2006/09/30(土)06:28
●蘇ったゾンビ先生●
去年の話になるんだけど、Tiffanyがプエルトリコの西側にある、
La Pargueraという所の、私達のトレーラーハウスでシャワーを浴びている時に、
ふざけていて滑って転倒をしてしまい、後頭部を切る怪我をしました。
慌ててPonceにある救急病院で頭を縫ってもらったと言う事件がありました。
その後何日か経って、
Tiffanyの抜糸の為に、学校が終わって帰って来てご飯を食べて一息ついてから
私達がたまに行く、内科医のDr.Dの下へと連れて行きました。
このDr.Dは、一応子供から大人まで診てくれる Internal medicine(内科)のお医者さんなんだけど、
何故か注射などの予防接種はしない先生なの。
場所的に家から物凄く近くて便利なんだけど、(ほんの1,2分の距離よ!)
予防接種をしないから検診も出来ないんだよね。。
それから理由は後で書くけど、
Dr.Dの所へ行くと、待ち時間も診察時間も、異常に長い!
待ち合い室に居る人2人位でも、待ち時間1~2時間は当たり前なの。
前にMichaelがお腹が痛い時に、緊急でこの先生の所へ連れて行った時に、
直ぐ診てくれると言ったのに、待合室には私達ともう一人だけが居たのに、
1時間経っても全然呼ばれなくて、後からも何人か来たけど、
私達が、もう1時間以上待っているし、全然前に進まない。と言ったら、
具合悪くて青い顔をした子供を連れて、引き返して行った人も居たんです。
その後Michaelは、痛みが治まらないのと、一向に呼ばれない事に苛立って泣き出す始末。
だからこの先生はもう、懲り懲り!と思ってたんです。
そういう訳で、私が風邪を引いたりして具合が悪い時だけ、
処方箋を貰いたいので、その先生の所へ通っていたんです。
小児科の先生は、学校帰りに迎えに行ってそのまま連れて行ける。という事で、
ちょっと家から離れているけど、学校から目と鼻の先の、
ベテランの小児科の先生が掛かり付けになっていたんです。。
唯、この学校へ行くのが大変で、渋滞が無ければほんの10分少々の場所なんだけど、
夕方のラッシュ時なんて、1時間以上かかっちゃう。って言うのが難点だったんです。
それでは何故今回、TiffanyをDr.Dへ連れて行ったのかというと。
“たかが抜糸”
という簡単な理由から。
抜糸如に、わざわざ一時間以上も、渋滞の中を運転して行くのは厄介だったから。
幾らあの先生でも、
抜糸位,直ぐにちゃっちゃっとやってくれるでしょう~。。
と,高を括っていたら大間違いでした。
夕方抜糸に連れて行った時に、
私:「先生、Tiffanyの後頭部の抜糸をして欲しいんですけど。」
って言って、Tiffanyの後頭部を見せた時の、
Dr.Dの“困惑の顔”を、私は見逃さなかったのよね。。。
そして彼の言った言葉が、
「あららら。。。さっき居た子も抜糸で来てたんですよ~。。。。
でもねぇ~、、、、今日はもう消毒済みの道具が無いから、出来ないんですよね。。。。」
と、まぁ~何とも頼りない返事。
私:「はぁ~。。。そうなんですか。。。」
Dr.D:「明後日だったら出来るから、木曜日に連れて来て下さい。
唯その前に、幹部を消毒液で何度も、柔らかいコットンなどで拭いて、
かさぶたをはがす様に心がけておいて下さい。
その方が抜糸の時に、皮膚がつれる事が無く済みますから。」
と言いました。
抜糸の時に、こんなに構えちゃう先生も珍しいなぁ。。。と
その時ちょっと不安になった事は確か。
今まで抜糸を何回か経験しているけど、
皆簡単にパッパッって終わらせちゃってたから
“この先生大丈夫かいな?”
って考え始めちゃった。
何か自信無さ気で、これじゃ~患者が不安になるよね。
おまけにこの先生の話し方が、
まるで結婚式の、クソ長いスピーチを聞いている時のように
睡魔を誘う話し方なの。(=o=)(=。=)(=w=)~~zzZZ
「あんた寝起き?」
って聞きたくなる位に、ぼ~~~っとしてて、動作もゆっくりで、
話の合間に
「Uh~~~~(あ~~~)。。。。 Uh~~~(あ~~)」
が、やたらと入る!
