「おとぎ草子」 【桑原博史 全訳注】
1982.8.10第1刷。1989.2.15第7刷。 収録されているのは「一寸法師」「道成寺縁起」「横笛草子」「鏡男絵巻」「鉢かづき」「長谷雄草子」「猫の草子」。 「解説」のあと、長いものは何段かに分けて、本文、現代語訳、語釈、鑑賞と並んでいる。 その「解説」が独特で、冒頭にあらすじが書いてある。それを読めば、話が最後まで分かってしまう。 入門書なのだし、あらすじを知らずに読んだ方がいいのではないかと思うのだが、何か考えが合ってのことなのだろう。 「道成寺縁起」と中国の「白蛇伝」の関係について触れていないのは物足りなかった。 なるほど、と思ったのは、「鉢かづき」の鑑賞。 「平安時代の物語の舞台は、ほとんど都の中にかぎられていた。」(p149) したがって、「竹取物語」も「源氏物語」も、「冒頭起筆には、時間の明示はあっても空間指定はなかった。なくても十分にわかったのである。」のだという。 しかし、おとぎ草子になると、作品の空間世界が大きく広がり、「河内国」というように、どこに住んでいる人か記されるようになり、「それが物語的ではあっても平安期のものとは大きく違う印象を与えるのである。」という。 「むかしむかしあるところに」という昔話ではなく、伝説に近いのだ。 なんとなく、室町時代に物語として意識的に書かれたのが「おとぎ草子」かと思っていたが、そうとはかぎらないらしい。 巻末の解説によると、「おとぎ草子」は、絵入り本として「婦女子に提供された作品」であって、成立時代によって「おとぎ草子」かどうか区別されるのではなく「読者層の違いによって生じたテキスト形態の差によって区別すべきだ」という説もあるそうだ。 楽天ブログランキング←クリックしてください 楽天会員以外の方のコメントは「輾転反側掲示板」へ