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久恒啓一

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探検部は山に行きます。時には岩をのぼったりおりたりのロッククライミングも行います。この岩登りに必要な道具、それはヘルメットです。私達のクラブの別名は“ドロボー探検部”と言う位ですから、必要と思ったものはすぐに手に入れるべく頭や指を使います。

当時ヘルメットは500円位の安さでしたが、これも部員全体の数をそろえるとなると大変です。そこで私達がねらったのは学生運動の活動家がカッコよく愛用しているヘルメットなのです。70年安保時代に大学時代をすごした私達のまわりには、日本共産党系の民青を超えたと称する新左翼の人々が多くおり、小さな派をつくっては組織闘争に明け暮れていました。当時は“ゲバる”という言葉が流行った位ぶっそうな構内で、赤ヘルや青ヘルや白ヘルの眼光の鋭い活動家達が、毎日のように内ゲバをくりかえしていました。独眼流を売り物にする活動家、足を引きずっている活動家もおり、これらの障害はいわば彼等の勲章のようでした。

私達の作戦は彼等のヘルメットを奪うという計画です。陽が落ち姶めた頃学内で内ゲバが始まると見物にでかけます。角材や鉄パイプでなぐりあって勝負がついたあと残るのは、いくつかのヘルメットという寸法で、私たちはハイエナよろしくこれを没収します。時には血をだしながら倒れている男の頭から、「中核」と書かれたヘルメットをひっぱがすこともありました。さてこのようなことをしばらく続けると沢山のヘルメットが入手できます。

探検部のロッククライミング合宿を近郊の山で行うことになるのですが、部員は全員、自力で奪ったヘルメットを持って山中を一列に並んで行進です。「行くぞお、われらがたんけんぶー」白ヘルの中核、白ヘルに黒いふちどりの核マル派、青いのは社青同派、赤ヘルはノンセクトラジカル、といった具合です。ある者はオートバイのヘルメット、又ある者はナベと多彩なヘルメットの集団。ある時、10人位の仲間とともに山中を行進中、いく人かの登山者に出あいました。彼等は、山中を様々な派のヘルメットをかぶった猛者連中が、思想の違いをのりこえて一列に行進をする姿をみて、驚く者、あるいは、この美しい人間愛に感動を覚える者と、その反応は多様です。

登山者の眼にはどう映ろうと、私達は、ただ登山の必需品であるヘルメットを最も労力とお金のかからない方法で入手しただけのことですから、今からロッククライミングをやれる!!と期待に胸をふくらませて行進をしていたというわけです。






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Last updated  2007/05/20 01:34:14 PM
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