『present』 ~1~present ~1~ (イメージ:松本潤くん)久しぶりの地元だった。 もう夜遅かったけど、 近所のおじさんや、会社帰りの兄ちゃんや、 いろんな人から声をかけられた。 普段ならちょっと苦手に感じることも、 地元では笑顔になってしまう。 高校卒業と同時に家を出て、一人暮らしを始めて2年。 何かにつけて親から呼び出されたり、友達と会ったり、 まめに帰ってるつもり。 今日は母親の誕生日パーティー・・・ とは言っても3日前だったけど。 家族全員が集まるのが大事だっていう事で、今日になった。 自宅のマンションに着いた。 オートロックのキーを開けて、エレベーターホールに向かう。 新築だったこのマンションに越してきて、もう10年以上経つ。 小学校入学の年だったから。 「そろそろ家を建ててよ~。」 と、母親が冗談めかしていうけど、 俺はこの街が気に入ってる。 子供の頃からずっと暮らしてきたし、気心の知れた友達もいる。 おばちゃんたちも昔と変わらず、 説教してくれたり、お菓子をくれたり(?) ココロ安らぐ場所だ。 一人暮らしを始めてから、特に地元への愛着が増した。 無意識にメールボックスに向かう。 フリーペーパーを取って、歩きながら広げて見ていた。 「あーっ!」 聞き覚えのある声・・・顔を上げると、そいつが口を開けて こっちを指差していた。 「あっ!奈緒っ!」 「チョコ潤だっ!」 目を丸くしたまま、奈緒が叫んだ。 「それ言うなって!・・・指差すな!」 「久し振りだね~、チョコ潤!」 もう、無視して続けた。 「なに、どーしてんの、最近。」 フリーペーパーを畳みながら訊いた。 「ちゃあんとエンジョイしてるよっ。潤は?仕事あんのっ?」 「はいはい、相変わらずだなっ、おまえはっ!」 「な~んか久し振りだと態度でかくない?」 「どっちがだよっ!」 「あ~、クールな役ばっかで強くなった気になってんだ~!」 「うっせー!!」 こいつには、どんなに怒鳴ったって効き目なし。 「この辺で会うのって、何ヶ月ぶりだろうね~・・・。」 知らん振りで話題を変えてくる。 「んー・・・、でもしょっちゅう帰ってきてるけどね。」 「ばったり会うことなんて、そうないしね・・・。今日はどしたの?」 「あー、おふくろの誕生日。」 「プッ、おふくろだって~!似合わない~!」 「言ってろっ!」 エレベーターが下りてきた。奈緒を先に通して乗り込む。 「なんかおまえ、雰囲気変わった?」 「だってもうすぐ19だよ。少しは女らしくなったでしょっ?」 必要以上のまばたきがうっとうしい。思わず顔をそむける。 「お化粧もするし、恋もするし・・・。」 「へっ?こっ、恋?お前がっ?・・・あっ、片思いか!」 「ばかにすんなよっ!」 「うっそ・・・、カレシできたか・・・。そのトシでやっと・・・。」 「うんっ!」 「ふ~~~ん・・・。」 つい、まじまじと見てしまった。 「あっ、ヤラシイ目で見てる!」 「なっ、なに言ってんだよっ!」 自分でも顔が赤くなるのがわかった。 ・・・エレベーターが止まる。 「あっ!行き過ぎたっ!」 「ばっかだね~、バカ潤!子供の時とおんなじじゃん!」 友達とエレベーターに乗ると、しゃべったりじゃれたりして 自分ちの階のボタンを押すのをよく忘れていた。 奈緒の家は最上階だった。 「じゃあね~~・・・。」 ヒラヒラと手を振る奈緒。 ドアが閉まりかけた時、あっと思い出して、 「おまえさーっ!」 『開』ボタンを押して、エレベーターから飛び出す。 「なっ、なにっ?」 「冬コン、あれ何だよ、あのうちわ!」 「あ~~?・・・昔のことを~・・・。」 「もうやめろよなっ!ヘンなうちわ振るの!」 「くくくっ!見つけた時、固まってたよね~・・・。」 「当たり前だろっ!みんなから訊かれたよ、チョコ潤って何だって!」 「あ~、やっぱ、へなちょこ潤って書いた方がわかりやすかった?」 「今度あんなマネしたら、出入り禁止にするからなっ!」 「いいよ~、別に・・・。行けるかどうかわかんないし~・・・。」 「えっ?」 「やっぱ、カレシ優先ですから・・・。」 「そっか・・・。」 シアワセそうに微笑む奈緒。 何でも知ってたのに、今は知らないことばかり・・・。 「どんな人?物好きな奴って。」 「・・・ふふっ、サークルの先輩、22歳。」 「へぇ~~っ・・・。」 俺より年上か・・・。関係ないのに、何か引っかかる・・・。 嵐のメンバーだと、年上とか全然気にならないけど、 すごい大人のような気がする。 そんな男と付き合ってる目の前の奈緒も、何だか大人びて見えた。 「ラブラブってやつ?」 「うん!冬休みはふたりで北海道にスキーに行ったんだ!」 「へぇ~~、誕生日も楽しみだな!今月だったろ?」 「あ、覚えててくれてたんだ!プレゼントは受け付けるからね!」 「図々しいな~!・・・でも良かったな、シアワセそうで・・・。」 「潤もシアワセなんでしょ?」 「・・・うん、まあね・・・。」 「お互い大人になったよね~・・・、こんな話するなんて・・・。」 「そだな・・・。」 「おかあさん、待ってんでしょ?早く帰らなきゃ。」 「あっ、うん・・・じゃあなっ!・・・あっ、たまにはメールしろよ!」 「指差すなっ!・・・そっちこそねっ!ばいば~い!」 苦笑いしながらエレベータの前に行くと、もう下りてしまっていた。 すぐそばの階段に向かって歩いた。 振り返って見た奈緒の後ろ姿は、どこか知らない女の子のようだった。 北海道って・・・、日帰りじゃないよね。 当たり前か・・・。19なんだし。 ひとつ年上の俺に、えらそーに指図して遊んでた親分肌のおてんばが、 いつの間にか、ふわふわしたいい匂いの女の子に変わっていた。 ・・・しゃべりだすと元に戻るけどね・・・。 つづく 20,Sep.2004 ~ひとこと~ 潤くんのラブストーリーは、まだ正面きって書けません・・・。 リアルすぎるからかな? 恋じゃないけど、気になる存在、大切にしたい友達。 突っ込みあいながらも、彼女を見守る優しい笑顔を思いながら 書きました。時代設定は2004年の早春です。 |