見つかっちゃったか。やっていたよ。昔にね」「アンプ勝手に使っちゃったから、誤りにきたんだ」「そうかい、いいアンプだろう」おじいちゃんは、あまり、話したくなさそうだった。持ってきたお菓子を一緒に食べて、別の話をした。バイトの時間になったので帰ることにした。「ひさしぶり、帰ってきたんだぁ」バイトから家に帰ったら、兄貴がいた。お母さんと話をしていた。「奈河は、音楽をやっているんだって?」お母さんが伝えたらしい。兄貴は半年ぶりに帰ってきた。現在、会社に勤めてロボットの開発をしているそうだ。「ねぇ、兄貴の車の助手席に、誰か乗っているらしいけど、彼女?」「拓哉、誰かいるの? なら、連れてきなさいよ」「いや、あれはロボットだよ。乗せるところないから助手席に乗せたんだ」「拓哉、会社から持ってきていいのか?」お父さんが訊いた。「別に問題はない。既に発表されている品だし、家でテストしてみたいことがあり、持ってきたんだ」どんなロボットなんだろうと、少し興味が沸いた。兄貴は、椅子に座り頭に専用のヘルメットを被っていた。畑に白いロボットが歩いていた。兄貴は、生きているのか分からないくらい身動き一つしない。畑のトマトを栽培している。一個一個丁寧に籠に入れている。人間見たいで凄い。ロボットが私のところにきた。「こんにちは、トマトをどうぞ」栽培したトマトを私にくれた。私は、そのトマトを食べた。すると口の周りについた汚れをナプキンで拭いてくれた。なんか、昔、小さい頃、兄貴とおやつを食べているとき、兄貴が私の口の周りを拭いてくれたことを思い出した。このロボットは兄貴なんだと、その時感じた。「私もやってみていい?」「う~ん、会社の品だからな、少しだけならいいよ」兄貴が被っていたヘルメットを渡された。ヘルメットにはカメラがついており、そのカメラは、ロボットの目となる。被ったら、ロボットの見ている背景に驚き、私が行きたい方向へあるく、家の玄関まで来て、ドアを開けた。そして、玄関から私の部屋へ入っていった。私の部屋の周囲を眺めていた。驚くほど鮮明に動いてくれる。傍にあったギターを取った。ピックを親指と人差し指で持ち、弾いてみた。「凄い!凄い! 兄貴やるじゃん!」おじいちゃんが帰ってきた。車いす姿で、こちらへきた。「おじいちゃん、こんにちは」「どうしたの?」「ギターのことで、気になって来てみた。奈河、バンドをやっているんだってな。聞かせてくれないか」私は、自分の部屋からギターとアンプを持ち出し、ギターを弾いてみせた。親と兄貴はよろこんでくれたが、おじいちゃんは無表情だった。「奈河、ギターを貸してみ?」おじいちゃんに私のギターを貸した。ギターを触ると目の色を変えた。ギターを弾く音が凄まじく、まるでプロが弾いているようだった。「奈河のギターは、柔らかく、微妙に音程がズレる。ギターを弾いてどれくらいになる?」「まだ、半年くらいかな」「なら、まだまだ、成長する。俺は中学の頃からギターを弾いていた。それはそうと、俺のギターはどこかな」私の部屋へ案内した。おじいちゃんは、ギターを取る懐かしいそうにギターを触る。直ぐにギターを弾き弦の調整をし始めた。「おじいちゃん、どんなバンドをやっていたの?」「インディーズだったんだよ。スタジオで会った仲間でバンドを作って、毎回、弾いて歌っていた。メンバーは、俺がギターとボーカルを務め、もう一人、女性ボーカルがいて、それにベース、キーボード、ドラムというメンバーがそろっていた。バンドといっても、最初はインディーズにも満たないボーカル以外、その日に集めたメンバーだったがな」おじいちゃんの懐かしい思い出を語ってくれた。でも、ギターを弾くおじいちゃんを見ていると楽しそう。ロボットは農地周辺を駆けたり、その周辺の野菜を採ったりしていた。「わははは!! これが拓哉が作ったロボットかい、大したものだ」おじいちゃんは、ロボットが思い通りに動くので、楽しい気持ちになっていた。ひょんなところから、おじいちゃんが、兄の要望でロボットを操作してもらうことになった。「どう? おじいちゃんロボットの感想は?」