199944 ランダム
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       ~9~

     星空の下で  ~9~




  星の空を見上げる。

  南の島でひとりで見上げたのとおなじ空。

  でも、なんでこんなに星が少ないんだろうね・・・。
  誰にでもなく、問いかけてみる。

  あの夜・・・、ひとりだったけど、寂しくなかったよな・・・。

  そばにいなくても、ケータイだけで繋がってても、
  一緒におなじ空見上げてた。

  遠く離れてたけど、すごく近くに感じてた。

  でも、今はほんとにひとりでいるんだって思う。

  車から飛び出して、ひとりで走って、こうして公園にひとりでいる。
  なんてことないはずなのに、気持ちをまっすぐ保ち続けるのがキツかった。
  
  今ごろになって、なにやってんだろう・・・。

  自分が遠ざけてしまった彼女の姿を
  あてもなく必死で捜してるなんて・・・。

  ・・・水のみ場。

  あの時、彼女に連れられて指の傷を洗ったっけ・・・。
  もうすっかり傷痕も消えたけど・・・。

  ついこのあいだのことなのに、すごく懐かしい。

  そして、彼女と出逢った場所が・・・。






  一瞬、足が止まった。

  目を凝らす・・・。
  ベンチに人影が見える。
  まさか・・・な・・・。

  ・・・ゆっくり歩み寄って行った。

  近づくにつれて確信に変わっていく。

  でも、また足が止まる。

  何もできなかった・・・。

  これ以上、近寄ることも。

  話しかけることも・・・。



  車道の真ん中で、車から飛び降りた瞬間からの緊張がほどけていく・・・。
  ホッとして、気が抜けて、なんだか泣きたいような妙な感覚が走る。

  どうしてこのひとって、こうなんだろう・・・。

  不思議な感覚にさせられる・・・。

  くやしいような、嬉しいような、フシギな・・・。



  
  ひとりじゃなかったんだ・・・。

  今、彼女も星空を見上げている。

  会いたくて、話がしたくてここまで走ってきたけど、
  ずっとこのままでいたいような気もして・・・。


  
  今の自分に一番必要な時間の流れ。

  失いたくない、ゼッタイに。

  強く、強くココロに言い聞かせた・・・。




  その時、一瞬夜空に白い線が走った。

   「あーーーっ!!」

  思わず叫んでしまった・・・。  彼女が振り返った。

   「あ、あ、あれっ!! 流れ星!?」

   「・・・・・。」

  お互いに固まったまま・・・。

   「・・・・・だよ・・・ね?」

  驚いた顔のまま、ゆっくり立ち上がってこっちに歩いてくる。

   「・・・うそ・・・、相葉くん・・・?」

  久し振りに声を聞いた。 胸の奥が熱くなる。

   「・・・うん・・・。」

   「なんで・・・?」

   「え、・・・あ、まいちゃんこそ・・・。」

   「ときどき来てるの。 これ持って・・・。」

  そう言って、双眼鏡を目元に当てて見せた。

   「わ・・・、おっきすぎてなんにも見えない・・・。」

  思わず吹き出してしまった。

  あの日、気まずく別れてしまったのに、
  何もなかったかのように、まいちゃんは笑った。

 
  ・・・笑った・・・。



   「ときどきって、あぶないよ。 ひとりでこんなとこ・・・。」
   「誰かにこれ、蹴っ飛ばされるかもしれないから・・・?」

  柔らかな笑顔・・・。

  俺のほうは口元がこわばってる・・・。 ぎこちなく笑った。

   「でも、ほんとに・・・。  
    このあいだ、あんな風に別れて、
    私、もう相葉くんと顔合わせられないって思って・・・。」

   「そんなこと・・・。」

   「・・・だから・・・、また偶然会えたらいいなって・・・。」

  
  胸の奥がザワザワしてくる。 想いをすべてぶつけたい。

  まいちゃんが俺のことをどう思ってるかなんて考え込んだりしたけど、
  もうそんなことどうでもいい。

  はっきり言わなきゃ・・・。

   「偶然じゃないよ・・・。
    俺はまいちゃんに会いたくてここに来たんだ・・・。」

   「・・・・・・。」

  まいちゃんの表情から笑顔が消えた。
  まっすぐ見つめられて、また緊張がはしる。

   「・・・どうしても、話しておきたいことがあって・・・。
    いや、その前にオレ・・・、まいちゃんっ!!」

   「・・・はい・・・?」

   「・・・付き合って、ほしくないんだっ!!」

   「・・・えっ・・・?」

  あ~、またヘンなこと言ってしまった・・・!
  頭ン中がぐちゃぐちゃだ~・・・!

