2005/04/01(金)21:18
「元禄御畳奉行の日記(尾張藩士の見た浮世)」 【神坂次郎】
元禄御畳奉行の日記(著者:神坂次郎|出版社:中公新書)
この本が出た時、ずいぶん話題になって興味は抱いていたのだが、なぜか手に取らずにいた。
すべてが現実であるだけに、理念化された江戸時代ではない、生の江戸時代を感じることができる。
明るい筆致で紹介してはいるのだが、人の死ぬ話が多い。
切腹する勇気もなく食あたりで死ぬ方法をとる、滑稽にも見える「ところてん自殺」もあれば、心中がはやったり、貧窮のための自殺が続いたり。
男女の仲をめぐる騒動も多い。
元禄十六年からの年半だけで、京、大坂だけで九百余人の心中事件があった
(p131)とは驚きだ。
元禄といえば忠臣蔵だが、日記には素っ気ない記述しかない。まあ、そんなものだろう。日本中が沸き立った事件だったとは思えない。
討ち入りの時は、江戸では大評判だったとは思うが。
さて、日記を残した朝日文左衛門。四十五歳で没するのだが、原因は酒。とにかく酒を飲まずにはいられない。しかも、今風に言うなら勤務中でも酒を飲む。まさに酒毒にあたっての死である。
この本は、日記本体である『鸚鵡籠中記』から、著者がおもしろそうなところだけ抜き出し、解説を加えているわけだが、とにかく朝日文左衛門というのは記録魔だったことがわかる。
これを読んで思い起こすのは「藤岡屋日記」だ。もっとも、藤岡屋の場合は、自分には直接関わりのないことを記録しているのだが。
とにかく、記録する、ということは、彼一人の特質ではなく、日本文化の一つなのではないかと思う。
戦争中、アメリカ軍は、日本兵が残した手帳に、克明な日記が書き付けてあるのを解読し、日本軍の動きを知ったという。
この読書録自体も似たようなものだ。
インターネットでも日記サイトは多い。己の行動を書き記そうとする本能のようなものがあるのだろう。