「楽しいね!愛車に出会えた気分だよ。こんな車いすに乗らないといけない体になっちまってからは、こんな楽しい思いになったことがない」おじいちゃんが、若々しく見えた。いつもベットの上で、静かで仏のようだった。こんなおじいちゃんが見ている私も楽しくなる。夜に、おじいちゃんにギターの弾き方を教えてくれた。それは、厳しいもので、「そうじゃね!」とか怒鳴られながら、ギターのコードを覚えさせられ指が痛くなるほど、夜遅くまで教わった。次の日、学校で、女子系音楽部で、ギターを弾いたとき、「奈河さんのギター、今までと違う。なんか奈河さんじゃないみたいな」と冴子に言われた。おじいちゃんと特訓をした甲斐があった。おじいちゃん、ありがとう。部室でれ練習していると窓から見ている人がいた。「ねぇ、今誰かじっと窓からみていなかった?」一階なので、誰かが見ていることも何度もあった。皆が窓の方へ振り向いても誰もいなかった。「私が見てくる」私は、心当たりがあった。窓の外を見ると、蹲って兄貴の作ったロボットがいた。「なんだ、おじいちゃんか」「へ? 何でわかった?」「直感」おじいちゃんが操作しているロボットを教室へ入れることにした。「こんにちは、初めまして、奈河のおじいちゃんです」部員にその経緯を説明した。「ギターを弾いてくれませんか?」咲が頼んだ。奈河が持っているギターを手渡した。ギターが鳴り始めると、ギターを手に踊り始め、まるでコンサート会場にいるようだった。部員は、声一つもでなかった。演奏が終わると拍手で答えた。「めっちゃ凄い!」「今度は、おまえらの演奏を見せてくれないか」ヤンキーしゃべりなおじいちゃん、なんか若さを感じる。秋の季節、女子軽音楽部が演奏をしているところ、男子軽音楽部の上木が部室へ入ってきた。「おまえら、へんなロボットを学校へ入れているということが噂になっているぞ。もし、そうならば、うちらにも影響するから迷惑する」おじいちゃんロボットは、数日、学校に来ては指導をしている。女子軽音楽部は、日々、指導によって成長をしている。それをいうと、上木は部室を出て行った。女子軽音楽部と男子軽音楽部は、顧問は一緒で、一つの部活という見られている。部長の桜が言った。「ねぇ、奈河さん、おじいちゃんに指導できるよう頼んでくれないかな。場所は確保する。来月の学園祭がある。それまでには音楽を完成したい」「そうだね。それまでには、私の歌も完成させたい。ボーカルの3年生の麗奈が言った。「私、楽器なんて弾けないからさぁ、歌だけでも頑張ろうとしていた。だから、皆には言わなかったけど、部活以外に歌の先生にレッスンを受けていたんだ。その先生に声の伸びが無いとか、おじいちゃんと同じことを言われたんだ。そこだったら、少しの間、借りれるかもしれない」次の日の朝、麗奈が先生の所で、毎週、BABAのスタジオで声の練習をしている。そこの店長である三浦さんと麗奈の父親の仲で話を付けてくれた。「麗奈、前回、教えたことより、遥かに歌声が良くなっている。この変わりようは凄い、何かあったのか?」歌を教えている先生は、麗奈の急成長に驚きだった。麗奈がおじいちゃんのことを話した。「おじいちゃんの名は?」「奈河さんの苗字は、崎沢さん」「崎沢…。」先生は、苦笑いをした。「先生、来月、学園祭があるんです。スタジオを貸してくれないでしょうか。お金の方は私が出します」「いいですよ。遅くならない時間なら、いつでもいらしてください」週に1回、おじいちゃんに教わるような感じで、麗奈が借りたスタジオで演奏をした。「いい感じですね。貴方のお孫さん演奏が上手いですね。貴方がレイダース時代を思い起こす」ロボットが一瞬止まった。「うちのバンドをご存じで」「よく、柏のスタジオで見に行っていました」おじいちゃんと先生は、昔の話で盛り上がっていた。学園祭当日、体育館内で、午後に男子軽音部の次に女子軽音部が演奏することになった。おじいちゃんは、老人ホームから、直接、介護タクシーと車いすを使って、学園祭を見にきてくれる。教わったことをこの場で、発揮する時が来た。