【読書】天と地と
戦国時代を代表する武将として、必ずその名が挙げられる上杉謙信。戦えば負け知らず、自らを毘沙門天の化身と称した彼は、今日でも圧倒的な「軍神」のイメージで語られることが多い武将です。そんな彼の、知られざる人間の素顔に迫った作品こそが、海音寺潮五郎氏の不朽の名作『天と地と』。私が初めてこの本を手にしたのは、かれこれ30年以上も昔のことです。当時、映画『天と地と』が公開されることを知り、スクリーンで観る前に原作を読んでおこうと手に取ったのが最初の出会いでした。本作では景虎(のちの政虎・謙信)の幼少期からの半生が描かれますが、ここに登場する若き日の彼は、決して最初から完璧な武将ではありません。むしろ、肉親との骨肉の争いに傷つき、乱世の欲望にまみれた周囲の武将たちに失望し、「なぜ自分はこんな醜い世界に生きているのか」と人知れず深く苦悩する、あまりにも純粋で孤独な一人の青年でした。その過酷な境遇から抜け出そうと、すべてを投げ打って高野山へ出家しようと失踪してしまうエピソードなどは、人間・景虎の脆さが凝縮されており、今読んでも胸が締め付けられます。やがて、そんな彼が宿敵・武田信玄との宿命の対決(川中島の戦い)へと向かっていく展開は、本作の最大の魅力です。今回、改めてこの作品を読み直してみたのですが、過去に読んだ記憶はあるはずなのに、まるで初見であるかのように時間を忘れて読みふけってしまいました。読み終えたあと、無性に越後・春日山城の跡に立ち、彼が見たであろう景色を同じように眺めたくなってくるのは、決して気のせいではないはずです。天と地と 上 (文春文庫) [ 海音寺 潮五郎 ]天と地と 中 (文春文庫) [ 海音寺 潮五郎 ]天と地と 下 (文春文庫) [ 海音寺 潮五郎 ]天と地と 天ノ盤 [ 角川春樹 ]