「こころの処方箋」 【河合隼雄】
こころの処方箋(著者:河合隼雄|出版社:新潮文庫) ずいぶんストレートな書名だ。 こころの問題についての解決のヒントになるようなことが五十五章にわたってつづられている。 重要なのはものの見方である。薬があってそれを与えればいいというわけではない。 したがって、単純に割り切って考えることはできない。 著者自身も、「毎度のことながら、ここにも正しい答などはどはない。」(p225)とはっきり書いている。 しかし、短絡的に正しい答えを求める人の方が多い。 「決めつけてしまうと、自分の責任が軽くなってしまって、誰かを非難するだけで、ものごとが片づいたような錯覚を起こしてしまう。」(p13)ことの方が多いだろう。新聞の論調を見ればそれがよく分かる。 新聞といえば、「マジメな人は自分の限定した世界の中では、絶対にマジメなので、確かにそれ以上のことを考える必要もないし、反省する必要もない。マジメな人の無反省さは、鈍感や傲慢《ごうまん》にさえ通じるところがある。」(p60)など、まさに新聞そのものではないか。 「最近は場あたり的な灯を売る人が増えてきた」(p117)もまた同じ。 学校の教師について、「自分は生徒たちとまったく同等の立場で生きている」というまやかしを論破しているが(p190)、生徒と対等であるべきだという論調を振りかざす人は、これを読んでどう思うのだろうか。 時間をかけて、いくつもの面から問題をとらえ、遠くにある灯にたどり着こうとする姿勢を持たなくてはならない人ほど短絡的なのは困ったものだ。