大勢の前で歌うのがこれが初めてで、皆、大勢いる会場を見ていると緊張をする。男子は、学校以外でバント活動をしているので、会場裏でも雑談する程、余裕を持っている女子は緊張感が凄まじく、ほぼしゃべらない状態だ。そこに、おじいちゃんが来た。「皆、差し入れだ」缶ジュースをくれた。「まだ、大勢の中で演奏するのは、やったことないけど、間違っても背いっぱいやればいい、間違ったら間違ったで、演奏を止めずに続けること。やればできるんだから、精一杯、楽しんでいけ」男子軽音楽の演奏が終わり、会場は盛り上がりを見せた。入れ替わりに女子軽音楽部の演奏が入ると、周りはシーンとなった。麗奈は、マイクを持ち、「聞いてください」の一言で、演奏が始まった。ドラムの由香がドラムを叩き、私がギターを演奏する。そして、麗奈が歌う。演奏が終わると会場がどよめきがこちらに響いてきた。演奏中、私はギターを弾くことに一杯だった。引き終わった後、会場からの拍手が自分に伝わった。それが、何か緊張が解れたような感じで、人生の扉を一つ開けられたような気持ちになった。1曲目が終わり、2曲目に移るとき、玲奈は、感謝の気持ちを述べた。「皆さん、ここでお礼の言葉を申し上げます。ここまで指導してくださった崎沢さんに、歌い方を指導してくださった三浦さん、2人がいなかったら、ここまで成長ができなかったと思います。まだ、入部して間もないころ、私はギターもキーボードも触ったこともなく、ただ、やりたいという気持ちだけで入部しました。でも、実際にキーボードを触ってみた結果、どのキーを打てばいいかまた、できたとしても、リズムに乗れず、一度は辞めようかと思いました。でも、ボーカールをやってみたらと言われ、やってみたところ、歌は音痴でジャイアンいたいな、聞かすような声でなく、私は、部活に行く日が少なくなってしまいました。そんなとき、担任の先生に呼ばれ、「部活はどうした?」といわれ、正直に話しました。そうしたら、先生の友人を紹介してくれて、歌い方を練習しに行きました。そして、週に一回のレッスンで、練習をさせてもらい、今に至っています。次の曲を聴いてください」学園祭が終わり、力を使い果たした感じで、体育館の隅っこの方で座り込み、ほとんど誰もいない会場を見ていた。空港で50代の女性が降りてきた。元ナイトリップスのメンバー、優香である。優香はロサンゼルスから日本の空港へ「日本は何年ぶりに帰ってきたんだろう。20年ぶりかな。空港はだいぶ、変わったけど、何か懐かしい感じがする。」空港に降りたとき、タクシー乗り場は、昔のままで、空港から出る道のりも同じ、かすかに昔と変わらない風景に気づいたときは、ホッとする。「運転手さん、柏のJIGスタジオに行ってくれない?」「結構、時間と料金が掛かりますよ?」高速に乗り、スタジオに向かった。空港から2時間掛かったが、昔と建物は変わらない。入口に入ると、また、入り口があって、ドアを開くと目の前にバーになっており、そこでお酒を頼んで各テーブルに座る。店内は暗いので、サングラスを外して、スタジオの舞台に立った。そこにあったマイクを手に取った。「お客さん、まだ、お店は開いていないのですが、何か御用ですか?」若い男性がバーの裏から出てきた。「ああ、だまって入ってきちゃって、ごめんね」「別に要は無いの。ごめんね。私、帰るわ」「優香さん、お久しぶりです」もう一人、バーの裏から現れた。「一曲、歌ってみたらどうですか?」「店長も久しぶりね。結構、年とって、はじめは分からなかったわ」「あなたも、年の功でお美しくです」「今日はいいわ。また、来るわ」優香は店を出て行った。「店長、知り合いだったんですか? 店に入って舞台に立つから誰かと思いましたよ」「私だって、サングラスを取らなかったら、分からなかったよ」「で、優香さんとは、どんな方なんですか?」「アメリカで有名なシンガーだよ。昔に、うちで歌っていた、元ナイトリップスのメンバーだ。まぁ、彼女が抜けてから、解散したがね」家の農地でおじいちゃんロボットが、農業をやっている。