本だけ日記。

2007/08/06(月)17:36

臼井吉見:『小説の味わい方』

読書:文芸批評・評論(28)

■臼井吉見は長野県出身の作家・評論家・編集者。 あとがきによれば、『週刊朝日』に 連載されていたものらしい。 だとすれば、ずいぶん堅い文章が載っていたものだ(^_^;)。 ■とはいえ、筆者が扱う小説は、目次をたどると 「姦通小説と恋愛小説」に始まり、 「好色文学の問題」「痴情小説をめぐって」 「文学と道徳」「ワイセツと文学」と続く。 これで本書の半分弱になるが、 とにかく小説の扱う問題の大きな部分に、 恋愛と性衝動の問題があることが分かる。 ■本書で多く取り上げらる作家に谷崎潤一郎がいる。 『痴人の愛』『鍵』『卍』『瘋癲老人日記』 といった作品が取り上げられるわけだが、 特に『鍵』における著者の指摘は興味深い。 それは、『鍵』の主人公である男性が、 大学教授であるにも関わらず、 授業の準備も講義も研究もしている気配がないこと。 そして、彼の専門が何なのかについても、 はっきりしないことである。 ■この作品のこの問題に限らないが、 作家がある作品のなかで何を描き、 一方で何を描いていないのか、 その視点と判断基準は何なのかを考えながら 文学・小説を読むことが大切だろう。 ■だとすれば『鍵』の主人公の視点とは、 どのようなものか。 当然、谷崎もどういう意図をもって、 そのような視点をもちこんだのか、 ということが興味深いわけだ。 とはいえ、それは意図されたものではなく、 単なる不注意なのかもしれないし、 いずれにせよそれをどう評価するのかが、 評論家の腕の見せ所となるだろう。 ■著者の臼井吉見は、『鍵』を実験小説だとし、 上記の問題に対する評価については、 保留しているという感じで、少し残念。 なお本書は新潮文庫だが、とっくの昔に絶版である。

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