2008/11/09(日)00:38
「床下仙人」 原宏一
「家の中に変な男が棲んでるのよ!」念願のマイホームに入居して早々、妻が訴えた。そんなバカな。仕事、仕事でほとんど家にいないおれにあてつけるとは!そんなある夜、洗面所で歯を磨いている男を見た。さらに、妻と子がその男と談笑している一家団欒のような光景を!注目の異才が現代ニッポンを風刺とユーモアを交えて看破する、“とんでも新奇想”小説。
<感想> ★★★★☆
タイトルからシュールな作品を想像される方も多いと思います。
最近のシュール業界?はやたらと難解なものがもてはやされているよう
ですが、本書は星新一のそれに近いように思います。
さて、サラリーマンを主人公にした風刺小説なんていうと古臭いイメージが
あります。 仕事人間である主人公の行き着く果てに待っているのは・・的
な展開。 家族のために働いているという金科玉条の裏には自分が属す
る組織(会社)の中での自己実現(出世)を果たそうとするエゴがあります。
それを描くことによって彼ら(仕事人間)の周囲にいる人たち(家族)はカタ
ルシスを得ていたはずです。 しかし、それはあくまでバブル崩壊前までの
価値観です。
競争社会が激化した現在では、自分の就いている仕事を守るのために誰
もが必死で働いています。 そこにはかつての仕事人間達が金科玉条の裏
に隠していたエゴは皆無です。 家庭を大事にしたいけど、仕事の手を抜け
ば収入減はおろかリストラ対象になりかねない・・・。 仕事ばかりしていては
家族が離れてしまう・・・。
本書はそんなジレンマを踏まえて描かれているので、従来のサラリーマン風
刺小説を読むたびに抱いていた違和感はありません。 特に表題作の着想
は新鮮かつ秀逸です。
好きで仕事をしているわけでもないのに仕事人間と言われてムカつく。
ダンナの収入を支えるために働いているのに、仕事の帰りが遅いとか、
家事が手抜きだ!などとそのダンナに文句を言われる。
そんな皆さんにオススメです。 ただ、癒しは期待しないでください。
結局、どうにもならないんですから・・・。