今まで出来なかったことをここでは、おじいちゃんがロボットを使って働いている。老人ホームから家へ戻ってきたおじいちゃんが、元気になったような気がする。こんなおじいちゃん、久しぶりに見た。兄貴がかえってきた。「今度、展示会で、あのロボットを展示することになったよ!」玄関のドアを開けて、大きな声で兄貴が言った。「おじいちゃんいる。居間で寝ているよ」ロボットもそこにあった、何度も学校へ行っていたため少し薄汚れていた。でかい声だったので、おじいちゃんは起きた。「なんだ? 声を張り上げなくても聞こえるぞ」「今度、展示会でロボットを展示することになったんだ。この前、おじいちゃんがギターを弾いていた動画がバズったんだよ」それがうちの会社で展示会に出したらどうかとなったんだ。それで相談なんだけど、一日一回、展示会でギターを弾いてくれないかな」おじいちゃんは、背もたれに肩を下した。「だめよ。おじいちゃんは、年なんだし、あんな大勢人が多く騒がしいところは無理よ」お母さんは、言った。「う~ん、俺は騒がしいところが嫌いじゃないぞ。OKだ」おじいちゃんは、落ち着いた声で言った。「来週の木曜日でどう? 金曜日と土曜日も入れて3日間続けてだけどいい?」「急だな。練習はさせてくれよ」今週の月曜日に言われた。それから数日後、展示会の間、おじいちゃんは、何度も練習をした。練習を見ていたけど、凄い管力で真剣で怖い表情だった。「おじいちゃん、休んだら?」「いや、まだまだ」おじいちゃんのおでこの汗を拭いてあげた。このとき、おばあちゃんが居てくれたら、休むように言ってくれたんだけど、言うこと聞いてくれない。おじいちゃんを止めてくれる人を考えた。それで麗奈先輩に電話をした。借りているBABAスタジオの店長の三浦さんとよく話しているところをよく見かけたからだ。麗奈は、三浦さんの電話番号を教えてあげた。「おじいちゃん、三浦さんから電話だよ」「何!? BABAの三浦?」おじいちゃんは電話に出た。「崎沢さん、朗報です。バー仲間で話を聞いたんだが、JIGスタジオに優香さんが来たらしい」「へ!?」おじいちゃんは、激しく驚いた。三浦さんに私が伝えたことを言ってくれた。おじいちゃんは、今日の練習を止めてくれた。おじいちゃんは、部屋に入り、しばらく出てこなかった。展示会開催日、おじいちゃんは、展示のブースにいた。音合わせと、ロボットの調整をしていた。会場は隙間なく大勢の観客が入るので、展示会の外で行えるように、キャンピングカーを用意した。そこで、おじいちゃんがロボットをリモート操作と寛いで休めるようにした。会場は大盛り上がり、たくさんの観客が押し寄せる。おじいちゃん以外に、他の人が操作と方法をお客様に説明をするコーナーが設けられ大盛況だ。動画を見てくれたお客様が多く、ギターを弾いているロボットが見たいと言う。だが、コンサート時間は決まっているので、断ったが主催者側のマネージャが、「一日一回では、寂しい」という判断で、急遽、おじいちゃんに説明して、今日は2回行い、明日から一日3回行うことにした。「おじいちゃん、無理言ってごめんね」「いいさぁ、暇で退屈していたとこさ」会場に優香が現れた「元気そうね」キャンピングカーにいた崎沢勤に話しかけた。「老けたな」「あら、あなたも老けたじゃない」「そう俺も足が悪くて、この通りだ」車イスに座っていた。「椅子に座ってもいいじゃない」優香は、車イスを押し始めた。人の姿が少ない展示会の裏手で散歩をし始めた。少し遠いいが、展示場を出て、その隣にあるコンサート会場に向かった。「この会場は、昔と変わらないね」「そうだね」「ナイトリップスが最初に歌った大きなコンサート会場がここだったね」「覚えている? 降りる場所を間違えて、機材を持って歩いたこと」「ああ、あれは重かった。君は、ハイヒールで一つも荷物を持たず僕とタケ(マネージャ)が持って、会場まで歩いた。あの時は、こんなエレベータや歩道橋はなかった。便利になったものだ」「あれ? おじいちゃんどこ、もうそろそろ始まるよ」奈河は、展示会の所々を走って探し回った。