たわむれアーカイブ ワタシが【カツラー】になったワケ
(2008年2月8~9日付本稿の再掲)今から25年ほど前。当時高校生だったワタシの頭は、鬱陶しいくらいの量の髪の毛で覆われていた。ややエラが張っている輪郭を気にしていたワタシは、そのエラ隠し対策として髪を横は耳たぶがスッポリ隠れるほど、後ろも指でクルクル巻けるほど長く伸ばしていて、さらにオカンと同じ美容室に通って定期的にパーマをかけていた。今にして思えば、そのパーマが毛根の寿命を縮めたのは明らかなのだが、当時から担当の美容師さんに、「キミの頭皮は硬いから、将来ハゲちゃうかもよ」とは言われていた。あの美容師さんの的確な診断、“先見の明”には感服せずにはいられないw大学入学当時と、卒業式での自分の写真を見比べると、特に前頭部の毛量が明らかに減っているのが見て取れる。さらにワタシの薄毛を促進されることになったのは、勤め始めた職場環境によるところが大きかった。ワタシの選んだ職業は、建設業。1~2年目は“研修”の名の元に現場から現場を渡り歩く毎日で、特に汗っかきなワタシにとって、敷き詰められた鉄板の照り返しなどで気温40℃は軽く超えているであろうところで、終日ヘルメットをかぶって動き回るのでは「蒸れるな」という方がムリな話である。案の定、就職して2年目の秋頃にもなると、かつて鬱陶しいほど生い茂っていた前髪はヒョロヒョロと枯れ野のように朽ち果てつつあった。そんなある日、テレビで見掛けたのが、某ヅラメーカー『A』の【地毛に絡ませる新しいかつら】のCMであった。少し大きい目のメッシュの隙間からブラシを使って地毛を引っ張り出して絡ませるタイプのカツラで、つけるかどうかは勇気と予算にもよるが、取りあえず相談だけでもと意を決して電話してみた。店に行くのは、誰に見られるかわからないリスクを考えるとちょっと…と思ってたら、家を訪問してご説明させていただいてもいいと言う。当時は、オトンが仕事の都合でオカン連れて大阪勤務している頃で、ワタシはオトンの購入した埼玉県某所のマンションに妹と二人暮らしだったという気楽さもあって、『A』の営業担当者を家に招き入れたのであった。担当者は40代後半から50代前半くらいのオッさんで、「実は私も愛用者なんですよ」と“ペロッ”とそれをめくり上げて見せた。おおっ、とちょっと引くワタシをよそに、頭皮チェック開始。髪の毛触ったり、モミモミゴリゴリしながら、カルテのようなものをつけている。CMを見て電話したことを話し、アレをつけたいがいくらなのか?と聞いてみると、サイズや毛量にもよるが10数万くらいのものだという。安い買い物ではないが、出せない金額ではない。「ただ…」担当者が言うには、今はまだその【地毛に絡ませる】タイプが使えるとしても、お客さまは頭皮がやや硬く、向こう数年でさらに脱毛が進む可能性が高いとの診断結果が出たという。んで、数年後にさんざん薄くなったところでフル装備のカツラを乗せると見た目にもバレやすいから、今のうちから乗せちゃったらどうか?と言うのだ。さすがにいきなり乗せるのは気が引けるので返事をためらっていると、・いくつかの段階に分けて毛量を増やしていけるから、バレにくい・以前はベースがすべて人工皮膚だったから通気が悪かったが、今は髪留めのピンを取り付ける箇所以外はメッシュになっていて、蒸れにくい構造になっているなどといった説明を受け、いよいよ逃げられない雰囲気も漂いつつある中、若げの至りというか当時まだ20代半ばで見掛けも気になるお年頃だったワタシは、「金額によってはつけてもいいかな…」という気持ちに傾きつつあった。【カツラー】ぎっちょ誕生少しでも毛量を学生時代くらいのレベルに戻し、おシャレもしたかったうら若きワタシは、金額次第では【フルカツラー】になっても構わないと思い始めていた。「ちなみに…おいくらぐらい?」