2008/08/13(水)22:06
「グランド・フィナーレ」 阿部和重
「二〇〇一年のクリスマスを境に、我が家の紐帯は解れ」すべてを失った“わたし”は故郷に還る。そして「バスの走行音がジングルベルみたいに聞こえだした日曜日の夕方」二人の女児と出会った。神町―土地の因縁が紡ぐ物語。ここで何が終わり、はじまったのか。第132回芥川賞受賞作。
<感想> ★★★★☆
おそらく本書は、過去数年の芥川賞受賞作のなかで最も評判の悪い作品
です。 主人公がロリコンである。 受賞直前に奈良で幼児性愛がらみの
殺人事件が発生していたというのが主な理由です。 さらに付け加えるなら
事件と作品を結びつけようとした商業主義のせいだとも言えます。
さて、ヤバそうな描写が出てきたらその時点で読むのを止めようと心に決め
て読み始めましたが、少なくとも私が嫌悪感を覚えるほどの描写はありませ
んでした。 たしかに前半部分に関してはかなりビミョーですが、一人よがり
の主人公の独白はこの手の作品で多く見かける極度に研ぎ澄まされという
感じではなく、ちょっと痛い人のブログを読んでいるような印象を受けました。
かなり文章力のある作家さんのようですが、テーマがテーマだけに意図的な
抑制だと思います。
後半はロリコン趣味が家族にバレてしまい故郷に帰ってからの物語になりま
すが、葛藤しながらも再生の方向に歩みだす主人公の姿が垣間見えるラスト
の読後感はそれほど悪くありません。
表題作に関しては他の作品ともリンクしているようなので、そちらも読んでみ
たくなりました。