キャンピングカーに戻り、しばらくすると通り沿いから現れた。「あら、お孫さん?」「そうだ、可愛いだろう。でも、家族だが、血が繋がっていないんだ」「そうね。目の輝きが、あなたに似ているわ」「おじいちゃんをお借りしてごめんなさい」「この人は昔の友人だ」奈河は、派手な衣装を着た女性を見て、ちょっと緊張をした。「奈河、そろそろ時間だな」「そそ!もう、時間だよ用意して!」「あれ?」ヘルメットが被ったが、動かなかった。ヘルメットの中の映像が映らなく、今、ロボットが動いているのか分からない。奈河が拓哉に電話した。「へ? 動かない!」大きな声で電話に出た。直ぐさま、拓哉が来た。ヘルメットを見ると、一部の配線が焦げていた。電話で展示会の現場とやり取りをしていたが、ロボットの方は、動いているようだ。「これは直ぐに直せないな。焦げているということは、どこかの回路がイカれている。調べてみないことには分からない」「拓哉、もうロボットは動かせないのか?」「これでは、無理だね。画像が映らないことには難しい」「私に考えがある」おじいちゃんは、自信満々に言った。展示会でショーの時間が迫ってきた。ロボットは、舞台に立ちギターを持っている。ただ、動きがぎこちない。本来ならば、踊ってギターを弾いてのシチュエーションだ。会場は、舞台に集まっても静かで活気がない。カメラを構えているお客が下に下す場面が多く、そこから離れてくお客もいた。奈河は、このままでは展示会が失敗すると感じていた。画像が見えないロボットが動かない。音楽が鳴り始めた。今までと違う音楽で、聴いたことがない。すると、会場内に優香が部隊に立ち歌い始めた。今までと違う会場にお客だけではなく、誰もが振り向いた。優香がアメリカに進出して、日本でも映画にもなった「DEAR FAMILY」という曲だ。うち合わせのとき、奈河は、勤に、「弾けるの?」と訊いたら、「バカ、俺を誰だと思っている。以前に弾いたことがある曲だ」と怒られた。「優香だぁ!」会場から、その声が聞こえた。会場は一気に盛り上がった。優香は踊り、それにおじいちゃんロボットが合わせるといったパフォーマンス、ナイトリップスの時の二人に戻った感じだった。更に、会場は人が集まり、大勢の人で賑わった。歌は一曲で終わり周りが静まり返る。ブースの中には、優香は居なくなっていた。「彼女、もう居なくなったの?」拓哉は言った。「優香は、スターだからねぇ~逃げ足も早いよ」「おじいちゃん、知り合いなら、話をしたかった」奈河は言った。「また、きっと会えるよ。そんな顔するな」そんな事もあって、しばらく経って、家に優香さんが来た。おじいちゃんは、部屋で寝ていた。「お久しぶりね。名前は何ていったかな?」「優香です」「おじいちゃんいる?」しばらく待たせて、おじいちゃんを起こしに行った。ぐっすりと、ベットの上で寝ていた。「おじいちゃん起きて、優香さんが来たよ」起きた。車イスに乗せ、リビングに自ら移動した。いつもは、ルームウェアの姿だが、今日は、普段と違うシャツとジーンズのズボンを着ていた。「優香来たんだ」勤は、不機嫌な顔をしていた。「そろそろ、行こうか」優香が車イスを押して、外へ出て行った。「もう、アメリカには帰らないのか?」勤は訊いた。「既に、マンションを売り払ったし、荷物も日本へ送った」優香は答えた。「なぜ、日本へ戻ろうと思った?」更に訊いた。「もう、あそこには、私の居場所がないの」悲しそうな顔をしていた。「そういえば、あの映画が人気を博してから、しばらくテレビに顔を見せていなかったな」「そう、それからソングライターとか裏方をやっていたけど、時代が変わったのかな。仕事がなくなちゃった」「また、ナイトリップスをやらないか」「それもいいわね。また、柏でやりましょうかね」それから数日後、優香さんとおじいちゃんは、柏のスタジオでナイトリップスの演奏が行われた。車イス姿のおじいちゃんと、優香さんの姿が若々しく輝いて見えた。ナイトリップスのときに歌われた曲、一日だけの演奏だったけど、おじいちゃんは、一番若く見えた。