きたあかり カフェ

2006/04/22(土)23:27

「本格小説」  水村美苗著  新潮文庫

★★★★★な本(138)

ニューヨークで、運転手から実力で大金持ちとなった伝説の男・東太郎の過去を、祐介は偶然知ることとなる。伯父の継子として大陸から引き上げてきた太郎の、隣家の恵まれた娘・よう子への思慕。その幼い恋が、その後何十年にもわたって、没落していくある一族を呪縛していくとは。まだ優雅な階級社会が残っていた昭和の軽井沢を舞台に、陰翳豊かに展開する、大ロマンの行方は。 <感想> ★★★★★ 著者の水村美苗さんは近代文学のこだわった作品をいくつか描かれてい ますが、本書もタイトルの前に日本近代文学と銘打ってあって、その雰 囲気を堪能できる作品です。 文庫上下巻1200頁を越える大作で、 導入部の200頁が正直言ってちょっとダルイんだけど、上流階級の戦 前、戦後そしてバブル崩壊までの60年間を残り1000頁で余すこと なく描いています。 本書は『嵐が丘』の日本版と呼ばれているようで すが、未読の私は上流階級の娘であるよう子と貧しい東太郎の恋愛から フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』を思い起こしました。  この手の大河系では山崎豊子さんが優れた書き手として評価されていま すが、水村さんは山崎さんほど読者サービスはしてくれません。 しかし イッキ読みしても、時間を掛けながらゆっくり読み進めても、独特の文 体と凝った構成が上流階級の世界とそれぞれの時代の雰囲気を充分に醸 し出していて、存分に作品を味わうことができます。 主な舞台になる軽井沢に、旧三笠ホテルという建物があります。 保存 され一般にも公開されていますが、訪れるたびにそこではどのようなドラ マが繰り広げられていたのか?と思いを巡らせます。 そんな想像力を満た してくれる物語でもあります。 読み応えのある作品を読みたいと思っている方、近代文学に思い入れの ある方、そしてなにより小説を読む愉しみを味わいたいという方にオス スメします♪  

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