と聞いてみると、担当者が電卓をポンポンポン♪と叩いてワタシに見せた。¥1,200,000―ひゃ…ひゃくにじゅうまん!w(☆o◎)wただこれは、担当者の“オススメプラン”として、1週間ごとに1枚使って1ヶ月を過ごすために4枚作ると仮定した場合の金額で、もちろん枚数を少なくすれば金額もそれに合わせて安くなるという。それでも1枚40万とは相当な金額だと思っていたら、担当者はさらに「耐用年数は、上手に使えば10年、普通に扱っても5年はもちます。年平均8万、月平均7000円弱、と考えれば、決して高い買い物じゃないと思いますよ。」ああ…今なら絶対こんな口車には乗せられないのだがwこの“実質月1万かからない”というリーズナブルさは、渾身の力でワタシを【カツラー】へと押しやるものだった。結局『2枚コース』でローンを組み、その場で頭の型をとり、地毛の生え具合を確認した上で髪止めピンの取付け位置を設定し、人工毛製造用のサンプルにと地毛を数本切り取って、担当者は帰っていった。フサフサの髪が戻ってくるという嬉しさの反面、自分が働いて稼いだ金とはいえ数十万もの大金を注ぎ込むという後ろめたさが入り交じった複雑な心境の中、数日が経過。いよいよ、ワタシの“分身”とのご対面の日を迎えた。周囲を確認し、誰にも会わないように素早く店に飛び込んで名前を告げるとカーテンで区切られた整髪室に通され、間もなく店員がまるでクラゲのごときその“物体”を2組持ってきた。これらを頭にセットして、毛をお好みの長さにカットして出来上がり。見た目は、大学に入学した頃のワタシに戻ったようだ。いきなりフサフサに戻るのは不自然なので、今よりチョイ増毛したものが1枚サービスされた。一定期間これを使って、折を見て本製品につけ替える。使わなくなったら、店で“研修用”として使うので、持ってきてもらえばいい、とのことだった。時に、1991年12月のこと。正月休みを境に切替えようとワタシは考えていた。熟練の社員が取付けしてくれたので、店から帰る時はほとんど気にならなかったのだが、週明けの出勤時に自分で取り付けて外出する時はかなり緊張した。地下鉄を利用していただけに、電車が入ってくる際に風が吹いて「ペロッ♪」とコンニチハされても困るので、引っ張っても外れないよう念入りにに取付けして、いざ出発。ある意味、就職して初出勤する時より、いや、女の子とデートに出かける時以上の緊張感をおぼえた。無事に会社に到着すると、上司などにはあらかじめカミングアウトしてあったので、シゲシゲとワタシの頭を見て、「ホンマにつけとるんか?」と感嘆の声を挙げた。年明けの本製品への切替えも難なく終わり、学生時代の友人などからも「見た目まったくわからん」「昔に戻った」と言われ、高い買い物ではあったが、まあそれなりに効果はあったとワタシは悦に入っていた。それから2年ほどの月日が経過した。慣れてくるとつけていることも忘れるほどの自然さで、一杯飲み屋などの薄暗いところに行くと必要以上に毛がキラキラ光ることを指摘された以外は、まったく問題なく日々を過ごしていたある日、月例のメンテナンスに行くと、店員が「話があるから少し時間とれる?」と聞いてきた。何?と尋ねると、「製品が傷んできてます」(´A`)えええええええええええっ!!普通に使ってても、5年は確実にもつって言ったじゃん!いや…ワタシの場合、炎天下の工事現場でヘルメットかぶってることも多いから、傷むのも早いのかも…な~んて不安に苛まれて、ここで3枚目を買うハメとなってしまった。そんなこんなで、コチラの不安を煽るような“売り口上”で巧みに押し切られ、この後も2~3年おきに1枚ずつワタシの分身は増えていった。それらに注ぎ込んだ金額を考えたら、余裕で外車がキャッシュで買える。まったくもって、勿体ないことをしたものだと、今にしてつくづく思うのである。ぎっちょ