それだけでなく、
同じような内容の話を、この“催眠モード”で何度も繰り返すんだな。
故 大平前総理が、「あ~~~う~~~~」で有名になったけど、正にあんな感じ。
これって聞いている方にとっては、じれったくって苦痛で仕方が無い。
せっかちの私にとって、イラつく事この上ないの。
とまぁ、話がちょっと横道に外れちゃったんだけど、
何となく不安なまま、診察室を後にしました。
そして2日後の夕方、
“どうか、Dr.Dが上手く処置を施してくれますように!”
と祈るような気持ちで行って来ました。
事前にTiffanyには、
「今日は、抜糸に行かなくちゃ行けないんだよ。
この間エマージェンシー・ルームで縫った時の様に、注射をしたり
痛い思いはしないから安心してね。」
と、その日の朝から何度も言い聞かせ、
お気に入りのぬいぐるみを持たせて行きました。
診察が終わる30分前が良いと、先生が言うので、
その通りに終わる寸前に行くと、私達が最後の患者の様でした。
待合室では、Dr.Dが患部を何度も消毒液で拭く事に気を使っていたので
コットンと消毒液を持って行き、待合室でも患部に当てていました。
ところが初めは警戒して、それすらも嫌がって抵抗するTiffany。
私:「それじゃー先に、Tiffanyがマミーの頭をこのコットンで拭いて頂戴。」
と言ったら、あっさりOK(笑)
得意顔で一生懸命に、消毒液で湿らせたコットンで私の後頭部を拭いています。
私:「はい。今度はTiffanyの番~♪」
T:「OK~♪」
自分の頭(患部)にコットンを当てて喜んでいます。
“よしよし。。。リラックスしたみたいだから
これなら上手く行きそうだわ。”
と内心安心していました。
Dr.Dが自らドアを開けて姿を現し、今一力ない声で
「T~~iffany~~~」o( _ _ )o...zzzzzZZ
と呼んだので、Tiffanyに、
私:「直ぐに終わるから頑張ろうね。」
と言って診察室へ入って行きました。
ところが、
ゴム手袋をはめた、Dr.Dの仰仰しい姿を見たTiffanyは、
半分パニックになり、一気に態度を硬直させて私にしがみついた。
「大丈夫。糸を抜くだけなのよ。
マミーを信じて、リラックスしようね。」
そう言っても、もう殆ど聞く耳持たず状態。
ここからはTiffanyの性格がそのまま出るよう、あえて原文で載せました(笑)
T:「No!I don't want it! Stop it!」
(やめて! ヤダヤダ!)
そう叫びながら、足をバタつかせて大抵抗。
私:「Tiffany,no matter how much you cry the doctor still has to take out your stitches.」
(Tiffany、どんなに泣いたって抜糸はしないといけないのよ)
T:「NEVER! I hate you!」
(絶対に嫌よ! マミーなんか大嫌い!」
“NEVER!”は、当時のTiffanyのお得意の言葉。
困惑顔で
Dr.D:「But Tiffany, I'm only trying to help you.
You don't want the stitches to stay in your head forever do you?」
(Tiffany,先生は何も痛い目に遭わせるつもりは無いんだよ。糸をずっと頭に残しておくのは嫌だろう?)
すると、
“糸をずっと頭に残しておくのは嫌だろう?”
の言葉に反応したのか、急に脱力して言うなりになった。
意を決したような目で、私の顔を見上げている。
どうやら開き直ったようだ。
先生はハサミを、いつものゆっくりとした動作で手に取り、
Tiffanyはコアラのように、私にしっかりとしがみついている。
先生もそれなりに気合を入れて、
私に、「絶対にそのまま動かないように」、と指示をする。
私ははっきり言って、Tiffany以上に緊張していた。
ゆっくりとハサミを、後頭部に近付けて行く。
私は息を殺して、食い入るようにハサミの行方を目で追った。
微妙に震えるハサミが、更に私の緊張を高める。
プチ、プチ、プチ、と簡単に抜糸が出来た。
「ほら!もう終わったよ!」
よほど嬉しかったのか、興奮気味に早い口調で話す先生。
そして、
晴れ晴れとした笑顔。
ゾ、ゾンビが生き返った!( ̄▽ ̄;)!!
私は初めてこの先生が、生きているんだと悟った。
私の緊張の糸も、
Tiffanyの抜糸と共に解れた。
先生も、私も、Tiffanyも、
そして、心配そうに見守っていた受付のおばちゃんまでもが、
皆、頬をバラ色に染めて笑っていた。
今までの鈍く重かった部屋中の空気が、
急に軽く新鮮になって、私の身体に取り込まれて来た気がした。
先生は私達が帰る時も、
生き生きとした笑顔で手を振りながら、いつまでも見送ってくれていた。
頬が熱く紅潮したまま、笑顔で帰った私達だったが、
その後、この先生の顔を見る事は、
二度と無かったのであった。
【完】