   「あ、えっと・・・!  だっ、誰とも・・・!」

  びっくりした顔の彼女と目をあわせたまま・・・。

  
  ほんのちょっとの間に、今までのことが浮かんでくる・・・。

  いつもさぁ・・・、なんか心配かけたり、励まされたり、
  バカなこと言って困らせたり・・・。

  ホントに弟みたいに思われてるかもしれないけど・・・。
   
   「・・・まいちゃんのことが・・・。」  

  シアワセになってもらいたいなんて思ったこともあったけど・・・。

  自分の手の届かないところでなんて、やっぱり考えられない・・・。
  
   「・・・好きだから・・・。」
  
  まいちゃんは、一度も目をそらさずに、まっすぐこっちを見ていた。

  口に出してはみたものの、やっぱり空しい響きだった・・・。

  なんで素直にいえなかったんだろう・・・あの時・・・。

  目を合わせられなくて、自分が情けなくて、
  視線を落として唇を噛み締めた。
  
   「・・・ごめん・・・。 今さら・・・、だよな・・・。」

   「・・・ほんとだね・・・。 今さらだよ・・・。
    言いたい放題言ってたくせに・・・。」

   「・・・・・。」

   「私もはっきりしてなかったけど、
    相葉くんの方こそ、わけわかんないよ・・・。」

   「でも・・・、俺、あきらめきれない・・・、どうしても・・・!」

   「・・・つきあってないよ、誰とも。」

  耳を疑った。 ふと見ると、彼女が少しだけ口を尖らせてた。

   「・・・えっ!? ・・・だって、返事するって・・・。」

   「私、相葉くんと違うもん・・・。」

   「・・・・・?」

   「やっぱり、とりあえずつきあうなんてできないよ。
    ・・・相葉くんと違って・・・!」

   「・・・も~、カンベンしてよ~・・・!」

  いたずらっぽい笑顔になって、まいちゃんは続けた。

   「だから・・・、断ったの。」

   「・・・あ~・・・、そーなんだぁ~・・・、そっかぁ~・・・。」

  体のチカラが抜けてくように、大きなため息をついた。
  泣きそうな、情けない顔にゆがんでいってるのがわかる・・・。

   「なんですぐ教えてくれなかったんだよぉ~・・・。」

   「そんな顔しなくても~・・・。」

  優しい声が耳に響く・・・。

  まいちゃんは、困ったような笑顔でこっちを見ていた。

  もうどう思われたっていい。 カッコつけたってしょうがない。

   「相葉くん、言ったじゃない。
    断る理由がないならつきあえばって・・・。」

   「・・・そんなコト言ったっけ~・・・。」

   「・・・断る理由、あったから・・・。」

   「あ~・・・、そーなんだ・・・。」

  なんか頭がぼ~っとして、考える余裕もなかった。

   「だから・・・、今日会えて、ほんとに嬉しかったんだから・・・。」

   「・・・えっ?」

   「・・・うん。」

   「・・・えっ? 断った理由って・・・、なに?」 
 
   「・・・おバカ! ・・・信じらんない!
    もういいよっ!!」

  急に怒った顔で、彼女が背中を向けて歩き出した。
  アセって追いかける。

   「あっ! ゴメン! ・・・わかった! わかったよっ!!
    ・・・あれ? ・・・うそ、・・・ホント!?」

  頭の中をぐるぐる回ってる、彼女の言葉を追っかけながら。

   「なに言ってんだか・・・!」

   「ちょちょ、ちょっと待って!!」

  慌てて彼女の前に回りこんで、思わず両手で肩を掴んだ。
  目を丸くして、肩をこわばらせる。

   「あっ、ごめん・・・。」

  はっとして両手を離した。
  
  舞い上がってる場合じゃない・・・。
  大事なことを言うのを忘れてる・・・。

   「えっと・・・、もうひとつ、聞いてほしい事があったんだ・・・。」

  本題の前に、打ち明けておきたかったこと。

  でないと、フェアじゃない・・・。

   「俺の仕事のことなんだけど・・・。」

   「仕事・・・?」

   「うん、それから考えてほしいんだ・・・、俺とのこと・・・。」

   「関係あるの・・・?」

   「すごく関係ある・・・。」

   「え? だって・・・、仕事って・・・。 忙しいから・・・?」

   「・・・座ろっか・・・。」

  ベンチに並んで座った。

  まいちゃんは、膝をこっちに向けて、まっすぐ見ていた。

  とうとうこの時がやってきた。 ずっと隠してたこと。

  そのせいで、どうしてもキモチに素直になれなかったこと・・・。


  彼女と真剣に向き合う日が来るとしたら、伝えようと思ってた、

  彼女が知らなかった、もうひとりのホントの自分のこと・・・。


   
                       つづく   27,Apr.2005






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