神経内科医の徒然診療日記・コロナの時代

2011/03/10(木)10:11

再生医療で突発性難聴の聴力回復

医学関連(652)

  京都府の女性Cさん(24)は2008年3月、通勤電車の中で異変に気づいた。右耳が詰まった感じがして、音が聞こえないのだ。  仕事を終えて夜、近所の耳鼻科を受診。聴力検査を受けると右耳はほぼ聞こえておらず、医師に「重度の突発性難聴」と言われた。この病気は国内で年3万5000人に発症するとされ、原因は分かっていない。 翌朝一番で総合病院に行くと、即入院となり、7日間、突発性難聴の一般的な治療であるステロイドの点滴治療を受けた。完治する人は3割程度、5割で改善が見られるが、2割には効果がないと言われる。 Cさんの場合、全く効果がなかった。医師には「もう治療法はない。もし試すとすれば、高圧酸素療法か、京大病院で臨床試験中の再生医療か」と言われた。 高圧酸素療法は高圧室の中で酸素を吸い血流改善を図るが、劇的な改善は見込めない。再生医療は研究段階で、実際の患者への効果も副作用も不明、との説明だった。迷ったが、良くなりたい一心で「再生医療を試そう」と思った。   京大耳鼻咽喉科講師の中川隆之さんによると、耳の奥の内耳には、カタツムリのような形の器官「蝸牛(かぎゅう)」があり、聴覚細胞が集まっている。臨床試験中の治療は、この蝸牛に接する膜に、細胞の成長を促す薬剤「インスリン様細胞増殖因子」をゼリー状の物質(ゲル)に含ませて張り付ける。 突発性難聴は聴覚細胞が弱って起こると考えられるが、ゲルで張り付くことで約1週間にわたって薬剤を蝸牛に作用させ、死にかけの聴覚細胞を元気にすることを狙う。 Cさんは発症から16日目、鼓膜に穴を開け、この治療を受けた。内耳には平衡感覚に関わる器官もあるため、治療直後の数日間、めまいを感じたが、1週間後には音が少し聞こえるようになった。その後も聴力は徐々に回復、半年後には、ごく一部を除き、大半の音域の聴力がほぼ回復した。 「多少の違和感は残るけど、日常生活に支障がなくなったのはうれしい」 京大病院では07年から、発症1か月以内でステロイドが効かなかった患者25人にこの治療を行ったところ、半年後に過半数の14人で聴力が改善した。治療直後、めまい、外耳炎などが出た人もいたが、1週間程度で症状は消えたという。 今年は9施設と共同で、突発性難聴の患者120人に対象を広げた臨床試験を行う予定。中川さんは「老人性難聴や、内耳に異常が起きてめまいなどの症状が表れるメニエール病などにも有効かもしれない」と期待している。(2011年3月8日 読売新聞)コメント: 再生医療に関して、読売新聞が連載中です。少し期待できる医療になってきたのでしょうか。重度の突発性難聴でステロイド治療に全く反応しなかった人が、この再生医療で回復したということです。しかし、発症1ヶ月以内の早期で、約半数の回復率のようですから、これがもっと上がれば期待できる医療になるかもしれませんね。

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