「昭和国民文学全集(8)子母澤寛集」 【子母澤寛】
昭和国民文学全集(8)(著者:子母澤寛|出版社:筑摩書房) 「集」とはいっても「父子鷹」一編。 全く内容を知らずに読んだ。勝海舟の父、勝小吉の一代記である。 十七歳のころから、小吉が三十九歳、麟太郎十八歳で、小吉が隠居し、蘭学を学び始めた麟太郎が、これから頭角を現していくぞ、というところで終わっている。 新聞の連載小説で、常に何かが起こり、複数の事件が平行して推移していく。 小吉が家を借りている旗本が破滅的な家なのが物語を膨らませている。 単純な善人、単純な悪人というのがいないのがいい。 文章では、「~みたい」とは言わないのが面白い。 例えば、「タコみたいだね」とはいわず「タコ見たようだね」と言う。 また、「内心はむかついていた」(p283)という表現が目を引いた。 心中面白くないことを「むかつく」というのは、そう新しいことではないようだ。